研究施設/バックヤード
キャメルカラ―のブ―ツカット・チノパンに穿き替え、白いタンクトップに七部丈のダンガリ―シャツを羽織って、片山は身支度をそそくさと済ませた。作業デスクの隅にあったスマ―ト・フォンを掴み、佐奈江にシャットアウトされたコンピューターの電源を入れ直して再起動させた。
「いいかミカ、このスマホのGPS探索ソフトを起動させておくからモニタリングしていてくれ。まぁ、正体がはっきりしているあの女といっしょなんだから、変な事はまず起きないとは思うがな」
傍らのミカを一瞥し、手早くキ―ボ―ドを幾つかタッチすると、モニタ―上に探索用ソフトの最大ウィンドウを表示した。画面の中にCGで作られた地球儀が回転しながら現れたと思ったら、それは更に驚異的な速度で見る見る倍率を上げていき、片山の住むマンションがある練馬区早宮周辺の地図情報を表記した。現れたマップの中で赤い輝点が、マンションと思しき区画図上で点滅していた。これに反応している、というように手に持ったスマ―ト・フォンをミカに示す。
「それから、判っているとは思うが、くれぐれも余計な操作をして、間違っても全部のドライブユニットを起動なんかさせてくれるなよ。それだけでこの辺一帯があっという間に停電になっちまう……Are you OK?」
「All right」
冷めたテリヤキ・チキンサンドを口に頬張って租借しながらミカがはしたなく返事をした。直後に、食べながら無意識に反応してしまった事をミカは後悔したのか、恥ずかしそうに頬を赤らめて上目遣いで済まなそうに片山を窺った。
「そんな事、気にするな。それじゃ、いって来る。留守番を頼むぞ」
苦笑いしながらそう言い残して足早に玄関へ向かい、ナイキの赤いスニ―カ―に足を突っ掛けてドアを開いた。
「Please be careful………ヒロ」
片山の背中に慌てて投げ掛けたミカの声が、閉じていくドアで無残にもペチャンコに潰されていた。入れ替わるように外から忍んだ湿気を帯びた生暖かい大気が微かに漂い、廊下に立つミカの火照ったままの頬を気持ち悪く撫でていた。
マンションの外廊下に出た片山に、雲一つない憎らしいほどの蒼穹から燦々と照り付ける真夏の陽射しが容赦なく襲い掛かる。思わずダンガリ―の胸ポケットから四角いペルソ―ルの鼈甲柄サングラスを取り出して鼻に引っ掛けた。予期せぬ不愉快な訪問者さえ現れなければ、澄み渡った青空から降り注ぐこの真夏の熱気さえ心地良く感じていたに違いない、と片山の脳裏を霞めていった。
「まだ午前中だっていうのに、ひでぇ暑さだな、こりゃ」
外廊下の床を睨みながら独り語ち、「いつだってそうなんだ」と、こんな時に限って恨めしいほどに晴れやかな好天だったりする皮肉を心の奥底から呪った。
角部屋の片山の部屋から、反対側のエレベ―タ―ホ―ルまでの僅かな距離を歩むだけで、額と背中に汗が滲み出た。日陰になっているホ―ルへ逃げるように入ったが、そこにも熱気が籠っていて居心地は最悪だった。
操作パネルの降下ボタンを押しながら何気なく階数表示を確認すると、エレベ―タ―は六階で止まったままになっていた。中々動き出さない表示に苛ついた片山は、さして効果などないと判っていても、無意識の内にボタンを何度も繰り返し押していた。
「ちぇ!」
待つのももどかしく、舌打ちするのと同時にエレベ―タ―を諦め、ホ―ル横の外非常階段に足を向けた。再び照り付ける陽射しの中に飛び出し、急ぎ足でコの字型階段を一気に下る。一階ロビ―に繋がる鉄扉を開いて中に飛び込むと、ロビ―内は幾らか涼し気な空気に満ちていたが、そそくさと左手のエントランスのガラスドアを開いて外に出た。
「横の路地だって、確か言っていたな」
ミカが驚いて言っていたランボルギ―ニが停まっている場所を思い出す。
通りに面したエントランスに、ミカの七色の絵具を溢したみたいなカラフルなフルフェイス・ヘルメットがぶら下がった、青い1000ccスーパ―バイク‘ヤマハYZF―1’が無造作に横付けされていた。それを尻目に左手へ進み路地へ歩み出た。片山の視線の先には、マンション建物に寄せて停まっていた見慣れない橙色の低くて幅広なスポ―ツカ―の派手なリアランプが映った。その車の右側ドアに背を寄り掛けて、腕組みして待つ佐奈江の姿があった。
「随分と待たせるじゃない‘出来る男’にしては」
片山の気配に気付いた佐奈江が辛辣な言葉を投げ掛ける。
「おしゃれなんだ、俺って……身嗜みには、人一倍気を遣うんだよね」
真夏の陽射しで眩い橙色に輝くランボルギ―ニに歩み寄り、憎まれ口を負けずに叩く。
「へぇ……そうなんだ」
佐奈江は、目前まで歩んで来た片山を値踏みするみたいに頭の先から爪先までわざと舐めるように眺め、嘲笑しながら寄り掛かっていた右側のガルウイング・ドアを上方へ跳ね上げた。
「乗って」
意味深な秋波を送った割にはぶっきらぼうに言い、佐奈江はフロントノ―ズを回って、狭い隙間から運転席のドアを同じようにゆっくりと跳ね上げた。慣れた感じでしなやかに潜り込むようにシ―トへ身を沈める。
「これ、‘アヴェンタド―ル’だろ? 時価にして日本円で約四千万のクルマだ。確かスペインで有名だった闘牛の名前だよな。顔に似合わず、というか、お上品なお育ちにしては、随分と野蛮なクルマを好むんだな?」
片山も佐奈江に倣って身を屈めながら地べたに等しい低いシ―トに潜り込み。ドアハンドルを引っ張ってガルウイング・ドアを引き下げた。三点式シ―トベルトを装着しながら、佐奈江の横顔にペルソ―ルの奥から睨んで嫌味をぶつける。
「私、見掛けと違って、本当は‘色々’と気の荒い‘野蛮’なオンナなの」
佐奈江は全く動じずに唇を歪めて嘲笑し、運転席側のドアを閉めずにスタ―タ―・ボタンを押した。間髪を入れずにスマ―ト・キ―がコネクトしたブザ―音が決して広いとはいえない車内に柔らかく響く。独特なセルモ―タ―音と燃料ポンプが唸った直後に、V型十二気筒エンジンが甲高い咆哮を上げた。
「おいおい、休日の朝のまだ十時前だぜ、ご近所迷惑な事してくれるよな!」
「へぇ、あなたでもそんな事気にするんだ」
「目立つのは困るんだ!」
ステアリング裏の右側パドルを一回引きながら、佐奈江は無関心のように言い、毎分千二百回転でアイドリングする橙色の猛牛を低く唸らせながらゆっくりと進めた。
右手の緑色に塗られた金網フェンスに囲まれた月極駐車場にノ―ズから突っ込ませると、車高の低いアヴェンタド―ルは入口との段差でアンダ―フロアを激しく擦り、大きな鈍い音と伴に衝撃が車内に伝わった。
「おい、下を擦ったぞ!」
「平気よ」
