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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル11「復讐を 終えてむなしさ 残りけり」
76/95

(マリヤの冒険)

本日より再開します。しばらくは毎日19時に更新予定です。


 ――午後零時十五分。

 王立学園高等部女子寮、三○七号室。


 バン!


「オイ! 何をしている!」


 勢いよくドアを開けてアンナの部屋に入って来たのは、聖戦士クロエ・ブルゴーであった。

 クロエはこれまでは、女子寮部屋のドアと同じくらいの身長であったのだが、すっかりと小さく縮んでしまっていた。長い赤い髪の毛をポニーテールにしているのが、過去からのトレードマークであったので、それだけが唯一の共通点だった。

 そして、燃えるような情熱的な赤い瞳は、一点を見つめる。瞳孔が開く。


 クロエは、ベッドの上で、下着姿で抱き合う従妹の同じく聖戦士サラ・ザラスシュトラと、マリヤ・ニコラエヴァ第三王女の二人を発見し、目を丸くしていた。

 ちっこい背丈になってしまったクロエは、右手をプルプルと震わせている。歴戦の勇敢な戦士が、まるで小動物のような可愛さを備えるようになってしまっていた。

 クロエにはこういった体験は皆無であった。異性は当然としても、同性相手でもなかったのだ。だから、面食らって動揺している。

 恋愛には奥手の彼女は、初めての光景を前にして当惑する。同年代の女子が――恋だの愛だのと――浮かれている間にも、剣術の鍛錬を怠らなかったのだった。


「ど、どうしました? あっ!」

 大神官のマリー・アレンもクロエの後に続いて部屋に入ったが、驚いて口に手を当てる。恋愛当事者同士のお互いの趣味・趣向には口を出さない主義のマリーであったが、同性愛はティマイオスの法律でも宗教上でも禁止されているからだ。

 禁忌を前にして、体を硬くする。

 そうして、過去に目撃した父親とその愛人との情事の光景を思い出す。まあ、その時ほどの肌の露出は無かったが……。


「いえいえ、違います。で、殿下がおたわむれを――中等部の制服が、可愛いと――私の胸が大きいと、お触りになるのです」

 中等部の制服を脱がされていたサラが、必死に言い訳を考え、赤い顔で語る。ベッドの下に落ちた灰色のベストを取り上げて、はだけてしまったたわわに溢れる胸を隠していた。


「どうしたの? サラちゃんとはお友達になったわ。女の子同士の仲好しさんは、こういう肌と肌の触れ合いもするのでしょう?」

 マリヤは、姉のオリガに教えられた間違った知識を披露する。


 十一年前。

 深夜の王宮のニコラエ宮殿。帰省したオリガの部屋に、寝ぼけたマリヤが迷い込んで目撃した光景。

 姉のオリガは、王宮の魔法護衛部隊でありマリヤの魔法授業の講師であるブルカ・マルカと同じベッドで眠っていた。

 女の子同士が裸になって情愛を深め合う行動は、まだ七歳の幼女には理解出来ないでいた。


「それよりも、アナスタシア殿下はどうされた? 午後からの行動を相談に来たのだが、この部屋を臨時の作戦本部にしたのでは無かったのか?」

 学園の警備担当となったクロエは、敷地や建物の見取り図を取り寄せていた。


 寮の自治会のメンバーたちは、既に学園の要所に散っている。

 腕に覚えがある戦士や武闘家たちが、武装をして学園への出入口を固めている。


 剣術大会に出場した格闘Bクラスの二年生の戦士、バジャルド・カレラスも、嬉嬉とした表情で学園正面の大きなゲート下に陣取っていた。

 彼の着る黒金のはがねの鎧が太陽光にきらめく。折られた家宝の剣も武器屋に繋いでもらっていた。剣にはめられた宝石が輝く。

 しかし、ほとんどの一般生徒には通常の授業を受けるように指示がしてある。一部を除いては、普段の学園風景が繰り広げられている。

 グラウンドでは、体操服姿の女子生徒の歓声が響いていた。

 新一年生のブルマを目で追う、黒金の戦士だった。今の時間は昼休みで、少女たちは――キャッキャウフフとボール遊びに興じていた。



 その声が、高等部女子寮三階の開け放たれた窓まで聞こえる。

「現在の一番の問題は、代議院さん貴族院さんたちへの連絡方法にあります。その事を報告しようとお伺いしたのですが、アンナさん――いえ、アナスタシア殿下はドチラですの?」

