第2話 はじまりの街ポラ
第2話です。できるだけ、短くまとめるよう努めます!ビシバシ、遠慮なくコメントください(>_<)
全力疾走で10分以上も駆け、タケルは息絶え絶え、汗びっしょりであった。
タケルはエアナに引き連れられ街に駆け降りた。二人と1匹は、街に降りたところでようやく歩みを緩めた。
街は、中世ヨーロッパ郊外のような雰囲気であった。家々は黄土色の大きなレンガで作られ、赤やオレンジの三角屋根をしていた。いろんなところに生垣があり、色彩の調和が取れた小さな街だ。人もたくさんいるみたいだが、タケルは何となく違和感を覚える。みんな、顔や手にコスプレをしているようなのだ。トカゲみたいな人もいるし、牛みたいな人もいる。中には、普通の人もいた。コスプレも十分気になったが、それ以外に、違和感の原因が、道行く人のタケルに向けた物珍しそうな視線によるものだと気づいた。
街に入り、噴水のある中央広場を抜け、3番目の角を右に曲がり左の4軒目の家がエアナの家だった。
家に招き入れられた。玄関入ってすぐ、10人がけの長テーブルが二つあり、隣には数人がけのソファが数脚と、間に丸テーブル。大きな暖炉があり、壁には鹿のような動物のツノが飾られていた。
「ふう。ここまで来れば大丈夫よ。さて。」
黄緑髪のエアナは振り返り、こちらを向いた。
「あなた、何者?あんなとこでふらふらと何していたの?」
あまり、歓迎されていないような質問に、タケルは、肩身の狭い気持ちになった。
「あの、怒らないで聞いてほしいんだけど、ここって天国ではないのかな…?」
「質問しているのはこっちよ!天国か何か知らないけど、ここはそんな国名じゃないわ。」
不信感を募らせつつ、エアナは答えた。
「ちょっとエアナ。そんな怒らないで。ごめんねー、この子最近ピリピリしてて。」
「うわ!喋った!!」
「今更?!そこ?!」
せっかく差し伸べられた猫の救いの手を、タケルは自ら棒に振った。
「ちょっと、レイに対して失礼よ、あんた。」
だんだんとエアナのフラストレーションが溜まって来ているのか、呼び方も雑になって来た。
「わー、ちょ、タンマタンマ。俺はエンドウ・タケル。レイ、エアナ、失礼な態度をとってごめん!そして、さっきは救って来れてありがとう。」
必死に拝むように謝るタケルの様子を見て、右手をかざしたエアナはすっかり毒気が抜かれた様子になった。
「まあいいわ。改めて、私はエアナ。この子はレイ。エンドウ・タケル……。変わった名前ね。それで。」
「ああ、正直に言うとな。俺も、何でここにいるのかわからねえんだ。気づいたら、ここにいて。記憶はあるんだけど。」
「え、嘘!それって、異世界召喚てやつ?!」
「異世界召喚??」
エアナは、警戒心を残しつつ、水色の瞳を一層キラキラさせた。こいつ、すごい綺麗な目をしているな。
タケルは、またエアナに視線を奪われつつも、冷静に今のやり取りを分析していた。つまり、タケルは、死んだのではなく、何者かの何かしらの召喚魔術でこの世界に連れてこられた可能性があるということだ。
「そんな、せっかく明日から休みだってのに、何でこんなことになっちまったんだ?!」
「わかんないけど、困ったわね。あなた、誰に呼び出されたかわからないんじゃ、契約もわからないし、帰れないじゃない。」
「そうなのか?!」
休日中の帰国どころか、永遠に帰れない危険性を感じて、タケルは身震いした。
不意に、玄関のドアが叩かれる。
「あなた、そこに客間があるから、そっちに入ってて。」
エアナに指摘され、タケルは言われるがまま、隣の客間に移った。
「駐屯所のものですが、ここの路地に誰かと入っていくのを目撃されたみたいなのですが。」
「あー、あの子ならさっきお礼を言って出て行ったわよ。」
「そうですか。ありがとうございます。また、もし見かけたら声をかけてください。」
駐屯所のものと名乗った人物は、そのまま出て行ったようだ。
窓からチラと駐屯兵の頭が見える。どうやら3人で来たようで、髪しか見えなかったが、暗い茶髪が2人と、深いエメラルド色が1人いた。
「タケル、行ったわよ。」
エアナがドアの向こうからひょっこり顔を出した。
「何か、また助けられたかな。てか、いいのか、見ず知らずの怪しい俺を家に入れていて。」
「いいのよ。あんた、絶対私より弱いし、襲われることはないわ。それに、私、あなたの話、すごく聞きたいの!!」
エアナが、目をキラキラさせてこっちを見ている。弱いとか襲われる疑いとか、いろいろ突っ込みたいところが新たに出たが、純粋な輝く目にまたも視線を奪われた。ちょ、10歳も歳が下っぽい娘に惚れそう!多分、エアナはJKだろ?これ、犯罪じゃね?!ていうか、見ず知らずの人にこんなフレンドリーで大丈夫?!
