77話
AM7:15
『母ちゃんただいまー。』
「美由紀さんただいまー。」
奥から、母ちゃんの声が聞こえる。
「あらー。お帰り2人とも、帰って来ないから心配したわよ。なんか表凄い音したけど。」
『あっそれジャイの車!グランなんとかってやつ!』
「そうなの?」
「美由紀さん。今日一緒にパート先まで乗っていきます?」
「えっーーー。」
『母ちゃん!えーって言いながら全然顔がうれしそうじゃんか?』
「そんな事ないわよ。朝ご飯食べちゃって、私はもう終わるとこだから。」
「ちょっと表の車神取さんの?」
『ハルねぇ!今その話してたとこ!』
「オレのだよ。」
「乗せて!」
「いいけど。9時からパートで、8時半には出ないといけないからそんな遠くは行けないよ」
「いい。乗りたい。」
「じゃあご飯食べたら少しドライブ行こうか?」
「やったー。ちょっと着替えてくるね。お母さん用意にちょっと時間かかるからすぐ食べれる兄ちゃん焼き焼いといて。」
「わかったわよ。全くあの子ったら。」
『なんだよ。ジャイ号大人気だな。ちょっとジャイ!』
オレは手招きしてジャイに小声で囁いた。
『ハルねぇと母ちゃんに椅子ドンするなよ。あんなのやったら惚れちまうぞ。』
「ダメと言われるとやりたくなる人間っているよな。」
オレはジャイから貰った携帯を出した。
『2月13日 19:57 明日はバレンタインだね。誠先生なら私がチョコになって、、』
「わー!わー!なんてメール読みやがるキッド!わかった椅子ドンは無しな。でも勝手に美由紀さんと、遥さんがオレの事好きになるのはオレのせいじゃないからな。」
『1月2日 誠先生と一緒のベッドで、初夢をみ、、、』
「わーー!!わー!!わかった!わかった!ってかさっき言ったのはどうしようも出来ないよな。」
『確かにどうしようもないけどな。ノリでやってみただけだ。面白いから。でも真面目に椅子ドンとかして惚れさせるなら最悪責任取れよ。』
「オレにキッドの父ちゃんになれと?」
「ちょっと2人で、何話してるの?さっきの貴光の日付けのセリフは何?」
「美由紀さん!なんでもないんですよ!忘れましょう!忘れた方が幸せな事もあるんです。ははは。」
「変な誠さんね。さてごちそうさま!食器食べ終わったら台所に持ってきてね。」
なんか母ちゃんは上機嫌だ。
最近ジャイが家にいる時の母ちゃんの様子が妙に明るい気がする
『今なら母ちゃんを嫁にしたら、唐揚げがつくぞ。』
「あのなぁ、じゃあ唐揚げ食いたいから結婚しようって言えるわけねーだろ!」
『そっか。これからも一緒にいれたら楽しいかなと思って言ってみただけだ。まあ忘れてくれ。』
オレは食べ終わった食器を母ちゃんのとこに持って行った。
「用意出来たわよ。神取さん。お母さん!兄ちゃん焼きは?」
「トースターの中にできてるわよ。」
「相変わらず美味しそっ!」
「何それ?オレにも少し頂戴。」
珍しい物好きのジャイが、興味津々のようだ。
「はい!どうぞ。」
「ありがとう。」
ジャイの初兄ちゃん焼きデビューだ。
「なんだこれ美味いな!焼けたマヨネーズが絶品だな。ってか妙にピザっぽいけどピザでは無い!美味ー!」
『木戸家のズボラ飯!兄ちゃん焼きだ!なぜ兄ちゃん焼きかは知らんがな!』
「ちょっと小腹が空いた時とかアリだな。」
「神取さん。もう食べれたよ。」
ハルねぇが時間が勿体無いとでも思ったのか、パンをあっと言うまに胃袋に押し込んだ。
「じゃあ行こうか?厚着でいかないと風邪ひくから。」
「大丈夫。中にたくさん着てるから。」
『ハルねぇ杖!』
オレはハルねぇの杖を取って、ハルねぇに渡した。
「ありがとう。じゃあタカ行ってくるね。」
「キッドじゃあちょっと行ってくる。」
『行ってらっしゃい。』
…ハルねぇだいぶ歩けるようになったとはいえ、片杖は無いと遠くは無理だな!
…それでも大分前よりよくなった。
…片足かなり回復したからな。
…ジャイのおかげだな。
…でも杖無しのデートは無理だろう多分。そんなに人生多分甘くないと思う。
…それでも奇跡を、願って頑張れハルねぇ!