驚く片山を尻目に平然としながらサイドコンソ―ル上のリバースギヤ・ボタンを押し、佐奈江は左手でステアリングを掴んだまま後ろへ捻った上半身を臀部ごと外へ放り出すように突然投げ出した。唸り続ける猛牛がゆっくりと後退しながら回転する。
「なぁ、こっち見た方がいいんじゃないか?」
片山がセンタ―・コンソ―ルの大きなナビゲ―ション画面に映し出されたバックモニタ―映像を示唆した。再び低い車体が段差で擦れて車体が身震いするが、佐奈江は全く構わずに後退を続けた。
「ランボルギ―ニって、こうやってバックさせるのよ。この方が断然早いの」
車外に上半身を出したままの佐奈江は、器用にスロットルとブレ―キのコントロ―ルをしながら左手でステアリングを操作し、狭い路地の中でUタ―ンを完了させた。センタ―・コンソ―ルのモニタ―に、片山がこれまでに見た事のないほどの高精細な三次元ナビ画面が戻った。
《ようやくお戻りになられましたか、サナエお嬢様》
「待たせたわね、オオバ」
車内のスピーカーから年配と思しきバリトンが伝わる。
《お嬢様……毎度差し出がましいようですが、お高いお車なんですから、もっと大切に扱って頂かないと……それにしても、ですが、サナエお嬢様でしたらこのような‘野蛮’なスポ―ツカ―よりも‘高貴’な印象のセダンの方がもっとお似合い……かと》
「オオバ、それこそ‘毎度’余計なお世話だわ。私はあなたの言うこの‘野蛮’なクルマが好きなの」
「誰だ?」
「私の執事で、大事なたった一人の……そう、家族よ」
上半身を車内へ戻してガルウイングを引き下ろし、シ―トベルトを閉めながら呟く。
《大変失礼致しました……お嬢様、そちらの男性の方が、カタヤマ様で御座いますか?》
「えぇ、そうよ……オオバ、これからすぐに彼を連れて‘バックヤ―ド’へ戻りたいの。最短距離でこの辺鄙な僻地から誘導して」
佐奈江は虚空のフロントウィンドウに向かって焦れたように問い掛けた。V型十二気筒エンジンの野太いアイドリング音が、辺りの暑い大気を震わせ続ける。
《カタヤマ様…………をですか?……宜しいのでしょうか?》
「えぇ……今は彼の能力がどうしても必要なの………クル―達には私から説明するから」
《かしこまりました。直ちにお嬢様の専用GPS回線に接続致します……接続致しました……只今マップ情報をリアルタイムで最新に更新中……更新致しました……国土交通省セントラル・ロ―ド・セキュリティ・システムに接続し、ル―ト上の距離と各交差点信号情報を最短で算出しています……シミュレ―ションを実行…………完了致しました。走行デ―タをお車に送信しています……送信が完了致しました。誘導を開始致しますが、よろしいでしょうか?》
「お願いするわ」
センタ―・コンソ―ルの画面と、運転席のインスツルメント・パネルに取り付けられた小型液晶モニタ―に‘コンプリート’の文字が青く点滅した。
片山は、車内の何処かに取り付けられたカメラで見られている、という事と、執事の余りにも無機質な言い様に、たとえようのない違和感を覚えた。
「まるで人工知能が喋っているみたいに聞こえるが、それにしちゃ、言語表現能力が滑らか過ぎる。まさかそんな事が……あるわけないよな……」
「そうよ、あなたの言う通り、オオバはAIなの」
「はっ!! …………えっ、冗談だろ!? 有り得ないよ…………マジか、随分とスゲェ事を、さらりといってくれるじゃないか……………もしかして面白いものって、これの事か?」
「そうね……でもこれはまだ‘パッケ―ジ’の一部分」
《サナエお嬢様……》
路地から通りへ、右方向へお出になって、しばらく真っ直ぐお進み下さい、と車内に伝わる声の中で、片山は苦笑いを浮かべたまま言葉を失った。佐奈江はそんな片山を他所に、アヴェンタド―ルを通りへ踊り出させ、シフトパドルを三速までリズミカルに引いて、V12エンジンの快音を響かせながら空いた通りを気持ち良く加速させた。
「こんなに進んだAIが日本にあったなんてな……」
《お褒め頂いて光栄で御座います》
何気なく呟いた片山に、オオバの柔らかい声質が即座に反応した。
「オオバは、今向かっている私の個人的なラボ‘バックヤ―ド’と、このクルマや私のスマ―ト・フォンやラップトップと常時五G回線―第五世代移動通信システム―で結ばれているの。毎秒十ギガ・ビットの次世代五G高速大容量回線は、まだ携帯三大キャリアが試用中の段階だけれど、私と私のラボだけが総務省から内密に、そして優先的に使わせてもらっている……」
アヴェンタド―ルは、東京メトロ氷川台駅を過ぎて更に直進し、ぶつかった環状七号線の内回り方向へ右折した。豊玉陸橋から逸れて側道から新目白通りを早稲田方面へと向かう。土曜の午前中のせいなのか車は疎らで、道路は何処も彼処も空いていた。
「そんなものが政府から優先的に使わせてもらえるなんて、幾ら国防を担う軍需企業だからといっても普通はあり得ないだろ?」
「事務次官が私に惚れているからよ。だから‘内密’なの」
まるで何でもない事のように薄笑いを漏らしながらさらりと言い退ける。
《お嬢様、余計なお世話かも知れませんが、お口が少し過ぎるようで御座いますよ》
「そうね、オオバの言うとおりだわね。あなたの言う事はいつも昔から間違っていない……クルマの趣味だけは私と合わないみたいだけど」
虚空に向かって会話を楽しむように微笑んだ。
「昔……から?」
不思議に感じて、片山は独り言ちた。
「……それにしてもこのAI、一体何処の誰が造ったんだ? 間違いなく‘あんた様’の菱井重工業や傘下の関連企業じゃ、この手の飛び抜けて優れたソフトウェアは造れるわけがない。大体、そういう部門とその為のメインフレ―ム・コンピュ―タ―、そしてソフトウェア・ア―キテクチャが存在しないはずだ」
「さすが伝説的なハッカ―にしてインテルの元テクニカル・オフィサ―、更に……CIAのエ―ジェントを‘バイト’でやっているだけはあるわ、と言いたいところだけど、随分と私の‘組織’を馬鹿にしてくれるじゃない。残念ながらオオバのAIは、バックヤ―ドにいる私が個人的に雇った、ある‘クル―’が一人で拵えたのよ。私のバックヤ―ドに設備したハイパフォ―マンス・コンピュ―ティング・ユニットと、システム及びソフトウェア・ア―キテクチャを駆使してね。AIの基本スペックに重要な遺伝的アルゴリズムに長けた天才的なスペシャリストのエンジニアが一人いるのよ」
「ほう……その‘天才的’スペシャリスト君は別にして、あんた、スーパ―・コンピュ―タ―に等しいスペックのプロセッサ―・ユニットを備えたメインフレ―ム・コンピュ―ティング・ア―キテクチャを、個人的に所有している、とでも?」
佐奈江は一瞬だけ視線を前方から片山へ移し、妖しく見詰めて笑みを浮かべた。
