105話
自分の病室からキッドと、楽しそうに笑うみんなを、見ていた。
…いいな。私もあの仲間に入りたい。
…キッドもジャイも私も入れてみんなと遊びたいなぁ。
…今の私は上から見てるだけしか出来ない無力な女の子、、。
両腕にラビを乗せて微笑むそのキッドの姿は、遠目ではあるけど、昔のキッドに見えた。
そして、1時間半くらいみんなと話し、キッドが、緑さんに押されて、病院に戻って行った。
PM2:10
ジャイがまず私の部屋を訪ねてきた。
「ちょっとユッティ!携帯無いと困るから返せよ。」
「絶対無理!留守電消したら返すからここに充電器持って来てよ。」
「わかった。」
ジャイが私の病室を出るのと入れ違いにみんなが入ってきた。
シオンヌ、光、響。
「あれっ?ラビ達は?」
「下に置いて来た。」
「そうなんだ。」
「ユッティじゃあ聞かせて貰おうか?木戸にユッティ達の話をしちゃいけないか?」
「うん。キッドね。5日間原因不明で眠り続けていたの。そして、目を覚ましたのが昨日なんだけど、どうやら、その5日間あるメンバーに酷い拷問をされ続けたみたい。怖い夢って見るでしょ?あれが永遠と5日間続く感じじゃないかな?そのメンバーに私と、ジャイ、キッドのお母さん、遥お姉さんも入ってたみたい。」
話をしてたら、ジャイがコード持って入って来た。
「ジャイさん。それ本当なの?」
「んっ?何が?」
「タカの悪夢の話。」
「ああ。多分な。でも夢の中に確実に誰が入っていて、誰が入ってないかとかはわからん!ユッティこの3人が夢に出て来てたら、どうしてたんだ?余計キッドの傷が広がったかもしれないんだぞ。それともわかっていたのか?」
「だって私じゃ、ウサギ持って来ても抱かせてあげる事も出来ないじゃん!大丈夫そうだったよ。」
「無茶苦茶するなユッティ!次から相談してから行けよ。」
そう言うと充電コードを渡された。
「みんなそう言う事だから、、。みんなが頼りなの。そんなに近い距離じゃないし電車代もかかるけどまた遊びに来てくれないかな?キッドも喜ぶと思うし。」
「まかせとけ、ユッティ。まぁオレも学校ある日はキツそうだけど。無い日は暇なら光とシオンヌとラビ1号連れてお見舞いにくるよ。なっ?」
「そうだな。私も部活がなければ大丈夫だ。」
「オレも大丈夫だよ。でもタカには内緒だけど、オレもバスケ部に入ったから、詩音さんと一緒で部活がなければ基本OKだよ。タカ上手いからね、久しぶりに会った時に多分オレが上手くなってたらビックリしてくれればいいな。」
「いいね。キッドが元気になったら、私、ジャイ、キッド、光、響、シオンヌで3on3しようよ。でも私もそんなに上手な方じゃないけど。」
「大丈夫だ。ユッティ!ジャイさん程スタミナが無い人はいない!」
「それ言うかよ!最近仕事忙しくて走ってないからな!一理あることは確かだな。」
「はははは。」
「ユッティいつまで、入院なんだ?」
「来週いっぱいかな?上手くいけば、来週から××中学校に編入だから、ちょうどみんなの駅とこの病院の中間かな?ちょっと病院よりなのかな?でも遊べそうだね。暇な日私友達居ないから遊ぼうね。」
「あの学校全寮制じゃなかったか?ユッティ出てこれるのか?」
「うーん。そこらへんまだよくわかってないんだけどダメなの?っていうか、寮って物に入った事が無いから、そもそもよくわかんない。」
「ユッティらしいな。まあ遊べなくても、メールくらい出来るはずだな。寂しくなったら連絡してくれ。電話でもいいぞ。」
「ありがとう。」
「じゃあ私達はそろそろラビ達が下に置き去りだからな。帰るとするかな。何か用事あるか?光君、響。」
「いんや!オレはねーな。」
「オレも大丈夫かな。」
「ということみたいだユッティ。
」
「ちょっと待って、私もラビ達返しにいくよ。私が発案者だし。」
起き上がろうとしたらシオンヌにベッドに肩を押され、座らされた。
「病人は無理しないで寝る!ラビは響が2個持ってダイエットしたいそうだから、大丈夫だ。」
「えっーーオレ?」
「2個持ちたいそうだ。なっ?響!」
「はいはい。持ちたいですよ。」
