ソラ
ねぇ、世界はやっぱり美しくなかったよ
こんな世界ほんとに必要?
帝都ブルッペイン―大陸の約半分を領土とするカウンセリン帝国の王城があるこの街は活気に溢れ生活水準も高い。今は春―四年に1度ある競技祭が催されており、街は普段以上の賑わいを見せている。
競技祭とは魔術、武道、魔術武道混合と三つの部門に別れて競われる。
優勝者には高い賞金がでるため参加者も多い。そして何より参加者が求めていることは自分の力が王、または『天空の騎士』の目にとまりスカウトされることだ。城に勤めることで今後の生活は約束され、『天空の騎士』は全国民の憧れの対象である。自然、競技祭はレベルの高いものとなる。全国各地から集まった強者達が参加するのである。
「―ダウンっ!!勝者クイール選手!!」
手を振り観客の声援に応えるのは筋肉質で大柄な男だ。顔立ちは髭が生えていて目つきが悪く凶悪そうであるが、その瞳には深い知性の輝きがある。野生の誇り高き狼を思わせる。クイールは待合室に戻ろうと選手用の通路へ進むが、この場にいささか不釣り合いな、どう多く見積もっても二十前半程度の年の少年が両手を握りしめて震えていた。
「おい、坊主。お前出場競技間違えてねぇか?」
クイールが出場し、次に少年が出場しようとしているのは武道部門。魔術部門ならこのような細い体の少年でも希望はあるかもしれないが、野獣のような力自慢の大男達が数多く出場するこの部門では絶望的である。
「ま、間違えてないです。ただ僕上がり症で人前で何かするの苦手なんです〜」
少年は試合で大男と闘うのに恐れて震えている訳でなく、観客の多さに緊張していた。
(肝が座ってんのか軟弱なんだか)
クイールは呆れると共にこの少年に興味を覚えた。
「俺はクイール。坊主は?」
「あっ僕はソラっていいます」
「そうか。試合がんばってこいよ」
「はい!ありがとうございます」
クイールは一見少女のようにも見えてしまうこの少年がどこまでやれるか楽しみだった。
しかしこの少年、魔術部門、武道部門、魔術武道混合部門、と全部門優勝するという史上初の強者であったのだ。