第3話 タケルの力
自分でも何故だかわからなかった。
タケルは、周りに危険があることを知ると、自分の危険には顧みず、助けに飛び込む習性があった。勇敢に立ち回れるでもなく、事態が好転した記憶は数えるほどしかなく、タケルは自分の習性にはほとほと困っている。しかし、考えるより先に動いてしまうようなのだ。
今回も、とても叶うとは思えないモンスターの群れに飛び込んでしまった。
「ちょっと、タケル!何してるの?!」
エアナはびっくりし、当然の発言。
「そうだぞ、にーちゃん。逃げろ!」
「エアナに任せればいいのよ!」
街の人(着ぐるみを着たような人もいるが)も口々に叫ぶ。戦う前から完全にお荷物状態である。
「お前も、野次馬じゃなく、困っている人を見ると放って置けないんだな。」
タケルは、街人の忠告も聞かずエアナに話しかける。
「せっかく助けてあげたんだから、もっと命を大事にして!」
至極もっともなことを言われた。
「いや、逆だ!助けてもらったからには、恩返ししないとな!」
「よく言うわ!小ゴブリン1匹も倒せなかったくせに。」
半ば呆れがちにエアナは呟いた。引く気がなさそうと判断したのか、
「勇気だけは認めるわ。死なないようにね。」
と続けられた。
「ようやくチャンスが回ってきた。異世界から召喚されたんだ。恐らく、とんでもなく俺TUEEな能力を備えているに違いない。」
タケルは、向こう見ずな上に、自己中心的な側面も持ち合わせている。
「やい、大小ゴブリンども。これを喰らえ!ファイアー!!」
タケルは両手をゴブリンの群れに向け、叫んだ。
ゴブリン、エアナ、レイ、街人が皆、呆気にとられた様子でタケルを見つめる。が、しかし、何も起こらない。は、恥ずかしい…!!
「なぜ?ワーイ??」
小ゴブリン1匹が痺れを切らして向かってくる。続けて、残りの小ゴブリンも向かってきた。
「ちょっと、バカタケル!!今の頭悪そうな一発芸的なのは何?!恥ずかしいっ」
「いやいや、エアナちゃん、今は突っ込んでる場合じゃ、きたー!!喰らえ!ウォーター!!」
再度、叫ぶが、何も起こらない。小ゴブリンの集団はすぐ側まで迫ってきた。そして、手にした棍棒を振り込んできた。
「あ、やべっっ」
タケルは思わず叫び、両手を目の前にクロスした。
ばしいっ
衝撃音。ここで初めてタケルはある違和感に気づく。ゆっくり目を開けると、小ゴブリンの群れの向かってくる速度が、超絶ゆっくりになっているのだ。周りを見渡すと、エアナも、レイも、街人も、みんなゆっくりになっている。
(今の、衝撃音は……?というか、これは一体……?)
極限の集中状態になった時に、周りがゆっくりに見えるというアレだろうか。タケルは、フウと息を吐き、両腕の力を緩めた。
瞬間。
小ゴブリン集団の、エアナの、レイの、街人の、動きが戻った。
先頭の小ゴブリンが棍棒を振り下ろしてくる。
「あ、やべっっ」
タケルはまたも情けない声を上げ、両腕で顔を守る動作をした。
ばしいっ
……??
まただ、また、世界がゆっくりになった。決して止まったわけではないが、すごいスローモーション。タケルは、とりあえず、目の前の小ゴブリンのお腹を真正面に蹴り飛ばした。
瞬間、また世界は元に戻り、蹴られた小ゴブリンは、ことの外あっさりと吹き飛ばされた。途中、2匹ほど小ゴブリンを巻き込んで。
やっとタケルの力を書けるとこまで来ました。