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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル07「遺跡から 現れ出でた 大魔獣」
45/95

(ミーシャ、取り乱す)

 ――湖底の遺跡、地下一階。


「なんや、迷路みたいになっとるな」

 最初の罠に落とされた大盗賊ミーシャ・フリードルは、遺跡の地下をさまよっていた。

 幅は1メータルほどで、細い道がうねうねと直角に曲がりくねっている。高さは2メータル程度の道。それが、延々と続くのだ。

 照明のない真っ暗な道だが、盗賊の魔法アイテムを頭の黒バンダナにくくり付け、前方を明るく照らしていた。


「何処かで、上に出るはずなんやが……」

 ミーシャは、立ち止まり上を見る。上方に穴があったが、遥か上の階に直結していて、彼女には登れなさそうだった。


「…………あーーーーー」

 声が聞こえる。

「なんや?」

 上からだ。


「ああああーーーー!!!!」

「みぎゃーあ!」

 ミーシャは、上から落ちてきた物体に押しつぶされた。


「だだだだだ、大丈夫ですか?」

 盗賊の薄い胸の上にお尻をのっけているのは、勇者カイト・アーベルだった。

「なんや、勇者の兄ちゃんか」

 胸部の上にのった、カイトのお尻を掴んでのけようとする。


 ムニュ♪


「ヤン♪」

 男の臀部にしては、妙に柔らかい感触に、ミーシャは驚いて自分の手を見る。

 変な声をあげた勇者。


「お、起き上がれますか?」

 カイトに手を引っ張られ、上半身を起こす。

「何や、兄ちゃんか。でもな、ヘンに可愛くなって……本当にありえへん感じや……ウチ、胸がドキドキする」

 火照った顔を相手に近づけるミーシャ。


「え? どうしたんですか? ボクが、女の子になってしまったことが、関係あるんでしょうか?」

 カイトは更に顔を近づける。

「お、オマエ。なんで、おんにゃの子に……」

 呆けた顔で、カイトの体を隅々まで眺める。


「どうしました?」

 地下道の床に膝立ちする二人。カイトはツバを飲み、ミーシャも同じく唾液を飲み下す。

 静かな場所にゴクリ、ゴクリと二つの音が響く。


「ホンマに、おんにゃの子なんか! 証拠見せてえな! 女の子同士なら問題あらへんやろ」

 唐突に、カイトの制服のズボンの中に手を突っ込むミーシャ。

「な! ななななな!!!!!」

 カイトが驚くのも無理は無い、ミーシャはズボンだけでなくパンツの中に直接右手を差し入れて来たのだった。


「ツルツルやん! 何もあらへん! ツルツルのムニムニのプニュプニュ!」

 入れた手を取りだして見つめる。擬音だらけのミーシャの感想。

「や、ヤメテ……」

 カイトはその場にペタンとお尻を落とし、顔を真っ赤にする。


(辱められた……。心も、体も)

 両手で顔を押さえる。女体化した事実を、あらためて実感する。


「なあ、ええやんか、減るもんじゃ無し。ウチとエエ事せえへんかぁ~」

 背後から、よだれを垂らしたミーシャが近づく。

「ヤメテ!」

 カイトは殺気を感じ、両手で相手を突き飛ばす。


「うにゃぁ! むぎゅう!」

 背中が地下通路の壁に強く当たり、ミーシャは気絶する。


「は、ハァハァ……。何か、おかしいよ。ボクが女の子に変化してから、みんなのボクを見る目がヘンだよ!」

 カイトは思い出す。何かと優しかったマリーも、目が血走っていたし、クロエは可愛い獲物を見つけ、いたぶるかのような肉食獣の目付きをしていた。

 男の時には感じなかった身の危険を、ヒシヒシと感じ取っていた。

 ミーシャの様子も明らかにおかしくなっていた。


「男に、戻ろうかな」

 カイトは、自分のステイタスカードを制服の胸ポケットから取り出して見つめる。


 名 前:カイト・アーベル

 年 齢:15歳

 性 別:女

 職 業:勇者

 レベル:00


 相変わらずレベルは、00のままである。


「性別欄書き換え!」

 そう言って、カードを再び見る。

「男」→「女」への書き換え時には、性別欄がオレンジ色に発光したが、今は何も変化しない。


「あ、れ? もう一度だ。性別欄書き換え! 書き換え!」

 必死に叫ぶが、カードはウンともスンとも反応しない。


(ヤバイ、ヤバイよ。ボクやっちゃった? このまま、男に戻れないって……事、無いよね)

 カイトは、不安な面持ちで周囲を見渡す。唯一、頼れそうな大盗賊のミーシャ・フリードルは、自分の手で気絶させてしまった。


 そこで、ステイタスカードを穴が開くまでジロジロと見る。

「新着アイテム……?」

 装備欄が、小さく点滅していた。新たな装備が追加されているのだ。


 装備1:ティマイオス王立学園高等部・男子制服

 装備2:ティマイオス王立学園高等部・女子制服


(何だ? 女子制服だって? いつの間に?)


