108話 (4/8挿絵追加)
市民ホールみたいなとこにモングラン号が無事到着した。
側からみたら、私とジャイはどんな感じに見えているんだろうか?
ジャイが茶髪だから、若いお父さんに見えてたりするんだろうか?
周りに正装した服で来た親子を見るとそう思ってしまう。
前を歩く親子の子供の方の女の人と目が合った
…あの女の人凄い綺麗。
…何歳かな?
…めっちゃ化粧して年齢がわかんない!
…そういう感じで来なきゃいけない場所だったの?
「どう?今日は?」
「今日も大丈夫だよ。お母さん。私には美衣がついてる。」
「そう?じゃあ期待していいかしらね。」
「うん大丈夫。私なら出来る。」
前を歩く親子が真剣に話す会話が聞こえて来た。
「ジャイ私私服だけど大丈夫かな?」
「大丈夫だろ?多分私服の人も中に行けばたくさんいるはず、そんな堅苦しい感じじゃないと思うぜ。気にせず行こう。」
私は普通に私服で来て大丈夫かな?と前の女の人を見てそう思いながら建物に入った。
入ったら意外にもあそこまで化粧したりしてる人の方が1人も居なくて、ちょっとホッと肩を撫で下ろした。
看板に2013全国中、高ピアノ選抜関東の部の看板が掲げられている。
まだ演奏まで時間があるけど、いい席が無くなったら困るとジャイが早めに会場入りした。
全席埋まるほどではないがかなり人は入っていた。
…月曜日でもこんなに集まるんだ凄いね。
そう思いながら貰った、パンフレットを右手に持ち、1000人くらいのホールの階段をジャイが先頭で下っていった。
「ここら辺でどうだ?」
ジャイが選んだ場所は真ん中よりチョイ前の左右から見ても真ん中の席。
ここからなら舞台の端から端までちょうど顔を動かさなくても視界に入るそんな席だった。
「よくわかんないからここでいんじゃない?」
そして、席に座った。
…このくらいのホールのライブも昔行ったなぁ。
…前に立った事ないけど立ったら緊張するもんなのかな?
そんな事を思いながらパンフレットを開いた。
「ねぇ。小林先生の親戚の人ってどの人?」
「うーんとな。あっ!多分この人だな。」
ジャイが指を指した人は最後に演奏する霞 舞衣って人だった。
…ふーん。霞 舞衣さんね。
…最後なんだ。
そして、時間が過ぎ、1人目から制限時間内に、課題曲と選択曲1曲ずつの演奏が始まった。
私にとっては凄い新鮮だった。こう聞いて欲しいってのが課題曲は同じ曲なのに1人1人全然違う!
そしてその1人1人がその課題曲の弾き方とよく合った選択曲を次の曲に選択してくる。
ジャイは隣で飽き気味のような気がしたが、私だけが引きこまれ聞き入っていった。
【パチパチパチパチ】
そして14人目の演奏が拍手と共に終わる。
「流石に長いなやっと小林先生の親戚さんか?」
「ジャイ寝てなかった?失礼でしょ!」
「周り見てみろよ。結構寝てるやついるぞ。1人10分の演奏が15人だぜ。ざっと計算して今まで何時間ここにいると思う?そりゃ、あーなるだろ?」
向こうで寝てるおじさんを指さしてそう言った。
そんなこんなで話をしていると15人目の演奏者さんが入って来た。
【パチパチパチパチ】
「ジャイ来たよ!」
眠たそうなジャイを揺すり入ってきた霞舞衣さんを見た。
…この人朝入り口で、うちらの前にいた人じゃん!
…演奏する人だったんだ。
…どうりで、メイクして、綺麗だったんだ。
そして拍手が鳴り止み、席に着いた。
…どんな演奏するのかな?
…課題曲は優しい曲だけど。
そう思っていた私達観客の常識を覆すように、鍵盤を叩きつけるように演奏が始まった。
その1撃に寝てるおじさんは起き、もう帰ろうとしてる人は振り返り、一瞬にして、全員が、この演奏者さんに、釘付けになるのがわかった。
その1撃目の入りに【聞いて私の音を!】ってメッセージを強烈に感じた。
多分それは私だけでなく、この会場にいる全員にそれは届いていた。
寝てた人は起き、
携帯を見ていたお兄さんは誰だこのひとみたいな感じでメガネを触り、
立ってホールから出ようとしていた人すらそこから近い席に座らせる。
そのピアノの入りの1撃でみんなの心を鷲掴みにし、霞舞衣さんの演奏が始まった。
入りこそ激しい感じだったが、その後は優しいその人の心の演奏が会場に響き渡る。
音符、メロディ、が色付き、音色に優しく抱きしめられている感じ。
これ形は違うけど、DL99のライブに感じたみんなが一体化する雰囲気に似てる。
…凄い!ピアノ1つで、この雰囲気が出せるんだ。
「こいつぁ、凄いな。」
さっきまで、どうでもいいやみたいに聞いていたジャイが身を乗り出し聞いている。
…やっぱりわかるんだ!この違いが!
…DL99もそうだし、キッドが言ってたジュンって人の演説も一言で人の心を掴むって言ってたなぁ。
…きっとこの人も人を魅了させる力を持つそっち側の人で絶対間違いないかも。
そして、課題曲が終わり選択曲が始まりみんなその音色に抱きしめられた感覚に酔いしれながら、曲に酔っていると、抱きしめられた音符、楽譜、暖かい感じが私からスッと離れていく感じがわかる。
一瞬顔はこっちを見てないけど目線だけが私と目が合った気がした。
…どうしたの?
