第二話:家で寝てた方がマシだ
Dr.レッドフォードが放った電撃から避け、立ち上がったトミーはエリオットの方に視線を傾ける。
「エリオット!」
「……だ、大丈夫だ」
トミーの叫び声に反応し、エリオットはふらふらと立ち上がると、握っていた拳銃を再びDr.レッドフォードに突き出す。
「どうするトミー。応援を呼ぶにも、パトカーに置いておいた無線は車ごと破壊されてしまったぞ」
「ん……逃げようにも、このままアイツを野放しにしておく訳にはいかねえな。いや、むしろあの野郎をとっ捕まえればボーナスが出るかもしれねえ」
笑みを浮かばせながら呟くと、トミーはコートの内側に仕舞っているホルスターから鈍く輝く大型拳銃を抜いた。彼の持つ大型拳銃は44オートマグと呼ばれる、マグナム弾を使用する拳銃だ。その威力は圧倒的であり、ゾウですら撃ち殺せる銃なのだ。
トミーは44オートマグのボルトを引き縛り、照準をDr.レッドフォードに合わせた。
「ここら辺にいた住民たちは避難したらしいな。よし、今度はこっちから行くぜぇDr.レッドフォードさんよ!」
「愚民が……」
静かに呟くと、Dr.レッドフォードはコートの内側からボールのようなものを取り出し、それを投げた。それは空中でカチャカチャと音を立てながら、まるで生きているかのように空中に浮遊し始めた。
ぶるぶると震えるその球体の中心が盛り上がる。すると噴水のような勢いで、そこから何かが飛び出した。それは小型のロケット弾だった。
「……無人兵器か!」
エリオットの叫び声に応えるように、白煙を噴きながら、ロケット弾は見る間に二人に迫って行く。トミーが左に、エリオットが右にジャンプした。しかし空中で爆風に襲われ、トミーは電柱へと叩きつけられた。
立ち上がる間も無く、さらに新しいロケット弾がトミーへ向かっていく。だが、そのロケット弾はトミーに直撃する事なく空中で爆発した。エリオットが拳銃で飛来するロケット弾を撃ったのだ。
さらに続けて、トミーは44オートマグの照準を無人兵器の銃口に合わせ、引き金を引く。44AMP弾がまるで吸い込まれるかのように銃口へ入っていった。
すると無人兵器は赤く膨れ上がり大爆発を起こした。砕けた鉄片が四方に飛び、白煙が巻き上がる。トミーはDr.レッドフォードに銃口を向け、にやりと笑みを浮かばせる。
「悪ぃなレッドフォード博士さんよ。あんたをとっ捕まえればボーナスが貰えるかもしれねえんだ。それに爆破犯を野放しにしちゃあ警察としての面子も丸潰れだからな。さあ第二ラウンドといこうぜ!」
その声にDr.レッドフォードは、黙ってトミー達の顔を見返して言った。
「……いいだろう。その勇ましさが如何に無駄な事かを教えてやる」
彼らが話している中、エリオットが持つ拳銃の先端が、手の震えによってブルブルと震えていた。
無理もないであろう。映画やゲームに出てくるような小型無人兵器や、電撃を繰り出すガントレット等といった武器を所有している敵が目の前にいるのだ。現実離れした近未来の兵器。それに対してこちらは拳銃程度の武器しかない。勇敢な筈のエリオットは心底怯えていたのだ。それを察したトミーは、44オートマグの銃口をDr.レッドフォードに向けながら、エリオットの耳元で呟く。
「いいかよく聞け。まともに正面からぶつかり合えば勝ち目は無い。下手すれば二人共死ぬ事に……」
なるぜ。と言おうとしたその時、Dr.レッドフォードはガントレットを装着した手をこちらに向けた。するとガントレットから勢い良く炎が繰り出され、熱風と共に真っ直ぐとトミー達に向かって行ったのだ。
「だぁああやべえぜエリオット! こっちだ!」
驚くほどの反射神経だった。素早くエリオットの腕を掴み、近くの店へ飛び込んだ。炎から間一髪で逃れ、二階へ駆け込んで行く。店の中に客や店員の姿は見当たらない。どうやら騒ぎを知って、避難したようだ。
「あいつのガントレットは電撃だけでなく炎まで発射出来るのか……どうするんだトミー!?」
息を切らし、焦った様子でエリオットは叫んだ。しかしトミーはポケットからしわくちゃの煙草を取り出して火を付けると、うまそうに煙を吹き出し、口に咥え直して言った。
「落ち着けエリオット、さっきも言ったように正面からぶつかり合えば勝ち目はねえ。それに、そろそろ騒ぎに気付いて応援が駆けつけて来る筈だ。だからそれまで時間稼ぎをするしかない」
「時間稼ぎったって、一体どうやって?」
「俺が奴の目を引く。その間にお前は店の裏口を回って、奴の背後に忍び寄って撃て。出来るか?」
それを聞いたエリオットは一瞬戸惑いながらトミーと顔を見合わせた。彼は笑みを浮かばせているだけでなく、まるで勝利を確信しているかのような力強い目つきをしていたのだ。
トミーを見てエリオットは「死ぬなよ」と呟き、拳銃の弾倉を交換し始める。彼らは十年以上、相棒として付き合っているのだ。二人は優秀な警察官な上にコンビネーションも高く、彼ら二人が組めば検挙率が96%を超えるほどの腕前を発揮するのだ。例え相手が強大な力を持っていたとしても、二人で組めば負ける事はない。そう確信していた。
「さあてそろそろ……」
反撃開始だ。と言おうとした時だ。突如爆発音と共に二階の壁が破壊され、その衝撃によって二人はもの凄い勢いで床を転がり、壁に衝突した。白煙が部屋に充満し、何も見えなくなった。
トミーはエリオットを呼ぶ。エリオットはトミーを呼ぶ。それで互いに無事を確認した。
しかし気が付けば、薄れていく白煙の中心に人影があった。しかもそこは、先ほど壁が破壊された影響によって床が抜け落ちている筈だ。
とても人が立っていられるような場所ではない。そして次の瞬間、白煙が消えると同時に二人は一瞬自分の目を疑った。そこには、Dr.レッドフォードが‘浮いて’いたのだ。いいや。よく見れば彼の靴から勢い良く炎が噴出しているため、正確には‘飛んでいる’の方が正しいのかもしない。Dr.レッドフォードは表情を一切変えずに、ゆっくりと腕を組んで二人を見下した。それに対しトミーは、しわくちゃの煙草を咥えながら笑みを浮かばせた。
「冗談じゃねえ……アイアンマンかよあんたは。家で寝てればよかったぜ。逃げるぞエリオット」