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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル05「グダグダの 諸国漫遊 珍道中」
33/95

(情熱ダンスと酒場)

 ――午後四時三十一分。

 ロイドの酒場、ダンスステージ。


「ブー、ブー、ブー」

 客たちのブーイングが、ステージに向けて叫ばれている。

 既に幕は開いている。誰も居ない舞台を、白い照明だけが照らしている。舞台の背景の赤い幕のヒダヒダが、クッキリと影を作る。

 ダン、ダン、ダン。

 木製の床を、一斉に踏みならす音。

 踊り子の登場を催促しているのだ。円卓の上で、ビールのジョッキの底を打ち付けて音を出す。

 ドン、ドン、ドン。

 開演を前にして、既にヒートアップしていた。テンションもマックスだ。



(き、緊張するよ! それに、何だか目が血走っているし)

 ステージ横の幕の影、血気盛んな客席を見て震えているカイトだった。

「ヤア君たち! これから出番だけど、客たちを大いに楽しませてくれよ!」

 バーテンの衣装に大きな紫の蝶ネクタイを締める、酒場の主人のロイド。ヤケに陽気な姿だった。

 彼は、ダンス・ステージの司会も努めるのだ。


「き、キミは本当に、可愛いなあ」

 カイトの背中を撫で上げるロイド。右手中指でお尻の割れ目付近から、首筋まで――。

「!」


(ぞわわわわわ)

 カイトは全身に鳥肌が立っていた。


「じゃあ、開演の挨拶だ!」

 カイトのスカートから可愛らしくのぞく脚をペロリと触り、幕の端からステージ中央に出て行くロイド。

「ひゃあ!」

 可愛い悲鳴を出すカイトだった。


 ロイドは体を小刻みに震わせ、コミカルな動作で舞台の真ん中まで辿り着く。

 観客たちは指をさし、ロイドの仕草を笑う。

「よう! オマエら、よく来たな! 仕事もしないで、昼間っから酒を浴びているろくでなしども!」

 通信魔法用のマイクに向けて、大声で叫ぶ酒場の主人。


「おーい! 引っ込めロイド! むさ苦しい男の顔は見たくねぇー!」

「そうだー! 酒が不味くなる!」

 後ろの席の男たちが叫び、ガハハと笑い声が沸き起こる。


「今日は、とっておきのかわい子ちゃん揃いだ! でもな! 踊り子に触れるのは、ルール違反だぞ! アソコのガードマンのケビンが、摘み出すぜ!」

 観客席の男たちが、一斉に振り返る。

 店の入口には2メータルの大男が立つ。太っていてアゴが無い。赤色人の用心棒だ。手にはこん棒を持つ。

 観客たちは、ひょえーと奇声を漏らしていた。



 ステージ隅に引っ込んだロイドは、蓄音機上のレコードに針を落とす。以前は生の楽団を呼んで演奏を行っていたが、人件費の高騰で割りが合わなくなったのだ。今は、踊り子のみを派遣して貰い、夕方と夜の二回公演をおこなっている。

 レコードの音が、通信魔法で増幅されて、酒場中で鳴り響く。

 ゼンマイ動力で回転を始めるレコード。ブチブチと雑音がした後に、ギターのかき鳴らされる情熱的な曲が流れる。


「おおー!」

 観客が沸く。

 紫色のドレスを着た金髪の踊り子が、高く両手を上げてカスタネットを鳴らす。ハイヒールで、舞台の床を踏み鳴らす。

 クルリクルリと回るたびに、飛び散る汗が見える。汗は、赤い照明に反射して、会場を扇情的に盛り上げる。

 遠心力で、踊り子の柔らかそうな胸がフルフルと揺れる。

 踊り子は飛び切りの美少女だった。上品で高貴そうな娘が、場末の酒場で踊る。そのシチュエーションだけで、観客は興奮する。


 ステージの照明が赤から紫に変わる。

「ピュー、ピュー、ピュー」

 次なる踊り子の登場に、会場もヒートアップする。

 黒いバニーガール姿の青色人だ。観客は彼女の豊かな胸とお尻に興奮しているのだ。

 純血の青色人は、小柄でスレンダーであるので、白色人とのハーフでボインボインな彼女は、貴重種だ。


 彼女はフラメンコを踊れないのか、黒いヒールでつま先立ちしてクルリクルリと回転する。

 金髪の踊り子の周囲を、クラシックバレエの振り付けで花を添える。

 大人しい踊りだが、バニーガールの胸がフルフルと揺れる。


(え? あ? うん……)