 マリーは、学園の図書館にあった大きな革表紙の議員名簿を抱えていた。

 今のところ時間は限られている。議員全部の説得は無理なので、各院の実力者・有力者への懐柔工作を優先させるためだ。


「アンなら、魔法でどっか行っちゃったよ」

 マリヤはベッドから体を起こして、体の下敷きでしわくちゃになった白シャツを着直そうとしている。そうして、何でもないようにポツリと言った。


「どこか……だと! おい、サラ! アナスタシア殿下にピッタリと貼り付けと言ったはずだ。殿下は……アイツは、目を離すと一人で勝手に突っ走ってしまうからな、反省しろ!」

「す、すみませんでした!」

 サラはベッドから飛び降りて、アンナの部屋の床に正座する。

 クロエに一喝されて、プルプルと小刻みに体を震わすサラだった。彼女は顔に掛かっていた前髪を必死に整える。黒い眼帯のされていない左目が、アンナの部屋の中空をさまよっていた。自分の失態の大きさを理解していた。


「サラちゃんを叱らないで……。悪いのは全部マリヤだから……」

 サラに寄り添い座り、うるうると目を潤ませてかばおうとするマリヤだった。アンナの白シャツを着る彼女の第二ボタンは、胸に押し出されて今にもはち切れそうだった。


「で、殿下。めめめ、滅相もないです」

 サラは、抱きしめてくるマリヤの右手を強く握りかえしていた。

「まあ、いいですわ。わたくしたちだけで、全ての状況判断をしましょう。優秀な生徒会のメンバーも協力してくれますから、心強いです」

 マリーはマリヤの頭に優しく手を乗せる。そうして、年上のお姉さんらしく振る舞う。相手の中身は、七歳の幼女であるからだ。


「その生徒会の連中はどうしたのだ?」

「今は、大食堂でランチ中です。通常時は、わたくしが早番で、他のメンバーがその後に食事をして、緊急の生徒会の案件に備えていましたから。今日は、彼女たちに先に食事をとってもらっています」

 マリーは斜め下に視線を落として告白する。交替で食事とは言ったが、どうにも顔を合わせるのが気まずいのだ。

 生徒会選挙での公開討論会の場。頭が良く弁の立つマリーは、相手候補を徹底的にやり込めてしまっていた。その相手が現在の副会長であり、他のメンバーの書記・会計も副会長の腹心たちで固められている。


「え、食事? マリヤも行く行く!」

 御飯と聞かされて、目をキラリンと光らせる。立ち上がり、自分の希望を述べていた。

 そういえば、ピーちゃんの姿となった状態で、何にも食べてはいないのだ。

 あの遺跡内部での、モンスター『ヨルムンガンド』以外には……。


「で、殿下。このお姿でお歩きになるのは、流石にまずいかと……」

 サラはマリヤの姿を見る。下着の上に白いシャツだけを着ている。その格好は、本当にアンナにそっくりであった。違いは、髪の長さと、胸の大きさぐらいなのだ。

 中身は七歳の幼女であるので、騒動が巻き起こるのは必須である。


「仕方無い。アナスタシア殿下が健在であるとの証明にもなるから、皆でこれから食堂に向かおう」

 クロエは持って来た荷物を、部屋のテーブルの上に無造作に置く。

「マリヤ殿下は、これをお被り下さい」

 マリーは、部屋の帽子かけに掛けてあった白くてつばの広い帽子を、マリヤの頭に乗せる。アンナの私物、お嬢さま仕様の可憐な帽子であった。


「私は、アンの振りをすればイイのね」

 マリヤは、帽子の中に長い金髪を隠していく。

 勘も良く、飲み込みの早い――中身七歳の幼女であった。


 そうとなったら話は早い。マリヤはさっさと学園高等部の制服に着替え始める。

 だが、なんとも心もとないので、お付きの役割のサラが手伝ってやる。

 ようやく綺麗に着付けられていた。

 そうした姿は姉妹がそっくりであった。



   ◆◇◆



 ――午後零時三十五分。

 王立学園大食堂。


(なんか、前に利用した時とは雰囲気が違うな)

