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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル02「久々の 勇者誕生 大事件!」
8/95

(王立学園・女子寮)

ここから、学園に舞台を移します。

   ◆◇◆



 ――午前八時十二分。

 ティマイオス王立学園の女子寮、三階廊下。


「まったくアンナさんたら、寮の朝食の時間を無視し続けていて! わたくしの忠告を軽んじていらっしゃるのね。忌々しい、あー忌々しいったら、忌々しい!」

 女子寮三階の角部屋、三○七号室の扉の前を行ったり来たりしている一人の生徒。

 腕を組んで、大きな胸を持ち上げていたのは、学園高等部の三年生・生徒会長のマリー・アレンだった。


 彼女の制服の胸では緑色のリボンが揺れていた。現時点では、三年生が緑色、二年生が赤色、一年生が青色と、それぞれが色分けされている。

 男子はネクタイ、女子はリボンで学年を見分けることが出来るのだ。あとは体操服のラインにもその色が入っている。上履きのスリッパも、色で区別されるのだった。


 十七歳のマリーは、長い銀色の髪の毛で、緑色の瞳をしていた。色白を通り越した、青白い皮膚の色。決して不健康なワケではなくて、彼女の属する民族固有の特徴だった。


 ――青色人。


 彼ら彼女らの多くは、耳の先端が尖っている。小さくて高い鼻と、薄い唇も特徴であった。また、あごのラインはスッキリとしていて、美形の顔立ちをしている。

 マリーもたがわずに美人であったが、ほんの少し丸まっている耳の形を気にしているのだった。彼女は、純血の青色人ではない。

 だか、その血筋が彼女を高貴な身分に押し上げていた。


 母親は青色人で、現教皇の長女であった。そして、父親の方は白色人の貴族なのだ。父親はニコラエヴァ王家と親戚関係にあり、現在は臨時王として摂政の役割をこなしている。

 祖父が、大陸国家ティマイオスの宗教トップの教皇であり、母親は将来の教皇の地位が約束されている第一皇女だった。

 父親は、先代の女王アレクサンドラ・ニコラエヴァの従弟いとこにあたり、現在は仮王宮で政務につとめている。

 その二人の一人娘であるマリー・アレンは、将来的にはティマイオスの女王に就任すると噂されているほどの才媛であった。


 学園でもトップクラスの成績であり、生徒・教職員からの信頼も厚い。

 彼女の職業は大賢者で、到達予想レベルは99。

 今現在は、レベル48。一年前までは学園のトップだった。

 アンナ・ニコラが入学してくるまでは……。


 当時の新入生アンナは、大魔法使いであると入学時に判明した。久しぶりのレア職業の登場に、学園全体は色めき立つ。

 そして、アンナの到達予想レベルも99。マリーは、学園ただ一人の存在だった到達予想最高レベルの座を奪われる。そして、アンナは現状でレベル50であった。

 学園全体の学科・体育・魔法・武術の成績でもトップの座を奪われてしまった。


 一方的にアンナをライバル視するマリー。しかし相手は、自分の事を歯牙にも掛けない――ああ、腹立たしい!

 好敵手の部屋の前で、本心を露わにするマリーであった。



「アンナさん! 食堂に現れずに、まだ寝てますの? アナタは入学一年目で、学園トップの成績――そのために、授業や寮生活にかかる費用の全ては国家持ち。それで、こんな時間まで、のんきにご就寝ですのね。二位のわたくしも、国家から援助を受けてますが、ホラ、わたくしは父が臨時王で、母が次期教皇の恵まれている家庭でしょう、お金の件は大した問題ではないのです。ですが、わたくしにもプライドがありますのよ。ねえ! 聞いてますの、アンナ・ニコラ生徒代表!」

 重厚な木製の扉に向けて叫ぶマリー。

 ドアには「アンナ・ニコラ」と、横書きで名前が署名してあった。


「アンナさん! アンナさん!」

 必死に呼びかけるが返事はない。

 ドアを強く叩き続ける。


(二位のわたくしを、バカにして見下しているのだわ)

 そう感じ、90センチメータルあるバストの前で、右拳を強く握るマリーであった。



 ドスン! ガタン!


