81話
「もうすぐ着くから、唯ちゃんの写真引っ張り出して、顔よく覚えとけよ。」
『ああ、わかってるけど、早く着かないかな?このメイクで、高級車で、オープンにして、メタルソング全開で流して、渋滞って、、ジャイ、、死ぬ程はずかしいんだが。』
「いいか?そういう時は自分がヒーローになった気でこっちを見てるやつに逆に手を振ってやれ!自分を無敵と、思え!ほらこうだ!」
ジャイが手を振ってる!
『ジャイ、いろんな人がオレらの事動画撮ってるよ!明日のyoutubeに載ったわ絶対!珍獣発見的な。』
「大丈夫。逆に載るなら堂々とだ!お前にはいざって時に度胸がいつも足りない!ヘタレだな。いいか、今は神取誠でも、木戸貴光でも無い!違う自分だ!それは素晴らしくかっこよくて、オレらを見てるだけだ!そう思え。」
…そういやー。ジュンが女装した時も同じような事言ってたな。
…ケンスケが大笑いしながら、レイがお前よりかわいい女はいないって。
…そして見捨てて、電車で帰っていったっけか?
…ははは。今ならあの時のジュンの気持ちがわかるわー!
…あの女装よりはマシだな。
…クオリティこっちの方が高いし。
なにかが吹っ切れた気がした。
『ジャイこうか?』
オレは死ぬ程はずかしい気持ちだけど、手を振ってみた。
「ははは。キッドの顔もデーモン閣下で閣下だけど、手の振り方は天皇だよ。そりゃ!」
『ほっとけ!これで、精一杯だ。』
「ははは。少し大人の階段登ったな。」
『こんな事しなくても、大人にはなれる気はするけどな。』
『「はははははは。」』
「キッドもうすぐ着くぞ。」
『よし、やってやんぜ!オレはヒーローだ!』
「ははは。その意気だ!デーモン天皇」
車はライブ会場に近づいた。
「お疲れ様です。こちらになります。」
なぜか、一般駐車場でなく、関係者駐車場に案内された。
『ジャイなんか勘違いされてないか?』
「はははそうみたいだな。」
『ジャイ!おまえ特殊メイクしたら無敵だな!違いますとか言わないんだな。』
「いいじゃないか?タダだぞ、駐車場代!」
ジャイが車を停めて、ホロを直し、車から、降りた。
オレも降りて車の前でジャイの横に並び、2人で一般入場口に向かうために、右を向く。
向いた瞬間だ。
30m向こうにもジャイがいる!
向こうは4人組だ!
その先頭のやつが今オレの隣にいるジャイと同じメイクをしていたのだ。
『えっ?』
オレはとっさにジャイの顔と、そいつの顔を何回も見比べてしまった。
違いがほとんどない!
あるといえば、オープンカーでフロントウィンドウに入りきらず外に延びた髪が少し後ろになびいているくらいだ。
『ジャイこいつら、ライブやる本人だろ?多分!』
「そうだろうな。マスターに渡した写真こいつだったからな。バンドの名前もわからないけどな。ははは。」
『マジ唯ちゃんに会うだけで、名前も知らないバンドをここまで似せたのかよ!凄すぎる!マスターの腕も神だな!』
「だろ?」
本物のバンドの人達が、前から歩いてくる。
こちらも、そのバンドの人達の方に歩いていく。
お互いが見ないわけが無い!
15m
10m距離が近づく!
そしてお互いが、お互いを見ながら、すれ違った時、
「ちょっといいか?」
呼び止められたのはオレ達だった!
「凄いクオリティだな!オレらのファンか?」
「いや全然!全くもって今日初めて車で音楽を聞いた!」
「ぶはっはははは。なんだそりゃマジか?傑作だな!ごほっ。ごほっ。」
「ちょっとあんた、喉開けて見せて貰っていいか?オレは医者だ。」
ジャイがジャイと同じメイクの人の喉を見ている。
まるで鏡だ。
「なぁ、オレはあんたのバンドよく知らないがあんたボーカルか?」
「ああ。そうだ。」
「あんたこの喉で最後まで、歌えると思ってるのか?」
「歌わなきゃなんねぇ!この日の為にこの会場に立つのに何年夢をみた事か?小さいライブハウスとかじゃねーんだ!オレらはここから羽ばたくんだ!」
「そうか。じゃあちょっと待ってろ!」
そう言うと、ジャイが自分のトランクから、何やらでかいバックを取って来た。
「オレが歌えるようにしてやる!腫れも1時的に引かしてやる!」
「本当か?」
「だがな、、。薬や色々全力を尽くしてみるが、なんとかしても、この腫れじゃ1時間半が限界だ多分!ライブは何時間だ?」
「2時間だ!」
「どうする!1時間半以上無理すると今後声帯が傷つき声が出なくなる可能性があるぞ!」
バンドメンバーがみんな悩んでいる!
