(プロローグ・王家の滅亡)
◆◇◆
――王宮、地下第四十五層。
突然、第一王女オリガ・ニコラエヴァの胸元が青白い光で包まれる。
「どうしたの? 何が光ってるの、姉さま」
ニコラエ宮殿の地下構造物の最下層。10メータル四方の石造りの部屋。これまで頼りないランプの光だけだったのが、眩しいまでの青白い光りが起こり、第四王女のアナスタシアは姉の胸を指差す。
興味津々の表情で、姉の制服の胸元をのぞいていた。
「ああ、ああ……お母さま、お父さま」
オリガは、自分のステイタスカードを取り出して胸で強く抱いていた。
「姉さま、これは」
第二王女のタチアナが呼びかけると、オリガは無言でうなずいてカードを次女に見せる。
その時に、タチアナの両目から涙が滝のように流れ出していた。
「どこか痛いの、お姉さま? マリヤが治癒魔法を使いましょうか」
三女のマリヤは、姉のタチアナの服の裾を引っ張る。しかし、イヤイヤをするように答えない次女だった。
「マリヤ、アン。二人ともよく聞きなさい。母上と父上はお亡くなりになりました。母上は女王として、国を、国民を守り、立派な最期でした」
姉の話を聞き。口を真一文字にして涙を耐える三女のマリヤだった。
「どうして分かるの、不思議だわ? 姉さま説明して」
一人、四女のアンだけが食い下がる。彼女は、知的欲求が盛んな女の子なのだ。
「わたしのステイタスカードに、母の所有する伝説の防具『エメレオン』が追加されたのです。ニコラエヴァ王家に代々伝わる至宝が、わたしの元に来たというのは、前の持ち主が死亡した事を意味します」
涙をこらえるようにオリガは絞り出す。そう言って妹にカードを見せる。
オリガ・ニコラエヴァのステイタスカード。大魔法使い、レベル45と表示があった。そして、新着アイテムの項目に防具『エメレオン』が表示され、点滅をしている。
「これが、姉さまのカードなの? レベル45ってなに? お母さまと同じく大魔法使いなのね。お母さまのレベルは幾つなの?」
カードに興味を持ち、次々と姉に質問を浴びせるアンだった。
殺風景で何も無い、石壁だけの無機質な部屋。この部屋に入って一時間が経過しようとしていた。妹たちが退屈を始める前に、カードの秘密を話してしまおうと決意する。
「タチアナ、マリヤ、そしてアン、良く聞きなさい。このカードは、十五歳の年齢になる時に、この大陸『ティマイオス』に住まう全ての人々に渡されるのです。カードには将来の職業と到達可能レベルなどが表示されます」
自分のカードを見せ、三人の妹に向けて優しく語るオリガだった。
「じゃあ、十四歳のタチアナ姉さまは、来年になったらカードを貰えるのね」
アンは目を輝かせ、隣に座る次女を見つめていた。タチアナはゆっくりとうなずいた。
「そう、そのカードに記された項目に、高度な職業や、高レベルが約束された人は『ティマイオス王立学園』の高等部に通うことになります」
「ふんふん、ふんふん。それで、それで?」
長女の話に夢中になるアン。木製の椅子だけがある部屋。座っておられず、思わず身を乗り出して話を聞く四女だった。
裸足となった両足を、ブンブンと振って興奮していた。
「わたしとお母さまは大魔法使い。この職業はなかなか出現しないわ。ニコラエヴァの王族の血縁の女性に現れるぐらいなの。わたしの現在のレベルは45、お母さまは90かしら……。理論値で最大の到達レベルは99。このような人は、数百年に一人しか出現しません」
「ねぇねぇ、あたしは大魔法使いになれるの? レベルは幾つぐらいになるの?」
姉の手を掴んで引っ張るアナスタシア。
「やめなさい、アン。お姉ちゃんが困っているでしょう」
マリヤは、妹をたしなめる。
