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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

大罪人

作者: よたろう

 アラフィフ直前で死んだ過去を思い出していた。


 今思えば殺されたんだろう。あの世に、いや、この世に送られるために。

 登山の途中で霧に囲まれた。天気予報では快晴で、絶好の登山日和だったことで、俺の気持ちが緩んでいたのは確かだ。だが、突然のホワイトアウト。足元も見えない霧の中を歩いた俺は焦った。

 何度も登ったことがある道だった。もう少し登れば休憩所があることを知っていた俺は、足元も見えない霧の中を歩いてしまった。崖が近くにあったことを思い出したときは手遅れだった。

 気が付けば足元の地面がなくなっていた。滑落したのかと思ったそのときには、それまで真っ白だった世界が暗転した。


 その暗闇の世界で、神を名乗るモノが俺に声をかけてきた。


『お主に力をやろう』


 なんのことだ?


『そうだな、お主には鑑定を与えよう』


 それだけか?


『ならば憤怒も与えよう』


 物騒だな?


『お主の自由に活きろ』


 そして光りに包まれた俺は、気が付けば産声をあげていた。意味がわからなかった。


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-


 目の前には、黒く巨大なスライムがいた。それを目にした俺は、なぜだか忘れていたような過去を思い出していた。

 死ぬ直前に過去が走馬燈のように見えるというのは、今のような状態なのだろう。人間、死を目前にするとなんとか生き残る術がないか過去の経験から探すというが、俺は前世の死ぬ間際のことから思い出さねばならなかったらしい。

 まだ回想は続く。


 冒険者孤児になった俺は当然のように冒険者になり、ダンジョンに潜った。初心者の頃にはスライムには世話になった。経験値と魔石を稼がせてもらった。

 だが今、俺の目の前にいるスライムは俺が知っているスライムではない。黒い色のスライムというのも初見だが、大きさが異常だ。幅は百メートルはあるだろう。高さは三メートル程だろうか。


 夜明け前に裏山に登り、前日に仕込んだ罠にかかった獲物を確保するのが日課だ。人間、肉がないと生きていけないというのが俺のモットー。冒険者で身に付けた狩人の知識が、思わぬ形で役に立っていた。

 今朝は野兎がかかっていた。このところ野鼠が続いていてむしゃくしゃしていたのだが、野兎は嬉しい。鼠よりも大きいし、なにより味がいい。

 スキップしそうなくらいにご機嫌な俺が村に戻ってきたら、目の前には巨大な黒い物体が、端から徐々に村を飲み込んでいた。俺は、手にした野兎を地面に落としたことにも気が付かずに、手に入れた家が飲み込まれるのを呆然と眺めるしかなかった。


 冒険者として成功しなかったが、五十歳になり隠居生活を楽しむつもりだった。

 小金をためて田舎に家と田畑を買った。それなりに慎ましく、自分が食べるだけの野菜や穀物を育てて、のんびりとしたスローライフを開始したばかりだ。

 五十歳まで死ななかったということは、冒険者としては上手く生き残ったということなのかもしれない。だが、冒険者の目的、大金や名声を得ることはできなかったのが残念だ。


 俺は成長できなかった。レベルが上がらなかった。


 神を名乗るモノから授かった鑑定は、便利だった。冒険者登録ができる十二歳になってから、ダンジョンに潜ってレベリングに夢中になった。上級者と呼ばれるレベル五十を目指して、毎日、自分のステータスを鑑定した。

 だが、中級冒険者と言われるレベル三十になったところで、レベルは止まった。二十代半ばでレベルが上がらなくなった俺は、どうしたらレベルが上がるかいろいろ調べた。その結論として出てきたのは、レベル上限に個人差があり、それを超えることはできないということ。

 仲間だと思っていた冒険者は、レベルが上がらない俺を憐れみながら置き去りにしていった。悔しかったが、怒りはなかった。ただ、禿げればいいと呪ってみたが、そいつらは禿げる前に死んでいった。違う呪いにすればよかった。


