第四伝 妖怪 カメ子~現代妖怪討魔伝~その4
お待たせしました。
今回、葛葉が壊れます(笑)
なんちゃってスターライトブレイカーもとい、なんちゃって波動砲・・・・・・ではなく、帝に惹かれた妖怪、精霊、神の霊気の波動に飲み込まれたカメラ男はなんとか立っていた。
頭部のビデオカメラにはレンズを含み、本体カバーに無数の亀裂が走り、タキシードはボロボロになっている。
「グギギギ・・・・・・」
と言う呻き声にも似たその声と共に四肢を動かすといたる部位からスパークが走る。
そこはさすが電化製品の妖怪と言ったところだろう。
「無光っ!」
カメラ男の有様を見ても平静を保つ帝はカメラ男によって投げ捨てられた退魔刀の銘を呼ぶと、刀が浮き、帝の手の中に納まる。
「今のが俺の本気だ。」
「「うそだ!絶対手抜きだった!」」
帝の言葉に、葛葉、タマが同時に言う。
攻撃は本気だったのは確かである。
ただ、かなり威力を抑えて撃ったと言う事を除いてと言う事だが。
「ところで葛葉よ、今日のご飯はまだかのぉ~?」
「もう、蒼空おばあちゃんたら、何言ってるんですか? 先程、支給されたおにぎり弁当食べたでしょう。」
葛葉とタマが古典的な会話をしながら、その場で座り込み水筒に入ったお茶をすする。
すでに結界の修復は終わり、帝のサポートと言う名のただ見てるだけの光景に飽き始めたので、お茶を飲む事にしたようだ。
帝はその様子を知ってはいるものの、スルーし、カメラ男に集中する。
「時間をかけるわけにはいかんからな・・・・・・」
帝はそう言って、無光に霊気を通すと、無光の刀身が紅く燃える炎によって包まれた。
「俺は今日の降臨クエでツクヨミ五体落ちれば俺のツクヨミが運極になるんだから、早く帰らせろ!」
「「モンストかっ!」」
帝は朝から機嫌が悪かった・・・・・・何故かと思っていたら、某アプリゲームの限定クエストができるかできないかの心配事をしていたのに対し、タマと葛葉のハモリ突っ込みが入った。
「ちょっとまて・・・・・・今日はイザナミも降りるはずじゃったよな?」
「そうですね・・・・・・たしかあと二時間ばかりで開始のはずですが・・・・・・はっ!今日はバステトちゃんも降臨じゃないですかっ!」
「「笹食ってる場合じゃねぇー!」」
その後、タマが葛葉に尋ねると二人そろってやりたいクエストが同日に来る事を思い出し、二人揃ってダッシュで帝の隣に立つ。
お前らどこのパンダかっ!
「主よ、いつまで遊んでおるか! こんな奴なぞ全力全開の我のスターライトブレイカーで屠るのみ!」
「いえいえ、私のストライクショットでスピクリ、ノーコンクリアです!」
「やめろ! お前らが本気出したら、世界の殆どが世界地図から消えるわっ!」
高密度に濃縮した妖気を全身から出す二人を帝が止める。
「「問答無用っ!」」
帝の制止を振り切り、攻撃態勢に入る二人。
「我求めるは雷鳴っ! 稲雷っ!」
「波動拳っ!」
「スターライトブレイカーとストライクショットじゃないのかYO!」
好き放題するタマと葛葉。
普段は戦いになると互いに嫌味を言ったりする仲なのだが、目的が共通だと悪ノリどころではないぴったりの連携をとる。
「ぐぎゃあああああああっ!」
二人が放った妖気の波に呑まれるカメラ男が叫ぶ。
二人の攻撃で世界が殆ど消えなかったのは、結界のおかげもあるが、なんだかんだ言いながらも二人はちゃんと加減をしていたのだ。一応、念のために帝は無光の刀身に宿らせた力を結界の内側に張った事で二重の結界となり強固にしたのだが・・・・・・無光で作った結界はあっさりと破られている。
「・・・・・・もう大丈夫か・・・・・・結界を外せ。
あとは手筈通りにしろ」
「「はいっ!」」
帝は跡形もなくなったカメラ男が立っていた場所に目線を移すとそう言った。
指示を受けた二人はすぐに結界を解除する。
「とりあえず、倒れている連中は無事だな・・・・・・あとは・・・・・・」
帝はそう言って、カメラ男がいた場所へと歩き・・・・・・そしてそこから一台の古いデジカメを拾い上げる。
「もう少し、穏便に済ませたかったが手酷くしてしまったな。」
汚れて、いたるところにヒビが入ったそのカメラに向かって帝が言った
(わたしは・・・・・・一体・・・・・・)
カメラが帝の心に話しかけた。
「大丈夫だ・・・・・・少しだけ人の悪い気に当たられただけさ・・・・・・」
そう言って帝はカメラをやさしく撫でる。
(懐かしい感覚だ・・・・・・昔、誰かに・・・・・・そうだ・・・・・・私は彼女に・・・・・・)
「こうされたのか? ならその人にとってお前は大切な存在だったんだな。」
帝の言葉にカメラは昔の記憶を思い出す。
(そうだ・・・・・・私にとって彼女は大切な存在だった。)
まだカメラの独白は続く。
(私と彼女はいつでも一緒でどこでも一緒に行った・・・・・・)
色褪せた記憶、いつの間にか忘れていた思い・・・・・・そして彼女がカメラに伝えた最後の想いを呼び覚ます。
(私は・・・・・・取り返しがつかないことをしてしまったのだな・・・・・・)
「どうしてほしい? 望みがあるなら聞くぞ?」
自分がした事を思い出し、落ち込むカメラに帝は問う。
(望みか・・・・・・ないと言えば嘘になる・・・・・・まぁ、現世では叶うまい・・・・・・)
帝はカメラのレンズをタマと葛葉いる方へ向かいファインダーを覗く。
「すまないがその叶わない願いは叶いそうだぞ。」
帝はそう言って、タマと葛葉の間に立つ半透明な女性の姿だった。
(どうしてだ?)