「そうよ、アン。それにあなたは、隠れて魔法を使っているでしょ! 高度な魔法を扱うのは、六歳のアナタには危険すぎるわ。キチンとした指導者の元で訓練を積んで……」
タチアナがアンに対する日頃の不満を述べていた。魔法の才能に乏しいと自覚している彼女。少々、嫉妬心を含んだ言葉だった。
「タチアナ、その話はあとにしましょう。防具『エメレオン』はステイタスカードを持つニコラエヴァ家の女性に引き継がれます。ですからわたしが後継しました。この防具を使わなくて済むことになれば、よろしいのですが……」
オリガはそう言って、鎧姿の大戦士アンドレ・ブルゴーの抱くアレクセイ皇太子を見つめていた。
将来の王は泣き疲れたのか、今はすやすやと寝息を立てて眠っている。
「ねねね、職業ってなにがあるの?」
全くもって、好奇心旺盛な四女のアンだった。姉たちに注意されてもへこたれない。
ヤレヤレだわ――オリガはそんな顔をして話し出す。
「職業は魔法使いに、賢者、戦士に、武闘家……人数は少ないけど盗賊や、踊り子もいるわね。商人や、僧侶も立派な職業です。レベル40以上になると、その職業に『大』が付くのよ。大魔法使いに、大戦士とかね。あ、重要な職業をわすれていた」
「重要な職業? なになに?」
屈託のない笑顔で聞いてくる。アンは、両親が死んだことを認識していない――オリガはそう思いながら、悲しみを紛らわせるためにもと、話を続ける。
「それは、『勇者』よ。勇者さまは、同年代に一人しか出現しない希少な職業。国家の危機を救う英雄なのよ。そういえば、今の勇者さまは?」
オリガはブルゴーの方を見る。三年前の海洋都市『エナリオス』の攻防戦に勇者と一緒に参加した仲間なのだ。
「アイツは三年前の責任を取って、大陸の辺境の村で隠居生活をしています。『エナリオス』の百万の民を救えなかった責任を、ヤツなりに感じているのだと思います。しかし、我々が到着したときには既に都市は灰燼に帰していました。我らは生存者を救い出し、状況を聞き取るのが精一杯でした」
苦しそうな顔になる大戦士ブルゴー。だが、その時の報告が今に生きている。
「じゃあ、この王宮の危機には、勇者さまは駆けつけてくれないの?」
アンの純粋な質問。
「彼は……通信魔法も届かない遠く離れた村にいます。たとえ、今から連絡が行って移動魔法を使ったとしても、到着までは半日は掛かるのです」
首をうな垂れ、悔しがる王宮近衛警護隊長だった。
「アタシが魔法で、勇者さまの元にビュンと行ってこようか?」
と、アン。
右手を左から右に素早く動かして、瞬間的な移動を動作で示していた。
「移動魔法による、地下深くの構造物から外部への移動は不可能です」
オリガは冷たい声で言う。
「遠い昔、建物内の人物が移動魔法を使って、天井に頭をぶつけ、酷いむち打ちになった事例があるの。それ以来、見通しが良くて広い場所以外での使用は禁止されているわ。悲劇を繰り返さないために……」
オリガは、ゆっくりと首を振りながら語る。
「そうよ、そうだわ姉さま。アンが自分の部屋の中から消えて、外に出現するのを目撃したことがあるわ。あれは『移動魔法』ではなくて、そう――高度な『転移魔法』だったのよ」
タチアナの言葉を聞き、首をひねる三女のマリヤ。
「高度? 転移? よくわからないけれど――でも、心当たりがあるの姉さまたち。アンとかくれんぼしてて、王宮の宝物庫から突然に消えたり、地下の水路からいきなり現れたり……不思議なことがたくさんあったわ。さてはアンあなた、魔法を使ってインチキをしてたのね!」
小さな握り拳を作って、右手を振り上げるマリヤ。
「あははは、バレちゃたか……」
舌をペロリと出し、苦笑いするアンだった。
「アン、それは本当なのですか? 『転移魔法』は高レベルの大魔法使いにしか使いこなせない魔法です。それを、六歳のあなたが使ったというのですか?」