家の前からジャイの車が離れて行く音がした。
『母ちゃん行っちゃったぜ。』
「そうね。お母さんもあの車乗るの楽しみだわ。」
…母ちゃんジャイがいないとちゃんと自分の事お母さんって言うんだな。
…って事はやっぱり。
『なぁ!母ちゃんジャイの事好きか?』
【ガチャン】
「貴光が変な事言うから、コップ割れちゃったじゃない。もうっ。」
『いやいや母ちゃんマジ!前はそんなのとんでもないって思ってたけど、母ちゃんが本気で好きならジャイが新しい父ちゃんでもいいぜオレは。』
「ちょっと恋してるだけよ。恋は誰でもしていいのよ。貴光がアイドルを好きになるのと一緒よ。アイドルに恋したからってその先何かある訳じゃないけど、気持ちは楽しいものよ。お父さんに少しなんか浮気したっぽい気持ちはあるから少し後ろめたい気持ちはあるけどね。お母さん達は離婚して別れた訳じゃなくて、お父さん病気で天国に行っちゃったんだから、かわいそうでしょ?お母さんまだお父さん好きだし。まあでもときめく気持ちくらいはしてもバチはあたらないかなみたいなそんな感じよ。」
『そんなもんなのか?じゃあさ、ジャイにキス迫られたら母ちゃんどうする?』
【バリン】
『母ちゃんコップ割すぎ!』
「ど、、、どうしよう。キスくらいはいいのかな?いやダメよ。でもアイドルにキス迫られたら、しないと勿体無いわよね。いやダメよ。」
【バリン】
『あーあー!オレの茶碗!もう完全に動揺してんじゃんか?もう!オレの茶碗気に入っていたのに。スーパーで新しいの買って来てよ母ちゃん。』
「でも誠さんにキス以上迫られたらお母さんどうしよう。拒否するのも、誠さんに悪いし、でもそれはダメだわ。じゃあキスくらいはいいのかしら、手とか繋がれたりして、あの顔で見つめられて、お母さん拒否できるかしら。あんなカッコいい、いやいや、そんな事言ったらお父さんに悪いわ。」
『もしもーし。母ちゃん!』
返事がないただの恋の屍のようだ。
『だめだこりゃ。へんな事言わなきゃよかったかな?母ちゃんオレの食べ終わった食器ここに置いとくからな。』
「でも、もし、100万円のダイヤの指輪なんて持って来ちゃったりしたらお母さん、、。」
【バリン】
『あーあー!ハルねぇのお皿まで。おーいもしもーし。』
母ちゃんの顔の前で手を振るが反応がない。
『母ちゃん何洗ってんの?もうそこに皿ないから!今下もう落ちた!もう割れたから。手洗ってんの?スポンジで?エアー食器洗いなんて、聞いた事ねー!』
やはり返事がないただの恋の屍のようだ。
『はぁ。もうこの話題を母ちゃんに振るのは辞めよう。1時間分の母ちゃんの給料が食器代に消える。母ちゃん!オレは上に行くからな。』
「式とかになってしまったりしたら、お台場とか素敵かしら?、、どうしましょう、、」
『もう母ちゃんそりゃなんのドラクエの復活の呪文だ?まっいいか。なんかあったら呼んでよ上にいるから。』
そう言うと上に上がって来た。
そして久々に時系列を書いたノートを開いてみた。
2013年 5月6日 セシルさん娘ユイちゃん交通事故死亡
↓
2013年 5月11日 セシルさん意識取り戻す。
↓
2016年 2月12日 異世界のユイと、セシルさんで異世界に来る
『3年もあるのか?事故から、異世界に来るまで、で今が3月19で、5月4日か。ユイちゃんが死ぬまで1ヶ月と2週間かぁ。』
鉛筆を鼻で挟み、椅子をグラグラしながら足を机の上に乗せ腕組みをして、なんかいい案がないか必死に考えていた。
『わかんねー!ダメだ。さっぱり出ない。とりあえず前から考えていた様にセシルさんに。手紙を下書きで書いてみっかな。』
ルーズリーフを取り出し。
ボールペンで下書きを書こうとした。
私は神だ。
セシルあなたは何月何日娘を乗せて××駅までユイちゃんを送る最中に事故にあい娘は死ぬ!だから、
その日に車に乗らずそこの交差点には向かうな!
そして、娘が助かったら毎日異世界に行きたいと念じろ!
そうすれば、未来は開かれる。
…よしこんな感じで書けばいいか?
