(緊縛のアンナ)
「姉ちゃん!」
カイトは驚く。瞬時の出来事であったのもあるが、紫のドレスをまとう金髪美少女の胸を強調するかのような、独特でいやらしい縄の縛り方であった。
「ニャハハ。緊縛の秘技・亀甲縛りや! 大盗賊の特殊技能の一つやで。兄ちゃんも覚えておくと、ええで。女の子を楽しませて悦ばせるからな!」
嗜虐的な笑顔を顔に貼り付かせているミーシャ。彼女も曾祖母と同じくツルペタのロリロリ体型であった。巨乳相手には、ムキになっていたぶる性質があるのだった。
彼女も、大陸中の全ての巨乳を憎悪する。
「きっこう?」
何にも知らないカイトは、首をひねる。
「な、何をしたいの?」
淡々と聞くアンナ。仰向けの体をねじって、縄から抜け出そうと格闘していた。
「そやな。金髪姉ちゃんは色色とステイタスカードをいじっているみたいやな。現状レベルだけやなくて、名前とか……。喋ってもらおか、姉ちゃんの体にな!」
ミーシャはアンナのステイタスカードを、穴が開くまで見渡す。そして、右の人差し指をクルンと回していた。
「ああー! くぅー あぁーん!」
アンナの悩ましい声が酒場内に響く。
「ね、姉ちゃん!」
アンナを拘束している縄が、ギリギリと締め上げられているのだった。
カイトは今すぐにでも救い出したいと思うが、ミーシャの持つナイフの刃がキラリと光り、踏みとどまる。
「アンナさん!」
「オイ、オマエ!」
マリーとクロエが同時に叫んだ時。
「おっと、動くなよ」
黒頭巾団の一人が叫ぶ。
そいつは見覚えのある小男だった。盗賊団の連中は彼の指図で、各々が手に持った武器をマリーとクロエに押しつけていた。
「おおお、オマエも動くなぁー」
カイトの首元に、今度は斧の鋭利な刃が押しつけられる。
ブッチだった。彼は新しい斧を用意していたのだ。
「へー、マリーはんは、バストサイズが92センチに成長してしてるのか。クロエのダンナは……1メータルまで胸囲が発達したんやな。そんなん、誰得なんや」
ミーシャは、ステイタスカードに手をかざし、何やら数値を読み上げる。
ツカツカと歩いて、アンナの頭の側に立つ。
「な!」
「何で知ってる!」
マリーとクロエの言葉。
「ステイタスカードには、パラメータ・モードなるものがあるんや。各人の身長・体重・スリーサイズなんかの数値や、過去の戦闘データや現在の体力・魔力のゲージに、所持しているゴールドの金額まで見られるんやで、大占い師には!」
ニカ――っと笑い、カードの表面を二人に見せて来た。
マリーとクロエが目をコラして見ると、小さな項目と数字が見て取れた。
「ステイタスカードに、そんな使い方がありましたの!」
マリーは驚いていた。
「でもな、この金髪姉ちゃんと、この男の子にはロックが掛かっとる。ん!? この子は、『勇者』なんか! ほぇー、初めて見たわぁー」
ミーシャは珍しい動物でも見るかの様な表情で、カイトに向く。
何故か恥ずかしくなり、顔を赤くしてうつむけるカイト。
「そうです! カイト君は『勇者』なのです。その彼を中心として、王家の伝説の至宝を探すべく、わたくしたちは旅に出ているのです。ミーシャさんも学園の卒業生だったら、実習の過酷さはご存じでしょう。是非とも協力して……」
「嫌や!」
マリーの言葉に被せるようなミーシャの発言。
「どうしてだ?」
クロエは冷静に聞くが、盗賊団の手下が刃物を押しつけて来て、体を引く。
「嫌なモンは嫌やからや。どうして、いけ好かん学園長の出した課題に協力せなならんねん! そや、この金髪ちゃんに、どうすれば職業欄以外のステイタスカードの項目をいじれるのか、聞かんとな」
ミーシャは腰を落として、彼女を見下しながら言った。
アンナは顔に大盗賊のツバが掛かり、顔を背けていた。
「遠慮するわ。盗賊に協力するなんて、真っ平ゴメンだわ」
縄で縛られ床に寝そべるアンナは、プイと横を向く。
「そうか、そうゆう態度なんやな」
「姉ちゃん!」
カイトが叫ぶ。アンナを縛る縄が、ヘビのように激しくのたうっていた。太くよられた縄の端が、アンナの口の中に飛び込む。
「うぐ! うぐぐぐ」
喉の奥まで侵入されて、アンナは苦悶の声を出す。
「うひゃひゃ、喋る気になったかいな? このまま縄が奧の奧まで侵入して、気管まで塞ぐと、息が出来へんようになるで。おっと! 魔法を使おうとしても無駄や。緊縛術を使ったんで、指一本も動かせんはずや。お口をふさがれて、魔法の詠唱も出来へんで、観念しいや」
ヒョイと立ち上がり、両手を腰に当ててアンナの顔をのぞき込むミーシャ。
縄が意思を持った生物のようにうごめき、アンナの行動を完全に制限する。ミーシャの口の端が上がり、歯を見せて笑う。
「姉ちゃん!」
「動くなと言っただろ、兄ちゃん!」
ブッチは斧の刃をカイトの首筋で軽く動かす。スゥーと冷たい感触。首の皮膚の表面が薄く切れたかも知れない。
「うぐ、うぐぐ」
赤くなったアンナの顔が、紫色に変わり、やがて青くなる。
「やめて下さいミーシャさん。このままでは、アンナさんが窒息死してしまいます」
両手を上げて恭順の意思を示し、降参しようと思ったマリーだったが――。
「ゴトリ」
後ろから音がして、カイトは驚く。
「ブッチさん?」
カイトの首筋に斧を押しつけていたブッチの全身が凍り、斧と共に床に倒れ込む。
「な、なんや!?」
ミーシャが驚くのも無理は無い。店内にいた彼女の手下が軒並み凍らされていた。カチコチの氷に覆われていて、生死は今のところ不明である。
「これは?」
「なんだ?」
マリーとクロエも驚愕の表情を浮かべている。ミーシャはこの事態を引き起こした犯人を見つけ出す。
「オマエやな!」
ミーシャは、床に這いつくばっているアンナを睨みつける。アンナの金髪を掴んで引っ張っていた。