 三十歳になる頃には、冒険をしない冒険者になっていた。身の丈に合った依頼をこなし、小金を溜め始めたのもこの頃だ。

 倒せる魔物も、探索できる場所もわかっていた俺は、鑑定スキルを使わなくなっていた。


「鑑定、か」


 最後に使ったのはいつだったかも思い出せないが、スキルの使い方は忘れていなかった。

 俺は目の前の巨大スライムを鑑定する。

<名称:バアルゼブルスライム レベル:鑑定不可 技能:鑑定不可 称号:暴食王>


 絶望しかない鑑定結果に苦笑いしてしまう。

 鑑定不可という表示は、俺が理解できない状態にあるということだ。知っても知らなくても何も変わらない。手の打ちようがないという宣告。


 農業スローライフのために買った田畑も家もこの暴食のスライムに飲まれてしまった。

 隠居生活資金も家の中にあったことを思い出したが、全てが手遅れ。

 全てを失った。もう生きていくための術がない。絶望と憐憫が心を占めようとしたとき、なぜか出てきたのはそれとは違う感情だった。


「ふざけるなよ」


 自分の中で何かがはじけた。

 感情を抑えて意志を優先させてきた。その方がいくらかマシになると考えていた。

 だけれども、それもどうでもよくなった。どうせなら冒険者らしく、魔物と戦って死のう。無一文の五十歳独身がこのまま生きてもなにかいいことがあるわけじゃない。孤独死か飢え死にする未来しかない。


「ふざけるなよ」


 この世に転生させた神を名乗ったモノもふざけている。

 与えると言われた『憤怒』とやらは、どうしたって発動することはなかった。鑑定は絶望しか与えてくれなかった。

 そしてレベルが上がらない身体に転生させやがった。


 怒りという感情が湧き上がってくる。


 そういえば、今回の人生で怒りを覚えたことはなかった。絶望とか諦めとかの意識が強すぎたんだろう。

 報われない自分が可哀想ということで満足していたのかもしれない。


 一度くらい、怒ってみてもいいよな?


 俺は眼を閉じて、これまでの理不尽な仕打ちを思い返す。

 そもそも前世で死ぬ必要あったか?

 神を名乗ったモノが、なにをしてくれた?

 親父もお袋も育児を放棄してダンジョンで死ぬとかなに?

 仲間だと思っていたのに、レベルがあがらない俺を憐れみながら置いてけぼりとか何様?


 うん、怒っていい場面って結構あったな。

 でもそれどころじゃなかった。我が家を飲み込んだ暴食のスライムが、自分の目の前まで迫っている。


「ハハッ!」


 俺は笑いながら、ダガーナイフを右手に構える。

 スライムを倒すのは簡単だ。体内の核を壊せばいい。それだけだ。


「で、核はどこなんだよ!」


 暴食のスライムは黒く、どこに核があるのかわからない。体内の核を壊すだけなのに、そこに手が届かない。歯痒い。


「ふざけるなよ!」


 怒り。

 この理不尽な生命体に対する怒り。


「この雑魚が!」


 雑魚ではない固体だとわかっているが、スライムという最底辺の種族に蹂躙されるということの理不尽に対する怒り。自分でも理不尽だと思うが、感情に身を任せる。

 怒りの感情をあらわにすると、俺の身体の芯が熱くなった。


「喰らいやがれ!」


 叫びながら、暴食のスライムの表皮に向けてダガーナイフを一閃すると、そこからスライムの体液が噴き出した。


「っ!」


 スライムの体液は、全てを溶かす強酸性だ。当然のように切れ目から噴き出した体液が、俺の身体に飛び散り、皮膚を焼く。その痛みが、俺をまた苛立たせる。


「!」


 突然、目の前が暗くなり、何も見えなくなった。そして全身が痺れるように、焼け付くように痛い。


 あ、これだめなパターンだ。


 喰われたことに気が付いた。視界が暗闇なのは、暴食のスライムの体内だからなのだろうか。眼が溶けてしまったからなのだろうか。それとも全てが起きているのだろうか。

 ダガーナイフを振り回しても手ごたえがない。手はダガーナイフを握っているのだろうか。ダガーナイフは溶けてしまったのだろうか。それとも、俺の手が溶けてしまったのだろうか。それともその全てが起きているのだろうか。

