(情熱ダンスと酒場)
――午後四時三十一分。
ロイドの酒場、ダンスステージ。
「ブー、ブー、ブー」
客たちのブーイングが、ステージに向けて叫ばれている。
既に幕は開いている。誰も居ない舞台を、白い照明だけが照らしている。舞台の背景の赤い幕のヒダヒダが、クッキリと影を作る。
ダン、ダン、ダン。
木製の床を、一斉に踏みならす音。
踊り子の登場を催促しているのだ。円卓の上で、ビールのジョッキの底を打ち付けて音を出す。
ドン、ドン、ドン。
開演を前にして、既にヒートアップしていた。テンションもマックスだ。
(き、緊張するよ! それに、何だか目が血走っているし)
ステージ横の幕の影、血気盛んな客席を見て震えているカイトだった。
「ヤア君たち! これから出番だけど、客たちを大いに楽しませてくれよ!」
バーテンの衣装に大きな紫の蝶ネクタイを締める、酒場の主人のロイド。ヤケに陽気な姿だった。
彼は、ダンス・ステージの司会も努めるのだ。
「き、キミは本当に、可愛いなあ」
カイトの背中を撫で上げるロイド。右手中指でお尻の割れ目付近から、首筋まで――。
「!」
(ぞわわわわわ)
カイトは全身に鳥肌が立っていた。
「じゃあ、開演の挨拶だ!」
カイトのスカートから可愛らしくのぞく脚をペロリと触り、幕の端からステージ中央に出て行くロイド。
「ひゃあ!」
可愛い悲鳴を出すカイトだった。
ロイドは体を小刻みに震わせ、コミカルな動作で舞台の真ん中まで辿り着く。
観客たちは指をさし、ロイドの仕草を笑う。
「よう! オマエら、よく来たな! 仕事もしないで、昼間っから酒を浴びているろくでなしども!」
通信魔法用のマイクに向けて、大声で叫ぶ酒場の主人。
「おーい! 引っ込めロイド! むさ苦しい男の顔は見たくねぇー!」
「そうだー! 酒が不味くなる!」
後ろの席の男たちが叫び、ガハハと笑い声が沸き起こる。
「今日は、とっておきのかわい子ちゃん揃いだ! でもな! 踊り子に触れるのは、ルール違反だぞ! アソコのガードマンのケビンが、摘み出すぜ!」
観客席の男たちが、一斉に振り返る。
店の入口には2メータルの大男が立つ。太っていてアゴが無い。赤色人の用心棒だ。手にはこん棒を持つ。
観客たちは、ひょえーと奇声を漏らしていた。
ステージ隅に引っ込んだロイドは、蓄音機上のレコードに針を落とす。以前は生の楽団を呼んで演奏を行っていたが、人件費の高騰で割りが合わなくなったのだ。今は、踊り子のみを派遣して貰い、夕方と夜の二回公演をおこなっている。
レコードの音が、通信魔法で増幅されて、酒場中で鳴り響く。
ゼンマイ動力で回転を始めるレコード。ブチブチと雑音がした後に、ギターのかき鳴らされる情熱的な曲が流れる。
「おおー!」
観客が沸く。
紫色のドレスを着た金髪の踊り子が、高く両手を上げてカスタネットを鳴らす。ハイヒールで、舞台の床を踏み鳴らす。
クルリクルリと回るたびに、飛び散る汗が見える。汗は、赤い照明に反射して、会場を扇情的に盛り上げる。
遠心力で、踊り子の柔らかそうな胸がフルフルと揺れる。
踊り子は飛び切りの美少女だった。上品で高貴そうな娘が、場末の酒場で踊る。そのシチュエーションだけで、観客は興奮する。
ステージの照明が赤から紫に変わる。
「ピュー、ピュー、ピュー」
次なる踊り子の登場に、会場もヒートアップする。
黒いバニーガール姿の青色人だ。観客は彼女の豊かな胸とお尻に興奮しているのだ。
純血の青色人は、小柄でスレンダーであるので、白色人とのハーフでボインボインな彼女は、貴重種だ。
彼女はフラメンコを踊れないのか、黒いヒールでつま先立ちしてクルリクルリと回転する。
金髪の踊り子の周囲を、クラシックバレエの振り付けで花を添える。
大人しい踊りだが、バニーガールの胸がフルフルと揺れる。
(え? あ? うん……)
ステージ隅に隠れていたカイトは、アンナに目で合図されて仕方無く出ていく。ヒールには慣れないので、転びそうになった。
「おおー!! おうー!!」
ひときわ高い歓声に歓迎されるカイト。彼は音楽に合わせて、持ち上げたスカートを揺らしているだけなのに。
「おーい! ロイド! 子供を働かせるのは、風俗営業法違反だぞ!」
保安官の姿をした酔客が、長い警棒をコツコツと床に叩き付けながら言った。
吹き出物の跡でデコボコの顔面を、赤くしていた。
「勘弁して下さいよ、キートンのダンナ。気に入った子がいたら、紹介しますから」
ステージの脇で、揉み手をしながらマイクで話す酒場の主人。
「あはは、ワシはそこのウサギちゃんが好みだ。酒場の二階の部屋でこのあとチョメチョメだ。わはは!」
この地区の担当保安官のキートンは、でっぷりと突き出たビール腹をボリボリと掻く。
勤務中であるのに、ビールをジョッキで10杯ほど開けていた。
(これは売○じゃ、ないですか! この酒場は、いかがわしい行為も斡旋しているのですね。許すまじ、です!)
