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ゴブリン魂  作者: チャー丸
ルート's side story
296/534

√142話



〜〜〜〜ルート's side story〜〜〜〜


2013年 6月2日 日曜日 AM6:00


目がさめると、手に本があった。


…夢じゃないんだ。


…全て夢ならよかった4ヶ月前から。


…夢の訳ないんだ。


その本が手元にあるという事は、僕は遅くても6/3のAM2時にはいなくなる事を示していた。


…今日が命日か。


…昨日いきなり消える事が決まっても、、、。


『はぁ。』


起き上がり、溜め息と共に座ったまま本を見つめた。


…今日死ぬってわかって消えて行くのと


…何も知らされないでフッと消えるのどちらが幸せなんだろうか?


…異世界だと、ミズや大輝に会えると思って嬉しいと思ったけど、会った後で悔い無く逝けるのかな?


…逝きたくないって女々しくならないだろうか?


なんだろう、、、。


消えるとわかっていると前向きになれない。


みんなの為にと開いたとはいえ、悲しみが全ての感情を凌駕する。


消えるそれはみんなからしたら、存在そのものが消える訳だから悲しまなくてすむ。


だけど、僕からしたら、それは死のそのものでしか無い。


僕は明日から何も、出来ない。


みんなの様子もわからない。


結局存在が消えるのが死と違うのは生きて残る人から見た視点であって、


僕からしたら死ぬのと変わりない。


ただ、1つ簡単なお願いが叶うという以外は。


それも多分僕を死なさないでくださいとかは無理なお願いで、生きている人の為にするお願いになる。


…はぁ。お願いって言われてもな。


…ミズに僕の記憶を残すのも酷だし。


…何を願って開けばいいのだろう?


「大君。お待たせ。」


『安達さん。』


「会いたいと思ってました。」


『今日は非番だけど来てしまったよ。暇だね私もハハハ。では取調室行くかい?でも調書は取れないよ。私はパソコン出来ないからね。』


「お願いします。」


3日連続で安達さんが僕を迎えにきてくれた。


今日は2人で取調室に向かった。


【ガチャ ギー バタン】


「最近毎日大君と、話すのが日課の様だ。大君!面白い話をしてあげようか?」


『なんですか?』


「昨日ね事件が、本当に起きたんだよ。」


『そうですか、、、。』


「あれっ?元気ないね大君。ひょっとして今日いなくなるからかい?」


…えっ?


…なんでそれを?


「ははは。凄い食いつきだね。とりあえずその話は後で話すとして食べようか?恒例の!」


そういうとパンを広げた。


「カレーパンと、焼きそばパンと、刑事と言えばのアンパン!大君!ここ笑う所だからね、。後は私の手作り兄ちゃん焼き!さてどうする?」


…なんか昨日もこれ食べたしな。


…でもこれで色々いい方向に話が進んだし。


『じゃあ昨日と同じで。』


「好きだね大君!私の作ったパンはパン屋さんのパンより美味しいかい!こりゃ愉快!ははは。」


そういい、手で渡され、


昨日と同様、取調室で朝飯となった。


しかも今日は牛乳のおまけ付き。


人が暗い気持ちで落ち込んでいてもグイグイ御構い無しで入ってくる安達さん。


逆に凄いなと思ってしまう。


安達さんは刑事が天職だなと思った。


『安達さん。なんで僕のこと、、、。』


「あー。消える話かい?君の呼び名で言うとマスカット君に聞いたからね。ついさっき。冗談じゃないのかい?」


『はいっ。』


僕は本を机の上に置いた。


「これが、異世界の本かい?見てもいいかな?」


『大丈夫だとは思いますが一応中は開かないでください。次僕がその本を開けた時僕はいなくなるみたいですから。』


「ほぉ。」


そういい、物珍しそうに、本を手に取り見ていた。


『マスカットなんか言ってましたか?』


「あーあの子ね。」


そう言いながら安達さんがスキルの本を机に戻し話を続ける。


「私に無理難題ばかり言うんだよ。全く。私が無茶やるのは署長も知っているとは思うけど、今回ばかりはバレたら首なってしまうよ。」


『何か頼まれたんですか?』


「フフフ。まだ秘密だよ。大君。」


…秘密って、、、。


…僕は今日いなくなるのに、、、。


「それより昨日の事件ね、やはりジャイって人は居たよ、マスカット君もいたね。ただキッドって子はいなかったけどね。ズバリ聞いてやったのさ異世界ってあると思うかい?」


『それでなんて?』


「いやーなんで知ってるのか?って丸い目でこちらをみてたよ。ちょっとしてマスカット君の方が気が付いたけどね。そうかルートかって言ってたね。大君ルートって呼ばれてるんだね。」


『そうですね。異世界では僕はルートって呼ばれてました。』


「あの人達は口が硬くてね。マスカット君!君自殺したの?って聞いても言えませんだし、異世界の話を聞いても言えませんだし、面白くないんだよ。そのくせに朝から私に電話してきてお願いがありますだよ。中学生にいいように使われてるよ大君!」


『ははは。あいつはいいやつですからね。真っ直ぐで。』


「おっ?異世界で私の神様達と仲直りしたのかい?そりゃよかった。昨日も神様達は一生懸命だったよ。無理難題ばかりで冷や冷やしたけどね。あの神様に付き合うとワクワクはするけど心臓がいくつあっても足りないよ。まぁ楽しいのは楽しいけどね。」


