21話
2012年 7月7日 土曜日 AM8:00
【ピピピピピピピピピピピピピ】
『うわー!。』
…あれ?なんだ夢か。
…なんで叫んでたんだ。なんの夢かもちっとも思い出せねー。
毎日8時に目覚ましをセットしてるせいか、土日祝日に関わらず、朝8時起床ラッパの様に正確にアラームが鳴る。
いつもなら、消してもうひと眠りだと思うのだが、図書館の約束があったのとなんかの夢で飛び起きたせいで寝ようという気にはならなかったので、眠い目を擦り起きた。
昨日はスキルの本でかなりネガティブになっていたが、
寝て起きて、朝日を見ると気持ちはかなり落ち着いていた。
たまにこういう事はあった。
悩んで寝る前までどうしようどうしようと思い込み、
その悩みしか、考えられない状態になるが、意外と寝て起きると、昨日ほど辛くない自分がそこにいたりする。
とりあえず、起きて下に下りた。
『母ちゃんおはよー。』
「あら貴光!早いのね今日は。パン食べる?」
『食べる。』
オレは顔を洗い歯を磨き、寝癖が立ったままの髪で椅子に座った。
「はいこれ?」
『何これ?ピザ?』
「風の噂で聞いた兄ちゃん焼きと言われてるパンよ。マヨネーズとケチャップを同じ場所にかけて、マヨネーズが溶けるくらいまでトースターでチンして出来上がりだって。食べてみて。」
…なんだ兄ちゃん焼きって名前が微妙だよな!
とりあえず食べてみた。
『うまー!なんだこれ?やばっ!』
「手軽でいいでしょ?」
『確かに!でも名前が、なんで兄ちゃんを焼かなきゃいけないんだ?不思議な名前だけどまっいっか?』
…ズボラなジュンとかカズキとか食べてそうなパンだなこれ?ハハハ。
オレは朝食を済ませ、朝シャンを済ませて、小学3年からの算数や漢字ドリルやノートなどをリュックにしまった。
『母ちゃん、図書館行ってくる!』
「珍しいこともあるもんだね。明日は雪かしら。」
『鈴木さんと勉強してくる。』
「いいことね。貴光をあの子は素晴らしいとこまで引き上げてくれる素晴らしい子ね。でも、あなたのレベルに、鈴木さんを引き下げちゃダメよ。あなたが鈴木さんの足を引っ張ったり、悪い事を教えたりしちゃダメだからね。」
『わかってる!いい機会だから、ちょっと頑張ってくる。』
そういうと、玄関を出た。
「貴光。ホントいい子と知り合えたわ。恋は人間を変えるっていうけど、やっぱり本当ね。貴光見てると私もまた恋したくなっちゃうわね。そんな事思ってたら、お父さんに怒られちゃうかしら、、。今日はいつもより、お線香多めに焚いてあげましょ。ふふふ。」
オレはチャリに乗り、図書館まで向かった。
夏の日差しが痛いくらいの照りつけで、
せっかくの朝シャンが汗で無駄になりそうだ。
…鈴木さん!
…一緒に頑張ろう。
未来の事を知ってると言われる不安もあったにはあったが、
それでも心臓がドキドキして、
早く前に行け、早く前に行けとエンジンのピストンの様にオレを前に前に加速させる。
ドキドキしてる自分が楽しかった。
緊張もあったのかもしれないが、それを含めて今を楽しんでいた。
…恋かな?やっぱり。
…マイミほどじゃないけど。なんか少しわかる様な気がするな。
…4人にバレて言われたらおしまいな人生だけど、卑屈にならず、できる事を頑張りながら楽しもう。
オレは図書館に向かった。
AM9:45
図書館についた。
中に入るとエアコンの涼しさはまるで天国のようだ。
…来た事ないから、中見とくかな?
中を歩いていたら鈴木さんがもう座っていた。
『なんだもういたの?』
「いたよ。早くついちゃった。見てここが私のお気に入りなんだ。」
外の景色が見える窓に設置されたカウンター式テーブルの端っこが鈴木さんのお気に入りらしい。
「私の特等席の右端貸してあげる。私はその隣でいいよ。」
『ありがとう。』
オレは端っこのテーブルの上にリュックサックを置いた。
そして、座って見た。
なんとなく、家じゃなく、わざわざ、こういう所に勉強しにくるのが、座ってみて、あー!なるほどと解る!