「シオンヌ目力ヤバイよー。響が圧倒されてるよ。」
「私の声が聞こえないような事をいうからだな。」
「響任せて大丈夫?」
「冗談だから!大丈夫!タカもだけどユッティも早く治して元気にならないとな!!」
「わかってる!退院したら、みんなの街案内してね。」
「おぅよ!任せとけ!」
「ユッティということだ。じゃあまた来るからな。」
「ありがとうみんな。今日は本当にありがとう。」
ベッドから手を振る私に、元気に3人が手を振りながら病室を出て行った。
「オレもみんな見送りにいってくる!」
「ちょっと待ってジャイ!」
そう言うとジャイ携帯を触り、留守電を聞き、削除してジャイに渡した。
「はい!これっ!」
「そんな聞かれたくないメッセージってなんだよ?さては告白か?オレに!」
「無い無い無い無い!!それは無い!」
「あまり、全否定されるのも珍しいな!」
「ジャイどんだけモテるのよ?あっそうだ!私ここまで来るのに光、響、シオンヌにお金借りてたの。」
そう言うとキャビネットから封筒を出した。
「ジャイこれみんなに渡して。」
1人千円ずつ3千円をジャイに渡すべく手を伸ばした。
「わかった。それはオレがこれからもキッドの見舞いに来てくれるように、少し多めに電車代としてオレが渡しとく。その金は大事に取っとけ。ヤバイ!みんな行っちまう。」
「ジャイ!」
そう言うと私の呼びかけには振り返らず、3人を追って出て行った。
「うーん!終わったなぁ。」
安堵の気持ちからベッドで手を上に伸ばしてノビをしていた。
した瞬間お腹がグーっと空腹を訴えている。
まだ3時にもなってないけど、6時から動いたから疲れたし、お腹も空いたよ、。キャビネットにマスカットあったっけ?そういえばカバンにも一房いれたっけ?」
全部のマスカットを机に広げた。
「うーん。美味しい!でももう過去に行く前から何個食べてるかわかんないよ。」
ゆっくり1粒1粒味わいながら食べているとジャイが帰って来た。
「みんなを送って来たぞ。なんだ美味そうなもん食べてるな巨峰か?」
…キッドが飛び降りた時も巨峰っていってたっけ?
…こんな状況で食えるかよ!みたいな事言ってたよね。
…今なら一緒に食べれるね。
「そうだよ。小泉先生が巨峰くれたの。食べよ一緒に。」
「くれたって凄い量だな。ユッティ今日は頑張ったな、、。」
2人で食べながら話をしていた。
「私はジャイみたいに診察も薬を出す事も出来ないからね。出来る事をやっただけだよ。」
「そうか、、。怪我まだ完治してないのに、なかなかできるもんじゃないぞ。えらいえらい!」
「子供扱いしないでよね。」
「そうだ!明日ユッティ暇だろ?オレ休みだからピアノコンサート行かないか?」
「何それー?デートの誘い?私はキッド一筋だよ!」
「んな訳ないだろ!小林先生て凄腕の女医さんに誘われたんだけど、その人明日仕事入っちゃってさ、他の女と行くなら破り捨てるって言われたけど、患者の中1の友達って言ったら別にいいよだってさ。ずっと病院でもつまらないだろ?ほらっ。」
ジャイからチケットを受け取った。
「ジャイ。コンサートじゃなくて、コンテストって書いてあるけど、、。」
「あっそう?別にどっちでもタダで見れるならいんじゃない?なんか知り合いの人が出るらしい。」
「ジャイ適当ー。はははは。行こうか?気晴らしに。キッドにはまだ会えないもんね。」
「そうだな。今はキッドが抜けた魔族一家のみんなに頑張って貰うしかないからな。うちらは、出番が来るまで待機だ。待機。巨峰美味かったご馳走様。そろそろ行くかな。」
「わかった。私ちょっと昼寝する。」
「よく寝るのは治療にはいい事だ。じゃあ明日8時に迎えに来るから」
「わかった。じゃあね。」
そしてジャイが出て行った。
「ちょっと疲れたから寝よ。」
マスカットでお腹がいっぱいになった私は少し眠りに落ちる事にした。
キッドが飛び降りた日はマスカットは全部食べきれなかったが、
新しくやり直した今日日曜日はあの日よりゴミ箱に食べ終わった房と皮が入っていた。
キッドが死なない路線に強制的に進めた事に心もお腹いっぱいになって、
私はぐっすり眠りについた。




