第四話:敗北のお味はいかが?
あの後トミー達は真っ先に署へ戻った。途中でDr.レッドフォードが再び襲って来るかもしれない、という不安を抱いていたが、結局彼が襲ってくる事は無かった。
先ほど起こった出来事を報告するため署長室へ入ると、署長は腕を組みながら椅子に座って、トミー達を待っていた。
「待っていたぞ。上層部から話は聞いている。報告はしなくても結構だ」
「なら署長、教えてください。ヤツは一体何者なんです?」
「……Dr.レッドフォード。彼はほぼ全ての科学分野に精通した知識を持つ犯罪者だ。本名や詳しい事は分からないが、こいつは裏で強力な権力を握っているらしく、国にさえも警戒されているらしい」
「国……ね、通りでFBIや州軍までもが応援に駆け付けて来る訳だ」
トミーは笑みを浮かばせながら呟いた。だが署長は真剣な目付きでトミーを睨んでいる。
「笑い事じゃないぞトミー。これでお前ら二人は奴に目を付けられたんだ。必ず何処かで狙われるぞ」
「分かってます署長。その時は……」
言いながらトミーはコートの中へ手を突っ込んだ。そして腕を引っこ抜くと、手に握られていたのは鈍い光りを放つ44オートマグだった。
「俺とエリオット、そして‘こいつ’でもう一度相手をしてやりますよ」
「……くれぐれも気をつけろ。ヤツはいつ、お前らを狙うか分からん。用心しておけ」
「わーかりましたよ。ったく困ったもんだ……しばらく休暇なんて取れなさそうだぜ、Dr.レッドフォードさんよ」
トミーはそう呟き、署長室から出て行いった。しかしこの時、ある光景が彼の脳裏に浮かんだ。それはDr.レッドフォードがトミーとエリオットを睨んだ途端、彼の視線から確かに感じ取った殺意、敵意、そして憎悪。二人はあれ程までに歪んだ感情を見たことがなかったのだ。トミーは煙草を取り出し、火を付けて口に咥えると思わず呟いた。
「……歪んだ感情か。もしかしたらヤツの犯罪行為に何か深い理由があるのかもしれねえな」
「ん? 何か言ったかトミー」
「あ、いや。ただの独り言さ。気にしないでくれ」
二人が会話をしているその一方、Dr.レッドフォードは身体の治療をする為に隠れ家へ帰投し、医療用の培養液が詰まった水槽内に入っていた。
助手が水槽の前のパネルを操作した。水槽内の培養液が抜かれ、するするとガラスが上がって行く。水槽から出ると、Dr.レッドフォードは助手にギロリと視線を傾けた。
「どうぞお召し替えください。お身体の方に痛み等は残っておりますか?」
言いながら、助手は修復された黒いコートとガントレットを渡した。Dr.レッドフォードの身体には傷一つ残っていない。まるで魔法だった。
渡されたコートを着こみながら、Dr.レッドフォードは冷たくこわばった表情で返答する。
「大丈夫だ。それよりも早くあの二人の調査結果を言え」
「分かりました。それではモニターに調査結果を映しますので少々お待ちください」
言うと、ベイルと呼ばれる男は巨大なモニターを電源を入れる。するとそこに映り出したのはトミーだった。
「彼はトミー・ブラウン。楽天的な性格で借金癖があり、警官とは思えない男ですが、身体能力はニューヨーク市警でもトップクラスの実力を誇っており、特に射撃能力においては署内の射撃大会で長年優勝を飾るほどの腕前を持っております」
さらにベイルはコンピューターを操作し、モニターの画像を切り替える。今度はエリオットが映し出された。
「彼はエリオット・ウィリアムズ。勇敢で真面目な性格の持ち主で、十年以上トミーの相棒として付きっております。身体能力はトミーとほぼ同等と考えていいでしょう」
「……未だに認められん。私がこんな奴ら相手に敗北したとはな」
「如何なさいましょう。レッドフォード様の権力を使えば、彼らを社会的に潰す事は容易いですが」
「いいや、彼らは私が直接相手をする。このDr.レッドフォードの顔に泥を塗ったのだ。私なりのやり方で決着をつけさせてもらおう」
モニターに映ったデータを見て、Dr.レッドフォードは心底怒りを感じていた。単独で軍隊を壊滅出来ると言っても過言ではないほどの装備を着用している自分が、たった二人の警察官に敗北をしたのだ。
この屈辱に頭の中で泡立つように殺意が漏れ始める。彼らのとどめを他の犯罪者達に譲るつもりはない。ガントレットを装着した手を握りしめた。次こそはこの手で、とDr.レッドフォードは思う。そして叫んだ。
「勝利こそが全てだ。Dr.レッドフォードに……敗北は許されん!」
これにてDr.レッドフォード編は終了です。
Dr.レッドフォードは再登場の予定をしておりますが、当分先になりそうです。
そして次回からは、銀行強盗事件やスラム街で起こる暴動騒ぎ等といった、ようやく犯罪大国らしい事件の話が出てきます(笑)
泣きたくなるような描写力ですが、これからもなにとぞよろしくお願いします。