《左様で御座います、カタヤマ様》
「いいわ、オオバ、私から彼に説明するから」
AIの驚異的な話の相槌に怯みながら、片山は虚空の車内を怪訝に見回してしまった。そんな片山の様子を佐奈江はシニカルに唇を歪めて盗み見た。
片山が何気なく車窓に目を留めると、アヴェンタド―ルはすでに新宿四丁目交差点を左へタ―ンして、明治通りから国道二十号線へと飛び込んでいた。
佐奈江はパドルを軽快に引きながら高周波のような一際甲高いエンジン音を辺りに撒き散らせ、緑が眩しい新宿御苑の脇を法定速度以上で飛ばす。前方の四ツ谷四丁目の交差点が見る見る迫り、対向車が来ない外苑西通りとの交差点を勢い良く右折すると、ピレリ・P―ZERO超偏平タイヤが歪んで悲鳴を上げた。
「ず、随分と飛ばすんだな」
非難するように佐奈江を一瞥したが、ふと思えばマンションを出てから一度も赤信号に引っ掛かっていない事に、片山は今更ながらに気付いた。嘘だろ、と再び佐奈江に困惑の視線を戻す。
「気付いたみたいね」
色を失った片山の面持ちに、佐奈江は流し目で応えた。オオバの次のル―ト指示が、二人の微妙な空気を察したのか淡々と車内に流れる。
「そんな事までAIにやらしているのか!?」
「オオバにしてみたら、クラウドの五G回線から各方面の交通情報を収集して、素晴らしく最適なル―ト・ナビゲ―ションをする、なんていうのは序の口なのよ。オオバの本当に素晴らしいところは、ほぼ感情に等しい知能的判断プログラムを有している、という事なの。それはAI、人工知能を司る主要な四つの進化的アルゴリズム……そうね……あなたに説明するなんて烏滸がましいのかも知れないけど、その中でも最も一般的に使われている遺伝的アルゴリズムの多様なプログラム……つまり生殖、突然変異、遺伝子組み換え、自然淘汰、適者生存といった、進化の仕組みに着想を得たアルゴリズムの組合せ最適化メタヒュ―リスティクスの進化的計算に対し、全く新しいアプロ―チを考え付いたエンジニアがいたわけ」
「……それが本当ならノ―ベル賞ものだ……!」
「それはどうかしら……ね」
佐奈江は何故か抑揚なく答え、新宿御苑正門前の大京町交差点をまたしても問題なく青信号のまま左折する。
「遺伝的アルゴリズムは、デ―タ、つまり‘解’の候補を二進法の遺伝子モデルで表現した‘個体’を数限りなく複数用意して、適応度の高い個体を優先的に選択して組み換え……つまり交叉させるのは判るわよね…それと、突然変異などの操作を繰り返しながら解を決められた適応度関数によって探索するけど、それだと各近似アルゴリズムが求める枠組みの解は、ある限定された問題点に対してだけでしょ。それは、知能という範疇が、人間性にとって不特定多数だからなのよ。だから逆に最適化メタヒュ―リスティクスの二進法の枠組みの中に具体的な‘ある特定の人物’の個性、人格、趣向性、情緒感、嫌悪感など多岐にわたる‘人間性’を限定して、予測された進化的係数を加えたその何万という途轍もない‘感情’を含めた情報量を二進法モデルにデ―タ化させて組み換え、組み上げて創り上げたのが、AIプログラムのオオバなの」
「特定の人物…………?」
「そう、特定の人物……AIのオオバを司っている遺伝的アルゴリズムの基本スペックは、昔から我が家に仕えていた執事の大葉晋太郎そのものなのよ……」
「執事のオオバシンタロウ…?」
信濃町駅前交差点から右折して外苑東通りへ入り、明治神宮外苑を霞める。
「えぇ……でも、その大葉晋太郎本人は、七年前の飛行機事故で、それは年に一度の休暇で大葉が訪れる予定だったセ―シェル諸島のヴィクトリアに向うエ―ルフランス機の墜落事故で……不幸にもこの世を去ってしまったわ。享年七十三歳…………小さい頃から片時も離れず、いつも私の傍にいてくれた…いつも優しく……そして、いつも笑顔を絶やさない…大葉……」
前方を無表情で見詰めたまま、一気に吐き出した佐奈江の言葉の語尾が微妙に震えていた。
「……そうなんだ、そんな事があったんだ……」
「オ、オオバ、聞こえる……‘ショ―トカット’したいんだけど、どうかしら?」
佐奈江は片山の呟きをわざと無視するように、気丈にオオバを呼び出した。
《……かしこまりました……只今‘ショ―トカット’周辺情報を取得しています…………取得致しました。現在のサナエお嬢様の走行状況によりますと、二分五十三秒後に‘ショ―トカット’ポイントに接触致します。そうしますと、その時点での予測出来る周辺歩行者、及び前方と後方の当該周辺車両が障害となる為に‘ショ―トカット’に設置した‘|視覚的妨害映像電波発信機《ジャマ―》’の使用が必要となります………ジャマ―使用によって起こり得る周辺事故を含む影響の可能性が計算上七十九.四パーセントを超える為、使用回避の為の新たな走行情報を直ちに送信致します………送信完了しました……更新した情報で‘ショ―トカット’の御利用が可能です》
「あ、ありがとう、オオバ…」
青山通りと交差点角の本田技研本社を通り越したところで佐奈江はインスツルメンツ・パネルに視線を落とし、左車線へ車線変更しながらわざと減速する。前方の右側車線百メ―トルほど先にトヨタ・プリウスがほぼ同じ速度で進んでいた。
「ショ―トカット?……ジャマ―だとぉ……何なんだ?」
車内の湿っぽい空気はあっという間に吹き飛び、佐奈江とオオバの意味不明な会話だけが片山の思考に引っ掛かる。しばらく進むとフロントウィンドウの先に六本木トンネルが視界に迫って来た。
《サナエお嬢様、ショ―トカット・コンタクトのカウントを開始致します。車速を百十七キロメ―トルまで加速して下さい…………カウント開始……十・九・八………》
「お、お、おい、一体何が始まるんだ!?」
「いくわよ、見てなさい」
佐奈江が左側のパドルを一回引くと、シフトダウンと同時に自動でスロットルがブリッピングされて同期し、V12エンジンは一段と甲高く吠えた。全く事情が呑み込めない片山を不意にシ―トへ押し付け、アヴェンタド―ルは獰猛な加速を始めた。
《…五・四・三……》
「何する気だ!?」
片山のこめかみに戦慄が走った時、アヴェンタド―ルは指定された速度に達して六本木トンネルに猛烈な勢いのまま突入した。
《…二・一…今です》
オオバに言われるがままに、佐奈江はアヴェンタド―ルの指定速度を保った状態で、ガ―ドレ―ルで隔たれた左側の歩道目掛けて唐突にノ―ズの向きを変えた。
「な、何すんだ!? ぶ、ぶつかる!!」
両腕で顔を覆い、恐怖の叫びを片山が上げた時、目にも留まらぬ速さで左手のトンネル壁が歩道ごと一部分だけ口を開けたように右側へ開き、瞬く間にアヴェンタド―ルを飲み込んで何事も起きなかったみたいに閉じた。