 ステージ隅に隠れていたカイトは、アンナに目で合図されて仕方無く出ていく。ヒールには慣れないので、転びそうになった。


「おおー!! おうー!!」

 ひときわ高い歓声に歓迎されるカイト。彼は音楽に合わせて、持ち上げたスカートを揺らしているだけなのに。

「おーい! ロイド! 子供を働かせるのは、風俗営業法違反だぞ!」

 保安官の姿をした酔客が、長い警棒をコツコツと床に叩き付けながら言った。

 吹き出物の跡でデコボコの顔面を、赤くしていた。

「勘弁して下さいよ、キートンのダンナ。気に入った子がいたら、紹介しますから」

 ステージの脇で、揉み手をしながらマイクで話す酒場の主人。

「あはは、ワシはそこのウサギちゃんが好みだ。酒場の二階の部屋でこのあとチョメチョメだ。わはは!」

 この地区の担当保安官のキートンは、でっぷりと突き出たビール腹をボリボリと掻く。

 勤務中であるのに、ビールをジョッキで10杯ほど開けていた。


(これは売○じゃ、ないですか! この酒場は、いかがわしい行為も斡旋しているのですね。許すまじ、です!)

 一連のやり取りを聞いていたマリーの顔が一瞬蒼白となった後に、赤くなる。


 ここで、音楽が切り替わる。リズムはいっそう激しくなり、踊り子がダンダンと床を踏みならす音が大きくなってきた。

「ブー、ブー、ブー」

 ここで、観客の激しいブーイングが帰って来る。


 赤いドレスの筋肉質な踊り子が入って来た。大変な巨乳であるのだが、大柄の赤毛の彼女は、お客の気に召さなかったのだ。

 大柄な女は、金髪の踊り子の手を取って、踊り始める。本来は男女ペアのダンスなのだが、大柄な方のダンサーが男役となり、金髪女性をリードする。

 赤毛のダンサーはたくましい腕で、金髪ダンサーの細い腰を抱く。

 二人の揃ったステップで、狭いステージ上を縦横に動いていく。

 その回りを軽快にジャンプして動く、バニーガール。

 スカートをフリフリする、黒髪の踊り子。


「そろそろ、本題の情報収集を……」

 クロエはアンナに寄り、耳元で囁く。

(うん)

 アンナは無言でうなずいた。


 金髪の踊り子はパートナーから離れ、舞台袖に立つロイドのマイクを奪う。

「オイ! オマエ、何するだぁ」

 ロイドは慌てていた。


 ここで歌声が響いてきた。

「親に売られた~アタシたち四人は~♪ 踊り子に身をやつして~ティマイオス全土を巡る旅に出た~♪」

 四人はそれぞれ勝手に踊り出し、アンナは台詞に節を付けて歌い出す。

「オレー! たちの正体は~本当は~♪ 盗賊!」

 クロエも即興で、アンナのミュージカルに加わる。地声が大きいので、マイクで拾わずとも、酒場内によく響く。


「……聴覚強化! 地獄耳!」

 マリーは小さく声に出し、観客一人一人の口の動きに注目する。しかし依然、音楽は掛かっており、騒がしい店内でもあるので苦心する。

 更に精神を聴覚に集中させる。


 アンナはロイドにマイクを投げつける。

 慌てて受け取る酒場の主人。

「アタシたちが探すのは~王家の秘宝♪ 噂を聞きつけて~、墓守の街に来たぁ♪」

 アンナもマイクを使わず歌い出す。歌唱力には多少の自信があったので、掛かる音楽に負けじと、清らかで澄んだ歌声を披露する。


『……盗賊だって、か……』

『……あの銀髪姉ちゃん、た、堪らないケツだな……』

『……黒髪の子、パパパ、パンツ見えないかな……』

『……どけよ、筋肉女! 金髪ちゃんが見えないだろ……』

『……王家の秘宝ねぇ~。そんなモンありゃ、苦労しないよ……』

『……墓守の街か、本来の名前は……』


『……あの――秘宝を探っているのか、この娘たち……』

 マリーは、一人の小柄な男に意識を集中させる。黒いバンダナを頭に巻いた、見るからに怪しそうな男だった。こちらを見る眼光も鋭い。

 ステージに一番近い、最前列の席。その中央に陣取っているので、他の客も一目を置いている存在なのだと知る。



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