第五話:シカゴからの訪問者
シカゴを牛耳るシシリアンマフィア、ベルティーニ・ファミリー。その支配力は凄まじく、警察署長の買収は勿論の事、市長をも手玉に取っているほどだ。もはやシカゴはベルティーニ・ファミリーのものと言っても過言ではない。しかし、ここまで成功した理由は‘彼’がいたからこそである。
「久々に骨のありそうな奴が出て来たな」
パソコンを操作しながら‘彼’が呟いた。その男こそがトニー・カルヴィーノだ。彼はベルティーニ・ファミリーの幹部の一人であり、その凶暴な性格と危険性から凶悪犯指名手配リストのトップに指定されているほどだ。
「Dr.レッドフォード……お前ほどの殺し屋が、たった二人のニューヨーク市警に負けるとは驚いたぜ。ついにツキから見放されちまったようだな」
軽く笑みを浮かべながら珈琲を飲む。パソコン画面の中心には、大きくFBIのロゴマークが映されている。彼はFBIのデータベースをハッキングしていたのだ。ページを下へスクロールしていくと、興味深い文章と男の写真を目にする。
「トミー・ブラウン……44オートマグの使用者だと?」
トニーは鼻で笑い、椅子から立ち上がった。
高層ビルの窓から見える美しいシカゴの夜景を見ながら煙草を吸い始める。美味そうにそれを吸うと、懐から何かを取り出した。
それは鈍く輝く6インチのM29、通称44マグナムだった。
「楽しませてくれよトミー……俺の44マグナムとお前の44オートマグ。大型拳銃の使い手としてどっちが優秀か勝負しようじゃねえか」
トニーがそう呟くと、44マグナムを仕舞う。そして今度は携帯電話を取り出した。電話相手の部下を選択すると、それを耳に当てる。
「俺だ。次はニューヨークの銀行を襲いに行くぞ……理由? ちょいと会いたい奴がいるんだ。面白そうな野郎なんでね。それじゃあ明日迎えに来てくれ」
携帯電話を仕舞い、煙草の火を灰皿で消すとニューヨークへ向かう支度をすると共に銀行強盗の準備を始めた。そしてこの時、ニューヨーク市警は知る由もなかった。これから起こる事件は、アメリカで起こった最悪の強盗事件の一つとして歴史に残るという事を。
*
「トミー、トミーはいるか!?」
朝から署長は怒鳴り声をあげていた。エリオットに視線を移すと、彼はため息をついて呟く。
「いつもの悪い癖です」
「また遅刻か! 全くあのバカは……楽天的な性格をなんとかして欲しいもんだ!」
署長が叫ぶと、エリオットは苦笑いを浮かべた。同時に電話が鳴り響く。エリオットは受話器を取り、それを耳に当てた。するとエリオットが先ほどまで笑みを浮かばせていた表情が消えていた。
「どうしたエリオット? 顔色が悪いぞ」
署長がそう尋ねるとエリオットは受話器置き、顔を顰めながら呟いた。
「……緊急事態です。武装した4人の男達が銀行を襲撃しているようです」
「なんだと。何処の銀行だ!」
「ブルックリン区にあるチェース・マンハッタン銀行です」
「なんてこった……総員現場へ急げ! そしてエリオット、お前はトミーの自宅へ行ってあのバカを起こしてこい!」
署長がそう叫ぶと、署員達は一斉に動き始めた。各自武装を確認するとパトカーへ乗り込み、ブルックリン区のチェース・マンハッタン銀行へ車を走らせる。そしてエリオットはトミーの自宅へ向かった。
「くそ……なんで毎回こういう時に限ってトミーは居ないんだ」
オフィスに残った署長は椅子に座って呟いたそこで、トミーが遅刻したことを再び思い出すと「あのバカが!」と、再び大きな声で叫んだ。