第11話
私はエルムに許可をもらって、外に出ていた。
空気を吸い込み、夜の冷たい風を浴び、星空を眺める。
普通のロボットからしてみれば、あまり特別に思わない行為だが、私はこれが特別な行為だ。
彼女と会う前に、私が必ず行うことだからだ。仕事の関係上、夜にならなくては彼女に会うことが出来ないのだ。
「もう私は……逃げることなどしなくていいのか」
逃げなくていいのか、彼女は大丈夫なのか。
私は壊れてしまっても構わない……だが、せめて彼女だけは……助けたい。生きていることを知った今ならば尚更だ。
「大丈夫か」
声を聞いて、私は振り返った。そこに居たのはエルムだった。
「ああ……エルムか。どうかしたのか?」
「君の様子がおかしかったからね。もしかしたら怖くなってしまったんじゃあないのかと思ってしまったものでね」
エルムの言葉に私は噴き出しそうになってしまった。私は何の不安を抱いていたのだろうか、忘れてしまうほどだった。
「……いや、そんなことはないよ。ただ、上手くいくのか気になっただけだ」
「そうか、それならば……それならば構わない。説明は先程した通り、この建物の地下にある『アマテラス』のスイッチを起動するだけだ。まだバレてはいないから直ぐ済むはずだ」
エルムの説明はさっきにも聞いた通りだ。だが、何だろうか、この違和感は? 何か嫌な予感がさっきからしていた。
エルムが訊ねるが、その違和感の正体は掴めない。
『裏切り者と人間・エルムに告ぐ』
不意に恐らく私とエルムを呼ぶ低い声が聞こえた。
その声は、少し遠いところにあるタワーにつけられたモニターから聞こえてきた。
『私はレガシィという。裏切り者にも人間たちにも聞き覚えのない名前だろうが、私はロボットで一番地位の高い存在だ。それは即ち、私がこの世界を統べていることに等しいのだ』
モニターに写っていたレガシィは黒い仮面をしていた。だから声が仮面で籠っていた。そんなことはどうでもいいのだが、私たちに得のある提案をするとは思えなかった。
『……さて、ここからが本題だ。私にはロボットをコントロールすることなど出来ない。しかし君たちを捕まえることなど容易だ。だが手荒い真似はしたくない。私だって鬼ではないからな。だから、さっさと投降することをお勧めする。でないと……ひどく後悔することになるだろう』
それだけを残して、モニターはまた通常の放送構成に戻った。
「……私たちがそんなもので諦めると思っているのか……ロボットめ……!」
隣にいたエルムがわなわなと身体を奮わせながら言った。怒っているのだ。
そしてエルムは踵を返し、建物へと入っていく。
私も、一歩踏み出さねばならない。この計画を、実行するために。
これが終わったとき最後に残されるものは――果たして何なのだろうか?
それは、今の誰にも解らなかった。