頭で考え、ルーズリーフにペンが近づきそうになった瞬間だった。
『痛っーー!なんだこりゃ!またか?』
ペンがルーズリーフに近づけば近づくほど、頭痛は激しさを増す。
痛さでとても恐ろしくて書こうという気にならない。
バイクの時と一緒だ。
多分無理して書くと意識を失う気がした。
『くっそ!どうしたらいい!やっぱ諦めるしかないのか?セシルさんもキーマンだからな、いてもらわないと困るって事か?この方法じゃダメって事か?』
ペンをぶん投げ、ルーズリーフをくしゃくしゃにして、放り投げた。
『あーあ振り出しに戻るだな。』
さっぱり案が何も出ない頃、
【ボボボボボボボボ】
神取誠ぼっちゃんのおかえりだ。
そういう発言をすると嫌がるからしないが、ジャイがハルねぇとのドライブを終えて帰宅した。
「ただいまー。お母さん神取さんの車凄いよ。感動しちゃった私。お母さん!いつまで食器洗いしてるの?」
「美由紀さん。ただいまー。いやーまだ寒い寒い。キッドは部屋かな?」
「あっ!あー2人共おかえり。あれなんでこんなに、食器割れてるのかしら貴光ね!全く!食器だって高くないのよ全くもう。」
2階に居たが1階のみんなの話し声が聞こえた。
…母ちゃんひでーな。オレのせいじゃねーし。
【コツコツコツコツ】
ジャイが、階段を上がる音が聞こえる。
「お父さん帰ったぞー。」
『ブブー!いきなりそのネタ明るく言うなよ!そのネタでうちの食器が、何枚人間界を去ったかわからん!』
「なんの話だそりゃ。」
『そんな事はどうでもいいや。ちょっと見てくれ。』
オレは自分が書いた時系列をジャイに見せた。
「ふむふむそれで、次がこのセシルってやつなのか?後1ヶ月半もないじゃないか?」
『そうなんだよ。でさっき、自分を名乗らず未来が見える神からって感じで、手紙の下書きを書こうとしたんだ。』
「キッドおまえまた頭痛来たな!」
『なんでわかった?』
「前に本に挟んで手紙を持って来ようとしたって言ったろ?その手紙はこの過去に来た時に消えたって言ったよな?だから、同じような事はダメなんじゃないか?一体何を願って、本を開いたんだよ?」
『それは言わなきゃダメか?』
「言いたくなきゃ言わなくてもいいけど。」
『言ってもオレを幻滅したりしないか?』
「それは大丈夫だ。」
『前の未来の話は大分してたよな。オレが願った未来は、、、、。』
ジャイに話した。
「いやいや、それはまずいだろ?神様必ず全員幸せの結末を迎えるって言ってたんだろ?その願って開いた未来じゃ確実に無理だよな!」
『そうなんだ。最低なんだ。オレが選んだ選択は、どっちか選ばなきゃいけなくて、そっちを選んじまった。どうやっても、全員は救えないんだ。』
「まあ落ち込んでもしょうがない。神様がそう言ったんだからそれを信じて進むしかない。まずはそのセシルさんだな。名前は竹内 亮平これがセシルだな?住所もわかるか?」
『ああ書いてある。』
「もう、パートだから、帰って来たらゆっくり話ししよう。セシルさんの事故状況から詳しく。後なオレ今日夜9時から新しい病院の歓迎会に呼ばれたからキッドも来るか?」
『いや、オレ行ったら場違いだろ?小学生が歓迎会みたいの。』
「まあそう言うなよ。パート終わるの3時だからそれまでに考えといてくれ。パート終わったら車で帰って来るから。」
『スーパーに停めとくんじゃないのか?』
「さっき遥さんとドライブ中に小泉先生から電話で誘われたからな。何もなかったら置いてくるはずだったけど。しょうがないだろ?」
『わかった。とりあえず歓迎会の事は考えとく。』
「誠さん!用意出来たわよ。」
下から母ちゃんが、読んでいた。
「オレの嫁の美由紀が呼んでる」
『ジャイ冗談だよな?』
「あー!冗談だよ。どうかしたか?」
『そうか。だよな。とりあえず下まで見送るわ!』
2人で下に下りた。
「美由紀さん。ガッツリメイクですね。」
「車に合った感じにしてみたのどう?」
「まだまだお綺麗です。」
「またまた。いやだわ誠さん。綺麗すぎるなんて」
照れ隠しの張り手がオレに飛んで来た。
【パチン】
『ジャイ余計な事は言うな。お皿は天国に行ったが母ちゃんがこんなじゃ、オレもたん。はっきり言ってやれ化粧盛りすぎだって。』
「無理だ。機嫌損ねるとめざしやししゃもが夜ご飯に出てくる。褒めてればトランプタワー盛りのご飯はきついが、唐揚げで、ししゃもは食わなくて済む!」
『ちぇっ!しっかりしてるな!』
「仲いいのはいいけど2人共いつも2人で話すぎよ。誠さんいきましょ。」
「はいはい美由紀さん、行きましょ。」
2人が、外にでて、母ちゃんが、ジャイのオープンカーに乗った。
…めっちゃ子供みたいな顔してんじゃんか?
…楽しそうな笑顔しちゃって。
『2人共しっかり稼いで来いよー。』
【ブォーン!ブォー。】
上機嫌な母ちゃんがガッツリメイクして出社した。
…たかが、10分くらいでスーパーまでついちゃうのにな。
…あーあ。
…暇だな。勉強か?
…異世界の未来の事考えるか?
…いやいや!バスケっきゃねー!
オレは暇人だと思われる3人に集合をかけた。
そして、みんなに連絡が取れ、公園に向かった。




