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リミットゾーン  作者: 金ボール
第三章 デッド・オア・アライブ
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第十話:トミー先生の武器講座

 トニー・カルヴィーノ率いるマフィアによって銀行を襲撃されてから一週間が過ぎた。元々犯罪の多いこの国では、銀行強盗も珍しくはない。しかし今回の事件以降、犯罪行為が活発になってきた地域がある。その地域こそはニューヨークの南西部に位置する、サウスブロンクス。ストリートギャングが支配する地区だった。その治安の悪さは全米最悪と言っても過言では無い。白昼堂々と街中で薬物売買は行われ、放火や窃盗事件は一日に10件以上は当たり前に起こる。文字通りスラム街なのだ。


「悪いエリオット、ちょいとこの店に寄るぜ。車で待ってな」


 パトロール中、トミーはパトカーを店の前で停めた。その店はガンショップ。44オートマグを修理に出す為、その間の代替品を買いに来たのだ。中に入ると、初老に入りかけの男が立っていた。


「おっ。今日はどうしたんだトミー」

「ようポール。44オートマグの修理を頼みに来たんだ」


 言って、トミーは壊れた44オートマグをポールに差し出した。するとポールは眉を顰め、ため息を吐くように呟いた。


「派手にぶっ壊しちまったな……こりゃ時間がかかるぜ」

「何日ぐらいで直るんだ」

「修理自体はすぐ終わるんだが、なにしろ部品が希少だからな……いつ部品を仕入れるか分からねえし、お前の44オートマグはジャム防止にちょいと手を込んでるしなあ……もしかしたら1ヶ月以上かかるかもしれねえ」

「一ヶ月だと!? その間俺は何を使ってろってんだ!」


 大声でトミーは怒鳴った。まるで新しい玩具を買ってもらえない子供が駄々をこねているようだった。


「落ち着け。お前が大口径の拳銃しか使いたがらねえのは昔から知ってる。だからその間はこれを使っておけ」


 呟き、ポールは棚から木製のガンケースを取り出した。大きさ的には拳銃のようだ。中を開けると、そこには44オートマグに似た、長いバレルが特徴的な大型拳銃が入っていた。


「外見や重さが44オートマグに似ている上、性能ならこっちの方が上だ。どうだ、この際こっちに乗り換えたらどうだ」

「嫌だね。どんな優れた銃でも俺は一番手慣れてる44オートマグじゃなきゃ不安でしょうがねえんだ。まぁ今回は仕方がねえ。予備弾倉含めて幾らだい」


 問いかけると、ポールは計算機を取り出し、簡単な計算を終えると、画面をトミーに見せつけた。


「まだ借金を抱えてんだろ? 安くはしといたが……これ以上は無理だぞ」

「サンキュー。来月に他のツケと合わせて払っとくぜ」

「そう言って先月も払わなかったろトミー。来月に払わなかったら署に直接取り立てに行くからな」

「そりゃ困る……まあ、ありがとよポール」


 言って、トミーは大型拳銃が入ったガンケースを持ち、ガンショップを出て行った。パトカーに戻ると、興味津々な目つきでエリオットがガンケースを見つめる。


「なんだトミー。新しい銃か?」

「あぁ。署に戻ったらお披露目してやるよ」


 そう呟くとガンケースを後部座席に置き、トミーはパトカーを走らせた。その数十分後、署へ戻ると「また借金を増やしたのか?」と署員達が笑いながらトミーの机の周りを囲む。どうやら署員達もトミーが買って来た物に興味津々のようだ。


「それじゃ、お披露目するとしますか」


 言って、トミーはガンケースを開けた。すると中から銃身がシルバーに輝く大型拳銃を取り出した。


「ちょいとマニアックな銃だ。こいつは475ウィルディ・マグナム。俺の愛銃、44オートマグが販売された直後に販売された大型拳銃さ。デザート・イーグルが出るまでは世界最強の自動拳銃だったんだぜ」

「へぇ……それにしても独特な形をしているな。44オートマグの先端部とコルト・ガバメントのグリップ部を組み合わせたような形だな」


 475ウィルディ・マグナムを眺めながら、エリオットがそう呟いた。


「この独創的な形も魅力の一つかもしれねえな。弾薬やバレルのバリエーションも数多い上に、商業的に完全に失敗して80年代に生産中止になった44オートマグと違って、倒産や生産中止を繰り返しながらも、今もこいつは生産されてる。世界最強の自動拳銃という称号はデザート・イーグルに奪われて影の薄い不遇な銃だが、根強い人気を誇ってる事は確かだぜ」

「出た出た、トミー先生の銃講座だ」


 署員達は得意げに話すトミーを見て、笑みを浮かべ始めた。その様子を見たトミーは「俺のお陰でまた一つ賢くなっただろ?」とにやけながら475ウィルディ・マグナムをホルスターへ仕舞った。そして手を叩きながら「さて、そろそろ仕事を再開して速く終わらせようぜ」と言うと、署員達は一斉に自分の持ち場に戻り始めた。何かと問題の多いトミーだが、彼は署員達のムードメーカーでもあるのだ。冷静かつ勇敢な相棒・エリオットと共に悪党を大型拳銃で倒していくその姿に、いつしか署員達は彼ら二人に憧れと信頼を抱いていたのかもしれない。トミーが死ぬなどあり得ない。署員達はそう信じていた。


「よぉし……やっと仕事が終わったぜ……帰ってビールだ」


 時刻は夜七時。トミーは怠そうに呟くと、エリオットやその他の署員達に軽く挨拶をして署を出て行った。駐車場へ行き、愛車であるフェラーリ250・GTOと呼ばれる車のドアを開けた。この車は1960年代に開発されたスポーツカーであり、今では世界で100台とない希少な車である。値段はというと一般庶民にはとてもじゃないが購入出来る代物ではなく、過去に行われたオークションでは約65億円で取引された物もある。それをなぜトミーが所有しているのか? それは過去に起こった事件で、捕らわれた大金持ちの夫妻を助け出した際にそのお礼としてプレゼントされたからだ。これをオークションにでも出せば借金は全額チャラとなる。しかしトミー自身はこの車に愛着をもっている為、売ろうにも売れないのだ。


「やれやれ……借金は増えるばかりだぜ。どうやったら減らす事が出来るのかねぇ」


 信号待ち途中で呟いたその時だ。突如、大きな叫び声と共に車の窓ガラスが割れた。いや、割られたのだ。咄嗟にトミーは475ウィルディ・マグナムを抜こうとするが、その前に何者かが腕を掴み、恐ろしい程の腕力でトミーの身体ごと窓から外へ放り出した。放り出されたトミーの目の前には、ガラの悪そうな大勢の黒人達がバットやバール等を持ってその場に立っていたのだ。


「なんだてめ……」


 何かを言おうとしたトミーだが、後頭部を凄まじい勢いで殴られた。その威力に耐え切れず、そのまま意識を失ってしまう。そしてトミーの背後にいた男が呟いた。


「悪ぃなトミー。アメリカ最悪のスラム街へ案内してやるぜ」

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