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飛脚のトクさん  作者: 田仲真尋
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飛脚のトクさんⅡ

皆さん、こんにちは。

飛脚のトクと申します。

本日は山中から失礼致します。


ここマゼイル山脈は標高の高い山々が連なっております。

ここを人の足で越えるのは、なかなかの難儀です。

もっと南へ下れば比較的安全なルートもありますが、そんなことをしていては期日内に先方様へのお届けが困難になってしまいます。

それでは、お客様からの信用を失ってしまいます。

僕は気合いと根性で今日も、ひた走るのでございます。


今回は、ある富豪からの依頼で金塊なるものを運んでおります。

僕の持つ挟み箱には、その金が入っています。

なかなかズシリと重みのあるものです……ですが少し気がかりなことがございます。

あれは、昨日の事でした。



「おお!よく来てくれた。飛脚のトクさんだったかな。待っていたぞ」


この髭面で体格の大きな男はビトウさん。

アトラスで貿易の仕事をしている、いわゆる大金持ちというやつです。

金持ちの依頼は極力引き受けることにしております。

報酬は勿論のこと、その人脈にも目をつけているからです。――キラン!


「実はブレイズにいるお得意様に明日までに、ある物をお渡ししなければならないのだ。本来なら三日前にはこちらに物が入ってくるはずだったのだが、嵐で船の到着が遅れてな。どうするか迷っておった時に、あなたの噂を耳にして足を運んでもらったという訳なのだ。」


それはお困りでしょう。

ですが、

「ご心配には及びません。どんなに繊細なガラス細工でも品質に問題なくスピーディーにお運び致します。」と、僕は胸を張って申し上げました。


「そうか。だが壊れ物ではない。今回運んでもらいたいのはこれだ。」


そう言ってビトウさんは、高級そうな桐の箱を開きました。

それは眩いばかりの黄金の光を放っておりました。

その存在感、グレートです。


「結構重量があるが、大丈夫か?」


「非常に失礼かと思いますが、持たせて頂いてもよろしいでしょうか?」


僕の頼みをビトウさんは快諾しました。

僕はズボンのポケットから布の手袋を出し、それをはめて慎重に金塊を持ちました。


「なるほど。大丈夫です、お運び致します。」


「そうか!やってくれるか。ありがたい。だが期日は明日の夕暮れまでだぞ、行けるか?」


「はい。問題ございません。では今すぐにでも出発しましょう。」


ビトウさんは部下の方に言いつけ、金塊を箱にしまわせ紫の紐で固く結びました。

僕は、それを挟み箱という商売道具に入れて、いざ出発。


「ではお預かり致し――ん?」


「どうした?」


「い、いえ何でもございません。ではまた後日。」


僕は行き先の地図と手紙を受け取り、ブレイズへ向けて走り出しました。

ただ一つ気がかりがあります。

それは箱の中の……止めておきましょう。

今は目的地へ急ぐのが先決です。



こうして僕は現在、山の中を必死に駆けているのです。

今回も猛獣や魔物に度々襲われましたが、僕のスピードについてくることは出来ません。

中にはスピード自慢の野生の動物もいましたが、結局追いつけずに諦めてしまいます。

僕には戦闘力がありません。

捕まえられれば即、死に繋がります。

絶対に追いつかれる訳にはいかないのです。

特に、お仕事を頂いている最中の僕は無敵の走り屋です。


ようやくマゼイル山脈を越えたのは、お昼過ぎ。

このペースだと余裕で夕暮れまでには着きそうです。


「そろそろ食事にしよう。」


僕は、お弁当を持参しています――あっ!水筒とおやつも。

もちろん、食事中も走るのは止めません。

走りながらです。

用を足すときも、しかりです。

寝るときもあります。

ただし寝る場合は平坦な道のりの場合のみです。

障害物が多い場所で寝ながら走るのは危険極まりありません。

あとお酒を飲んで走るのも厳禁です。

まあ僕は飲まないので関係ありませんが。


食事を済ませおやつを頂いている時でした。


「あれ?道が違うな。」


ふと気づいた僕はすぐに地図を広げます。走りながらです。


「えーと、ここがこうだから……あー!曲がり損ねて――!」


ドン!


その時でした。

僕は何かにぶつかってしまったのです。

人……だったような気がします。

なんと不運な方でしょう。

僕のスピードでぶつかられては、恐らくもう……。

憐れみと反省の気持ちを抱きながら、僕は振り返ってみました。


「びえぇぇぇ!!」


僕は錯乱状態に陥りました。

死んだと思われていた男――ゴリラみたいな男は起き上がり、怒り心頭のご様子で僕を追いかけてきます。

なんという速さでしょう。

僕は冷静に対処しようと速度を少し上げました。

すると流石に追いつけない様子で男は立ち止まってくれました。

しかし、何でしょう。この違和感は?

