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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル09「戦慄の エッチな防具 大激闘」
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(二人はライバル)


「さて、あらかた敵は殲滅できたみたいね」

 ふう――激闘を終え、一息を吐くアンナであった。

 足元には、『四脚式無人兵器』の残骸が広がる。そして形勢不利と踏んだ米海兵隊所属のMV―22『オスプレイ』を擁する海兵航空群は、パラシュートで脱出した負傷者全てを回収して、撤退を完了していた。

 タミアラの街の方を見る。

 アンナの発した『浄化の光り』でゲート入口に近い建物も一緒になぎ払ってしまっていた。

 当然、ロイドの酒場の建物は、地下の構造物を除いて更地にされていた。

 蛍光ピンク色の魔法ネオンの破片だけが、バチバチと音を立てていた。


「うーん、この攻撃は加減が難しいのよね。遠くの敵を狙ったら、山に穴を開けちゃったり、しちゃったり。でも、この街の新しい観光名所になるでしょ。ニハハ」

 悪びれる様子も無いアンナ。

 丘の上から街を見ると、地面には幾筋もの大溝が刻まれていた。

 一本だけ深くて大きな溝。そこに雨が降れば、ミヨイ湖に通じる川になるだろう。

 そして、大溝の延長線上には湖があり、その先の山腹の中央に大きな穴が開いていた。

 すっかりと日が傾いていて、西の山の穴から太陽がのぞいていた。


 ゴーオオオオ!!!!


 轟音がして、アンナは振り返る。

 新たな敵が、増援を繰り出して来たのだった。


 渡り鳥の様に、逆V字型の五機編隊で向かって来ている。


「さて、空中戦といきますか」

 アンナが決心を決めた時だった。


 ボン、ボン、ボボボン!


 五機のスーパーホーネットは、一瞬にして空中で爆散する。乗っていた操縦士は、椅子ごと射出されて脱出する。

 その後、カラフルな大きな傘を開いてゆっくりと降りていく。


「何の攻撃? 誰の攻撃?」

 アンナは、視力強化のために左目に入れている魔法アイテムを使い、爆発のあった場所を注視する。


「カイト?」

 確かに、あのカイトの顔を認めた。

 西日を受けてオレンジ色に輝いている銀色の鎧とカブト。それを装備したカイトが剣をふるい、あっという間に敵を殲滅してしまっていたのだ。


「!」

 空中に空力魔法で浮かぶカイト。その彼と目が合った気がした。遥か、2キロメータルの距離があるのにだ。



「ねえ、アンナお姉さん。お久しぶり」

 背後から声がした。

「アナタ!」

 急ぎ振り返るアンナ。


「ふぇー凄いや。お姉さん、オッパイ丸出しだよ。そんな姿で戦ってたんだ。むさ苦しい海兵隊の兵員たちには目の毒になるね」

 カイトの顔をした、見慣れない少女は、アンナの胸に手を伸ばし直接指で触っていた。

「な!」

 アンナはアイの手を払い、胸を隠す。顔を赤くして、体を逃がしていた。

「もう、オッパイも綺麗に成長しちゃってさ。羨ましいったらありゃしないよ。そりゃ、こんな美人さんが側にいたなら、兄ちゃんが惚れないワケはないよね、ウンウン。で、兄ちゃんとドコまで進展したのよ、二人の関係は?」

 アイは両手を伸ばして、アンナの胸を触る気持ちがマンマンであった。


「アナタ……。も、もしかしてアイちゃん?」

 上目遣いに鎧姿の少女を見て、アンナはそう言った。相変わらずの胸の防御は完璧であった。

「そうだよ、アンナお姉さん。いいえ、アナスタシア・ニコラエヴァ第四王女殿下」

 そう言ったアイは、急にかしこまって地面に片膝を突き、腰を降ろし敬意を表すように頭を下げた。


「や、ヤメテよアイちゃん。殿下はヤメテ。でも、知っていたんだね」

「そう、父ちゃんに聞かされたんだ」

 取り乱すアンナの顔を見上げ、ニッコリと笑うアイだった。


「そのさ、カイトの方はどうなったの? 体と意識が入れ替わったのよね。勇者の能力には不思議なことが多すぎるのよ」

「ヤッパリ、心配するのは兄ちゃんの方か……。でも大丈夫だよ、ティマイオスの外の世界に私の体がある。兄ちゃんがステイタスカードをいじって女になっちゃったから、替わりに私の方は男の体になったんだよ。だからこそ魂は、あるべき本来の姿の方が安定するんだね。多分、もうすぐ元に戻るよ、ホラね」

