110話 異世界3日目
2013年 5月14日 火曜日 AM2:00
異世界3日目
他の青魔族が転生されて来るまで、後18日
…んっ?
…そっかぁ!私昨日死んじゃったから魔族の洞窟の前なんだ。
…昨日病院で、キッド会いたいって言ってたなぁ。
…大丈夫かなって心配もしてたっけ?
…じゃあ行かなきゃ!
…私が元気な事を知らせに行かなきゃ。
…ここからあの池までだとキッドの方が早いかな?
私は隣に落ちてる私のお気に入り武器を肩に背負い、あの池へ向かう為に南下を始めた。
こうやって、走っていると、昔の人は携帯もなく待ち合わせして、どれだけ待ちぼうけをしたのかと、その気持ちがよくわかる。
平成生まれな私にはそのすぐ連絡取れないのがもどかしいのもあったけど、
半分新鮮でもあった。
待たせたら悪いなって気持ちが私の走る足を加速させる。
魔族村と呼ばれてる入り口を通過し、更に南下すべく、走る!
1分1秒無駄にしたくない!
狩りをしたい?
違う!
話をしたい?
違う!
ただ1秒でも早く会いたい!
私の想いとキッドの想いがお互いに交わるのはこの先4年のうちこの異世界だけ!
この30日が終われば私は4年友達以上になる事は無い。
でもこの30日はキッドがスキンシップして笑顔で私を抱きしめてくれる!
私の手を引いて歩いてくれる!
私を1番に必要に想ってくれている。
そこに恋愛感情は無いのも分かってる。
それでもキッドは異世界のマスカットを多分友達以上に想ってくれてる。
キッドを救いながら私はこの後必ず来る鈴木さんとキッドが交わる瞬間に備えて、今思い出を人間界の防御力に変える為にひたすら思い出を貯蓄してる最中。
鈴木さんとはキスしたって言ってたっけ?
何回キスしたんだろう?
何回愛してるとお互いに語り合い、目を合わせたんだろう。
異世界で優しくされる恋の麻薬が、増えれば、増えるほど、
人間界でそんな鈴木さんとの嫉妬が増す。
そして、その不安を消す為に異世界ではもっと大事にされたいから頑張る。
そしてまた明日にはもっとキッドを好きになる。
笑顔と言葉で私が癒されて、私は行動でそれをキッドに返す。
それをしてもキッドは私に恋愛感情を持つ事は無い。
やればやるだけ、私だけが重石の様に毎日好きを貯金してるそんな悪循環の連鎖。
それでも、いつかもし、私ユッティがマスカットとして転生してる事をキッドが知った時、その事で感謝とかされたら、私は彼女だった、鈴木さんと4年後、マスカットとユッティの2つの思い出で戦うんだ。
1人の男を2人で共有出来るほど私は器用じゃ無い。
友達の私と、元彼女の鈴木さんが、2人で倒れてるとして、薬が1つしか無い状況で、2人共想いの強さが同じなら、何で相手を選ぶのかな?
それは楽しかった思い出じゃないかなと私は思った。
キッドと鈴木さんが何回もキスをしていたとしたらその思い出は強烈で、
私はそれに対抗出来る物はあの時の15分のキスと異世界で楽しみながら、共有した時間と、過去を改変する為に協力する為の4年の時間!
私の武器はそれしかいない!
私の1年の思い出はキッドと鈴木さんのキス1回に負けてしまうんじゃないかと思う事もよくあった。
それでも私は元々キッドが助けてくれていなければ死んでいた人間!
人生ロスタイムならば、みんなを助けながら私の人生を変えるように死ぬ気で頑張ってみるのもいいんじゃないかな?私は異世界に来てそう思うようになった。
だって私は死ぬ事すら覚悟で薬を飲んでここに来たのだから、、、、。
…遠いよ。
魔族村を超えて、いつも待ち合わせの池まで半分の距離を来た時
…ん!?
…あれ?プレイヤー?
前から4人のプレイヤーが走って来る!
…マジ?どうしよう?
…ついてないなぁ。昨日から。
…隠れても、もうバレてるし、やるしか無いのかな?
私は走って来た道の左端で止まり、止むを得ず背負っていた武器を構えた。
向こうも立ち止まり、こちらに気がついた。
…私、プレイヤーと戦うの?
異世界とはいえ、人間の形をしたプレイヤーを斬るかもしれないと考えた時に必ずやってくる、迷いの感情。
迷っていると4人のプレイヤーの後ろからゴブリンがやってくる!
…あいつ赤魔族のゴブリン!
…プレイヤーと連んでいたの?
…って事は会話も出来ているの?
4人のプレイヤーが、それぞれ武器を抜く!
…キッド今日は会えないかもしれない。
数字で書けば縦約8キロ横約8キロの正方形のような結構広い異世界で、
それでもかちあってしまったお互い人間の感情を持った敵同士!
今はお互い誰だかわからないのに武器を持ちにらめ合う。
私も元は人間。
向こうも人間。
見ず知らずの者が理由も無く、戦う世界。
痛覚は1/3とはいえやられれば痛いし、痛みを与えるのも気がひける。
…私はまだ青神様にかなり強い状態で転生されてるからまだマシだけど、
…キッドに聞いた初期レベルで転生して来た青魔族って凄い恐怖かもしれない、、、。
…逃げ回り怯えるしかないんだ、、。
…青魔族ってかわいそうだなぁ。
4人のプレイヤーが、後ろに、ゴブリンを囲い守りながらお互いに武器で牽制し合いつつ、私は左端を向こうは右端を1歩ずつ距離を詰める。
向こうのプレイヤーは魔族村の方に行きたい感じだった。
お互い牽制しながら距離が3m、2m、1mと近づき、牽制したまますれ違った。
すれ違った途端プレイヤー達が魔族村にこちらを背にして走り出す。
全員が走って行く中、最後に走っていたゴブリンだけが止まり振り返った。
『マスカット!ははは、はははは。』
そういうとゴブリンも4人を追って走って行った。
…なんで、、、?
…なんであいつ私がマスカットだって知ってんの?
…なんで?
私は、異世界が楽しいだけじゃない事を初めてしった。
それは土偶やハニワに殺された事じゃない!
精神的に人間に対峙した時に初めて知った感覚だ。
キッドの村に行った時もプレイヤーには会っていたが、
あの時は私に敵意は無かった。
でも今回は違う!
相手が向かって来たら相手に私も死んでも向かって行くつもりだった。
私は引かない女の子だから、、、。
逃げられない今日のような状況で背中から斬られるくらいなら、1人くらいと思ったけど、とりあえず無事にこの場はおさまった。
「キュー、、キュキュキュッーー。」
「(はぁ、、、本当疲れた、、、。)」
「キュキュッキュキュー。」
「(わからない事だらけだよ。)」
…とりあえず行こう。
…キッドが待ちぼうけしてるはず、、。
…行こう、、、。
…今日はまだ生きてる。
…今日もまだ生きてる。
私は肩にアックスハンマーを背負いまた走り出した。
キッドの元へ。
全速力で向かった。
私が初めに池で待ってないと、こういう事が普通に起こるんだと実感した3日目が始まったばかりの異世界だった。




