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薄幸転生王女の出会い

初っ端から生首死体要素+残虐要素があります。

「なんでもします。殺さないでください」


ずざざっと平伏す。石畳の床が額を擦って血が出た気がした。


しかし、そんなことよりも重要なのは今現在、命を繋ぐこと。




アホな自国の王。もとい、父が隣国の大国サウシェツゥラへ喧嘩を吹っ掛けた。


物の見事、一週間で自国は落ちた。


王座で高みの見物をしていた父と母、そして、猫可愛がりされていた姉の首を撥ね飛ばしたらしい。


そしてサウシェツゥラの王が私を隔離していた離れへとやって来た。


故に、私は今命乞いをしている。


「何故こんなところへ閉じ込められている?」


ひざまづく私を見下ろしているだろう隣国の王が尋ねた。私は身体を低くしたままそれに答えていく。


()()だからです」


頭を伏せ、眼を閉じているから王様には見えないだろうその理由を告げる。



忌まわしい、光を象徴する色。



自国、ナウェルでは闇の精霊を唯一神として崇拝している為、王族の象徴は黒髪黒目。


そんな中、光の女神を象徴する金の瞳と、穢れのない真っ白な白髪を持って生まれた私は当然この国では忌み子として蔑まれ、一月後の精霊祭にて()()として供えられる予定だった。


