第六伝 人と妖怪~器と依り代~その一
今回から新章突入です
壁一面にどす黒い血飛沫がべったりと張り付き、血臭が漂う地下室。
床には魔法陣が描かれているが、黒い血が付き全体像は見えない。
そして散らばっているかつて人間だった物。
腕、脚、胴、首、胸と・・・・・・そこら中に転がっている。
「おいおい・・・・・・誰が彼女じゃなくてリアルブラクラ見せてくれって言ったんだよ・・・・・・」
そう言って、帝は壁際に立つ黒一色の服装の男を見つめた。
「で、どうなんだ? 人の仕業か?」
男はそう言って帝の言葉に返事はせず自分の質問を投げる。
「人の仕業かどうかと言うなら、人の仕業だよ」
帝はそう言って、転がっている腕の一本を持ち上げて言う。
「人が人を引き千切ったり、食い千切ったりできるかよ」
男はそう言って、溜息を吐きながら言った。
「犯人は子供だな・・・・・・依り代にされたか・・・・・そして、逆五芒星・・・・・・」
引き千切られた腕に残る血がインク代わりとなった小さな手の跡を見て、帝は呟く。
「人の話を聞いてるのか?」
男が現場を荒らす帝に問いかける。
「聞いてるよ・・・・・・再会を邪魔されて虫の居所が悪いのは俺も同じだよ。ナオ」
帝はそう言って男の名を呼んだ。
ナオは帝にとって、唯一の親友である。
「それで、専門家のミカにはどう見えた?
俺から見れば、ただの猟奇的な殺人にしか見えないんだが?」
ナオはそう言って、帝のニックネームで呼ぶ。
「確かに、普通に見れば、猟奇的な殺人だろうな・・・・・・だが、ここに霊気が残ってなければ俺も専門家であるナオの意見に賛成していた」
帝が妖怪や幽霊の専門家なら、ナオは逆に人の専門家である。
日本では馴染みがない賞金稼ぎ、それがナオの仕事であった。
バウンティーハンターとも呼ばれ仕事の内容は、持っているライセンスにもよるが賞金首を追いかけ、生死を問わず捕まえる事が主な内容だが、不可解な事件が起こると行政から要請を受け、捜査に助力する事もある。また、民間人の護衛なんかも依頼されればするのも仕事である専門家でもある。
ナオは数あるバウンティーハンターでもS級ライセンスを持ち、警察に顔が利くという事もある。
「なんじゃ、お主等? 辛気臭い顔しおってからに」
美女モードになったタマと地下室に入ってくるなり帝とナオに言った。
「うわっ! なにこれ? ナオがやったの?」
タマの後ろから出てきた美女がそう聞いてきた。
「ナオがこんな事するのはあんたが危険に晒された時か、フラれた時か、もしくは死んだ時だけだ」
ナオが反論する前に帝がそう言った。
「で、久々のデートがお主にとって人間で唯一とも言える親友とその彼女とのWデートになった事は我の肉球一つ分程は許そう。じゃが、いざ来てみれば、3時間も待ちぼうけにされた挙句に、主の臭いを辿れば、大量の血の臭いと混じり合い、鼻が捥げそうなのを我慢し、合流してみれば、悪魔だか、神だかの召喚現場。
我は主との事だから慣れておるが、エリには少々きついじゃろ?
ましてや、今や、アレ系でイタ的なファンがおり、人気もそこそこある人気声優じゃぞ?
聞けば、半年振りの休暇でこの日を楽しみにしていたと言うではないか?