 アイがそう言うと、彼女が着る鎧カブトに剣と盾がステイタスカードへと帰っていった。


「アイちゃん?」

「ウン。お姉さん、ここでお別れだね。もうすぐ正式に会うことになると思うけど、その時は多分、敵同士だね」

「敵?」

「そうだよ。んじゃ、私からのアドバイス。アンナお姉さんは、もう少しリラックスして戦うと『大魔導師』の能力を限界まで高められて、存分に発揮できるよ。あと、そこで気絶しているゼリー・モンスターを上手に従えて使役するんだ。これは、教え過ぎかな、タハハ」

「ピーちゃんを?」

 アンナは、カイトの治療が行われていた丘の一角を見つめる。数十メータルは離れているが、目に入れたレンズ状の魔法アイテムで見ることが出来る。

 カイトの体から流れた血液が作った血だまり。そこでは、まだ目を回しているゼリー・モンスターのピーちゃんの姿があった。周囲には、無人兵器の残骸が広がっている。

 激しい戦闘の跡だった。

 そして、目の前のアイに視線を戻す。

「アレ? ここ何処……」


 白いTシャツと水色のトランクスをはく少年は、キョロキョロと周囲を見渡している。顔付きもハッキリと変わっていた。丸みを帯びていた顔と体に、多少はたくましさが見て取れていた。のど仏も少し出ている。


「か、カイト? カイトなのね」

「ねねね、姉ちゃん! むむむ、胸!」

 目をシバシバさせながら、カイトはアンナの胸部を指差していた。


「よかった。カイトだ」

 ムニュ――押しつぶされるアンナの乳房。

「ねねね……」

 アンナはカイトを抱きしめる。当然の如く、アンナの両胸の感触が、Tシャツの薄い生地を通して伝わってくる。

「カイト、心配したんだよ」

「姉ちゃん」

 抱きしめられる事は、決して悪い事じゃなかった。


「カイトおー! 何、チチクリ合ってんねん!」

 パン――と、カイトの頭を叩くミーシャだった。

「オイ、撤退するぞ。オレたちがここに留まる限りは、敵の攻撃は止まないだろう」

 クロエはアンナの肩を掴んで、二人を引き剥がす。

 彼女たちは、アンナの姿を認めて、駆け寄ってきたのだった。


「カイト君……」

 二人の様子を心配そうに見つめるマリー。彼女の顔は、カイトの復活を確認しても浮かれることはなかった。


「そうね、ここは一旦引いて、戦略を立て直す必要があるわね」

「ええ、わたくしが国軍の南東部方面軍に派遣を要請しました。わたくしたちが退却後も、この街の安全は守られるように手配しました」

 アンナの言葉を受けた、マリーが言う。

 そうして、ミーシャの肩に優しく手を置いた所だった。


 バサバサ、バサ!


 戦闘が終わって戻って来た、ミヨイ湖畔の山をねぐらにしている鳥たち。その群れが一斉に羽ばたいていて逃げていったのだ。

 一刻でも早く、この場所から逃れるような必死な行動だった。動物の持つ、本能のなせる技なのだろうか。


 山のある西の方角は、すっかりと暗くなっていた。

 少しの光りが山肌を赤く染め、それを湖面に映し出していた。


 ザバーア!!!


 その暗い色に染まった湖面をかき分けて出現する、謎の巨大な物体。

 湖から遠く離れた五人も、湖面に現した姿を見て、その大きさに驚愕する。


「こ、『黒龍』だ。あの海洋都市『エナリオス』と王都の王宮を一夜にして滅ぼした、巨大モンスターだぞ。それが、どうしてこの湖に現れたのだ?」

 クロエの驚きと疑問。

「この湖には、大きな河は流れ込んでヘン。せやのに、水量は年間を通じて安定しておるんや。やから、何処かの運河と水中で繋がっているのかも知れヘン。そんな噂が昔からある湖ナンや。『黒龍』は、外洋から運河の底を伝って入り込んだのかもな」

 ミーシャは、ミヨイ湖にまつわる過去からの伝承を口にする。


「見て下さい。『黒龍』の背中に丸い穴が沢山開いています。あれが、報告書にもあった『トビウオ』の発射口なのでしょうか」

 マリーは真っ直ぐに湖上の『黒龍』の背中を指差す。縦に二列並び、全部で十六個の穴。そこから都市破壊攻撃が繰り出されるのだ。


「ヤバイわね……」

(ね、姉ちゃん?)

 カイトは、深刻な顔つきになるアンナを見て、心配をする。



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