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薄幸転生侍女は陛下に仕えたい  作者: 高槻いつ


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薄幸転生侍女と身代わり

「……へいか?」

「なんだ?」


精霊界から戻って少し。私が鬱々としていた間に陛下は庭園から執務室の方へ移動していたらしく、戻ってきた私も当然そこにいた。


メイド長を呼んで茶菓子を用意させたそれらはテーブルの上に並べられて、ちまちまと私が頬張っていると満足そうにそれを見ている陛下。


そんな視線がどうにも居心地悪くてつい陛下を見上げれば、何か問題あるのかと無表情のその方は逆に問い掛けて来る。


「いえ、その……私がいてはお邪魔でしょう?」

「構わない。どうせあってないような仕事だ」

「しかし……」


用意された茶菓子を食べておいて今更かとも思うが、陛下は大変忙しい身である。それなのにたかだか私のような人間のお茶如きでお時間を取らせるのは申し訳ないというのに、陛下は大量の書類を背後に私のお茶に付き合ってくれていた。


「もうすぐ来るだろうしな」

「はい?」


メイド長の淹れた茶を口にしながら何かを呟いた陛下へ視線を送ると、私の視線の先、背後の扉へ向けた眼と丁度かち合う。


緋の眼。深くて浅いような、独特の色を持った陛下の眼。綺麗な形を描く切れ長なその瞳は見慣れた今でさえも惹き込まれる程に美しくて、私はついその眼をじっと覗き込んでしまう。


「どうかしたか?」

「あ、申し訳ありません」

「いや、構いはしないが」


何一つ言わずじいっと見つめられるのは流石に気分が悪いということに気が付かず、珍しく戸惑ったように見える陛下の声で漸く視線を外す。


「陛下の眼は、お美しいですね」

「……」

「陛下?」


そして俯くまま、小さくそう率直な感想を申し上げれば無言が場を占めた。何かマズイことを言ってしまっただろうかと陛下の方を再び見上げると、何故か逆に私へ向けられる目線。


「へい……」

「ああ、まあ、クロードには堪える言葉だろうね?」


本当に何か気に障ってしまったと慌てて謝罪の言葉を紡ごうとしたけれど、それを遮るように振って来た言葉に私の声は呑み込まれてしまう。


「ランドルフ。黙れ」

「なんだよ。折角来てやったんだから歓迎してよ」


ランドルフ様と仰るらしいその方は視界に落ちるものを見る限り陛下と同じ銀の髪。背後に立っているから顔はわからないものの、名前と髪色から察するに陛下のご兄弟でありながらこの国の宰相を務めるランドルフ様に間違いないだろう。


「この子がクロードの愛しの姫君?」

「おい」


気安く陛下の名前が交わされることに違和感を覚えつつも、すっと反対になって下りて来た顔にたじろいで私は固まる。


「初めまして、身代わりの姫様」

「……お初にお目に掛かります、宰相様」

「ああ、よろしくね」


()()()()


そんな物騒な言葉を不思議に思いつつも、挨拶は返さねばと軽く頭を下げる。座っていて、かつ背後から顔を覗かれていてはそれが限界。仕方ないとはいえ、マナー的にああだこうだと言われてもおかしくはない挨拶ではあるのにそんなことは微塵も気にしていなさそうな素振りで、ランドルフ様こと宰相様は顔を引っ込めた。


「で、これを持って行けば良い訳?」

「ああ、ついでにパウロから追加の書類をもらっておけ」

「嫌がらせ?悪かったよ、本当のこと言って」

「……出ていけ」


背後から正面へ移動した宰相様は、陛下のご兄弟とだけあって似ていた。完全なる別人故にそっくりという訳ではないけれど、斜めから見た面差しも、透き通るような紫の瞳の形も、男性らしい立ち姿も。


何処か陛下の影があって、本当に兄弟なのだとぼんやり思いながら軽いやり取りを見つめていた。


「またね、姫様」

「……はい、宰相様」


両の手に抱えきれない程の書類を手にしながらも、一切崩すことなく陛下に追い出された宰相様はにこりと私に微笑まれてから執務室を去っていく。


あからさまな壁があるのに、何故声を掛けてくれたのかわからない宰相様のことを少し考えつつもうすっかり冷めてしまったお茶を飲み干す私。


「サラ」

「はい、陛下」


空になったカップをソーサーに戻してふと感じる視線に顔を上げると、丁度私の名前が呼ばれた。


「すまない」


そして何故か、そんな謝罪をされてしまった。


「……あ、宰相様のことですか?」


一瞬、本当に理解出来なかったその言葉を噛み砕くと、簡単に思い当たる節に陛下は首肯する。


「大丈夫ですよ」

「すまない」


()()()()、という言葉が、気にならなかった訳ではない。しかし、そもそも私の命はあってないようなものなのだ。それが生贄だろうが身代わりだろうが構わない、と首を振っているのに、陛下はお優しいから重ねて謝罪を口にする。


「私の存在が何かしらのお役に立つのなら、本望です。陛下」

「……」


だから、少しでも陛下の気持ちが晴れればと偽りのない本心を語ったのに、陛下の顔は余計に曇ってしまった。


「いずれお話して下されば、それで結構です」

「……ああ」


なら多少欲を出しても良いかと過ぎた願いを申し出る。そんな私の望みに陛下は無表情にちょっと影が差したくらいの感情を滲ませて、最後には頷いてくださった。


「陛下、茶をお持ち致しました」

「入れ」


完全に何か琴線に触れてしまったが、どうしたら良いかわからない私を救うように現れたメイド長は空になった私のカップに琥珀色の紅茶を注いでくれる。


「……サラセリーカ様。先程、カトリーナ様がお話をしたいと呼んでおられました」

「あ、それならこちらを飲んだ後に伺うと言付けをお願いします」

「かしこまりました」


妙に重たい雰囲気を察してか、嘘か真かわからないながらも確実に助かる船を出してくれるメイド長に感謝しつつ紅茶を流し込んだ。


「サラ。明日の午後からここに通え」


喉と食道が焼けそうになりながらも、美味しい紅茶を空にした私が挨拶をして部屋を出ようとしたとき。


ずっと無言であった陛下が、そう言って私の為に扉を開けてくださる。


「精霊の力に関する制御を、教えよう」


そして、精霊界から戻って以来可視化出来るようになった精霊さん達を一瞥してからぱたりと扉を閉められる。


「……あ、自衛の方法か」


そういえば、妖精さんに精霊達に感情を乱されないように自衛の方法を陛下から教われと言われたのだったと思い出す。態々陛下の手を煩わせるのは申し訳ないものの、それを知らなくては今日のように迷惑を掛けてしまう。


「サラセリーカ様、参りましょうか」

「はい」


それならば一度きちんと教わった方が良いだろうと自己完結して、ひとまず私は迎えに来てくれたアーノルド卿と共にお姉様に会いに行くことにした。


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