「装備できるのかな?」

 興味を持ったのがいけなかった。カイトは、クロエが『炎の鎧』を装備する場面を何度も見ていた。

 格好いいな――そう思っていた。

「学園高等部の女子制服、装着!」

 ホンの冗談のつもりだった。


(ん?)

 反応は無い。ヤッパリ無理か――思った時だ。


「ピカー!」

 カイトの着ている制服が白く光る。縫製されている部分が強く光って、生地がバラバラになる。

「あ!」

 カイトが叫んだ瞬間。着ていた茶色いブレザーと青いネクタイ。そしてグレーのズボンがバラバラになって空中に飛び散る。

 それらはグルグルと渦を巻いて回転し、カイトの持つステイタスカードに吸い込まれて行く。


「え?」

 白いワイシャツと、水色のトランクスだけの姿になるカイト。

 彼には、ムダ毛というものは全く生えてなかった。腕や脛、ツルツルのサラサラでスベスベだった。

 ヒゲも剃ったことも無かったし、ワキの下もツルツルだ。

 もちろん、下の方もツルツル……ミーシャの言葉は正しかった。

 女子の体に変化しても、そこには変わりがない。


「はえ?」

 新たにカードから現れる物体。姉のアンナで見慣れた、学園の高等部女子の制服だ。男子と同じに見える茶色いブレザーも、ウエストの部分は細く絞ってあるし、裾も可愛らしく丸くカットされている。それにチェックのスカートと、青いリボンが空中に出現する。

 今度も、それらの縫い合わせてある部分がほどけ、それぞれの部分の生地が、カイトの体にまとわりついていく。

 貼り付いていく。

 生地が合体する。

 そして、完成形。


「ぼ、ボク。スカートをはいてる」

 妙にスースーする足元と、股間。女の子とは、かくも無防備に己の体を周囲に晒しているのか? 実感する。

 少しガニ股のカイトは、短いスカートの前と後ろとを両手で押さえる。


「は、恥ずかしいよ」

 こんな姿をアンナに見られたら、何て言われたものか。


「あ、アンタ。じょ、女装趣味があったの? あんなに嫌がってたのにね。踊り子の衣装の時も、ノリノリで着てたのでしょ!」

 満面の笑みの、アンナの顔が目に浮かぶ。


「にゃ! にゃにゃにゃ!」

 気絶していたミーシャが、カイトの背後で立ち上がっていた。


「に、兄ちゃん。ちょ、超絶カワイイやん! なあ、仲良くしようや。女の子同士やから、問題あらヘンやろ。ちょっと女の兄ちゃんの、プニプニの小さなおっぱいを、揉んだり吸ったりするだけや。いいやろ、減ったりもセンし。何なら、ウチのおっぱいを吸ってもエエんやで」

 ミーシャは、黒のタンクトップをめくって、ツルペタの胸を見せようとする。


「い、いいです、いいです、結構です!」

 カイトは胸の前で両手を振って、拒絶する。

「いいんかいな。結構なのかいな」

 ミーシャはカイトに、貧相な胸を見せつける。

「吸いません! 吸いません!」

「謝らんでもええで、ウチは大歓迎や」

 何やら勘違いしているミーシャ。


「ち、違います! 吸わないって意味です。それに、ぼ、ボクには幼女性愛の趣味は無い!」

 カイトは、ミーシャの両手首を押さえつけ、露わになった胸を隠す。


「いいやん。ウチは18歳なんやで、もう結婚もでけるし、エッチなことをしても条例には引っ掛からん。合法ロリをタップリとネップリと味わってもええんやで。ウチは準備オーケーや」

 トロンとした目をカイトに向ける。完全に発情をしている顔だ。


「お、おかしいですよ。ミーシャさん、しっかりして下さい!」

「パン!」

 カイトは、彼女の頬を右手で張る。女の子に手をあげるのは始めてだった。

 もしもアンナに対して同じ事をしたら、数十倍になって仕返しされるだろう。いや、半殺しにされるのは確定だ。


 今のカイトは必死だった。

 このままだったら、完全に貞操を失う危機なのだ。女の子同士で、組んず解れつの絡み合った二人を想像し、顔を赤らめる。


「にゃ……」

 叩かれた左頬を押さえて、大人しくなるミーシャ。やっと落ち着き、理性を取り戻す。


「ミーシャさん、ボクのステイタスカードを見て下さい。何だか、様子が変なんですよ。性別欄も元に戻らなかったり、女子の制服が勝手に登録されていたり」

 カイトはペタンと、両膝を内側に向け地下通路に女の子座りする。仕草も動作も、ドンドンと女の子らしくなっているのに、自覚のないカイトだった。


「そ、そやな。ウチもどうにかしていたな。ウチは同性愛の『ケ』なんか、全くのカケラも無いネン。つるつるやネン。そもそもウチの好きな異性のタイプは、ヒゲのおっさんや。ボウボウのおっさんなんや。ロマンスグレーの中年が、ウチのド・ストライクやねん♪ ラ・ストライキせしぼん♪」

