傾国の女王
(どうしてこうなったのだろうか)
私、シャーロット・フィーリアは苦笑を漏らした。
半年前、私はここ、フィーリア王国の女王になった。
フィーリア王国は大陸の中でも広大な領地を所有し、その歴史の長さから千年王国とも呼ばれている。
「でもそれも今日で終わりか」
知らぬ間に口に出していたらしい。
小さな声なのに私以外、誰もいない城の玉座の間にはよく響いた。
どんなに素晴らしい絡繰り仕掛けの時計でも千年経てば、ただのガラクタ。
私が王座に就いたときにはもう腐敗しきっていた。
貴族も、役人も。果てには騎士まで。
正常な歯車はとうに壊された。
お祖父様は名君と呼ばれ、この国に栄光をもたらしていたというのに。
名君が崩御してたった数十年でこのザマか。
今では貴族達は贅沢をするために民に重税を課し、使いつぶしている。
ドレスに宝石、骨董品。
貴族としての役目は放棄しているくせに、彼らは金目の物には目がないらしい。
だがきっと今、彼らは慌てふためいているに違いない。
重税に耐えかねた民達がついに反旗を翻したのだ。
つまり"反乱"だ。
城のステンドグラスから赤い光が入り込んだ。
今頃貴族達の館の前にはたくさんの人々で溢れ、館には火をかけられていることだろう。
ことごとく私の政策に反対していた彼らが泡をふいているのか。
(私も見てみたかったな)
だがそれは叶わない。
なぜならば、私は王だからだ。
彼ら、反乱軍の怒りの矛先は貴族達を束ねる立場である私にも向かう。
じきにここにも民達が、それも反乱軍の主導者がやってくるだろう。
剣と、自由の旗を掲げて。
(さしずめ悪の親玉か、私は)
役人も騎士も反乱の対象になるのを恐れて逃亡。
王家の人間は私以外は全員、もう亡くなっている。
窓から差し込む光が私のロケットペンダントにあたった。
(お父様、お母様・・・)
ロケットペンダントの中には事故で亡くなったお父様とお母様の写真が入っている。
執務中はいつも身につけていて、いつしか御守りみたいになっていた。
お父様はお祖父様の跡を継いで、王位に就いた。
お父様は人格者ではあったものの、とても王には向いていなかった。
それでも私は、そんなお父様が好きだった。
貴族達の中にはお父様を腑抜けと呼んでいるものもいた。
だが私は知っている。
お父様は他の貴族と違い、民を無下にしなかった。
民を守るために自らが盾になったことさえあった。
だからこそ今まで反乱が起こらなかったのだ。
(それに比べて...私は王失格だ。)
貴族達の暴走を止められず、民達を苦しめ、傷つけた。
それを王と呼べるか。
否。それはただの愚か者だ。
バタバタバタ。
夜の静かな城に足音と甲冑や剣の音が響き渡る。
どうやら反乱軍がきたようだ。
(死にたくない)
今更のように湧き上がった感情に失笑してしまった。
この国の王として最後に出来ることは反乱軍に討たれることだ。
逃げるなんてことは許されない。
さあ、最後の執務がきた。
今にも震えそうになる身体を、王としての矜持で無理矢理抑える。
(さよなら、愛しの民達よ。)
扉が開いて光が差す。
私は最後に道化として嗤った。
「ようこそ、我が玉座の間へ」
いかがでしたか。
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