…演奏が、演奏の仕方が変わったんだ。
終了まで1分を切ってるのに、
さっきの曲と同じ曲とは思えない演奏に変わっていた。
決して下手じゃない。
普通の、人ならわからないかもしれない!
だが私には気がついた。
曲に本当の私はこっち!そんなメッセージみたいな物を感じた。
弾き手思いが行動になり
↓
それが鍵盤を叩く強さに変わり
↓
思いの強さが音色に変わり、ときはなたれ
↓
私達はその思いの音色と言う水を浴びて
↓
私達の心で弾き手の感情という花を咲かす。
それでも届く人しか花は咲かないし、花は咲くかもしれないけど、感じ方の受け取り方で咲く花の種類は違う。
私に届いたその音色はそういう感じ方の花を咲かした。
優しい曲のはずが終わりの1分はちょっと激し目で終わった。
それでも拍手が鳴り止まなかった。
普通の人ならクライマックスに向けて盛り上げながら終わった演出と思っただろう。
ジャイも私も拍手を、していたがジャイも彼女の演奏の違いに気がついた様だった。
「かなり曲の中に自分との葛藤があった様なそんな感じだな。」
「ジャイも、気がついたんだ。前の演奏も完璧な感じだけど、最後も嫌いじゃなかった。演奏弾き始めの時と、終わりの雰囲気が似てたね。弾き始めは一瞬だからよくわからなかったけど、最後あれだけ聞けばよくわかった。あの人に会えないかな?私が聞いた率直な思いを伝えたいな。」
そして、そのまま座って待っていると、結果発表が待っていた。
もちろんダントツで、優勝をさらっていった。
その人は霞 舞衣さん。
「なかなか面白かったな。ピアノも馬鹿にしたもんじゃないな。あれだけ伝わればもう技術を超えた何かを感じる。」
そういいジャイが立ち上がった。
「そうだね。まぁ私の知らない世界だったけど来てよかった。まさかピアノの演奏で音楽に酔える瞬間が来るとは思わなかった。いい経験したよ。」
そういいながら私も立ち上がった。
周りを見渡すと、もう私達が最後の観客だった。
ゆっくり座っていたせいかもしれない。
私達はホールを出るため緩い階段を登って行った。
扉を開けて出た先に、優勝したあの女の人がいた。
私より間違いなく年上の。
「なんで、あんな演奏したの?初めて自分の名前でエントリーしたから?」
「ごめんなさい。」
「あなた前から言ってると思うけど私の前での名前忘れてないわよね?」
「わかってます。」
「だったらいいわ。優勝出来たからいいけど、次からあんな弾き方絶対しないで!じゃあお母さん車取って来るから。」
「はい。」
優勝した女の人は怒られ下をうつむきながら、優勝した盾を持って立っていた。
「ねぇ。ジャイ!私あの人と話をして来ていい?」
「構わないが、オレはここで待ってていいか?」
「うん。待ってて。」
そう言うと女の人の前に走っていった。
「こんにちわ。霞 舞衣さん?」
「そうですけど。」
「私初めてピアノ聞きにきてあなたのピアノ聞いて感動しました。」
「あっ、ありがとう。」
全然嬉しそうじゃない感じだった。
「私、初めの弾き方も好きですが、終わる1分前からの弾き方もよかったと思います。気持ち感情が伝わって来ました。」
「本当??本当に本当?」
さっきまでの対応が嘘みたいだ。
「私を見てって音色が言ってましたよね。違いました?」
「言ってた、、。それを伝えたくて弾いたの。でもやっぱり怒られちゃった。誰にも私の音は届いてないと思ってた。よかった冒険してみて、コンテストに出てよかった私の名前で。」
そう言うと涙を流し始めた。
「優勝って事は次は全国大会ですよね?またチケット貰って、必ず見に行きます。」
「是非見に来て。あなたに聞いて欲しい私のピアノを。でももう今日みたいには弾けないと思う。やると怒られるし、勝てないと思うから。」
「じゃあ今度舞衣さんが弾きたい様に弾いたピアノを私に聞かせてください。」
「聞いて是非聞いて欲しい。あっ!お母さん来ちゃった。ありがとう今日はあなたに会えてよかった。あなた名前は?」
「竹内 唯 ユッティです。」
「私は、、、。今日あなたには舞衣でいいかな?舞衣って呼んで。またどこかで会えたら、お話しよう。」
「ハイ!舞衣さん。また。次の全国大会も頑張ってください。応援行きます!」
お互い手を振りながら別れた。
ジャイが私の所に歩いて来た。
「ジャイ!私優勝した舞衣さんと仲良くなれたし、私の感じた音をそのまま伝えたらすっごい喜んでくれた。」
「そうか?もし連絡取りたくなったら、小林先生に頼めば連絡取れるぞ。」
「今は多分全国大会で忙しいと思うからいいや。また落ち着いたら小林先生に聞いて連絡してみようかな?」
「そうだな。そうしたらいんじゃないか?」
「ジャイ!次の全国大会はいつか小林先生に聞いて、もしキッドが良くなってたら一緒に応援に行こう!」
「わかった。じゃあ日にち聞いとくな。」
「お願いね。後お願いついでにどっか文房具屋さんあったら帰り寄って。」
「わかった。じゃあ帰るか?」
そう言い、市民ホールを後にした。