「姉さま、イタイ……」
険しい表情になっていたオリガはアンに言われ、妹の腕を強く握っていた右手を離す。
「『転移魔法』は一度行った場所にしか、行使できないはずです。そうでなければ、壁にめり込んだり、湖に沈んだり……過去に仲間だった大魔法使いが、使用したのを目撃しています。女王さまも使えたはずです」
ずっと四人の王女の話を聞いていたブルゴーが、やっと口を開く。
「アン、あなたが行ったことのある場所で、ここから一番遠い地点はどこですか」
必死な形相のオリガ。
「うーんと、『マタイ』の村かな。一度母さまに、ビューンと連れて行ってもらったの。みんなに内緒だって話……」
バツが悪いのか、右手で後頭部をかきながら話すアンだった。
「『マタイ』の村からならば、勇者の住む村まで20キロメータルの距離しかない。馬を飛ばせば、三十分も掛かりません」
「うん、決めました」
ブルゴーの言葉を聞き、決心する第一王女のオリガ。
――その時。
ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴ。
真上から振動が伝わってきた。お腹に響く嫌な振動だ。そして部屋の天井の石組みに亀裂が走る。揺れも段々と大きくなってくる。
地震の類ではないようだ。振動は頭上で起こっているからだ。
「キャア!」
三女のマリヤが悲鳴を上げて頭を押さえる。
大きな揺れでランプが倒れ、火が消えた。部屋は暗闇に包まれる。
「ステイタスカード起動! 防具『エメレオン』装着!」
凛々しく叫ぶオリガは、急いで制服と白いシャツを脱いでいた。そして、下着の胸当てを外す。
「姉さま、何で服を脱いじゃうの」
「姫さま、見てはならない!」
ブルゴーは叫び、アンの顔に右手をかざそうとする。
白く光る伝説の防具『エメレオン』。僅かな膨らみの姉の胸部を見て、自ら顔を隠すアンだった。
「結界最大!」
オリガは半径8メータルほどの球形の力場を展開する。
大きな衝撃と共に天井の石組みが崩れ落ちてきた。結界によって何とか踏みとどまる。
「キャー、キャー、キャー!」
マリヤは恐がり、妹のアンにしがみつく。
「ねえ、危ないわ、すぐに崩れてしまう。早くその『転移魔法』で脱出を!」
憔悴しきった顔で妹のアンを見るタチアナ。
「ゴメン。『転移魔法』では、アタシと一緒に一人しか瞬間移動できないの。遠い『マタイ』の村まで転移したら、しばらく魔法は使えないわ。魔法力と体力の消耗が激しいの。以前、お母さまに見つかって、こっぴどく叱られた。その時に、クドクドと確認をされた。何人まで同時転移が可能なのか、どの位の距離を飛べるのか、どれだけの魔法力を消費するのか」
アンは立ち上がり頭を下げる。
「ち、近くに転移したらどうなの? 王都近くの街になら、往復で何度も飛べば全員を救えるわ!」
タチアナが食い下がる。必死の形相だった。
「無理よ……結界が長くは持たない。アン、あなたに命令します。ブルゴーを連れて『マタイ』の村まで飛びなさい。そして勇者さまを頼るのです。アン、あなた一人でも生き残れば王家の再興は可能です」
「姉さま、どうして! せめてアレクセイを連れて行くわ」
アンは、騒がしさに目を開けた一歳の赤ん坊を見る。アンドレ・ブルゴーの抱く頭を優しく撫でる。
「アン、いいえ第四王女アナスタシア・ニコラエヴァ! 六歳のあなたが、一歳のアレクセイを育てられるのですか! 大戦士アンドレ・ブルゴー! 妹をくれぐれも頼みます。王家再興のその日まで!」
オリガは警護隊長のブルゴーに深く頭を垂れる。
「じゃあブルゴー……アレクセイを、ワタシにお願いね」
姉の言葉を受け、ぐずりはじめた弟を胸に抱く次女のタチアナだった。覚悟を決めた表情だった。