「いくつだ?」

「一月後、五つになります」


精神年齢は三十路です。とは、言えないけれど。


「ふむ、立て」


そう言われて、私は食事を満足に与えられていないのが一目で分かる棒切れのような足で王の前に立つ。


目の前に佇む()()()を見て初めて、()とはこういう人のことを言うのだろう、と、漠然とした感想を抱いた。


腰までさらりと落ちた銀の髪が、鋭く、刺すように私を射るその緋の瞳が、佇んだそこだけを切り取って見たような圧倒的存在感が。


その全てに、一瞬、言葉を失う。


「名は?」


彼の腰丈程の高さもない成育不良の身体で見上げ、ありません、と首を振る。


「そうか」


その返答に予想通りだったのか、そう一言掛けた彼は後ろで控えていた騎士さんに私を運ぶように指示をして、この牢から出ていった。


「失礼」


たしっといとも容易く私を持ち上げ、少し顔を歪めた騎士さんにもうしわけないなぁなんて思いつつ、抱えられて地下牢から出る。




久方ぶりに見た外の景色は、なんとも地獄絵図。


夜だというのに、あちらこちらで上がる火が照明の代わりになって、よく見える。


その辺に飛ぶ生首、焼け焦げた身体、ボロボロの中庭。


かつて記憶していた景色とは全く掛け離れたその中庭に、噎せる程煙く、嘔吐を催す死の臭いを、私はじっと眺めていた。




誰も彼もが私を忌み子と蔑み、暴力を奮った。


ぼろ雑巾のように、道端に落ちてる小石のように、扱った。


だからか、この光景を見てもなんとも思わなかった。



ただ死んだんだなと、あんなに怖かったはずの人間もあっさり死ぬんだな、と、冷めた感情だけが胸を占めて、顔を歪める。


「憎いですか?」


そんな風に中庭を見ていたからか、足を止めた騎士さんが私にそんなことを聞いた。


「わかりません」


ふるふる首を振って、ただ素直に感じたことを吐き出す。


暴力の最中はただその時間が過ぎればいいと思っていたし、私を庇って死んでしまった乳母の首を目の前に出された時は泣くことしか出来なかった。


憎いとか、憎くないとか、そういうことを考える前に、差し出された状況を理解することを拒んだから。


「そうですか」


そう言って、騎士さんは黙ってしまった。


沈黙を携えたまま、雨が振り出す。



それはここの過去全てを流すような豪雨だった。


上がっていた火の手も、噎せるような死の臭いも掻き消すような、雨だった。



そんな雨に打たれて、私はやっと終わりを告げたこの生活に安堵した。


次の生活がいくらドン底であろうと、もうここより下はないだろうと思いたい。まだ幼女だし。



そもそも何故私がこんな達観して冷めた幼女かといえば、単に前世の記憶を持ったままベビーに生まれたからである。


そりゃ最初は喜んださ。悪役令嬢か!?何処かの国の姫君か!?と、喜んださ。


確かに何処かの国の姫君ではあった。


忌み子という名の。


で、そんな私は生後間もない時から五年に一度の祭典で供物にするから、という名目で生かされた。


面倒は、私を哀れんだ乳母が地下牢へ一緒に付いてきてしてくれた。


けれど先程も話した通り、彼女は私が四歳の頃王へ私の待遇を改善するよう求めて、殺されてしまった。


そこから兵士だの使用人だのが私に当たるようになって、横目で見て過ごし気が付いたら自国が滅んでた。



そして今に至る。


簡単に状況確認したら、前世に匹敵するぐらい糞な幼女生活だと改めて思った。


今度こそは幸せになりたい。誠心誠意王様に仕えたいと思う。そして人並みの幸せを手に入れたい。


そんな決意を胸に、私は五年過ごした王城から出た。




「…………はい?」


王門を出た私と騎士さんを待っていたのは王様。王様は騎士さんから私を受け取り、汚い私はじたばた抵抗したくなったものの、首は撥ね飛ばされたくなかったので大人しくしていた。


そんな私へ王様が掛けた言葉に耳を疑い、つい、素面で疑問符が付いた。


「サラセリーカ。お前の名だ」


ぽかん、って、なっていると思う。そんな私を地面に置いて王様は馬に乗って駆けていった。


「これはまた……らしくない名付けですね」


ぽつりと感想を溢した騎士さんにまた抱えられて、黒馬に乗せられる。


「気は遣いますが、体調が悪くなれば言ってくださいね」


頷いて返事をすれば、王様を追い掛けるように騎士さんも走り出す。


乗馬などしたことないけど、想像以上の揺れにノックダウン寸前。いっそ意識が落ちた方が楽なのではないかと思う道中をなんとか耐えること数時間。


私の異変に気が付いた騎士さんが、馬を止めた。


「大丈夫ですか?」


馬を止め、下ろしてもらった後、森の街道かつ雨が降り続けていることに感謝し、吐いた。


何も入ってない胃からは内容物は出ず、見た目的にはそれほどではないのが幸いか。


暫し吐き続け、治まってから、ずっと背中を擦ってくれていた騎士さんにお礼を言って一呼吸。


「耐えられますか?」

「はい」


ぼろ切れの服で口元を拭い、気遣ってくれる騎士さんに問題ないと告げる。そんな私に騎士さんの表情が一瞬歪んだ気がしたけれど、騎士さんは何も言わずに私をまた馬へ乗せた。