一連のやり取りを聞いていたマリーの顔が一瞬蒼白となった後に、赤くなる。
ここで、音楽が切り替わる。リズムはいっそう激しくなり、踊り子がダンダンと床を踏みならす音が大きくなってきた。
「ブー、ブー、ブー」
ここで、観客の激しいブーイングが帰って来る。
赤いドレスの筋肉質な踊り子が入って来た。大変な巨乳であるのだが、大柄の赤毛の彼女は、お客の気に召さなかったのだ。
大柄な女は、金髪の踊り子の手を取って、踊り始める。本来は男女ペアのダンスなのだが、大柄な方のダンサーが男役となり、金髪女性をリードする。
赤毛のダンサーはたくましい腕で、金髪ダンサーの細い腰を抱く。
二人の揃ったステップで、狭いステージ上を縦横に動いていく。
その回りを軽快にジャンプして動く、バニーガール。
スカートをフリフリする、黒髪の踊り子。
「そろそろ、本題の情報収集を……」
クロエはアンナに寄り、耳元で囁く。
(うん)
アンナは無言でうなずいた。
金髪の踊り子はパートナーから離れ、舞台袖に立つロイドのマイクを奪う。
「オイ! オマエ、何するだぁ」
ロイドは慌てていた。
ここで歌声が響いてきた。
「親に売られた~アタシたち四人は~♪ 踊り子に身をやつして~ティマイオス全土を巡る旅に出た~♪」
四人はそれぞれ勝手に踊り出し、アンナは台詞に節を付けて歌い出す。
「オレー! たちの正体は~本当は~♪ 盗賊!」
クロエも即興で、アンナのミュージカルに加わる。地声が大きいので、マイクで拾わずとも、酒場内によく響く。
「……聴覚強化! 地獄耳!」
マリーは小さく声に出し、観客一人一人の口の動きに注目する。しかし依然、音楽は掛かっており、騒がしい店内でもあるので苦心する。
更に精神を聴覚に集中させる。
アンナはロイドにマイクを投げつける。
慌てて受け取る酒場の主人。
「アタシたちが探すのは~王家の秘宝♪ 噂を聞きつけて~、墓守の街に来たぁ♪」
アンナもマイクを使わず歌い出す。歌唱力には多少の自信があったので、掛かる音楽に負けじと、清らかで澄んだ歌声を披露する。
『……盗賊だって、か……』
『……あの銀髪姉ちゃん、た、堪らないケツだな……』
『……黒髪の子、パパパ、パンツ見えないかな……』
『……どけよ、筋肉女! 金髪ちゃんが見えないだろ……』
『……王家の秘宝ねぇ~。そんなモンありゃ、苦労しないよ……』
『……墓守の街か、本来の名前は……』
『……あの――秘宝を探っているのか、この娘たち……』
マリーは、一人の小柄な男に意識を集中させる。黒いバンダナを頭に巻いた、見るからに怪しそうな男だった。こちらを見る眼光も鋭い。
ステージに一番近い、最前列の席。その中央に陣取っているので、他の客も一目を置いている存在なのだと知る。