僕はもう一度男の方を振り返りました。

何やらブツブツと呟いている様子です。

……恐いです。

しばらく走っていると、後方から「タッタッタ!」と音がしてきました。

何だろう?と振り返りみて驚きました。

さっきのゴリラみたいな男が僕のすぐ背後まで迫っているではありませんか。


「ギョエェェェェ!!」


僕は無我夢中で走りました。

捕まったら殺される。

そう思って死にもの狂いで走りました。

ようやく彼を引き離すことに成功しました。

おそらくあれは、魔法使い。

自分の足に強化系の魔法をかけ、一時的に脚力を飛躍的に上昇させていたのだと思います。

だけど……彼は大きな剣を持っていました。

剣士なのでしょうか?確かに魔法使いっぽくはなかった。

一体何者だったのか。

……忘れましょう。

僕はブレイズへ向けて爆進しました。


先方様の元へ着いたのは夕暮れの少し前でした。

金持ちの商人様のお宅へ着くと、待ちわびていた主人が、

「おお!待っていたぞ。さあこちらへ。」と、喜んでおりました。


僕は挟み箱から桐の箱を取りだし、主人にお渡ししました。

その時、僕はある事を確信しました。

それはずっと気になっていたことであった。


「な、なんだこれは!?」


箱を開けた主人は吃驚仰天いたしております。

それもそのはず、箱の中身は石ころにすり変わっていたのです。

というより最初から石が入っていたのを僕は知っておりました。


「これはどういうことかね?君が中身を変えたのか?」


「いいえ、滅相もございません。箱の中は最初からそれが入っていたはずです。僕は最初に金を持たせてもらいました。その重さを体に覚えさせる為です。そして用意された金塊入りの箱を手渡された時、はっきりと分かりました。中身が金塊ではないことが。重さが全く違っていたからです。僕はお預かりしてきた物をお届けしたに過ぎません。それ以上の揉め事は当人同士でなさってください。」


僕は何も間違っていない。

これは飛脚としての誇りです。


主人は添えてあった手紙を読んでいた。

そして、

「ワハハハ!そういうことか。なるほど。」と、一人で納得されていました。

僕が訳が分からずに突っ立っていると、主人は言いました。


「疑ってすまなかったね。これはビトウが仕組んだ罠だ。」


どういうことか、さっぱり理解できません。

そして主人は説明してくれました。

ビトウ様た主人は今後、レト大陸の方へと事業を展開していくということを企てておりました。

しかし、レト大陸はこのギアン大陸よりも遥かに広大な土地を有します。

そのため流通システムを築き上げなければなりません。

馬で行ける所はよいのですが、そうではない所もあります。

そこで飛脚という手段を検討していたのだということでありました。

つまり僕は試された、ということでしょう。

まあ、貰えるものを貰えれば僕としてはどちらでもよいのですが。


「いやあトクさんとやら、悪かったね。もちろん運び賃は奮発させてもらうよ。しかし正確に時間内に運び、中身の変化まで気づいていたなんて、あんた優秀だ。お詫びって訳じゃないんだが、今日はここでゆっくりしていきなさい。ご馳走を用意しよう。他にも何か欲しい物があれば言ってくれ酒でも何でも用意させよう。」


何ということでしょう。

運賃のみならず、ご馳走までも。

僕は酒を飲まないので遠慮致しますが、他に何でもと言われれば、こう言いましょう。


「……お、女を。」


「ハッハハ!あんた結構好きだね。よし分かった用意しよう。」


こうして僕はブレイズの商人様の元で美味い食事を頂き、そしてお待ちかねの女性陣の登場。


「さあ、色んなタイプの女を揃えた。楽しんでってくれよ。」


およそ十人の華やかな女性が僕を取り囲む様にした。

皆さん美しい、そしてセクシーであります。

その中の一人の美女が、僕の耳元で囁きました。


「ねえ、お兄さん。何して遊ぶ。」


吐息が耳にかかりました。

僕は興奮を抑えきれません。

以前からどうしてもやりたかった事を言います。


「あ、あの。じ、女子会がしたいです。」


そこにいた女性たちが一斉に声を揃えて、こう言いました。


「お前、女子じゃねぇだろう!!」と。

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