 そもそも皮膚の感覚がない。痺れているのだろうか。痛みが全身を覆っているからなのだろうか。或いは皮膚が溶けてしまっているのだろうか。それとも俺の身に、その全てが起きているのだろうか。

 足元の感触がなくなっているのはなぜなのだろう。スライムの体内を漂っているのだろうか。足が溶けてしまったのだろうか。それとも……。


 理不尽だ。

 理不尽な暴力だ。

 理不尽な生命体だ。


 理不尽なことに腹が立つ。怒りが湧く。

 全身が痺れて、熱くて、痛い。

 身体を動かしたつもりでも動いたのかどうかもわからない。


 心が怒りに震える。

 暴食のスライムを殺したい。

 暴食のスライムの核を壊したい。


 でも、届かない。

 スライムごときの核にさえ、手が届かない。


 力が欲しい。

 この怒りを暴食のスライムの核にぶつける力が欲しい。

 力が欲しい。

 現状を打破する力が欲しい。

 力が欲しい。


 心の底から願う。

 この怒りを具現化する力が欲しい。


『力が欲しいか』


 欲しい。


『お主には怒りが足りぬ』


 まだ足りない?


『憤れ。怒れ。お主にはそれが足りぬ』


 知ったことか。


『ならばお主の好きにするがよい』


 聞き覚えのある声だった。

 あの暗闇の中で頭に響いた声。

 恩恵を与えると伝えた声。

 神を名乗ったモノの声。


 ふざけるな。

 お前のせいでこうなったんだ。

 ふざけるな。

 憤れとか怒れとか、それが足りないだとか。


 俺は全てに対して怒りを感じていた。

 心の底から憤っていた。

 前世も、死んだことも、恩恵を与えられたことも、転生したことも、冒険者になったことも、今こうしていることも。

 誰が悪いとか正しいとか関係ない。

 良いとか悪いとか関係ない。

 怒りたいから怒る

 憤りたいから憤る。


 何が悪い?


『力をくれてやる』


 うるせえ。


『クックック』


 押し殺した笑い声が頭に響き、それが俺を憤らせる。


『いい怒りだ。憤りだ。お主のそれは我が糧となろう』


 刹那、俺の周りに力が産まれた。

 皮膚がそれを感じたわけではない。

 ふと気が付くと、視界が晴れていた。と言っても、眼が見えるようになったわけではない。

 前を向いている俺の身体を俺の心が俯瞰していた。幽体離脱ってこんな感じなのだろうかというのが素直な感想。なんでこんな状態になったのかわからない。


『お主の鑑定が進化したのだ』


 頭の中の声がなにかをしたのだろうと直感したが、敢えて問わずにおこう。黙っていた方がいいことも世の中には少なくない。


『お主は面白いな。普通はここで質問するものだが』


 頭に声が響くと、黒い体液の中を漂う身体の周りに力が現れた。それは周囲を吹き飛ばし、わずかではあるが空間を生み出していた。だが、俺の身体は限界だった。皮膚は爛れ、手足の先は溶けて骨が露出している。わずかに残った筋肉も徐々に溶けていく。

 このまま無に帰すのか?

 いや、俺の『憤怒』はこれからだと、根拠のない確信が芽生えていた。


 俯瞰した視界は、暴食のスライムの中を探る。顔の損傷も激しく、皮膚は溶けて、眼も鼻も既に存在しない。頭蓋骨も少しずつ溶けているのがわかる。

 それでも諦めない。暴食のスライムの核を探す。


『考えるな。視ようとするな。感じろ!』


 うるせえな、俺はオールドタイプなんだよ!


