110.1話
キッドがいる池に着いた。
石を投げ、座りまるで昨日の私を見ているようだった。
「キュー!」
「(キッド!)」
その言葉にキッドが気が付き、駆け寄り抱きしめられた。
『わりぃ。殺すつもりでダンジョンに入らせた訳じゃないんだ。東西南北のダンジョンは特別だから、ちょっと見て来て欲しかっただけなのに、オレはみんなに殺され続け、どれだけ苦しかったか、、。それと同じ事をマスカットおまえにさせちまった。マジごめん!!ごめんな。』
「キューキュキュッ!!」
「(大丈夫だよ!!)」
…キッドに恋愛感情が無くても、
…なんなんだろ?触れて貰う度に生きてる実感をする。
…暖か過ぎて麻薬のように次が欲しくなるよ。
…ああ、私は一生こうして欲しいんだ。きっと。
…楽しい事だけがある訳じゃない異世界で、キッドといれば99%は楽しく思えるよ。
しばしの 抱擁の後、落ち着きを取り戻しお互いその場に座った。
『なぁ、おまえ昨日あのダンジョンで、ハニワと土偶と戦って死んだのか?』
…そっか、、。
…手紙みてくれたんだ。
…ならここはビックリしたリアクションしないといけないよね。
私はなんで知ってるのみたいな顔をした。
『青神様から手紙が来たんだ。後赤魔族もいるらしいぜ、ゴブリンの。』
そう言われ私はさっき会った方を指差した。
『なんだよマスカットおまえゴブリンに会ったのか?』
私は頷いた。
そう言うとキッドが自分のカバンから何やら本を出して来た。
…来た。
…遅かれ早かれ必ず来ると思ってはいたけど。
『マスカット、これオレはもうスキル覚えられないんだ。おまえが覚えてくんないか?会話が出来ないと不便だろ?前持ってたけど、ずっとジャイに渡したままだったから、今日買って持って来たんだ。ほらっ!』
そう言うと会話が出来るスキルの本を差し出して来た。
…やっぱり来たかぁ。
…会話が出来ないと不便だもんね。
…でも、、、。
…私は出来ないんだよ、、。
私はそのスキルの本をギュッと押し返した。
『なんでだよ?お互い不便だろ?』
キッドはまたその本を私に突き出してきた。
…だからダメなんだって、、、。
しつこく押しつけてくるキッドに私は本を受け取り後ろに放り投げた。
『マスカット何も投げる事ないだろ?』
そう言ってキッドが立ち上がり拾いに行く。
…だって話せないんだもん。
…しょうがないじゃん。
…話出来るなら私だってしたいよ。
…馬鹿、、、。
『マスカット、、、。』
私はプイと左を向いた。
『わかったって、覚えたくねーなら、それならそれで構わない。』
そういいながら、私の隣に座った。
『でもな、おまえが言いたいことがあっても全部理解してやる自信がねーんだ。それでもいいのか?』
…いいよ。
…言葉なんか無くても。
…きっとなんとかなる。
私は頷き、隣に座るキッドの頭を私に抱き寄せ頭をナデナデした。
『はははは。オレが小学校でラビ達によくやった事を逆にオレがやられるとはな。あん時はよく撫でたもんだな。なぁ、マスカット青神様がまたみんなを信じてみたらどうだって言うんだ。オレ今病院にいてさ、仲間に嫌な目に合う夢をひたすら見続けたんだ、、、。穴に落とされ火で燃やされ、追い回され、刺されて、初日にも話したよなこんな話。つまんないよな、、。愚痴ばかり言う男なんて、、、。』
…そんな事無い。
…そんな事ないよ。キッド。
私は抱いてる頭を離しそんな事無いって首を横に振った。
そしてまた頭を抱えナデナデし続けながらキッドが話を続けた。
『いつも、いつも、頑張ると逆の目に合うオレの人生はもうダメだと思う時、必ず誰かがオレを支えに来てくれている。オレが昔の彼女の為にトラウマを持った時はジュン、マイミ、レイ、ケンスケってやつらに特に相当世話になった。
そして、オレが進む道を迷って悩んだ時は鈴木さんが、道を示してくれた。遥って姉ちゃんがいるんだけど、オレのせいで、片足が今でも杖が無いと歩くのが困難になった。
そんな絶望でオレは気が狂いそうになった時も、鈴木さんが全力で支えてくれた。
その鈴木さんを裏切らなきゃいけなくなる時があり、オレはそれまで生きて来て1番の絶望を味わった。死ねばいいと思った。オレなんか、周りに不幸ばかり撒き散らす人間なんか、、、。』
