116話
『ユッティ!どうだ?美味いか?』
「美味しいけど、出来立てがいいよね。しかも落ちてダイブしたパンって、、、。」
『ははは。でも食わない訳にはいかねーよ!。この兄ちゃん焼きがまたみんなとの心を繋いでくれたからさ。』
「確かにそうだけど、、、。」
『なぁ、オレの心を開く為にこんな馬鹿な作戦を考えてたのはユッティか?』
キッドがパンを咥えた状態で話していた。
その横顔はキッドの家で一緒にご飯を食べたあのヤンチャなキッドそのままだった。
…戻ってる!
「私じゃないよ。ジャイの立案、単独実行だよね。」
「お待たせしました!落ちてない兄ちゃん焼き4枚焼きたてです。」
…ジャイ!
『ジャイ!随分早かったな。』
「パンを焼きながら水道で頭洗って来たぜ。コンスープも滴るいい男だな。」
『どんな男だ?そりゃ?でもジャイ!マジ世話になった。』
「礼なら異世界で聞いてる。しかも礼を言われるような事はしてない。ダチとして当然の事をしただけだ。」
『オレもジャイの兄ちゃん達のいざこざが終わった時、そういえば同じ事を言ったような気がする。でもその時はジャイもありがとうって言ってたぜ。』
「そうだったか?」
『あぁ!ダチだから、とかじゃねぇ、ありがとうと思って感謝したら親しいやつだろうが、そうじゃなかろうが、それは関係無い。これはオレの心がその人にそれを伝えたがっているんだ!だからジャイありがとう!』
「馬鹿だな!人間界で面と向かって恥ずかしいんだよ!とりあえず食おうぜ?」
3人で追加分の兄ちゃん焼きを食べた
。
『オレ、後4人ジャイとユッティの他に感謝の気持ちを伝えないといけない人がいる!後2人には謝らないといけない。』
「謝る2人はお母さんと、遥お姉さんでしょ?4人って事は光、響、シオンヌかな?あれっ?後1人は?」
『マスカットだ!あいつには多大な世話になった。神様みたいなやつだ。オレが1番辛い時にフッと現れ、なんか癒されるゆるキャラみたいなやつだから、あいつが誰か人間から転生してきてるとは思ってないけど、もししてるやつがいるなら、あれだけ人の話を聞く事が聞き上手なやつだから、牧師にでもなるのが天職だろうな。ユッティはわからないだろうけど、あいつとオレは会話をした事は無いんだ。あいつの言葉はオレに通じない、、。初めは話がしたかった。だからマスカットにスキルで、会話が出来るように強要したんだ。そしたらキレられた。今思えばマスカットの意思の通り、話せなくてもその分、心でガッシリ繋がった。わかってそうしたかどうかはわかんねーけどな!でも、逆にそれがよかった。ただ色々話を聞いてくれたそれだけなのに、あいつから何1つ言葉を貰ってないこっちから投げた一方通行なのに、オレは大分軽くなったんだ。だから今度機会があればオレはマスカットに伝えたい!おまえは話を聞いてくれるだけで、救われた人間がいる!おまえは聞き手のマイスターだから、絶対それで人を救えるはずだって、、、。』
…そうかぁ。
…そんな事想ってくれてたんだ。
…牧師さんかぁ。
…女の私はシスターになるのかな?
…そんな未来か?
…私に合ってるのかな?
…未来の選択肢の一つに入れとこう。
「きっと、マスカットにそれを伝えてあげると喜ぶと私は思うよ。」
「オレもそう思うぜ。」
『あぁ!必ずあいつが卒業するまでには伝えるよ。ジャイ!ユッティ!スキル本終了まで後3年半だ!またよろしくな!』
「私にまかせておけば余裕でしょ?」
「キッド!ユッティがでっかく出たぞ。」
『いんじゃねーか?ユッティらしくて。ユッティその自信満々のとこ、どことなくマスカットに似てるわ!』
「ふーーん。それはさぞ私に似てカワイイ青魔族なんでしょうね?」
「筋肉マッチョみたいなやつだよな?」
『そうだな!オレあいつにお姫様抱っこされたからな!ちょっと女が力強い男に惚れる気持ちがわかったな。』
「私そんな、男っぽくないでしょー?」
『「はははははは。」』
こうして、今日やっと脱線しかけたルートから全員が無事本線に戻って来た。
おかえりなさいキッドだね。
これでまた戦える!
運命を変えに行く長い旅に3人で。
キッドから前聞いた話だと次はレイ、ケンスケのはずだから、当分先のはずだった。
しかし、運命は忙しなく私達に、試練を与えてくる。
キッドが元気になっていくなか、それに反比例して少しずつ元気を、削られている人が身近にいる事を私達はまだ知らないでいる。
まるで歯車のように。
キッドの、元気はその人から吸っているかの様に。




