第三伝 妖怪 カメ子~現代妖怪討魔伝~その3
大変遅くなりました。
第3話です。
山を登り、頂上に着くと彼女はデジカメを取り出し、達成感に満ちた顔を自撮りする。
別の日には、緑が多い景色だけを撮る彼女の姿を誰かがフレームに収め、シャッターを切る。
写真、それはそれぞれがそれぞれの想いや思いを形に残す。
そして、時が過ぎ、彼女が持っていたカメラは病室にあった。
「長いようで短い間だったけど、お前と一緒にどこでも行ったね。 いつも楽しい事ばかりを撮っていたね。
型が古くなっても、なんでかしら? お前と一緒にいたね。」
(そうだな・・・・・・)
「だけど、ごめんね。 もう一緒にいられない。 もっと一緒に出かけたかったけど、私はもう動く事ができない。」
(・・・・・・)
「私とは違う子でも、ちゃんとキレイに写してあげてね。
キレイなものを沢山、沢山撮ってあげて。これが私からの最期のお願い。」
彼女はそう言って、一筋の涙を零し、その雫は、彼女の手に持つ、カメラへと落ち、弾けた。
そして、そのカメラは付喪神となった。
付喪神となったカメラは別の主を求め、人から人へと渡り歩き、最後の人の手に渡った時に異変が起きた。
「私は・・・・・・一体・・・・・・」
身体を手にいれたのだ。人から人へと渡っていくにつれ、付喪神となったカメラは主となった人間から少しづつ命を吸い取り、妖力を得て、擬人化する事を覚えたのだ。
そして、最初の持ち主と違い、カメラの最後の主は、とある趣味の人達を執拗に撮り、イベント以外で手に入れたプライベート生活の写真をインターネットにある匿名掲示板に投稿したり、いかがわしいサイトに投稿していたのだ。
「不思議なカメラだ・・・・・・こいつのシャッターを切る度に撮った対象の裸や淫らな姿が写るんだからな。
ふふふ・・・・・・ひひひ・・・・・・俺の気に入ったレイヤー達もこのカメラで撮り、そしてそれを・・・・・・アハハハ・・・・・・」
付喪神となったカメラを手に取り、大事そうに抱えた男は妄想に笑いを耐えれずに声を零す。
だが、男の妄想が現実になる事はなかった。なぜならば、この日の翌日に男は交通事故に巻き込まれて帰らぬ人となった。
そして取り残されたカメラは人の命だけではなく、人の内側にある、執念や憎悪と言った邪な念をも取り込み、最後は男の執拗なまでのその執念を一心に受け、カメラは、いつしか最初の主の言葉を忘れて人の世界へと紛れ込んだ。
振り下ろされた刃を右手で握ると続いて、左手は鋭利な爪に変化し、帝の腹に向かって走らせるが、彼はすぐに太刀から手を放し、避けた。
「たく、あぶねー。」
避けた時に衣装の一部が裂かれたの見ると同時にそう呟く。
「やれやれ、マスターお下がりくださいませ。ここは私が行きます! 付喪神など、私の前では乳飲み子も同然ですからね。」
人である帝では付喪神を相手にできないと踏んだ葛葉が先端に槍の刃が付いた錫杖を顕現させ、彼の一歩先へと前に出る。
「いやいや、童女よ。ここは我に任せてもらおうかの? なに心配いらん、この程度の妖なぞ一撃で終いじゃ。 もともと海だった所がまた海に戻るくらいじゃろうて。」
葛葉の言葉に感化されたタマがぶっそうな事を言って葛葉の隣に立つ。
確かにタマならば一撃で倒せる。 それは葛葉も帝も十分承知している。今の彼女は金毛九尾の狐の妖狐・・・・・・ではなく、神すらも凌駕する力を持っている。
二人共かなりご機嫌ななめであった。 理由は、帝の衣装は二人が丹精込めて彼の為だけに作ったのを引き裂かれたからだ。
単純明快な理由だが、好意を持つ相手が自ら作った衣類を身に纏うのは嬉しい事だ。 それは人と人、妖怪と人も同じである。
「「では競争だ!」」
「はいはい・・・・・・二人共そこまでだ。 これは別件の依頼でもあるんだ。葛葉、お前はひびが入った結界を修復。 タマはここを海に戻さなくていいから、俺の援護だ。」
帝は頭をポリポリと掻きながら二人の前へと歩み出で、カメラ男を睨みつける。
「悪いな・・・・・・躾がなってない、童女とペットでな、俺でも手を焼いてるんだ。
それと・・・・・・仕切り直しにはちょうどいいだろう?」
「「誰が躾がなってないって!!」」
帝の言葉に葛葉とタマが抗議の声を上げるがカメラ男は答える事もなく、握っている刀を投げ捨てた。
「おいおい、もっと大切に扱ってくれよ。 神様が俺の為に拵えた二振りとない一刀限定品の退魔刀だぞ。」
帝はそう言って、五芒陣を描く。
「それと・・・・・・こいつは衣装を引き裂いてくれた釣銭だ! とっときなっ!」
帝はそう言って、五芒陣から無数の多種多様な式神が現れる。
式神、それは術者の意のままに動くもの達なのだが、帝が操っているのはまた別格で規格外の妖怪や精霊、中級の神までも混じっている。
帝自身、自分で使役する式神の数は把握できていない・・・・・・と言うのも、式神はその力を行使する者と契約しなければ力を使えないが、帝自身、彼等と契約した覚えはない。
彼等は彼等の意思で帝を気に入り、自ら力を貸してくれているのだ。
帝にとって彼等は式神ではなく、友であり、家族であり、仲間なのだ。
幼少期からその類稀な力のせいにより、実母とは引き離され、一族からは疎まれ、気持ち悪がれた帝にとっては話しかけてくれた彼等はいつしか大切な存在になった。 それは友であり、家族であり、仲間になった。
彼等もそれは同じだったと言える。人に触れれば害をなしてしまう、人に見られては畏怖の対象とされ、畏敬されてしまう、人と言う存在が好きな彼等は対等に自分と向き合える者を求めた・・・・・・そして出会った。 それが帝だった。
多種多様、古今東西、帝に惹かれ、惹き寄せられた人間が大好きな妖怪、精霊、そして神。 それらの数は百を超え、それらが織り成す気の波動は地獄の鬼ですら滅ぶ。
「さぁ、行くぜ!」
釣銭にしてはその強大な力の波動を躊躇いなく放つ。
「張り切りおってからに・・・・・・あれでは全力全開のスターライトブレイカーではないか。」
「いえいえ、むしろ波動の気を放っているのですから波動砲ではないでしょうか」
タマと葛葉がそんな言葉をよそにし、その波動はカメラ男に迫る。
「ぐあぁぁっーーーー!」
そして、カメラ男は膨大な波動に飲み込まれ、光の中へと消えた。
読んでくださりありがとうございました。