『お主の怒りは我に向けるのか?』


 そうだった。


『お主の憤怒をどこに向けるのか、それだけは間違えるな』


 さっきまでは糧になるとか言っていなかったか?


『それでだ。お主はどうするんだ?』


 そうだった。

 暴食のスライムの核を見つけて壊す。これだけは決定事項だ。


『お主に残された時間は短いぞ』


 そうだな。暴食のスライムの体液で身体が溶けていくのは止まらない。ならば好きにやらせてもらおう。せめて一太刀とか言わない。お前を殺して俺も死ぬ。スライムもこの腹立たしい頭に響く声も道連れだ。

 俺の溶けかけた頭蓋骨が少し笑ったように見えた。


 そこか。


 俯瞰して感じるとかオールドタイプの俺には無理だと思ったが、意外とニュータイプなのかもしれない。頭蓋骨の右斜め上に、食欲を発する固形物があるのを感じた。


「死ねや!」


 スライムが生き物なのかどうかというような哲学的なことは、俺にはわからない。だが、核を壊せば動かなくなり、捕食が止まるということだけはわかっている。

 俺はこのまま溶けて死ぬのだろう。いや、皮膚も四肢も溶けている現状が、俺が生きているというのかどうかはわからない。

 だが一つだけわかっている。


 理不尽な暴食のスライムには、理不尽な俺の暴力を喰らわせる! 暴食ならば、俺の暴力も喰らいやがれ!


『そのお主の憤怒、我が力を貸してやろう!』


 頭の中に響くご機嫌な声に、俺はイラつく。お前が言うな。


『お主に力を与えよう』


 信じてないが、今は、力を借りてやろう。

 そう思ったときに、俺の憤怒が物理的な力に換わるのを感じた。

 これならイケる!


 俺の身体から具現化した憤怒が、音もなく伸びる。まるで蛇口から噴き出した水のようだ。って、俺は蛇口か?


『お主の心の憤怒を我が具現化し、発しているのだ。』


 食欲を発する固形物に向かうと、あっさりとそれを貫いた。


 ドクン


 全身が鼓動する。


 ドクン


 具現化した憤怒の先端から何かの鼓動が届く。


 ドクン


 貫かれた固形物から、具現化した憤怒を介して、俺の心に鼓動を伝える。


 何かが聞こえる。

 遠くから聞こえる。

 具現化した憤怒の先から聞こえる。


『喰らうか?』


 頭に響くのは、新しい声?


『其方は喰らう側か? 喰われる側か?』


 誰だよお前。


『捕食する側か? 捕食される側か?』


 これはさっき感じた食欲か?


『お主の感じた通りだ』


 スライムかよ?


『いや、吾輩は暴食』


 は?


『捕食者の頂点であり、七つの大罪の一つ』


 新しい詐欺手法キタコレ。


『お主には選択肢がある』


 つーか、そもそもお前も誰だった?

 神を名乗っていたけど、違うよな?


『我は憤怒』


 それって?


『我は暴食と同じ存在だ』


 はい、七つの大罪シリーズ二つゲット。アニメ化決定。


『其方は吾輩の、暴食の力を使えるぞ』


 は?

 暴食の使い方の前にお前の存在について小一時間問い詰めたいんだけど?


『ここには膨大な食料があるぞ。其方の糧となろうぞ』


 意味が分からない。


『お主はスライムを喰らい、身体を再生させることができる、ということだ』


 憤怒が暴食の言葉を説明してくれた。

 うん、でも意味不明だよ?

 俺、スライムになるの? ひょっとして魔王になるの?


『其方は人族ぞ。吾輩は其方に人族の身体を提供するぞ』


 理解が追いつかないが、身体はもう機能していない。

 このまま死ぬ以外の選択肢があるのならば、それを選びたい。


『ならば喰らうぞ』


 俯瞰していた視界は、いつの間にか暗闇に戻っていた。

 憤怒を出し切った影響なのか、心は穏やかだ。


「痛っ!」


 溶けてなくなったはずの口から声が出た。

 しばらく前まであったのに忘れかけてた感覚。物理的な感触。

 今までなくなっていた全身の痛みが戻ってきた俺は、いつの間にか気を失っていた。


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-


『目覚めたか』


 目覚めたという言葉が正しいのかわからないが、眼が明いたのは確かだ。

 で、どれくらい気を失っていたんだ?