聞けば、このペースなら明日の昼頃には領土に入るだろう、とのこと。そうしたら一度街で休んで、馬車を取ってくれる、と。


申し訳ない気がするけど、馬で帰れば何度も休憩を挟まなければならないのは目に見えたので、その提案に甘えることにした。



そして走っては休憩して吐き、走っては休憩して吐き、そんなことを繰り返すこと数回。


小雨に変わり、止んで、晴れ間が覗いた頃。



遂にサウシェツゥラの領土へ、足を踏み入れた。



国境付近の街は思いの外、栄えていた。昼だからか、活気溢れるその街に気圧されつつも、騎士さんに抱えられて移動する。


「先に宿を取りましょう」


活気ある街の声に引き摺られながら、騎士さんが先導して宿探しを始めた。


宿が空いておらず、それでいて厩舎付の宿を探すのは中々大変だった。騎士さんが。


そして漸く取れた宿の一階で受付を済ませて鍵を受け取り、厩務員へ馬を預けて二階へと上がる。


女将さん曰く、今は国境付近を攻め込む()()()()()に対抗すべく傭兵がたくさん集まっているから取りにくい、のだと。


「お湯がいるかい」

「ええ、お願いします」


部屋の扉を開けてくれた女将さんが騎士さんへそう尋ねる。


道中で土に膝を付き手を付き吐いていたから、より一層汚くなった私。そして雨に打たれ続け冷えきったこの身体を暖められるのも、とても嬉しい。



女将さんが去り、私は部屋をざっと見渡す。


安くはないだろう宿。すきま風はなくて暖かいし、音もそれなりに通さないから静かだし、久しく見ていなかったベッドも上等のように見える。


「サラセリーカ様」


入口で佇み動かない私を騎士さんが呼ぶ。一瞬誰を呼んでるのかわからなかった私を察した騎士さんが近付いてくることで、漸く自分の名だったと認識。


「ええと……」


前にやって来た騎士さんの顔を、その時やっとはっきりと見た。


真っ黒な髪と、薄藍の瞳の色。精悍な整った顔立ちと、鎧越しでもわかる騎士らしい鍛えられた肉体。男らしい色気を持った、カッコいい大人の人、という感じの、騎士さん。


「お疲れでしょう」


どうぞ、と部屋に備え付けられた木の椅子に座らせてくれる。私の立場は捕虜だろうに、道中も今も気を遣いすぎではないだろうか。王様に怒られないだろうか。


そんなことを考えていると、部屋にノック音と共に女将さんが現れた。


「お嬢ちゃんをこっちで洗ってあげようと思うが、いいかね?」


湯桶一つ持たないでやって来た女将さんを疑問に思っていたら、好意を持って騎士さんに問い掛けた。


騎士さんは少し迷ったものの、私の汚さ的に、小ささ的に一人で湯に入るのは困難だと考えたのか、女将さんの申し出に甘えることになった。




女将さんの後ろを歩き一階、厨房の先にプライベートルームへ足を踏み入れる。そこの真ん中に大きな湯桶が二つあって、私くらいの小ささであればなんの問題もなく浸かれる。


女将さんに促されるがままばんざーい、と服を脱いで、桶へ浸かるよう言われたのでぽちゃりと身体を沈めた。



「…………お嬢ちゃん、これ、」


身体を洗ってくれるという女将さんに背を向けた時、女将さんの声が震えた。


「あ……」


そういえば、傷だらけであったのを、忘れてた。


主に鞭で出来た裂傷。自分からは見えなくて、近頃は痛みもなかったからすっかり、忘れていた。


「…………あの騎士ではないんだね?」


止まってしまった手を動かし、優しく、労るように汚れを拭ってくれるその手に肯定すれば、女将さんは安心したようだった。


「ちょっと待ってな」


お湯も、布も、すぐに汚れてしまった。透明だったお湯がすぐ黒くなってしまうのが申し訳なくて、それでも拭っても拭っても落ちない汚れに腹を立てた女将さんが、パタパタと出ていった。


「おまたせ」


そして戻って来た女将さんの手に握られていたのは、石鹸。


「せっかくの別嬪さんなんだ。綺麗にしてあげるよ」


わしゃわしゃ石鹸を泡立て、石鹸を含ませた布で拭えば段々綺麗になっていく身体。もしかしなくても石鹸は高級品なのだと思う。それを惜しげもなく使ってくれる女将さんの優しさに、世話をしてくれた乳母を重ねた。


彼女もこうやって洗ってくれたなぁなんて考えて、その心地よい温もりに身を預ける。


そうして身体と髪を綺麗にしてくれた女将さん。久々に髪が真っ白なのを見た。身体も白い。服は女将さんの娘さんのお古だというのを着せてもらった。


「ありがとう、ございます」


ぺこりと頭を下げ、きちんと感謝する。後で騎士さんに報告したら、女将さんにチップ弾んでくれるかななんて画策しつつ、私は女将さんに連れられて部屋へと戻る。


「これは、また……」


部屋まで連れてきてくれた女将さんにまたお礼を言って、騎士さんに戻ったことを告げたら、騎士さんは何故か驚いていた。


「変、ですか?」


髪は濡れているものの、特におかしなところはないと思うのだが、と身体を見下ろせば、騎士さんはそうではないと首を振った。


「ああ、いえ、なんでもありません」


と誤魔化され、納得いかないものの特に変ではないということなので、気にしないことにした。


「御髪を乾かしますね」


肩に掛けていたタオルを取られ、優しく水分を吸収するその手が眠りを誘う。


思えば丸一日寝ていない。そう実感すれば、睡魔はもう抗えない程近くまでやって来ていて、私は逆らう術なく意識が落ちた。




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