…キッド肩が震えてるよ、、。
…何時間でも聞いてあげる。
…大丈夫だよ、、。
私は震える肩をしっかり引き寄せ頭を撫で続けた。
『その時は緑神様に救われ、ジャイっていうプレイヤーと異世界を冒険する事で全快していったんだ。
そして、あれより、酷い事はもう無いだろって思っていたら仲間に殺され続けるっていう地獄のような夢の日が続いた。オレは目を覚ましたが覚ましても精神的におかしくなっていた。そんな時でもオレの為にウサギを持って駆けつける友達や、異世界ではおまえが駆けつけてくれたマスカット!人間に関わりたくないって時に魔族のマスカットがまさかラビみたいな格好して。おまえがいなきゃオレは狩りなんてしなかったと思う。おまえがいてくれたから、狩る事で、今少しずつ軽くなってきてる。いつもいつもみんなオレが倒れそうな時にオレを支えにやって来てくれる。オレはそれを絶対忘れちゃいけないというのも異世界では理解出来てる。惨殺されたのがもう夢だったのも理解しつつあるんだ。後少しなんだ、、。人間界だとその強烈な記憶に頭が夢の出来事とわかっていても体が拒否反応起こしちまう。オレもオレ自身に戻りたい。あの頃のオレ自身に。昨日マスカットと狩って帰った人間界は少し気持ちが軽くなっていた気がしたから。』
…大丈夫すぐによくなる!
…私が治す!
…その為に来たんだもん。
…あっー!この想いと事実を伝えたいなぁ
…いつか必ず伝わる。
…とりあえず今は狩りしか無い!
私は立ち上がり、森を指差した。
『そうだな行くか?とりあえず今日は狩って狩って狩りまくろうぜ。レベルが上がれば、マスカットもきっとあのダンジョンを簡単にクリア出来るはずだ。』
立ち上がり地図を開いた。
2人で地図を見た。
幸いにも近場50体クラスの赤い狩場にプレイヤーの形跡が無い。
同じ場所を指差した。
『やっぱおまえ最高だわ。言葉なんかいらないな。』
そう言うとキッドが私の顔に手を伸ばす。
…???
『マスカット、、。おまえここ触られると嬉しいんだろう?でもおまえ身長高いから触り辛いな。』
…いやーめっちゃ気持ちいい。
キッドが頰をさすったりゴロゴロしてくれる。
…これは私がいたずらに神様を語り追加したせいだ。
…ホントにやってくれたなんて、うれしいけどバチが当たりそうで怖いな。
…緑さんのおかげもあるかな?
…ちゃんと中華料理伝えようジャイに。
気持ち良さそうな顔をしていると、そこの隣にいるキッドの顔は髪色や歳も病院にいるキッドと全然違うけど、バルコニーでウサギに戯れていたあの笑顔に戻っていた。
私も動物型モンスターだから触られるとゾクゾクするくらい気持ちよかった。
それこそ15分の恋人のあのキスに匹敵するくらい。
猫が目を細める気持ちがわかる。
…ダメだ!こんな事をしに来たんじゃない、、、。
…無いけど、、、。
…気持ちいいし、後30秒だけ、、、。
ゴロゴロされて私の心は元気100倍!
さっきプレイヤーに会い対峙して、 殺るか 殺れるかの雰囲気にちょっと気持ちが落ちた私 はどこにやら。
「キュー!」
「(行こう!)」
そう言うと、元気100倍の私は充電満タンで走り出す。
『行き先わかんねーだろ?ったく底抜けに明るい奴だなマスカットは、。しょうがねーなー。』
キッドが私の後を追ってきてくれている。
2人で狩りをしたりする事は
2人でショッピングモールでデートする100倍楽しかった。
ただ異世界ではキッドは成年のプレイヤー。
だから見た目も歳上。
元々高校生から小学生になり、同い年になってるから人間界では違和感がないけど、異世界では年齢差を少し感じるようになった。
中身は同じなのに異世界だけ歳上に恋してる不思議な感覚になる。
それはそれで新鮮で、
何もかもが新鮮で、
今生きている事が新鮮で、
ただただ楽しいと思えた。
多分狩場に向かう2人は最高の笑顔で走っていたと思えた。
しかし、この時比較的村に近い狩場に向かう中、キッドのマップで魔族しか入れないダンジョンに×がついている事にこの2人は気がつかないでいた。
誰かが、あのダンジョンに入った証の×の印に。