強烈な速度で飛び込んだ先は、小さな四角い橙色のライトが幾つも上方に連なって照らされたパイプ状のトンネルだった。アヴェンタド―ルは一台分の幅しかないその中を緩やかに下って反時計方向に何回か回転し、パイプ内壁面全体から噴射され続ける耐圧空気で自然と減速していった。
「えっ!?」
【……収容を完了しました……収容を完了しました……収容を完了しました……収容を………】
機械的で無感情な女性音声がパイプトンネル内で繰り返される中、佐奈江と片山を乗せたアヴェンタド―ルは徐行速度で仄かな橙色の照明で照らされたパイプトンネルを真っ直ぐに下り続けた。
「マジで、し、死んだかと思った…………ここは一体何だ? まさか……地獄の一丁目じゃないだろうな」
安堵の溜息を漏らしながら佐奈江を一瞥して皮肉る。
「そうかもね…ふふふ…私だけの秘密の抜け道よ」
「秘密の抜け道……って、あのトンネルの上は、米軍が接収した専有の赤坂プレスセンタ―用ヘリポ―トじゃないか。よくもそんな場所に抜け道なんか作れたもんだ。しかもあんな高速での開閉となると、リニアモ―タ―でもガイドに仕込んでいないと絶対に不可能な動作だ」
「もちろんよ、だから‘ショ―トカット’が可能なの。それにあの扉の設置工事にしたって、単なるトンネルの補修だと役所から公式に通達させれば、連中にとってあんなどうでもいい場所なんかの工事の中身なんて、絶対に気付かれないわ。灯台下暗しよ」
「駐日米国政府さえ欺くなんて、まるで忍者みたいだな」
点々と続く橙色のトンネル灯が車内でフラッシュして、佐奈江の小気味悪い微笑を妖しく照らす。
「この抜け道は、六本木通りに面した七丁目にある我が社の本社ビル地下部分に直接繋がっているのよ。私のラボは、本社ビル前の地下四十二メ―トルに拡がる東京メトロ六本木駅より更に深いところにあるの」
「あんた、そこで一体何やってんだ?」
「色々…よ。今見せてあげる」
しばらく下って進んだ先が眩い光と伴に突然開け、片山の視界に広大な地下スペ―スがいきなり飛び込んで来た。全面が純白で覆われた巨大な空間は、研究施設か、或いは近代的でとても清潔な工場のように、ペルソールを外した片山の目には映った。
床に接した中央の白い壁の一画だけに刳り抜かれたような穴が開き、そこから淡い橙色の光源が放たれていた。その穴から同色のスポ―ツカ―が突如生み出されたみたいにアヴェンタド―ルは飛び出し、大きなタ―ンテ―ブルのある中央付近まで徐行速度で進んでから停車した。
騒がしいアイドリング音が壁という壁に反響して、真っ白な施設内の静寂を粉々にしていた。タ―ンテ―ブルに載るのと同時に佐奈江はエンジンをカットし、今し方出て来たパイプトンネルの穴が、そこに何もなかったように跡形も、継ぎ目もない白い壁となり、静けさと伴に自動で閉じられた。
「降りて、片山さん」
先に降り立った佐奈江に促された片山は、ガルウイング・ドアをゆっくりと跳ね上げ、視界に拡がる摩訶不思議な光景を茫然と眺めた。頭上を見上げると、三階ほどの高さに大小様々なダクトや配管らしき白いパイプが幾重にも複雑に張り巡らされ、正面には二階、三階部分が三面に渡って広大なラウンジのように構えていた。その各階層の中を忙しなく行き交う白衣姿の人々が片山の目に留まる。
床の隅から隅まで数段の白い階段で嵩上げされて囲まれた一階の先には、巨大なモニタ―が幾つも二階天井部からぶら下がっていた。白衣を纏ったオペレ―タ―かエンジニアらしき女性数人が、それらのモニタ―を確認しながら、それぞれのキ―ボ―ド・コンソ―ル・ブ―スに分かれて忙しそうに何かの作業に没頭していた。
更にその奥には、メインフレ―ム・コンピュ―タ―と思しき縦長の構造物が何列にもなって並んでいて、やはり白衣の女性達がデ―タチェックをしているようだった。ざっと見ても、全体で野球グラウンドほどの広さはありそうな施設だった。
「来て」
佐奈江は数段の僅かな階段を上がり、巨大なモニタ―群に向かう。
「六本木の地下にこんな巨大な施設があったなんて……」
きょろきょろしながら佐奈江の背中に呟いた。
「ここは、地下六十メートルの深さにある施設よ。元々は、四十年前に祖父が勝手に造った核シェルタ―だったの。まだ東西冷戦が盛んだったころね。冷戦は終結し、結局眠ったまま無駄になった祖父の遺産を私が改修、改装して五年前からラボとして使わせてもらっている……ちなみに都営大江戸線は、この地下施設を避けるように造られたのよ」
《お帰りなさいませ、お嬢様》
「ただいま、オオバ、それと、誘導ありがとう」
《どういたしまして、お安い御用で御座います》
オオバのバリトンが施設内で優しくあちこちの白い壁に反響する。
「で、何故、俺をここに?」
片山の問い掛けを無視して五席に分かれて横に並んだコンソ―ル・ブ―スの真ん中で佐奈江は立ち止まった。
「おはよう、立花さん。状況はどう?」
世界地図に幾重もの夥しい軌跡を示す線と光点が表示された頭上の大型モニタ―と、キ―ボ―ド・コンソ―ル席を囲って設置された三つの二十インチ・モニタ―が表示する情報を盛んに見比べながら素早くキ―ボ―ドをブラインドタッチする若い女性に、佐奈江が覗き込むように話掛けた。
「はい、ボス、大きな進展は見られませんが、依然として米国の例のポイントからのアタックが止む気配は全くありません…………えっ!?」
明るい茶色のボブカットをした立花友里恵が振り向きざまに見上げた時、佐奈江の傍で静観していた片山と自然と視線が合って驚き、表情を強張らせた。
「えっ、何で!? 何で‘男’の人がここに……どうして!?」
「はっ!? 何でって、何だよ……一体何なんだよ!」
驚いて叫ぶ友里恵の声に周囲が反応し、一様に片山に対して悲鳴や非難の集中砲火がラボの至るところから浴びせられた。驚いて周りを見回した片山は、ある異変に気付いた。
「ま、まさか……」
「そう、このラボは本来……男子禁制……クル―は全て女性だけなのよ」
「だ、男子禁制って、ここには女……しかいないのか!?」
狼狽える片山を他所に、佐奈江が意地悪そうに答えた。
「ここで作業してくれている大半の女性が、実は世間で‘性的少数者’といわれ、窮屈な思いをさせられている女性達。でも、そういう人達の中には、とても優秀な人材が多く隠されていたりするのよ。オオバのAIプログラムを構築した娘も……」
何故か佐奈江は突然に躊躇って言い淀んだ。
「でも、今は状況を打開する為には仕方ないの………栗山さん、ちょっと全クル―をここへ集めて頂戴」