そして、ボーカルがジャイの肩に手を置いた!
「おまえ本当!オレとそっくりだよな?今ここで歌ってみろよ!」
『無理だ!オレとジャイは今日初めておまえらの歌を聞いたんだジャイが歌えるわけない!』
オレのそんな言葉はよそに、
ジャイが息を吸い、全声量で歌った!
…すげぇ!さっき車で聞いた歌と遜色ねーじゃねーか?
『なんだよ!ジャイちゃんと知ってるんじゃねーか!歌!何回も聞いてたんだろ?本当は。』
「いや知らねーよ!さっき聞いて覚えただけだ!知ってるだろ?暗記と記憶力だけで、国立医大首席卒業だぞ!曲の歌詞なんて、造作もない!ただ、ボーカルのあんたな、この歌詞な意味全然向こうじゃ通じないからな!」
「ははは。最高だなおまえ!もうおまえしかいない!一応出来る限りオレが頑張るがそれでも無理と判断したら残りオレと入れ替わって貰えないか?最後に使う煙幕を交代のタイミングで使うから、その時に入れ替わって、オレの代わりに歌って貰えないか?報酬は何百万と払う!」
「なあ。この会場に入るお客さんって何人だ?」
「1万3000人だ!」
「そうか、じゃあ金なんかいらない!オレは今日1万3000人の人を騙す事になるんだな。1万3000人の人がオレに惚れるように完全コピーしてやる!本当、キッドといると非日常な事しかおきない!退屈しない毎日で最高だ。」
「おまえ凄いな!death level 99 ボーカルの Qだ、こっちがメインギターVでドラムのE そしてギター兼ベースのOだ。おまえ名前は?」
「神取誠だ。ジャイって呼ばれてる。」
「そうか、今日おまえはジャイじゃねー!Jだ、そしてライブの時はQになって貰う。出て貰うライブはかなりハードだぞ!」
「大丈夫だ。毎日朝6時から走ってる!問題ない!」
「心強いな!そっちの小さいおまえも一緒に来るか?」
「キッドはダメだ。今日やらなきゃならない事がある!キッドとオレは女の子に会う為にこの会場に来たんだ。」
「そうか。」
『なあちょっと待っててくれ!ジャイ車の鍵開けてくんないか?』
【ピッピ ガチャ】
ジャイがキーレスでドアを開けてくれた。
オレは書類を取って来た。
そして、唯ちゃんの写真をQに見せた。
『この人を探してる。かなりのファンみたいだが、知らないか?』
「1年半くらい前からだな。小さいライブハウスの時から来てくれてた子だな。そりゃオレらみたいなバンドに一生懸命メイクして、来てくれる小学生みたいな女の子がいたら、気がつくさ。名前とかわからないが、なんだ。彼女か?」
『いや。そういう訳じゃないけど。』
「いや、詮索はしないが、まあ頑張れ上手くいく事を願ってる!じゃあJここで友達のキッドとはお別れだが、大丈夫か?」
「大丈夫か?キッド。」
『ジャイこそ大丈夫かよ!』
「言ったろオレをヒーローと思えってさっき渋滞中に。見られることに不安になった事はねぇ!大丈夫だ!信じたやつに裏切られない限りオレはブレない。」
『そうか。じゃあお互い最善を尽くそう!また後でな。』
しっかり握手して、ジャイと別れた!
「J暗記力って、立ち回りも覚えられるか?」
「大丈夫だ!ただ頼みがあるんだいいか?」
「んっ?頼みってそんな事か?好きにやっていい!残り30分はおまえのライブだからなJ!」
「そうか、それはよかった。」
バンドメンバーとジャイが話しながら歩いて行く。
…ここからはオレ1人だ!
…ジャイはジャイで自分しか救えない人を今救ってる!
…オレはオレでやるしかねー!
…ジャイがやる事に比べたら屁でもない!
…よし頑張ろう!
そしてオレは一般入場口の方に向かって歩き出した。
…唯ちゃん待ってろよ!
…オレはおまえを死なせないように頼まれて未来から来たんだからな!
そこにもうメイクで恥ずかしいなんて思いの自分は無かった。