 茶色い木製のトレイを持った勇者カイト・アーベルは、食堂の料理を待つ長い列の最後部に並んでいた。

 先週の金曜日に並んだ時には、ランチのメニューはビュッフェ形式で、好きな料理を好きなだけ選べていた。

 それに、麺類や御飯物別に窓口があり、何本かの列が出来ていたのに、今は一列だけだ。


「今日は、食事の種類が少ないんやな。ウチがおった頃は、ふんだんに料理が用意してあったで。これはまるで、偽善者の慈善活動家が行う食糧配給みたいや」

 彼の前に立っている大盗賊で大占い師のミーシャ・フリードルは、振り向いて不満を言う。過去には、食堂でこんなにも待たされることは無かったのだ。

 列の先頭では、割烹着姿の食堂のおばちゃんたちが並び、トングを使ってトレイの上に料理を並べている。

 食べ盛りの大柄な男子学生が――量を多くと望んでいたが、あえなく却下される。

 ションボリとうな垂れて肩を落とす格闘クラスの生徒。

 今日のメニューは、マッシュポテトにほうれん草とベーコンの炒め物。その横に小ぶりなソーセージが二本並べられて、コッペパンを一つ載せて終了だ。

 次次と流れ作業のように、生徒たちのトレイに料理が盛られていく。


「あ、カイト君。パンをサービスするね」

 料理の給仕者の中に、同級生のマーガレット・ミッチャーの姿を認めた。

 自分の名を呼ばれ、カイトは驚いた顔を向ける。

 彼女は、家庭科の授業で着る黄色いエプロンを付けていた。制服の上のエプロン姿は、可憐な新婚の花嫁の様であった。胸には、卵の殻を頭に被ったヒヨコのアップリケが刺繍されてある。

 彼女は、カイトの所属する一年魔法Aクラスの学級委員長となっていた。そのために、食堂業務の協力に駆り出されていたのだった。

 全校生徒が総出で、学園の危機に対応していた。


「あ、ありがとマギー」

 彼女からウィンクをされて、顔を赤くするカイトであった。


「ふむ……」

 料理の載ったトレイを持ったまま、周囲を見渡すミーシャ。

「どうしたんですか、ミーシャさん」

 前がつかえて不満を言う。

「ああ、妙に静かやな」

「え? ええ………」

 カイトも食堂に並ぶ千人近い人人を見るが、大人数が存在するのに静寂に包まれているのが、不自然だと感じていた。


「やけど、生き生きとした目や」

「ハイ?」

 カイトは、ミーシャの言葉の意味が分からず首を傾ける。

 生き生き?

 確かに生徒たちは、整然とした落ち着いた行動を取っているが、それぞれが楽しそうな顔をしているのだ。

 姉のアンナから聞かされた――学園祭前夜の追い詰められてはいるが、それでも希望に溢れた目。

 カイトは知らない雰囲気ではあるが、勝手に想像し、そう感じ取っていた。



「座れそうもありませんね」

 カイトはミーシャに声を掛ける。

「まあ、一人ずつなら空いた席に座れるけど、アソコやな」

 ミーシャがアゴで示したのは、大食堂の特別席であった。


「アノ場所は、生徒会メンバーや成績優秀者だけが座れる場所ですよ」

 カイトはアンナに聞かされていた事を口にする。今日は学園の成績トップのアンナは居ないし、生徒会長のマリーや成績優秀者のクロエも居ない。

 二人が勝手に座れる場所では無いのだ。


「まあ、コネクションがあるんや。人脈は大事にセンとな」

 ニシシ――歯を見せて、ドラ猫の様に不敵に笑うミーシャ。こうなると、元・盗賊団の頭目の貫禄が見えて来る。

「こね?」

「そうや、コネコネと捏ねくり回して、じっくりと仕上げるんや」

 他は一切見ずに、真っ直ぐに食堂の一番目立つ一段高い場所を目指す彼女だった。

「待って下さいよ」

 ナリは小さいが、素早い動きのミーシャに必死についていくカイトだった。


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