第2話
「あら……ごめんなさいね。煙がダメだったかしら」
彼女はそう言うが、私は特にそう思わなかった。ただ自分で吸おうとはしないだけで、特に嫌煙派ではない。たしかに世間では『嫌煙家 増加へ』や、タバコ税が増税したり、喫煙スペースが無くなったりなどで喫煙家には悪い世界になっているのもまた事実だった。
「いや、大丈夫だ」
私はすぐに否定するとまた酒を飲んだ。おつまみのチーズをつまみながら、酒を飲む。この時間が私の疲れを癒してくれる。とてもいい時間だ。
そうして酒を入れていたグラスが空になってきてぼちぼち良い頃合だと思ったとき、マスターが私にグラスを差し出してきた。
「おいおいマスター。私は注文していないぞ」
「あちらのお客さんからだよ」
マスターの言葉を聞いて、彼女の方を見た。彼女は笑っていた。
私はそれに敬意を表してグラスを高く掲げる。彼女はそれを見て小さく微笑むと、彼女もグラスを高く掲げた。そういうマナーのようなものだ。
私は無言でそれを一口啜った。美味い。格別だ。喉が焼けるような熱さを感じる。何度味わってもこの感覚は相変わらず新鮮そのものだ。
「美味しい」
「……やはりニンゲンも酒やタバコは嗜好品として嗜んでいたのでしょうね。まったくもって、こういうのはニンゲンのほうが上手であると思うわ」
彼女の声は妖艶だった。艶かしく、美しい声。色気のある声――というとどこか年齢を感じさせるものがあるが、しかしそれがその彼女にはとてもよく似合った。
「ねえ、あなた今夜遊ばない?」
「遊ぶ、とは。私たちはロボットだ。昔ニンゲンが興じたと言われる行為などできるわけがなかろう」
私はそう真面目に答えると彼女は小さく微笑んだ。
「真面目なのね」
彼女はため息をつくと、マスターに声をかけた。
「マスター、何かオススメのおつまみ二つ。ひとつは彼にね」
マスターはそれを無言で頷き、了承した。
△
それから彼女――スロウスとは仲良くなった。ただの友人としての関係のようにも思えたが、彼女との関係を続けていくうちに普通の友人という関係では思えなくなったのだ。
「スロウス……」
私は呟く。場面は再び牢獄へと戻っていた。
「待たせたわね」
その時だった。
その声は上にある隙間から聞こえた。
その声は私がよく聞く声だった。
「スロウス、遅かったな」
「私だって準備があったのよ。……さて、そこから出してあげるわ」
あっけらかんにそう言うが、どうするのだろうか。
私が考えていると、扉が開いた。誰かと思い身構えていると、
「大丈夫です、私はあなたの味方です。さあ、急いででましょう!」
黒ずくめのロボットがそう私に語ったのだ。
私はそれに――頷くほかなかった。