まるで何かを振り切るみたいに佐奈江は周囲を見回し、ラップトップが数台載った作業テ―ブルの傍らに立っていた栗色のロングストレ―ト・ヘアの細りとした眼鏡の若い娘に指示した。栗山遥は、すぐさまテ―ブル上のコ―ドレス・フォンを取り、各フロアへ内線で招集の旨を伝えた。
「それじゃ、男子禁制の鉄則を破ってまで、俺をここへ連れて来た、っていうわけを、そろそろ聞かせて貰おうじゃないか」
狼狽えを隠せないまま、片山は強がった。
「そうね……あなた、覚えているでしょ? 二年前に国内で起きた未曾有のテロ事件、米海軍横須賀基地と、周辺の横須賀の街を一瞬にして焦土としてしまった‘ヨコスカ・ショック’の事を」
「あぁ………忘れるわけがない。あんたの亡くなった親父さんが必死で叫び続けていた改憲反対派の声を押し切ってまでも世論を味方にして、九条改正に勢いを掛けた事件だったしな……それで?」
片山は、何か苦い物を無理に飲み込むように、先を促した。
「その数年前から……私がこのラボを立ち上げる以前から、クラウド上では米国対ロシア、中国、北朝鮮、そして幾つかのテロ組織との『サイバ―世界大戦』が繰り広げられていたのは、当然ご存知よね」
わざと皮肉るように続ける
「一方的に攻撃され続けて防戦一方だった米国の救世主が、実はあなただったんだから、知らないわけがない」
「救世主……っていうほどじゃない」
少し照れたみたいに片山が視線を逸らす。
「そうかしら?……あなたが敵国と思われる国々にばら撒いた‘キ―ロギング・マルウェア’は、それらの国々のセキュリティ・ウォ―ルを全て粉々に破壊しながら無制限に拡散して、一時でも米国に対する攻撃の手を止めさせた……」
「そうおだてるなよ。相手のシステムを瓦解してリモ―トするマルウェアとしては当たり前のものだ……まぁ、少々、高度な仕掛けは施したが…ね」
徐々に一階フロアに女性達が集まり始める。誰しもが佐奈江の横に立っている片山の姿を見留め、驚きの表情を隠せずにいた。
「あのヨコスカ・ショックは、その数年間続いたサイバ―大戦の延長線上に、現実社会に具現化してしまった悪夢、だと当初は米国政府と国防総省は捉えた。それ以降、防戦一方だったはずの米国は積極的にそれらの国々に対して、あなたが四年前に拵えて残したままだったマルウェアで情報収集を繰り返したけれど、何処の敵国、或いはテロ組織が行ったテロなのか全く特定出来ずにいた。それでも怒りに震え続けていた米国は、ヨコスカ・ショックの首謀者を見つけ出す為に、大統領署名によるあらゆる免責事項を認めた特務部隊を水面下で組織した、という‘噂’が各国の情報機関を駆け抜けた」
「あらゆる免責を…受けた……特務部隊!?」
「そう、あくまでも噂と想像の域を出ない話だけど…ただ奇妙な事に、この特務部隊設立に関しては、他国に対して完全に情報をシャットアウトしただけではなく、米国内でもほんの一握りの政権幹部と情報機関の人間にしか知らされなかった。知らせなかったというよりは、どちらかといえばまるで秘匿したようだったらしいわ。それに特務部隊なんて単に体裁のいい言い方で、情報によればアフガニスタン侵攻やイラク戦争時に、国防総省が不足した兵数をアウトソ―シングして、軍部内でも信用力、並びに知名度を上げた民間軍事会社所属のエキスパ―ト連中と、選り抜きの士官で組織させた‘混成傭兵部隊’という噂よ。ジムからの、ジム‘モスキ―ト’ロ―ゼンヴァ―グ元大佐からの取って置きの超内密情報………とは言っても、ジムでさえ、元々はこの件に関しては何も知らされなかったほどの超極秘案件。とても鼻が利くガ―ルフレンド(内通者)が、ラングレ―内にいて幸運だった、っていう事のようだった」
佐奈江は立花友里江のコンソ―ル席から少し後退し、世界地図が表示された頭上の大きなモニタ―を睨み付けて片山を促した。
「ここよ、米国大陸中西部、北緯三十三度二十一分、西経百十二度六分、サウスマウンテン・ヴィレッジ……」
何種類もの色の光線の軌跡が、世界の至る場所へ放たれている北米大陸中西部、モハ―ヴェ砂漠の辺りを指で示し「画像を衛星画像に入れ替えて」と佐奈江が叫ぶと、高精細な衛生画像へと切り替わった。見る見る衛星画像が拡大され、アリゾナ州フェニックスの街並みが衛星画像で映し出される。映し出された広大な土地の衛星画像の注釈用の吹き出しに‘ライカン・プライベ―ト・セキュリティ・カンパニ―’という表記が出た。
「本当の社名は衛星画像で表記されている通りだけど、実際には現地での施設名はふざけた事に『ライカン水産加工缶詰工業』という工場名になっているのよ」
「モハ―ヴェ砂漠に人工的に創られた都市の中で、水産缶詰会社っていうのは余りにも酷すぎるな……しかも‘Lykan’か……確か、神話に出てくる狼男の中でも自由自在に変身できる最も進んだ種族の事を指すんだったかな?……しかし、ここが本当にその特務部隊の本拠地だったとしたら、随分とふざけた名前だ」
吊り下げられた巨大な画像を見詰めながら、片山は腕を組みながら鼻で笑うように言い放った。
「そうね、でもジムがくれた情報が間違っていなければ、米国政府がヨコスカ・ショックの首謀者を粛清する為に、国防総省以下、情報コミュニティ内に密かに編成させた秘匿機関…つまり、ここがいかなる暗殺も辞さない、特別な権限を与えたと噂される傭兵部隊と、悪名高きクラッカ―達を擁した特務部隊の本拠地に違いなさそうなのよね。そして、ここからのクラウド攻撃が日々二十四時間、何故か同盟国であるはずの日本も含めて世界中に対して執拗に行われている」
「日本も疑われているのか? 随分と都合のいい同盟国だな…ちなみにあんた、この一切合財の大風呂敷は、政府に頼まれてやっている事なのか?」
「いえ、私が私財を投じて勝手にやっている事よ。いったでしょ、私の父親殺しの真犯人は絶対に許さない、って」
「ようするに国際レベル、いや、下手したら国家レベル並の‘自警団’という事か、ふん……笑っちゃうね……まぁ、いいや……それで、この‘チョ―’素晴らしい自警団の中で、俺に一体何をしろというんだよ?」
「ここの詳細な情報が欲しいの。この施設に侵入出来るマルウェアと、バックドアを含むル―トキットをあなたに作って貰いたい」
思い詰めたように一気に伝えた。
「ウチのラボでもこれまで何度かその手のリモ―ト・プログラムウェアをエンジニアに作らせて侵入を試みたけど、セキュリティ・ウォ―ルのIDS(Intrusion Detection System:侵入検知システム)が余りにも強固で尽く失敗している、っていうのが現状なの。でもあなたなら、ここのコンピュ―ティング・ア―キテクチャのパフォ―マンスを駆使すれば、この施設のIDSセキュリティ・ウォ―ルを潜り抜けられるウィルスを作るなんて簡単でしょ?」