「イヤ、イヤあ! こわい、こわいわ! ね、アン! ワタシも助けて! お願い! お願いするの!」
妹にすがりつく三女のマリヤ。最後には涙を流す。怯えきって、体を震わせる。
弱虫で怖がりのマリヤだが、七歳の女の子では仕方がない。
「マリヤ! お姉ちゃんのそばに来て……。いいえ、そばに来るのです! 由緒正しきニコラエヴァの、誇り高きハノーヴァーの娘が泣いて取り乱してどうするのです!」
オリガに一喝されて、首をすくめる三女。そして、マリヤはおとなしくしたがい、長女のスカートの裾にしがみつく。
「オリガ姉さま、マリヤ姉ェを叱らないで。お姉ェは泣き虫で臆病者だけど、四姉妹の中では、一番優しい心を持っているわ。動物のお医者さんになりたいという夢を知っているの」
アンも両目から、ポロポロと涙を流す。小さな姉妹は両手を握り合う。
そして、声をあげて泣き出す長男のアレクセイ皇太子。
精一杯の、生への渇望だった。
「アレクセイ。あなたが生まれてアンはお姉ちゃんになれた。とっても嬉しかったのよ。みんなを笑顔にしてくれた」
タチアナの抱く赤子の頭を再び撫でると、途端に皇太子は泣き止んだ。家族と国民が望んだ、久しぶりの男児は立派であった。将来の国王はキャッキャと笑い出す。
「タチアナ姉さま。アンのことをいつも見ていてくれて感謝します。アンはイタズラ好きで危なっかしいから、いつも危険を未然に防いでくれる。姉さまは教師となって、多くの生徒を指導して欲しかったな。ボーイフレンドのマルクとも、もっと仲良くなって欲しかった」
王子を抱く姉の顔を見る。
「あら、マルクのことを知っていたの?」
「中等部一のお似合いカップルだと、王宮でも噂になっていたわ」
アンは、弾むような笑顔でそう言った。でも、目からは涙が溢れ続けている。
「そして、オリガ姉さま。アンは姉さまに憧れてました。王立学園高等部では、生徒会長で、寮生代表で生徒代表。妹として誇りに思っています。お母さまは女王としての仕事が忙しいから、いつも替わりにアンを叱ってくれた。でも、お姉さまはいつも正しい。ワタシもお姉さまのような、お母さまのような立派な大魔法使いになって……国を、国民を救うの。そのためには、いっぱい、いっぱい、いーっぱい! 修行をするの」
大粒の涙を流すアナスタシアだった。
「アン。あなたが四人の姉妹のうちで、一番優しくて、一番賢くて、一番周囲に気を使えて、一番勇気があると知っていますよ。アレクセイが生まれるまでは、将来の女王はあなたが一番ふさわしいと考えていました。王位継承権第二位と三位のわたしとタチアナも同意見です。あなたは伝説の大魔法使い『アナスタシア』の名前を継いだ。多分、お母さま以上の大魔法使いになってくれるのでしょう」
「アン。将来の女王となって、国を導いて欲しい」
オリガとタチアナはそう言って、アンに優しく微笑んだ。
「ねぇ……さま……」
もう、涙で目を開けられないアナスタシアだった。六歳の少女も、これが今生の別れ――永遠の決別となると認識したのだ。
「時間がありません、アン。大戦士アンドレ・ブルゴーさま、妹を頼みます。まだまだわがままで泣き虫だから、どんどん叱ってやって下さい。短気な性格を直してやって下さい。ブルゴーさまは、故郷に奥さまと娘さんを残されていると聞きました。わたしたちの最後のわがままです、どうか、アンを守って下さい。守り続けて下さい」
上の姉妹はそろって頭を下げる。それにならって、三女のマリヤもペコリと礼をした。
「しょ、承知しました姫さまたち。それに、皇太子殿下。お約束は必ず守ります、守り抜いて見せます!」
ひざまずいていたブルゴー。彼も涙を拭いて立ち上がり、甲冑のままアンの左手を握る。
