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リミットゾーン  作者: 金ボール
プロローグ
1/18

トミー・ブラウンという男

 午後一時、うんざりするほど香ばしい焼きたてのホットドックの匂いが店内を漂っている。

 ここのダイナーでは最高とは言い難いソーセージを店長がパパッとパンに挟め、極上とは懸け離れたマスタードを味付けさせたホットドッグがたったの50セントで購入出来る。

 そんな破格な値段の為、昼過ぎには貧乏な市民やケチなマダム達がウヨウヨと砂糖に群れる蟻のように集まってくるのだ。無論、警察官も例外ではない。


「やあトミー。今日が給料日だったんだろう? 幾ら貰ったんだい」

「おうレイモンド……たったの2400ドルさ。しかも2000ドル分は署長から借りたカネを返さねえといけねえから、今月はあと400ドルで生活しなきゃならねえ」


 ダイナーの常連客、トミー・ブラウンはポケットに手を突っ込むと、魂も一緒に抜け出ていきそうな深いため息をついた。そしてクシャクシャになった4枚の100ドル札を取り出し、片眉をひそめながら呟く。


「この400ドルで残り一ヶ月間どうやって生活すりゃいいと思う」

「いいや違うね。400じゃないよ。先月300ドル分ツケといてやったろ」


 それを聞いたトミーは軽く舌打ちをし「憶えてやがったか」と呟きながら300ドルを渡した。対してレイモンドは楽しそうな笑みを浮かばせながら「もちろん」と返答し、300ドルを受け取る。


「……また借金生活か。とりあえずいつものやつを頼む」

「ちょっと待ってて。そろそろ来るだろうと思ってさっき予め作っておいたんだ。はい、ホットドッグとオレンジジュースお待ち」

「さんきゅ。この先思いやられるぜ」


 ホットドッグを口へ運ぼうとしたその時だ。突如勢い良く店の扉が開くと同時に、覆面を被った男が拳銃を持ちながら店内へ入ってきた。


「動くんじゃねえてめえ等! 強盗だ!」


 トミーは反射的に振り向き「食事ぐらいゆっくり食わせてくれよ」と呟き、ゆっくりと椅子から立ち上がった。


「来るタイミングを考えるべきだったな。俺は警官さ。大人しく銃を捨てろ」

「しっ、私服警官かてめえ! そっちこそ大人しく両手を上にあげてろ!」

「やだね。てめえを取り押さえれば給料が少し増えるかもしれねえんだ。頭をぶち抜かれたくなかったら大人しく自首しな」


 言うと、トミーはコートに手を突っ込んだ。強盗犯は息を荒くしながらトミーの方を向いている。


「何を取り出す気だてめえ……やめろ!」

「どうして? お前さんへのプレゼントを取り出すかもしれねえんだぜ。ありがたく受け取っとけ」


 強盗犯が向けてる拳銃の先にはトミーが立っている。

 しかしトミーは焦るどころか強盗犯を馬鹿にするかのように、ニヤニヤと笑みを浮かばせていた。

 ブルブルと強盗犯の持つ拳銃は震え始め、額から脂汗を流す。

 そしてトミーがコートから何かを取り出そうとした時だ。


「やめろ!」


 叫ぶと同時に、強盗犯はトミーに向けて引き金を引いた。

 反射的にトミーは身を伏せると、轟音とともに背後にあるワイングラスが砕ける。それと同時に44オートマグと呼ばれる大型拳銃をホルスターから抜く。

 トミーは余裕の表情を見せながら44オートマグの照準を強盗犯に合わせ、引き金を引いた。

 弾丸は強盗犯の肩を貫き、強盗犯は悲鳴を上げると一回転して倒れる。それを確認したトミーはゆっくりと近づいて行き、語り始めた。


「痛むだろ? 当然さ。コイツは44オートマグといって20年以上前に作られた拳銃だが、ゾウだって殺せる威力を誇るんだぜ」


 トミーは銃口を強盗犯に向けた。銃身を8.5インチにまでカスタムしたバレルは、真っ直ぐと強盗犯の眉間を向いている。

 強盗犯は肩を撃ち抜かれた痛みで動く事すら出来ない上に、外からはパトカーのサイレン音が聞こえてくる。逃げる事は不可能だった。


「くそ! パクるならさっさとパクれ!」

「降参か。それでいい。ついでに言っちまうとだな」


 言いながら、トミーは再びコートの内側に手を入れた。そこから紙切れのようなものを取り出し、強盗犯に見せつける。

 紙には数桁の額が書かれていた。


「これは借金の契約書さ。さっきこれを取り出して、俺の代わりに全額を払ってくれるなら見過ごしてやろうって言おうとしたんだがね」

「……くそが!」


 満面の笑みを浮かばせながら、契約書と44オートマグをコートの内側に仕舞う。そして食べかけのホットドッグを持つと、店を出て行った。


 2020年、治安の悪さに犯罪大国とまで呼ばれるようになったアメリカ合衆国。

 そんな物騒な国でおまわりさんをやっている俺だが、まあこの国は嫌いじゃない。俺のようなクソッタレでも楽しくやっていけるような場所だからな。

 しかし犯罪者が出れば話は別だ。奴らは害虫のように増え続け、一度滅ぼせば姿形を変えて復活してくる。

 それに時代も時代だ。2020年となると、映画に出てきそうな近未来をイメージする武器を駆使してくる殺し屋もいる。


 いつ背後からナイフでぶっ刺されるか分からないこの国で、俺はいつまでやっていけるのか?

 ま、そんな複雑に考える事はない。警察官としての誇りがある以上、しぶとく奴らの相手をし続ける。


 ーーそれだけのことだ。

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