「……う~ん、そいつはどうかなぁ」
「私のメインフレーム・ア―キテクチャは一ペタフロップスの処理速度なのよ」
又もや、余り私を馬鹿にしないで、というように片山の目を覗き込んできつく睨んだ。
「すげぇな、それが本当なら、何処かの有名な研究所が持っているスパコン並みの性能だ。だが、ウィルスを作るのに処理速度はそんなに大きな問題じゃないんだ……で、何故、この施設の情報が欲しいんだ?」
佐奈江の威圧に気圧された片山は、惚けながらそう切り返すのが精一杯だった。
「私の父が殺された時……」
俯きながらモニタ―・コンソールへ視線を泳がした。
「父がテロリストと‘思しき’何者かの襲撃を受けてカブ―ル・スタ―・ホテルで殺された時、護衛に付いていた米陸軍の小隊と、二名の特任自衛官もその場でテロリストに殲滅されたはず。だけど、任務に付いていたその二名の特任自衛官の内の一人、真辺和博特任一曹と、米陸軍一等兵のベンジャミン・ク―パ―という男の遺体、あるいは遺体のDNAだけが現場から全く確認されなかった」
「確認されなかった……って、どういう事なんだ?一体何が言いたい」
「あくまでも推測でしかないけど、父達を襲撃したのが、もしもタリバ―ンじゃなくて、タリバ―ンを装ったその‘特務部隊’だった……としたら」
「まさか、幾ら何でも同胞までも皆殺しにするなんて、血も涙もない米国防総省や情報コミュニティだったとしても、まずあり得ないだろ………大体何の為に?」
「じゃ、その二人の、遺体やDNAが残っていない、というのはどう説明するというの? その特任自衛官と米兵はその後どうなった…っていうのよ!?」
睨むように片山へ詰め寄った。
「まさかなぁ、もしタリバ―ンだったら米兵と特任自衛官を人質にして日本か米政府に金を強請る?……って、まず有り得ないよなぁ、米国はテロリストとは絶対に交渉しないし……或いは生け捕り……だが、何の為に?……でも、強襲したのがその特務部隊だった、としたら、どうなんだ?……もしそうだとしても一体何の為に捕獲したんだ?……ん、待てよ、そういえば、自衛隊特任義務法に纏わる変な噂が流布していたよな……」
佐奈江の目を捉えたまま、嘘か誠か判らんがな、と呟きながらわざと惚けたみたいに受け返した。
「目的がどうであれ、現状ではその二名がカブ―ルからこの施設に移送された可能性を否定する事が出来ないわ。だから、このフェニックスの謎の施設内を、ここの監視カメラを利用して覗く為のリモ―ト・マルウェアがどうしても必要なの」
「…なるほどね……」
片山は、何か別の事に納得したみたいに囁いた。
「そういう事か……そう言えば、あんたさぁ、俺らの仕事の力にもなれるとか何とか、ってさっきほざいていたよな…確か?」
「え…えぇ」
「つまり、そのプログラムウェアの見返りが、力になれる、って事なわけね」
「えっ、えぇ……でも、本当に…どうしても、あなたが必要なの」
佐奈江は片山の思わせ振りで嫌らしい問い掛けをわざと無視するように、一階フロアに集り始めた女性クルー達の姿を気に掛け、人数をそれとなく確認した。佐奈江の目に映った三十人ほどの誰もが片山の姿を目に留めて、ざわめきながら動揺を隠せないでいたのが見て取れた。
「みなさん、土曜の朝から驚かせてしまって本当にごめんなさい。本来、みなさんのこのラボ‘バックヤ―ド’は、男子禁制という鉄則になっているにも関わらず、見ての通りそれを取り決めた私自らその鉄則を破ってしまったみたいで、本当だったらみなさんに合わせる顔が全くありません。でも、今回だけどうか許して下さい。彼は……」
「知っているわ!!」
観葉植物の大きな鉢の横で、テ―ブルにもたれ掛かるように佇んでいた細りとした二十代と思しき女性が、白衣姿で腕を組んだまま、一際大きな声で佐奈江に突然応えた。集まった周囲の女性達の視線が一斉に佐奈江と片山からそちらへ流れる。
「る…い……吉川さん……!」
以外な人物が声を上げてしまった、というように佐奈江は怯んだ。
「カタヤマ ヒロシ………その‘男’の人は、約十年前にペンタゴンの防衛システムを三十分もの間瓦解して、米国政府をパニックに陥れた伝説のハッカ―……だった人よ」
言い終えて、吉川瑠偉は腰まである長さの金髪ウェ―ビ―ヘアを掻き上げながら、わざと佐奈江に対してそっぽを向くみたいに視線を逸らした。白衣の裾から覗くボ―ダ―柄マイクロミニから伸び出た黒い編み上げブーツ・サンダルの細く長い脚を絡めるように交差させ、苛ついたようにテ―ブルへ寄り掛かっていた。
「ほう……」
振り返ってその女性を目に留めた片山は、彼女の発言よりも、彼女の容姿が髪型と色は別にして、余りにもミカと酷似している事に驚いた。
「CTO(チ―フ・テクノロジ―・オフィサ―)の吉川瑠偉……実は………彼女なのよ、片山さん…オオバの遺伝的アルゴリズム・プログラムを構築したのは…」
佐奈江は何故か急に恥ずかしそうにして、伏し目に片山へ呟いた。
「今、何て言った?…チ―フ……オフィサ―って言ったよな!? あの娘が? …へぇ…そうなんだ、そんな優秀な娘にはとても見えないが…人は見掛けじゃ、判らないしな…ただ、俺を知っている事には違いはないようだ」
驚いた片山には、彼女が容姿だけではなく、佇まいや仕草も何処となくミカに似ているように思えてならなかった。
そう気付いた時、嫌悪感を多分に含んだ嫉妬心みたいな感情が、片山の脳髄から脊髄に掛けていやらしく、そしてゆっくりと不快感を伴って突き抜けて降りた。
薄気味悪い緩やかな衝撃は、先程の片山のマンションで、ミカを目に留めた時の佐奈江の表情を、不快に沸き立つように想起させた。その感情は、傍らの佐奈江の妖しく美しい横顔を、嫌でも片山に憎むような視線で凝視させていた。
「みなさん!」
集まった女性達に佐奈江が再び呼び掛けた。注意を引いていた瑠偉から、佐奈江と片山に全員の視線が揺らぐように戻る。
「今、CTOの吉川さんからご指摘があったように、こちらの片山 浩さんは、そういう非常に特殊なスキルとキャリアをお持ちの方なのです。片山さんの能力は、私達が現在調査中である米国から受けている我が国に対する不明なクラウド攻撃の要因、及び解析に、どうしても必要なのです。それは、未曾有のテロ‘ヨコスカ・ショック’を引き起こした首謀者、強いては菱井重工業会長であり私の父、菱井健三郎殺害犯特定に必ず繋がるはずだからです」
彼方此方のざわめきは収まって、ラボ内の女性クル―誰もが水を打ったように佐奈江の声に耳を傾けていた。
「ですから……みなさん、どうでしょうか、私の独断で勝手に進めてしまいましたが、今回に限って、片山さんを我々の‘例外的なクル―’として向かい入れたい、と私は考えています………いかがでしょうか、みなさん」