タケルはドギマギタジタジしながら、レイに救いの目を向ける。
改めて見ると、だいたい猫っぽいには違いなかったが、レイは猫ではなかった。顔、体、手足は猫で、全身は短い銀色の体毛で覆われ、頭にはツノがあり、背中には天使のような翼が生え、尻尾の先はムーミンの尻尾のように膨らんでいる。
「私としても、あなたが何者か気になるわ。」
レイも珍しそうにこちらを見る。
「異世界から召喚なんて、この世界で5年生きて来たけど、一回も聞いたことなかったもの。」
「何だレイ、5歳児かよ。」
「タケル!!!」
またしてもエアナの地雷を踏んでしまった。思ったことを素直に口にしてしまうのがタケルの悪い癖だった。会社でもちょくちょく、小さなトラブルを起こしている。エアナの中でも間違いなく印象最悪だ。
「俺、名古屋出身なんだ。言葉通じるとこ見ると、ここも日本だと思うんだけど、ここも名古屋……なわけないよな??」
自分で言っていて恥ずかしくなる。タケルは確かに、栄のど真ん中にいたはずなのだ。このようなアルプスの少女ハイジが出て来そうな山間まで何時間もかかる。
「ナゴヤ??ニッポン???」
2人、もとい、1人と1匹揃って首を傾げている。どうやら、エアナが最高に残念な教養の持ち主でない限り、ここは、なぜか日本ではなく、日本のことを知らないほど遠くの国のようだ。
「 ていうか俺も聞きたいことはたくさんあるんだよ。ここはなんていう国のなんていう街なんだ。さっきのゴブリンみたいなやつは何で、エアナは何をしたんだ。そして、レイ、お前はなぜしゃべるんだ。」
エアナが答える。
「あなた、本当に何も知らないのね……。ここはノゼンシア王国で、この街はポラ。さっきあんたを襲ったのはゴブリンていう雑魚モンスターよ。私がさっきやったのは空気を飛ばすプレスって初級魔術。」
「私が喋れるのが何故かって言われても……。この歳で喋れない方が珍しいよー。」
理解はできるが納得のいかない情報がたくさん出てきた。どうやら、この世界には、モンスターがいるらしい。そして、あのすばしっこいゴブリンはやはりRPGよろしく雑魚モンスター。また、魔法使いがいて、人間以外が喋っても珍しくない。
「それにしても見ない格好ね……。高貴な印象は受けるけど、却って悪目立ちするから、服装は調達した方がいいわ。とりあえず、これ、貸してあげる。」
エアナはパタパタと部屋の奥まで行き、木目の粗い茶色の上下を取り出して来た。貧乏ちい印象だが、この世界で何の準備もないまま早速目立ちたくはなかった。身を案じて貸してくれるのがわかるので、素直に嬉しい。
「ありがとう!大事に着るよ。」
「そうして。」
早速、手頃な部屋を借りて着替えるタケル。そして、部屋に戻って来た。
「ところで……」
ドカーン
レイが何か言いかけたところで、外から破壊音がした。
「何だ?!」
外に出ると、通りの向こうで火が上がっている。
「行こう、レイ!」
「オッケー」
エアナとレイは迷いなく駆けて行った。
「野次馬根性丸出しか?!ちょ、ちょっと待てよ。」
慌ててタケルも後を追う。一体、何だというのか。
騒ぎのあたりに近づくにつれ、慌てて逃げるもの、泣き叫ぶものがいた。そして……
騒ぎは広場で起きていた。人混みをかき分けると、広場には、さっきのゴブリンとよく似たモンスターがざっと10体ほどと、一際大きな、大ゴブリンとでもいうモンスターが1対、いた。彼らが暴れて、さっきの音がしたことは容易に想像できた。
その群れの中に、エアナとレイが向かっていたのだ。
「ちょ、待てって!」
気付くとタケルも群れに向かって駆けていた。