何もかもお見通しと言う感じの帝に対し、疑問の声がカメラからあがる。
「彼女がどうしてもお前に会いたいと言ってな・・・・・・旧盆でもあるから、実家に帰省がてら、俺達のとこに来たというわけだ。 ま、あとは二人で話し合え。」
そう言って、帝は依頼主の女性を会場から離れたベンチに座らせ、その隣にカメラを置く。
「・・・・・・・・・・・・」
(・・・・・・・・・・・・)
沈黙が続く。
女性とカメラは一向に喋る気がしない。
帝は煙草を取り出して吸い始め・・・・・・一本・・・・・・二本・・・・・・三本・・・・・・四本と五本目に火を点けたところで沈黙が破られた。
「だぁあああああっー!
むず痒いですっ!」
沈黙を破ったのは葛葉だった。
その声に女性はビクッと身体を強張らせる。
「いい加減にしてください!
あなた、このカメラの事好きだったんでしょう?
あんたもあんたで好きだった女性と再会できたのだから、接吻の一回や二回やってみせなさい! それでも男かっ! 十分、人型になれるだけの力はあるでしょうがっ!
会えないと思っていた者に会えるなんて事、早々ないんですよっ!
私なんか、幼馴染みの様に幼い頃からマスターとずっと一緒で、思春期過ぎたあたりからいつキズモノにしてくれるかと期待して裸エプロンや、マスターの入浴中に旧スク水で誘惑したり、メイド服着てみたりと色々試したのにも関わらず、選ばれたのが大昔に大暴れして、石になったと思ったらこっそり国外逃亡して、また国内に戻ってきた色ボケキツネのアレですよ!」
葛葉が壊れた・・・・・・と言うか、発言内容が痛い・・・・・・痛すぎる。
「誰が色ボケキツネかっ! と言うより、お主・・・・・・我が嫁に会う前にそんな痛い事をしていたのか・・・・・・帝よ、あの童女がそこまでして気を引きたかったのにお主と言う男は・・・・・・」
タマは葛葉のやってきた事を知って、帝に鋭い視線を送る。
「あぁ・・・・・・あれはネタだと思っていた。」
「「ネタでそんな事するかっー!」」
帝の言葉に、葛葉とタマのツッコミが入る。
帝、葛葉、タマの三人に対し、肉体関係はない。
タマに関してはキスはするものの、それ以上の関係にはなっていないのだ。
「そんなんじゃから、いつまでもTENGAから卒業でないのじゃ・・・・・・はっ!まさか、お主、三十過ぎたのでもしやネットで噂の魔法使いになったのか?」
「使ってねーし、なってねーよっ! と言うか、とっくに卒業しとるわっ!」
タマの呆れた言葉に帝のツッコミが入る。
三十歳を過ぎたとはいえ、帝も男である。それなりの女性経験はある。
「ほぉ、卒業とな? 我もあの童女もいまだ処女だと言うのに、お主は一足先に卒業したとな?
詳しく聞かせてもらおうか?」
「待て待て、葛葉はわかるが、お前は違うだろっ!」
帝のツッコミにタマがこう答えた。
「平安の時の事か? あれは幻術でいい夢を見させてやっただけじゃ。 今の時代で言うイメクラみたいなものじゃな。 それと、追い出されたのは確かじゃが、石にされたのは我とは別に宮廷で悪さを働いていた色欲魔の九尾じゃからな。」
「千年以上処女とかもう羊水が腐ってるだろ!」
今更な史実の判明にガックリとうなだれる帝。
「お主はどこぞの歌手みたいなツッコミを入れるな。 羊水が腐るとは、生体構造的にありえんじゃろ。」
「もう好きにしろ・・・・・・で、お前達はポカーンとしてないで、何か話したらどうだ? 時間がもったいないぞ。」
タマと帝のやり取りに、カメラ男と女性が呆然としている様子に帝がそう言った後、さらに言葉を付け足した。
「どんな形であれ、こうして会えたんだ。 素直に喜べ。」
「そうだな・・・・・・私はあなたが最初の主になって嬉しかった・・・・・・だが、私はいつの間にか、あなたの言葉を聞き違え、新たな主の欲望のままになってしまった・・・・・・こんな私でも、また使ってもらえるだろうか?」
カメラ男が女性にそう言うと、彼女は静かにこくんと頷いた。
「それでいいんだな?」
帝の質問にカメラ男は人型になり、こう言う。
「私はいつでもこの人一緒にいたい・・・・・・道具として、カメラとして、何よりも彼女が私を通して写す世界はきれいだ。 その想いを抱いて私は彼女と共に行きたい。」
帝は彼の言葉を聞くと、すでに七本目になっている煙草を携帯灰皿に押し込み、門を開く。
葛葉の壊れっぷり・・・・・・反省はしている、後悔はしていない(笑)