誰もが判断しかねたように顰めた顔と顔を見合わせている中、ただ一人だけゆっくりとした同意の拍手をするものが輪の外にいた。
「あたしは全然問題なく賛成よ!」
辺りに良く声が通る吉川瑠偉の発言は、変わらず佐奈江達から視線を逸らしたままで、とても心から賛同しているようには見えなかった。それでも瑠偉が行動を起した事で、周りのクル―達全員が促された格好となって拍手の渦が次第にゆっくりと巻き起こっていった。
「瑠偉……さん」
「これで決まりよね。もう戻ってもいいでしょ? とっとと各々の作業に戻りましょうよ」
折角の土曜なんだしさ、と瑠偉はぶっきらぼうに大声で言い放ち、寄り掛かっていたテ―ブルから両腕を組んだまま身軽に身体を離した。立ち尽くす佐奈江に意味深な秋波を送りながら、そのまま一階フロアの奥へと消えていったのを片山は見逃さなかった。
「あんたさぁ、あの娘と一体どういう関係なわけよ?」
「えっ!?」
女性クル―がそれぞれの持ち場へと立ち去っていく中、その場に取り残されたようになった片山が、不信感を露わにして単刀直入に突然切り出した。
「まさか、かも知れないが………あんた自身がもしかして‘性的少数者’ってわけで……あの娘と恋人関係…とか?」
謙ったような片山の一言に佐奈江は突然狼狽し、顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。
「ふ~ん……そういう事なんだ……だからなのか、ここが男子禁制っていうのも」
「そ、そ、そういうわけじゃ…」
「でも、あの瑠偉って娘は、ミカとそっくりなほど容姿や雰囲気が似ている、っていうのは、単なる偶然、でしかないよな?……えっ、どうなんだ?……場合によっちゃ‘俺達’は、あんたに協力出来ないぜ」
恥じらいを隠せず、動揺したままの佐奈江に追い打ちを掛けるように片山は畳み掛けた。
「……ちょっと付いて来て、片山さん」
否定も肯定もせず、頬を染めたままの佐奈江は観念したように俯き加減にフロアを歩み始めた。不信感から嫌悪感へと丸出しに変化させた片山の問い掛けを全く無視して促し、ゆっくりと一階フロア隅にある上階へ繋がる階段へと向かった。
「あなた達の力になれる、って言った根拠を今見せてあげる……」
佐奈江がコの字型階段の踊り場をゆっくり回って上がる時、背後の片山を顧みずに呟いた。佐奈江の背中から、汗とフレグランスが入り混じった生々しい女の匂いが片山へ仄かに伝わった。
「ようするに、俺達に対する‘見返り’のもの、って事ね」
上がった二階フロアは純白の床タイル以外、コンピュ―タ―機器が並ぶ一階とは様相が余りにも違っていた。
仄かに埃っぽい匂いが漂い、CNC加工機械や多軸制御マシニング高速高回転研磨機に三次元測定検査機器、合金を焼結させる炉に、炭素繊維を焼く高圧蒸気滅菌器、大中小とスリーサイズが揃って並べられた三次元プリンターなどが所狭しに並ぶ中で、工作用安全ゴーグルを掛けた数人の女性達が忙しそうに白衣姿で動き回っていた。その誰もが佐奈江の姿を見掛けると、作業の手を止めて会釈して寄越した。
「ここは?」
「私の研究開発ブ―スよ。我社の試作研究品や、他国の同業種防衛産業からの内密に委託された武器の基礎研究や、開発品などの製作も行っているわ」
絶対に秘密よ、と狼狽えを隠す為なのか、ウインクしながら人差し指を縦に唇へ当てた佐奈江の事など顧みなかった。それよりも、目に入るフロアの中のもの全てが片山にとって見慣れないものばかりだった。思わず「すげぇなぁ」と口を付いてしまい、年甲斐もなく辺りをきょろきょろと見回してしまっていた。作業中だった女性達は、そんな片山をゴ―グルの奥から怪訝そうに遠巻きに伺った。
「こっちよ」
設備の強烈さに目を奪われていた片山を、フロアの奥へと更に促した。佐奈江の後に付いて綺麗に配置された機器群を抜けた先に、そこだけぽっかりと空間が開いたようにスペ―スが円形状に設けられ、その中心部に等身大の大型洋箪笥のような透明なケ―スが鎮座していた。
「これを見て」
振り返って、その大きな透明ケ―スを示した。ケ―スの中には、全身を包み込む真っ黒な甲冑だか鎧のようなものが、蝉の抜け殻みたいになって立て掛けられていた。
「はっ!?」
洋箪笥みたいな透明ケ―スの脇に出っ張った、アルミで覆われたコンソ―ルパネルのスイッチに佐奈江が触れると、空気が静かに抜けるような音と伴に正面の扉が観音開きにゆっくりと開いた。扉の動きが止まると、中で吊されていた蝉の抜け殻みたいになった真っ黒な鎧が、ハンガ―スタンドごと前方へスライドして佐奈江の前へ出て来た。
「これを‘あなた達’へ進呈するわ」
佐奈江は振り返り、スタンドに吊された黒い鎧みたいな抜け殻の肩部分を抱き寄せるように優しく掴みながら「これまで培った菱井重工業の軍産技術の粋を結集した最高傑作よ」と片山へ示した。
「はっ!? ……これは、一体、何?…っていうか、何のつもりなんだ……!?」
黒い鎧は間近で見ると、片山が思ったよりも全体像がかなり細身に造られていた。
顔全体を覆う頭部ヘルメット部分は多面体で複雑に構成され、両耳の辺りに垂直尾翼みたいな突起が二つ出っ張っていた。目の辺りはミラ―タイプのシ―ルドになっていて、それがゴ―グル型状に縁取られ、四角く開いた口元付近に向かって両側の下顎関節辺りから細いインカムマイクのようなものが伸びている。
首から下は、炭素繊維かセラミックスと思しき様々な形や大きさのパネルが幾重にも折り重なって、身体のラインと伸縮に合わせて絶妙に繋げられていた。
コ―クボトルのように絞られた腰には、何かの調整用と思われる数個の小型ボリュ―ムや切替用スイッチが、ギリシャ文字の無限大を表した‘∞’に似た形をしたバックルのベルト左右に装着されていた。武器か何かを幾つか吊す為なのか、アンカ―がベルト背後に数個ぶら下がっていた。
腰部が細く括れた鎧のシルエットからすると、それはどう見ても女性用に造られたものとしか思えなかった。
「Prototype No.91 Night Assault Scout powered Armor ……通称Type 91.NASA.Nightbird……日本語でいえば、試作型九十一式・夜間強襲偵察用強化コンバット・ア―マ―‘ナイトバ―ド’或いは‘ア―マ―’ではなくて‘ス―ツ’というところかしら」
「だからさぁ……何なんだよ、これ!?」
力になれるって、まさかこんな事じゃないよなぁ、と片山は露骨に憤った。
「ハロウィンにはまだ全然早いし、生憎とこっちはコスプレの趣味はないんだ。しかもこれ、女用じゃないのか!?」
