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飛脚のトクさん  作者: 田仲真尋
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飛脚のトクさんⅢ

強い日射しを浴びながら僕は今日も駆けていきます。

今回の依頼はブレイズからグリフォンブルーへの手紙の配達です。短い距離ではありますが油断せずにいつも通り参りたいと思います。


さて今回、僕に依頼をくださったクライアントは何と!ブレイズのお姫様です。

カモミール姫とおっしゃる方です。

僕はこの姫様にお会いして大変驚きました。

絶世の美女とは彼女の為にある言葉ではないでしょうか。

それほどまでに美しい方でした。


そんな彼女からお預かりした手紙は何と恋文。

なんでもグリフォンブルーの騎士に恋しておいでなのです。

全く羨ましいこと、この上ないです。

彼の名前は、ディルク。

幸せ者であります。


僕は軽い嫉妬心を抱きながらグリフォンブルーへとやって参りました。

早速、街で聞き込みをします。

今回は先方の住所が分かりません。

人に聞いて廻るしかありません。

しかし、いくら小国といえど広いです。

簡単に見つかるかどうか、不安です。


「エクスキューズミー。少々よろしいでしょうか。つかぬことをお聞きしますが、ディルクという騎士様をご存知ないでしょうか?」


僕の質問に気品のあるマダムは、

「ええ、ディルク将軍なら知っておりますわよ、オホホホ。」と、答えてくれました。


念のためもう二、三人聞き込みをします。


「知ってる。ディルクって将軍様なんだよ。」


「てやんでい!ディルク様っていやあ泣く子も黙る将軍じゃねーか?てやんでい!」


どうやら間違いないようです。

ディルク様とはグリフォンブルーの将軍だったのです。

彼の住んでいる場所を突き止めた僕は、すぐに向かいました。


そこは立派なお屋敷でした。

真っ白な壁の造りで、まるで白馬に乗った王子様が住んでいるような、そんなお屋敷です。

早速ドアをノック致します。

すると中から、これまた上品で美しい女の人が出てまいりました。


「ディルク様にお届け物です。」


僕がそう言うと彼女は、

「そうですか。ご苦労様です。」と、手を出してきました。

僕はご本人様にしかお渡しできませんとお断りし、ディルク様を呼んで頂くことにしてもらいました。

彼女は少し怪しむ様子でしたが、致し方ありません。

何せ、これは恋文なのですから。


しばらく待っていると、めちゃくちゃイケメンな男の人が出てまいりました。

あまりの男前っぶりに僕は緊張してきました。

そして、モジモジしながら恋文を渡しました。

ディルク様は手紙を受け取り、すぐに封を切ってくれました。

今回の依頼は返事を貰って帰らなければなりません。

僕は期待して待っています。

最初、ディルク様は僕が書いた手紙だと誤解なさっておりました。

そこに「好き」だとか「愛してる」と書いてあったため非常に気持ち悪がっておいででした。

しかし、すぐにそれがブレイズのカモミール姫からだということに、お気づきになったディルク様は、もっと気持ち悪そうな顔をしました。

そして、

「ディルク様。僕はこの手紙への返事を持ち帰らなければなりません。どうかご返答を。」と、迫った。


ディルク様は、さぞや困った顔をしておりました。


「申し訳ないが、カモミール姫様と結婚はできません。私には妻がおりますゆえ。」


何と!先ほど出てこられた女性は奥方様でありましたか。

手紙を、お渡しせずに大正解であります。

しかし……困りました。

カモミール姫に何と説明したらよいのでしょう。


「あなた。どうかなさったの。」


僕は焦りました。変な汗が全身から吹き出してまいります。


「キ、キュロット、な、何でもないから、お、奥へ行ってな、なさい。」


ディルク様、少しばかり焦り過ぎです。


「そう。分かったわ。」


奥方様は怪訝な顔で戻られました。


「そうだ。私は留守で手紙は他の誰かに預けた、ということにしておけばどうだろう。」


「ディルク様。それは無理です。確実に手渡しするようにと、きつく言いつけられておりますので。」


「そ、そうか。では私は――もう死んでいた、ということにしておけば、どうだろうか?」


「ディルク様。嘘はよかありません。」


僕は思いました、この人はアホなのでしょうか。


「分かっている。だがもし、私の判断ミスで両国が戦にでもなれば多くの死者が出てしまう。」


これはもう自惚れとしかいいようがありません。

いくらお相手が姫様だとしても、貴殿を理由に戦など起こるはずもありません!

僕は怒りました。


「ディルク様!真摯に向き合いなさい!相手は姫である前に一人の女性です。本当の事をお話しになればよいではありませんか。嘘で誤魔化そうなんて騎士にあるまじき行為です。」


「君の言う通りだな。私はどうかしていた。正直にありのままを話すとしよう。」


「――僕みたいな者が失礼致しました。」


ディルク様は、爽やかな笑顔で、

「君は素敵な奴だ。こちらこそ失礼した。」と言ってくださいました。

僕の方こそ言いたい、あなた様は素敵だと。

危うく惚れそうになりました。


その後、ディルク様は誠実に書をしたためました。

それを僕は受け取りカモミール姫様へお渡しします。


「ディルク様。大変申し上げにくいのですが、今回なカモミール姫からの御手紙は着払いとなっております。それからディルク様の返信分の代金も貴方様から頂くことになっております。」


「――なっ!……チッ!」


ディルク様は渋々ではありますが代金をお支払い下さいました。

何といい方なのでしょう。

もし僕がディルク様の立場なら絶対に支払いませんけどね。


こうして僕はカモミール姫の待つブレイズへ引き上げて行きました。

そしてカモミール姫に手紙をお渡しすれば、今回のミッションも完了であります。



「おお!待ってましたわ。」


カモミール姫は淡い期待を乗せてディルク様の手紙を穴が開くようにお読みになりました。


「……ふーっ。やっぱりそうよね。あんなに素敵な方にお相手がいない訳がない。最初から分かっていたのに私って馬鹿よね……。」


驚きました。

あの気の強そうなカモミール姫の瞳から大粒の涙が零れ落ちているではありませんか。

傷ついた女性を慰めるのは紳士として当然の行為。

僕はカモミール姫が弱っている隙につけこんで、こう言いました。


「僕でよかったら、一晩付き合おうか。」と。


「ふん。生意気ね。」と言ってカモミール姫は僕の懐に飛び込んできました。


ちょろいぜ、と僕は思いました。


こうして一夜を共にした僕たちは朝を迎えます。

僕の腕の中で眠るカモミール姫。

窓から射し込む朝日。

見える物全てが美しい。


「ふっ。」


僕はまた一つ大人になった、ような気がします。





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