 ミーシャのどうでも良い性癖の告白。

 でもそれを聞き、カイトはマリーの執事サイモン・ペイリーの顔を思い浮かべる。彼は白髪のオールバックに加え、立派な鼻ヒゲをたたえていた。


「そ、そうでしたか。ヒゲのおっさんには、ボクも心当たりがあります。今度、紹介してあげますよ」

「そうか! それはラッキーやん。嬉しいやん!」

 油断したカイトの頬にキスをするミーシャ。

「え?」

「ええやん。今度は口にしよか……」

 ミーシャの顔が目の前に迫る。これでは、堂々巡りである。また、襲われる。


「ミーシャさん、しっかりして下さいよ!」

 カイトが、彼女の小さな両肩をダダンと叩く。


「あ、ああ、あああ。ウチはまたおかしくなったな。そうや、カードやった。兄ちゃん……いや、カワイイ姉ちゃんのステイタスカードを見せてーや」

 ミーシャに大人しくカードを手渡すカイト。彼女は地下道の床にアグラ姿で座る。


「どうぞ、何か変じゃないですか?」

「うむ。パラメータ・モード、起動!」

 ミーシャが叫ぶと、カイトのカードが緑色に光る。彼女はカード表面で指を滑らせる。ステイタスカードの表示画面が切り替わる。

 そこには、小さな文字と数字がビッチリと並んでいた。ステイタスカードの隠された一面。


「パラメータ・モード?」

 カイトはミーシャの横に正座して座り、大盗賊の小さな右手が持つカードに注目する。

「兄ちゃん……いや、姉ちゃん、ええ匂いやな。クラクラするで」

「ま、また! ヤメテ下さい!」

 カイトは、首を向け鼻をクンカクンカしているミーシャの顔を押さえつける。


「そうや、これがパラメータ・モードや。兄ちゃん姉ちゃんの数字に、コレといって……」

 カイトのカードを、穴が開くまで見つめるミーシャ。


「そうですか」

「ん? コレや! 『魅力』と『誘惑』の項目が『99』になってるで! 通常の状態では、ありえヘン数値や」

 カイトの鼻先にカードを付きだしてきた。


 パラメータ・モードの項目には、攻撃力・防御力・魔法力・体力・知力・素早さ・運の良さなどが並ぶ。

 それに身長・体重・バスト・ウエスト・ヒップ・靴のサイズなどの、現状の個人データも羅列されている。

 身体に関する項目以外は、カイトが目を覆いたくなるような低い数値が並んでいたが、魅力・誘惑は99、好感度が96と突出して高い数値が表示されていた。


「この所為なんですね。この値は変えられないのですか?」

 カイトに聞かれたミーシャは首を捻る。


「うーん、ロックが掛かってる。つーか、正直パラメータ・モードの数値は操作するモンじゃあらヘンねん。現状の数値を正確に表しているに、過ぎヘンねん。戦闘中には目まぐるしく変化するし、レベルアップするとパラメータの数値にバラツキが出来るんや。これは極秘事項やけど、職業を途中で変えると大幅に変化する。大占い師が出来る大技やけど、兄ちゃん姉ちゃんの、姉ちゃんもそれが出来るんやろな」

 ミーシャは胸の前で組んでいた手を頭部に回し、ポリポリと頭を掻く。


 兄ちゃん姉ちゃんの姉ちゃんとは、アンナのことだ。大魔法使いが使いこなせる特技、それはステイタスカードの項目変更だ。


「ふーん。不思議な話ですね」

 カイトは他人事のように言う。

「やけど、何でこの数値だけが大きいのかが分からへん」

 ミーシャは右手人差し指で、カイトのステイタスカードの中心を弾く。


「アイタ!」

 胸の辺りを押さえるカイト。

「え? カードを叩くと、本人に痛みが襲うのかいな……」

 驚愕の表情で、カイトを見るミーシャ。


「嘘です。痛くなんか、ありません」

「嘘かいな」

「そうです」

「ほうかいな」

「ほうですよ」

 カイトの良く分からないジョークに、顔をしかめるミーシャだった。変な匂いを嗅いだときの猫のような、表情を浮かべる。



   ◆◇◆


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