『三昼夜だ』



 三日か。

 だが、この村では時間を気にした生活はしていなかったので、今日がいつなのか、そのあたりがそもそもわかっていない。今は秋だっけ?


「で、なんでこの身体になってるのかな?」


 俺の身体は十代半ばの若さで、背丈も低くなっていた。

 若返り、という効能があったわけではないのだろう。


『再現するのにスライムでは足りなかったのだぞ』


 暴食とも、三日ぶりだな。

 淡々と自分のせいではないと主張しているのを聞き流すが、身体が若返った理由だけは問い詰めておこう。


『お主の身体もだが、我と暴食も消滅寸前だったのでな、少し分けてもらったのだ』


 つまりは俺の身体は最低限の構築で、お前らの修復を優先したってことだよな。


『『いやそれはない』』


 嘘だな。


『『……』』


 でもまあいいか。新しい体で三周目、じゃないな。二週目半?

 なんにしてもやり直しに挑めるってのは悪くない。隠居を決め込んだ気持ちの切り替えは面倒だが、冒険者の生活に戻るのも悪くない。それ以外の道もあるかもしれない。

 そうだ、ステイタスはどうなっているんだろ?


 俺は鑑定を起動する。


<レベル:七十三>


 え?


『お主のレベルキャプが外されたみたいだな』


 憤怒さんは黙っていてよ。レベル三十だったのがいきなり上がったとかなんでだ?


『其方に蓄積された経験値がそれだけあったということぞ』


 暴食さん、解説ありがとう。でもね、レベル七十って冒険者じゃない、人外扱いだよ?

 勇者とか魔王とかの世界だったと思うよ?


『レベルキャップに達した後の、お主のたゆまぬ努力の成果だろう』


『吾輩を宿した暴食のスライムを倒したのもあるぞ』


 あー、あれは経験値が多そうだ。確かにあれを倒したら人外扱いされるわ。七つの大罪の一つを葬ったとか、勇者や英雄とかいう世界だわー。不本意だわー。


<技能:憤怒、暴食>


 はい、そのまんまですね。

 なんか勇者に倒されそうな技能だな。

 つーか、冒険者時代に身に付けた技能は失われたのか。薬草摘みとか平和な称号はどこに消えたんだろう?


<称号:大罪人>


 ちょっと待て。


『お主が大罪を摂り込んだからだろう』

『其方の技能からすると妥当な称号ぞ』


 いやいやいや。洒落になってない。鑑定持ちに見つかったら騒ぎじゃ済まない。

 おまわりさん、悪いのはこいつらです。俺じゃありません。


『お主は、せっかくの称号が気に入らんのか』


 いやいやいや、罪人ってだけで普通は捕まります。で、大罪人ってことは罪人の上位互換でしょ?


『いや、七つの大罪のいずれかを宿した者しか手に入れられない稀有な称号ぞ』


 いやいやいやまてよ。その七つの大罪を宿したというだけで討伐対象決定ですよ?


『お主はつまらんのう』


 つまらんとかつまらないとかじゃねえし。


 ま、でもいいか。


 英雄とか勇者を目指すような青い感情は、どうやったって取り戻せない。でも、隠居生活をしないでいい立場を取り戻した。


 冒険者は多種多様。

 十代からやりなおせるならば、目標を探す冒険ってのも悪くないかもしれない。


『お主はどうする?』


 試してみるさ。いろいろと、ね。


『改めて問う。其方は捕食される側か? 捕食する側か?』


 どっちでもねえよ。そんな、大罪ごときの価値観を押し付けるんじゃねえ。


『『面白い』』


 俺は立ち上がった。暴食のスライムに喰い尽くされた、世界の端の村から、俺は旅立つことを誓った。

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