「姉さま! アンはいつもいつも悪い子でした! もう、イタズラはしません! わがままも言いません! かんしゃくを起こしたりもしません! な、泣いたり……」
その場にいた全員が涙を流す。白色に光る結界が、押し戻されようとしていた。宮殿の建物の地下部分の全壊が近いのだ。
「さようなら、元気で」
涙を流しながら、笑顔で手を振るオリガ。
「寝るときは、寝相を良くしてね。お腹を出して眠ると風邪を引きますよ」
顔をうつむけたまま、涙声のタチアナ。
「アン。マリヤは……マリヤは、アンのお姉ちゃんで良かった」
鼻水をすするマリヤ。
「じゃあ」
多くの言葉を掛けたいが、その時間が無かった。
アンは、横目でチラリと見送り――。
「『マタイ』の村へ……………………転移!」
キッパリと決別したアンが叫ぶと、鎧姿の戦士と共に忽然と消え去った。
――そして、白い光りに包まれる王宮地下、第四十五層だった。
◆◇◆
――マタイ村。
そこは、大陸国家『ティマイオス』の辺境に位置している。
では、ようやくここで『ティマイオス』について、説明しようか。
『ティマイオス』は、大まかにはひし形をした大陸で、周囲を荒れた大海に囲まれている。その大きさは800万平方キロメータルほどである。この惑星の北半球の亜寒帯から亜熱帯に掛けての緯度に存在し、大陸の北東、南東、南西、北西の端にそれぞれ8000メータル級の四つの大山脈がある。大陸の外からのモンスターの侵入を防ぐべく、自然の要害がそびえ立っているのだ。
その大陸には一億あまりの人々が暮らしている。
大陸の中心地点に、大陸名と同じ都市『ティマイオス』があった。人口二百万人の大陸最大都市で首都である。その王都を中心にして同心円状に幾重にも大きな運河が整備されている。
王都が存在する場所は、元々は乾燥した草原地帯に過ぎなかった。『ティマイオス』は首都となるべく作られた、人工都市なのだ。
今より、一万二千年前。先進の文明を築いた後は、何度かの戦乱を乗り越えて四つの大きな国々が、やがて一つにまとめられたのだ。
その時に、作られた首都。
その後、国家的事業で運河が作られ、飲用水や農業用水として、そして交通や輸送に役立っている。
北西部に存在するのは、白色人の国。住民の多くは肌が白く金髪碧眼であり、攻撃・特殊魔法を使いこなしていた。ニコラエヴァ王家を生み出した民族である。
北東部は青色人の国。青白い肌に銀色の髪の毛に緑の瞳。その耳の先は尖っていて特徴的であった。防御・回復魔法を使う賢者を多く輩出している。大陸全土に信者を持つ宗教の中心地点であった。
南西部は赤色人の国。褐色の肌に赤い髪と赤い瞳の人々が住む。高身長と筋肉質の体が特徴的である。戦闘を好む民族で、戦士や踊り子などの体を使った職業が多い。
南東部は黄色人の国。黄色い肌に黒い髪と黒い瞳の人々が住まう。格闘技と商業の才があり、格闘家や商人が多くいる。時々、特殊な職業も輩出していた。
以前は、それぞれの国家がいがみ合っていたが、四千年前の大陸全体の危機を前に、国土が一つにまとまったのだ。その時に、白色人のニコラエヴァの大魔法使い『アナスタシア』が女王となって、国を統一したのであった。
マタイ村は、南東部の黄色人の国に存在する。山脈を越えた海沿いに位置していて、一年を通じて温暖な気候である。農業と漁業の盛んな村だ。
刈り取りを控え、穂が大きく実っている広大な麦畑。初夏の乾燥した爽やかな風に、ゆらりゆらりと揺れていた。
麦畑の遠くでは風車がカラカラと回転していた。
早朝のため、周囲には人は居ない。
そこに丸い影か忽然と現れる。
その影の上空1メータルの位置に突然に出現するのは、鎧を着た戦士。胸にクリーム色の寝間着姿の、金髪美少女を抱いていた。
――ドスッ!
二人は空中から落下し、鈍い音と共に麦を押し倒す。
◆◇◆