それが何故、こんなムードもなんもない場所になったのか言い訳を聞きたいものじゃ。
返答次第では我の狐火でこんがりウェルダンにしてやるぞ?」
と、タマの言葉に帝とナオは互いに見合う。
不機嫌ではない様子を保っているが明らかに不機嫌であるタマ。
ナオが事の経緯を説明。
帝と合流後に、待ち合わせに場所に向かう途中で血の臭いがしたので路地裏に入り、帝の力で死んだ人間の声を聴き、ここに来たことを伝える。
帝達がここに来て、部屋の惨状を見た時に、ナオはすぐに自分が所属するチームに連絡。鑑識、現場保全、証拠採取が終わり、チームがラボに引き上げたので二人で現場を見ていたのだ。
もちろん、ナオの方から警察に連絡し、この一件はすべてナオの管轄に置くという事も伝えてある。
「と、言う事だ。 一応、エリはB級ライセンス持ってるし、ミカは俺よりも上の3S級ライセンス持ちだから現状問題はない」
と、ナオ。
「ナオ・・・・・・」
帝は諦めた声で名を呟き視線を送る。
視線には、そうじゃないんだよ・・・・・・タマとキエリさんはデートがダメになった事を詫びてほしいだけだと言う意味を含めて・・・・・・
「ここまで天然だとは・・・・・・思わなんだ・・・・・・なんか拍子抜けしてしまうわい」
ナオの態度に力が抜けるタマに後ろから手を添えて、エリが言った。
「こういう人なんです」
最早否定のしようがない。
「ミカ・・・・・・俺間違えたか?」
「ああ、大いにな・・・・・・」
その様子を見たナオが帝に質問し、答えると同時に帝はたばこではなく、眠気覚ましに噛むガムを口に含んで噛み始めた。
煙草ではないのは、声が仕事であるエリに配慮しての事だ。
時間は少し遡り、3時間前の事である。
京急電鉄の京急川崎駅の中央改札口から道路を挟んだ向かい側にあるゲーセンで金髪の美女が店頭クレーンゲームに噛り付いていた。
「うぬぬ・・・・・・ニャンコ先生め・・・・・・どうあっても我に抵抗する気じゃな・・・・・・ならばよかろう、戦争だ!」
と古めかしい言葉使いの金髪美女はタマである。
待ち合わせ場所は中央改札口前で時間に余裕があり、目の前のゲーセンで時間をつぶしていた。
狙っているのは夏目友人帳に出てくる主要キャラであるニャンコ先生の巨大ぬいぐるみ。
プレイし始めてから、二千円は突っ込んでいる。
「ふふふ・・・・・・貴様を取る為ならば我は、すべての力を使い、権力に物を言わせようぞ!」
そう言って、油揚げの形をした小銭入れからお金を取り出そうと中を開く。
「む・・・・・・ぐぬぬ・・・・・・ニャンコ先生め・・・・・・我の小銭からすでに二千円も献上させるとはやりおるな・・・・・・しばし待っておれ・・・・・・弾を補充して次こそお主をゲットしてやろうぞ!」
そう言って、タマは店内にある両替機に向かい、戻ってきた瞬間だった。
「ふむ、さすがに五万円分だと中々重くなるの・・・・・・じゃがこれでにゃんこ先生を確実に、我が手中に収める事が・・・・・・」
「よしっ!一発ゲットー!」
肩まである黒髪の女性がにゃんこ先生のぬいぐるみを百円で落とした場面だった。
「・・・・・・」
「さすが川崎ね。 第二のアキバ候補にしようとする理由がわかるわー」
満足そうに、満面の笑みを浮かべ、にゃんこ先生のぬいぐるみをモフモフする女性。
その瞬間タマは膝から崩れ落ち、床に手を着いていた・・・・・・リアルorzかOTLの状態である。
「ん~、でもやっぱりナオにモフモフしてた方が気持ちいいかも?」
と漏らす女性。
わなわなと小鹿のように震える足でなんとか立ち上がるタマ。
「百円・・・・・・我が二千円つぎ込んだにゃんこ先生がたった百円・・・・・・ぐぬぬ・・・・・・」
と、異様なまでに黒いオーラを放つタマ。
「あれ?もしかして、お姉さん、狙って・・・・・・た?」
女性がタマに気づいた。
「ふ・・・・・・ふふふ・・・・・・確かにそれは我の獲物じゃった・・・・・・百円玉がなくなり、両替をしていた間・・・・・・ほんの少しの間だけ狩場から離れただけじゃったのに・・・・・・」
ぼそぼそと呟くタマ。
その顔には涙が伝っている。
「あ・・・・・・あの・・・・・・ごめんなさい・・・・・・もしよかったら、これどうぞ」
その様子を見た女性がタマに同情をしたのか、にゃんこ先生のぬいぐるみを差し出す。
「いらぬ・・・・・・それはお主の物じゃ・・・・・・敗者に情けは無用ぞ」