自発的に勉強するには最高の場所だ。
鈴木さんはオレに席を勧めた後どこかにいってしまった。
…さぁやるか。
オレは、とりあえず漢字から始める事にした。
小学3年とはいえ侮れない。
ひたすら解いていった。
「木戸君。やってるね。んっ?これいつの?」
『小学3年の漢字。』
「頑張れ。木戸君。わかんない事あったら聞いてね。」
『鈴木さんは勉強しないの?』
「私は1時までは小説を読むの。勉強はそれからかな。毎回そう決めてるから。」
『ふーんそうなんだ。』
隣同士だったけど、1時間何も話さず鈴木さんは、小説を
オレは勉強を続けていた。
ひたすら集中してやっていたお昼前
鈴木さんに腕をツンツン突かれた
『ん?わっ?鈴木さんどうした?』
横を見ると涙目で真っ赤な目になった鈴木さんがいた。
「木戸君、、、。手繋いでいい?悲しいお話で、、、。」
『あぁ、いいけど、、、その前に』
オレはこないだ借りっぱなしのハンカチをリュックサックから取り出した。
『これ、、、。ありがとう。洗ったから持って来た。』
「いつでもよかったのに、、。グスン。」
『じゃあ、はい。』
「ごめんね。ちょっと左手借ります。勉強しづらかったら言ってね。」
『わかった。』
指が絡む様に手を繋いだ。
繋いだ手からオレの高鳴る脈拍が、鈴木さんに伝わりそうな気がした。
心臓の高鳴りを抑えるには手から気持ちを勉強に持っていくしか他無くて、ひたすら書いて集中しようとしたが、
鈴木さんが感極まる度に指がギュッと握られる。
その度に心臓がギュッと握られたようになり、なかなか集中出来なかった。
「はー。終わった。泣いちゃったよ。」
『どんな小説?』
「前に映画化されたやつで、恋人になって、その後急に別れちゃうんだけど、その別れは彼氏が自分が病気だとわかって迷惑かけないように自分から、彼女と別れるんだけど、結局何年かして、その彼氏が病気だと彼女がわかって、またよりが戻って、最後死ぬまで看取るってお話。映画より泣いちゃった。」
『それ知ってるかも。小説は知らないけど。他にも色々な種類読むの?』
「そうだね。ファンタジーとか、恋愛とか色々読むよ。」
『ふーんオレは全く読まねーから。全然だ。』
「木戸君!木戸君弁護士になるんだから、もっと言葉遣いも気をつけた方がいいよ。お客さんにぜってーとか言ってたら、お客さん来ないよ。テストの点を変えるのも大事だけどもっと自分の内側も変えていかないと。」
…そう言う知り合いばかりいたからな。
…そこらへんも変えてかなきゃいけないんだな。
『さすが鈴木さん。考えもしなかった。』
「じゃああまりにも汚い言葉は罰ゲームね。」
『おぅ!わかった。』
「おぅ?」
『はい。わかった。』
「よろしい。」
2人で顔を見合わせて笑った。
「木戸君、そろそろ手、、放そうか?」
『あっ!そうか。』
手を繋ぎ過ぎて汗をかいていた。
『鈴木さん。ファンタジーの小説って異世界とか、空想世界的なやつ?』
「そうだよ。」
…これは話さない方がいいよな。
…でも本って事なら問題ないか?
…共通の話題として少し話してみようかな?
『オレも、1個話読んだわ!異世界にモンスターとして転生される物語。』
「なんか面白そうだね。」
おおざっぱにあった話を名前などを出さずに話した。
『そんな感じで出てくる登場人物が、必ずみんな自分にしか出来ない事を仲間のために一生懸命やる物語。』
「へぇー。今度貸してくれる?で最後どうなるの?」
『最後は話しちゃ面白くないじゃん!』
「そうだね。」
『今無いからあったら、持ってくるよ。』
「わかった。」
…本は無いけどな。
…だって、事実だから。
…最後か?
…どんなエンディングが待ってるのかな?オレ達の異世界物語は。
…最後に振り返った時に笑って振り返れる物語になってたらいいな。
「木戸君。飲食できる所でお弁当食べて、それから勉強しよ。私もお弁当食べたらそろそろ始めなきゃ。」
『じゃあいこーぜ!』
「ぜ?」
『じゃあいこー。鈴木さん。』
「よろしい。じゃあいきましょ。」
2人でサンドイッチメインのお弁当を食べて、
午後から、2人で勉強した。
ちょこちょこ色んな話をしながら楽しい時間はアッと言う間に過ぎ
5時になった。
かなり捗った気がする!
『いやー勉強し過ぎて熱が出そう。』
「木戸君がんばったもんね。」
『家まで送るよ。』
「そんなの悪いよ。でも送ってくれるならお願いがあるんだけど。」
『なーに?』
「私の家行くまでに木戸君の家通るでしょ?先に木戸君の家寄って、自転車置いて一緒に歩こうよ。」
『いいよ。』
オレは自転車を押して、鈴木さんと、まずオレの家に向かった。