安達さんが焼きそばパンを食べ終え、アンパンに手を伸ばしていた。


『安達さんマスカットとのいざこざは、やっぱり思い違いでした。安達さんの言った通りでした。ただ自分のどうにもならない運命を当たっていたのかもしれません。』


「そうだと思ったよ。客観的に見ても君達はよく似てるからね」


そう言うとカレーパンを差し出してきた。


「大君も私の神様達もみんないい子ばかりだ。1人いい大人が子供に交じって遊んでる人もいるがね。これも食べるかい?とりあえず私の言った事が役に立ったみたいでよかった。」


『ありがとうございます。頂きます。』


そう言ってカレーパンも貰って食べ始めた。


『安達さん。もし今日死ぬってわかっていたら、何をしますか?』


「私かい?そうだね。多分妻に謝るのと、感謝な言葉だろうね。私がこんな性格だからね。家に帰らず捜査や取調べやらで仕事仕事の日々だったからね。でもそういう家庭だってよくあるじゃないか?だからそんなの普通だと思っていたんだよ。妻は理解してくれているとそう思っていたのさ。」


そういうと安達さんはタバコを出して火をつけた。


「1本悪いね。それも結局昨日大君に話した思い違いだった。妻はずっと寂しい思いを顔に出さず、ある時耐え切れず犬を買って来たんだ。それは大きな犬だった。かわいい犬だった。私は子供が出来なかったから、妻が子供の代わりに買ったんだな。と思っていた。でも違ったんだ大君。犬は私の代わりだったんだ。いつ死ぬかもわからないこの仕事でいつも電話もしないで出張!泊まり!こないだの大君が逮捕された時みたいに、外泊なんてしょっ中だったんだよ。」


上を見上げて灰を落とす安達さんの顔から後悔の念が伺えた。


「ある日、妻が飼ってる犬が死んだんだ。その時すぐそばにいてあげればよかったんだが、妻はおかしくなった。私が死んだと勘違いして、犬に私の名前を呼び叫んでいたらしい。その叫び声に、110通報され、警察官の判断で妻は病院に運ばれて行った。私が事件を切り上げて病院に着いた時は翌日だった。病院で再会した妻は私を見てなんと言ったと思う?」


『なんて言ったんですか?』


「先生!私の旦那が死んでしまいました。そう言ったんだ。私が目の前にいるのに、、。私がしっかりしていないから旦那が死んでしまいました。申し訳ありませんと。私が旦那だとも気が付かずにそう言って泣いていたよ。その時私が妻をこんな風にしてしまった事に気がついた。何が1番大事か結婚して何10年経ってその時気がつかされたんだ。私も刑事はもう辞めようとその時考えはしたけどね、病院の神取誠一郎先生がいい先生でね。あの人のおかげで妻は立ち直っていったんだよ。私も必ず毎日会いに行った。それからは電話も欠かさず入れるように変えた。1人で頑張ってると思っていた人生は、決して1人で生きていた訳では無いと気がつかされたんだ。だから私は今日もし、死ぬとなれば、妻に感謝の気持ちと今まですまなかった思いを伝えるかな?大君だっているんでしょ?大事な人が。」


『はい。もちろんです。でも、今日死ぬって、消えるってわかっていて、何を伝えればいいか、、、。何を、、。』


「今日消えるっていうのが本当なら、尚更、包み隠さず自分の気持ちを伝えないとね。異世界でも腹わって話したんじゃないのかい?今度はそれを大事な人にやる番じゃないのかな?」


…伝えなきゃいけない事か?


…伝えなきゃいけない事だらけだ。


…30分で足りるかな?


『安達さんありがとうございます。せいいっぱいやって見ます。』


「そうかい。でもよかったね、今日面会にしといて。でもね大君本当なら日曜日は面会出来ない日だからね。面会の回数とかも決まってて結構厳しいんだよこれが。」


『そうなんですか?すいません。』


「いやいや、それはこちらも色々聞きたい事は聞けたから。約束だしね。じゃあ今日はここまで。美味しかったかい?」


『すいません安達さん!紙とペンありませんか?』


「あるけど渡せないんだ。」


『わかりました。面会まで時間があるから必死に考えます。』


「全部が全部力になれなくて悪いね。じゃあ大君15時に迎えに来るから、後、これ貸しといてあげるから。」


『ハンカチ?ですか?』


「必ず必要になるから。」


『はぁ。じゃあ借りときます。』


そうして、1時間の話は終了して、僕は自分の鉄格子の中へ帰らされた。


そして、どう伝えるか。


何を伝えるか色々考えていた。


考えると必然的に思い出の引き出しをたくさん開ける事になる。


初めてあんた、リリック書いてみてよとミズに言われた時や、


子供が出来て大きなイベントをキャンセルして泣いたミズの悔しそうな顔。


どっちか選べなきゃいけないなら家族だよと僕の前で我慢して普通の顔で言っていた癖に近くの公園で泣いていたミズ。


優しい人だった。


男に交じっても負けない男勝りなラップをしていたけど、


僕には優しい人だった。


意外にかわいいとこで顔を赤くしたりして、


お揃いの歯ブラシとか好きで、


『あれっ、、、。まだ何伝えるか何も考えてないのに、、、あれっ、、、おかしいな、、、。』


勝手に流れる涙が止まらなかった。


泣こうとした訳で無く、


楽しい思い出を思い出していただけなのに、


楽しい思い出ほど反比例して涙が溢れた。


『ミズ。逢いたいよ、、、。』


『君に逢いたい、、、。』


僕は何を伝えるか何も決まらないうちから、安達さんから借りたハンカチをもう使う事になっていた。







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