 その時、部屋の中から聞こえる大きな音。


「な、何ですの? 何事ですの? 盗み聞きをするようで心苦しいのですが、これも生徒会長の努め、後輩寮生の生活態度を指導し、改めさせるのも上級生の役目なのです」

 自分に言い聞かせるように語るマリー。ドアに右耳を押し当てて、聞き耳を立てている。


「アンナ姉ちゃん! ここ、お風呂場じゃないか!」

 部屋の中から、子供の声が聞こえて来た。だが、寮部屋奧の浴室からなのか、声がこもっていて聞きにくい事この上ない。


 ――でも、紛れもないこれは!


 男、男、男、男、男、男、男、男、男、男!


「こ、こ、これは不純異性交遊というものですか!? うらやま……い、いいえ! ゆ、ゆ、ゆ、許されませんわ! 強化魔法、地獄耳!」

 大賢者レベル48のマリーは、自分に対して聴覚強化の特殊魔法を掛ける。浴室の扉越しの声が、クリアに聞こえて来た。


「ああ、メンゴ、メンゴ。あ、ダメダメ、ダメよ、そっち触っちゃダメ!」

 こちらは、アンナの声。

 マリーは目をつむり、集中をしていた。他の感覚を断ち切り、聴覚のみを研ぎ澄ます。

 これも、魔法の効果なのだ。


(ダメ? 男に、どの場所を触らせているの? け、穢らわしい!)

 そんなことを思うマリーは、更に耳を近づける。ドアに体を貼り付けていた。制服の豊かな胸の部分が押しつぶされている。


「あー、シャワーから水が出てきた。姉ちゃん、濡れちゃったよ」


(姉ちゃん? 濡れちゃった? ――ですって!?)

 マリーは、白いシャツに水を被って下着を透かしているアンナの姿を想像する。

 想像上のアンナは、何故かスカートをはいてなく、健康的な太ももがのぞいていた。アンナのあられもない格好を空想し、頬を赤らめる生徒会長だった。


「い、いかん、いかん。集中、集中」

 声を出し、意識を引き戻す生徒会長のマリー。


「早く服を脱いで、乾かすから!」

(服を脱いで!? まったく、何をしでかしているのかしら!)

 男を脱がしに掛かる、半裸のアンナを妄想……。

 鼻血を出しそうになり、首の後ろをトントンと叩くマリーだった。



「うわ! いきなり何するの! 焦げちゃったじゃないか!」

 男の声は、幼く聞こえた。少年のようである。

(いったい何が焦げるの? そんなに激しいプレイなの?)

「このくらいガマンしなさい。制服が茶色だから、目立たないでしょ!」

 叱りつけるようなアンナの声。まったく、部屋の中で何が繰り広げられているのか……。

 気になって気になってしょうがないマリーだった。


「い、痛いよ! アンナ姉ェ、痛いよ!」

「しっ! ジッとしてなさい! そんなに動くと、入らない……」


(入らない!!!!???? どこに???? なにが????)

「そんな、うらやまけしからん事、許しません! ステイタスカード起動!」

 マリーは立ち上がる。何かを決心した表情だった。


「開錠アイテム! 装備!」

 カードを持つ右手を、大きな胸の前に出す。そうすると空中に大きな鍵が出現する。カードを胸の谷間にしまい、両手で鍵を受け止める。

 南京錠の鍵の形態をしており、金色に光っている。


「魔法扉オープン!」

 大きな鍵をドアに押しつけて左に90度回す。

 ガチャリ!

 開錠された音が廊下に響く。王立学園の女子寮の各部屋のドアには、物理錠の他に、魔法錠のロックが掛けられている。


「えーと、合い鍵、合い鍵は……。そうでしたわ、合い鍵モード!」

 開錠アイテムで魔法錠は開けられるが、物理的なロックは掛けられたままである。しかし、大賢者の所有する開錠アイテムは便利であった。

 合い鍵モードになるとアイテム自体が小さく縮み、錠前に合わせて鍵の形状も変化する。

「ガチッ」

 扉の鍵穴に差し込んで回す。ゆっくりとドアを開ける。



「アンナさん、何をしていますの! もうすぐ入学式が始まりますよ!」

 部屋にふみいり、奧に向け叫ぶ。しかし、室内は真っ暗だった。奧にあるバスルームで照明が光り、二つの影が揺れていた。


「アンナ姉ちゃん、穴は塞がった?」

 奧から少年の声。彼女が、男を女子寮の部屋に連れ込んだのは明白だった。


「アンナさん! 男子禁制の神聖なる女子寮に、男を招き入れましたね! これは、重大なる規則違反です。即刻、退寮して頂きます。そして、生徒会長の権限で、退学処分の検討会議の議題に、上程をいたしますわ」