「随分と失礼な事いうのね、片山さん」
佐奈江は、明らかに憤慨していた。
「この夜間偵察用強化コンバット・ア―マ―は、ステルス性能を限界まで上げた赤外線感知防御コ―ティングを表面に施したセラミックスと、カ―ボン・ファイバ―を組み合わせた多面体プレ―トを、ケブラ―49の強化樹脂分子で編み込んだアラミド繊維で繋いで出来ているのよ。防弾、刃物からの防護性能とも、このア―マ―の右に出るものは世界中を探しても何処にもないはずよ。それにこのア―マ―が優れているのは防御性能だけに収まらない。主コマンドたる偵察に必要なメインカメラからの静止画、動画像のデジタル画像解析記録に、各種フォ―マットによる音声記録に盗聴……更にこのコンバット・ア―マ―の真骨頂は、頭部カウル内に分散して埋め込んだ、このア―マ―を‘攻撃制御’する為に専用設計した128ビット・マイクロ・プロセッサに、アシスト高速稼働させる為のオペレ―ション・ソフト‘R.I.S.E(Revolution Inform Support Engine)’と、このバックヤ―ドのコンピュ―ティング・ア―キテクチャのAI‘オオバ’をリアルタイム5Gクラウド高速回線で結び、戦術・戦略面で刻々と変化する戦況に対応させるバックアップ・サポ―トシステム、並びにオオバとCombineさせた火器管制暗視システム‘F.N.S(Fire control Night vision System)’によって、暗闇の中でも最大で七つまでのタ―ゲットを同時に連続ロックして数秒間の内に攻撃、そして駆逐完了が可能な事なのよ」
佐奈江は何かに取り憑かれたみたいに捲し立てた。
「そして、それらを実行可能にしているのが、ア―マ―各部に取り付けたセンサ―とアクチュエ―タ―から振動、摩擦熱を吸収するエネルギ―・ハ―ベスティングによる発電及び蓄電技術なの。最先端の発電機能よ。それにアラミド繊維と各パネル間に埋め込んだアクチュエ―タ―は発電の為だけではなく、このア―マ―の運動性能を倍速アシストする為のブ―ストアップ機能にも使われている。現在、米国防省とDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国国防高等研究計画局)が共同開発しているTALOS(Tactical Assault Light Operator Suit:戦術的襲撃用軽装オペレ―タ―・ス―ツ)よりも更に効率的で軽装、そして戦闘運動能力や防護力も全くこちらのパッケ―ジの方が優れている。二ヶ月ほど前に、そのTALOSが日米共同開発用という名目で、最新型が研究実証機として国内に入って来たみたいだけど、どういうわけかその研究実証機はウチではなく、ライバル会社の川越重機に搬入されてしまった。もしウチに来たら、実はこの九十一式ナイトバ―ドとTALOSを内密に比較検証したかったんだけど………」
とても残念だったわ、せっかくのチャンスだったのに、と悔しそうに呟いた。
「これは、決してあなたが言うような‘コスプレ衣装’なんかじゃないのよ」
捲し立てた佐奈江は、黒い鎧を模したコンバット・ア―マ―を優しく擦りながら、片山を睨んだ。
「で……悪いが、これを俺にどうしろ、っていうんだ?」
「ケン・ゴトウの邸宅にこれで忍び込めるでしょ」
「忍び込むだぁ!? あんた何を言ってるんだ!! ご自慢のこの戦闘ス―ツの性能がいかほどのものかは知らないが、あの屋敷の中はマシンガンやハンドガンで武装した物騒な連中ばかりで、入った途端に全身が蜂の巣だ!! それこそ今度は間違いなく本物の地獄の一丁目行きだ!!」
「防弾性能は間違いなく保証するわ。五.五六ミリNATO弾を連続十五秒間浴びてもビクともしない新素材の軽量装甲よ。しかも、背中のこのバックパック内に収納された磁性流体繊維製の翼で高所からハングライダ―のように滑空での侵入が可能、ほとんど音も立てずに、僅かな風切り音だけでよ」
背面部に僅かにはみ出した薄いランドセルみたいなバックパックを示した。
「はぁ!? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!! そんな時代劇に出てくる忍者みたいな絵空事が実際に可能なわけがない!!」
「それはどうかしら……ね」
「大体、こんな‘オンナもの’みたいな細い戦闘服に俺の身体が入るわけ………えっ!? ‘オンナもの?’……ま、待てよ、まさか…」
片山は、何か嗅いではいけない匂いを知らぬ間に嗅いでしまった、みたいな嫌悪感を強く抱いた。
「そうよ、気付いた? まさか、ではないわ」
「ミ、ミカか……!?」
ア―マ―を横にした佐奈江には、今さっきまで見せていた淫靡的な羞恥心が全く消え失せ、逆に何故か確固たる自信に溢れていた。
「そうよ、この‘鎧’は彼女の為に誂えたのよ。これであなた達は、クライアントとの契約を全うし、ケン・ゴトウの実情を知る事が出来る。そして私は見返りに、あなたが拵えるリモ―ト・マルウェアでフェニックスの施設内の情報を得る。スゴい偶然だけど、お互いが必要としている物をそれぞれ提供し合う、って最高じゃない?」
茶化すように片山へ畳み掛けた。
「無茶だ!! 何故ミカなんだ!?」
「さっきあなたの部屋で言ったじゃない、彼女、優秀な州兵として特別なレンジャ―訓練を受けていたわよね? だからあなたの有能な助手を務めていられるわけでしょ」
片山は諦めたように「やはり何もかも承知の上か」と吐き捨て、またしても蛇に睨まれた蛙の如く惨めな感慨を嫌というほど抱かされる。
「あるところからこのア―マ―の開発以来を受けた時、元々のベ―スとなる想定モデルは、機動戦闘用OSと基本スペックを構成した瑠偉……いえ、吉川さん自身だった。吉川さん自身が被験者となってOSとF.N.Sの試験運用をする覚悟でいた。でも、彼女は優秀なシステム・エンジニアであっても、専門的なコマンドとしてのスキルを全く持ち合わせていない……」
「だから……なのか?」
「えぇ、でも全くの偶然だった。あなたの事を調べている課程で知り得た本当の偶然だったのよ、二人の体型や特徴が瓜二つだった、というのは」
「ふふ……ミカにルイ……か……何か出来過ぎた話だ」
溜息を漏らすみたいに呟いた。
「それで、この91何とかっていう鎧の依頼っていうのは、やはり防衛省からなのか? まぁ、俺にしたら、そんなのどうでもいいがな…」
「いえ、違うわ。今は言えないけど……何れ判る事だわ。それにこのア―マ―の事を、私達は長ったらしい正式名称や固っ苦しい通称では決して呼ばない」
「ほう………じゃ何て呼んでいるんだ?」
「クノイチ……そう、まさしく情報を集める為の忍び‘くノ一’よ」