「いや、でも、これはあなたが取ろうとしていたのを私が掻っ攫ったようなものです」
彼女はそう言った後、言葉を続ける。
「今日、彼氏とその親友と親友の彼女さんとお会いするんです。
仕事柄、忙しくて彼氏とのは半年振りなんですよ。
なので、これは何かの縁です」
嬉しそうな笑顔で言う彼女にタマは事情を深く聞く事にした。
そして、帝の親友の彼女の奇多無 ラエリとわかった。
「しかし、半年とは・・・・・・余程、朴念仁か、ど天然じゃな。ナオという男は・・・・・・」
「そんな事な・・・・・・いえ、天然朴念仁と言う言葉がナオ以外に合う人はいませんよ」
「いやいや、我が主に比べればまだ可愛いもんじゃよ。
我にペットフードを食させようとしたり、一緒に寝ようとして、部屋に言ったら進入禁止の結界が張られたり、とまぁ、人外以上の処置をされとるよ」
気が付けば近くのカフェで話し込んでていた二人は待ち合わせの時間よりも遅れていることに気が付いた。
「む、長居し過ぎたか。 エリ、行くぞ」
そう言って、タマはラエリの愛称であるエリと呼んで店を後にしたが、そこから1時間以上も彼等が来ない事に苛立ち、帝の匂いを追い合流したのだった。
「で、とりあえず、タマ、この召喚陣に見覚えは?」
あれから数十分経ち、帝がキエリに謝罪し、ナオに説明し、ようやく四人で現場を改めて見る事ができた。
「ふむ・・・・・・永い事、色々な国々を巡ったが、この陣は初見じゃの・・・・・・周りに記されおるのは古ラテン語にソロモン諸島のラグ語じゃな・・・・・・なんというか、陣になってはいるが陣をなしてはいないものじゃな・・・・・・こんな陣で何を召喚しようというのじゃ・・・・・・まったく」
さすがのタマも陣を見て呆れていた。
「古ラテン語にラグ語って・・・・・・おい、ミカ。 この二語は・・・・・・」
「そうだな・・・・・・すでに消滅した言語だ。
翻訳はできるが、発音ができない」
イタズラかそれっぽく見せるために出鱈目な陣を書いたいう可能性は最初からあったが、ここまでくると濃厚になる。
「しかし・・・・・・」
帝はそう言って、陣を見つめた後に最後の断末魔をあげたであろう恐怖に満ちたままで転がっている首に視線を移して言った。
「ナニカが召喚されたのは事実だな・・・・・・」
それはタマも感じていた。
「え? まさかこれって、エクソシスト的な展開? マジ?」
その様子にちょっとテンションが高いキエリ。
「エリさん、俺は自分で言うと胡散臭くなるから言わないだけで、ポジション的な位置で言えば、俺は某アニメに出てくる忍野メメや臥煙伊豆湖みたいな専門家だよ。
ナオは何度か俺の仕事もタマが狐になる所を見ているけど、それ以外は認めていないから、言ってないだろうが」
そう言って、ナオをジト目で見る帝。
「事実は認める。 俺はそういう人間だ」
「とまぁ、こんな感じだ。 人によっては貝木泥舟みたいな詐欺師と呼ばれるがな」
ナオの言葉を無視し、自分の事を簡潔に分かり易く話す帝。
「それで、その専門家さんでも召喚されたのがわからない・・・・・・という事ですよね?」
「そうだ。 妖怪でもあるタマでも見当がついてない。悪魔か神か・・・・・・それとも違う何かが召喚され、器にされた子供に憑き、男達を惨殺したという事だ」
エリの質問に帝はそう答えた。
「今は逃げた童を追うのが先じゃろ。 かすかに匂いもある事じゃ。 我に任せよ」
タマはそう言って、人から大きな狐の姿となりスンスンと鼻を鳴らす。
「うは! 妖狐だ! てか本物? 触っていい? てか触らせて! いやモフモフさせて!」
と言って、美しい砂金のようなキラキラした毛並みの体長八十cmほどの狐を見て、ハイテンションになるエリ。
「わわっ! ちょっ!おまっ!」
「すごい! めっちゃモフモフ! 尻尾が九本! 尻尾もモフモフ!
うはっ! 肉球すごい! 超ぷにぷに! 私、この子欲しい!」
すでにモフナーであるキエリの餌食になったタマ。
この後三十分ほどタマはエリにモフモフの刑に処され、人の姿に戻ったタマに正座を強制させられ小一時間ほどの説教をされ、ようやく地下室から出てきた四人は黄昏時の街へと逃亡者を追い消えて行くのであった。
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