 ツカツカとバスルームまで歩き、白いシャワーカーテンをめくる。


 きっと二人は、裸でいけない行為に及んでいるのだわ――マリーは顔をうつむけて、真っ直ぐに見られないでいた。

 三年前のトラウマ。


「どうしたの? 生徒会長さま」

 白い陶器製のバスタブ横、蓋をされた便器の上に腰掛けて、足を組み侵入者を見上げるアンナの姿があった。


 マリーは顔を上げる。

「え…………と…………」


 バスとトイレが一体型の場所。生徒会長は、その中をくまなく見渡すが、男の姿はどこにも無かった。


「生徒会長さまとあろうお方が――由緒正しき、教皇さまのお孫さんが――後輩女子のトイレ姿をのぞくのですか? 魔法を使って、鍵まで開ける念の入れよう。ま、まさか! 学園内でも浮いた噂の一つもない生徒会長さまには、人に言えない特殊性癖があったなんて! なんて!」

 アンナは立ち上がり、パンツをはく動作をする。


「あ、アンナさん、何をしていらっしゃったの? 確かに、男の声がしていました! どこに隠したんですの!」

「成績二位の生徒会長は、目障りな学園一位の生徒に、いらぬ嫌疑をかけて追放しようとした。証拠はあがってますよ。ホラ、魔法動画再生!」

 アンナが叫ぶと、バスルームの壁に映像が投影される。

 三○七号室の真正面に設置した、監視アイテムによって撮影された画像だった。


 アンナの背中に回される右手。彼女はしっかりと、自身のステイタスカードを握っていた。

 そのカードを、制服の内ポケットに隠す。



 「い、いかん、いかん。集中、集中」

 「まったく、何を……」

 「……ません! ステイタスカード起動!」

 「魔法扉オープン!」


 ドアに聞き耳を立て、魔法アイテムを使って後輩女子の部屋に侵入を企てる……生徒会長の図。

 映像には、そのようにくみ取れるよう――悪意のある編集がされていた。



「ででででで、でっちあげですわ!」

「判断をするのは、理事会ですよ」

「り、理事長は父です。理事会には、母も入っています。両親の力添えがあれば、理事会の方針など、ねじ曲げるのはたやすいいこと」

「パン!」

 アンナはマリーの目の前で手を叩く。

 ビックリして、目をパチクリさせる生徒会長。


「この発言も録画しました。権力を使って、無実の生徒を罠に嵌め――おとしいれる。判断を行うのは理事会です。次期教皇のパトリシアさまも、お立場をお悪くされますわ」

 勝ち誇ったアンナの顔。母親の名前を出され、うろたえるマリー。はめられていたのが自分だと知る。


「な、ななな、何が目的なの? わたくしを脅迫して……」

「脅迫とは、まー怖ろしい! アタシは家族を部屋に案内しただけですのよ」


「パチン」

 アンナは天井に向けて左手を伸ばし、指を鳴らす。


「ドスン」

 天井から人が降ってきた。

「イテテ、酷いよアンナ姉ちゃん」

 バスタブの上に落ちてきた少年はアンナに文句を言い、外に出ようとする。しかし、浴室床には何故か石けんが落ちており、右足で踏んで前のめりになって転びそうになった。


「うぷっ!」

 カイトは、顔面を大理石製の固い床にぶつけるところだったが、思わぬ場所にクッションがあって助かった。

(ああ、柔らかい!)

 顔をうずめ、感触を楽しむ。こんなに柔らかくて、気持ちよくて、温かいのは初めてだ――カイトは悦楽の表情を浮かべる。



「な、ななな、何をしていますの!」

 カイトが顔を突っ込んでいたのは、生徒会長マリー・アレンの胸の谷間だった。


「え! あああ! す、すみません!」

 驚いて床に正座する少年。深々と頭を下げてから、上げられた顔。可愛らしくて、クリクリとした黒い瞳に吸い込まれそうになる生徒会長。

 幼い頃から、周囲には男子のいない環境だった。


(ズキューン!!)

 マリーの心臓を、何かが射貫いた。



   ◆◇◆


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