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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル04「狙うのは 女戦士の 爆乳だ!」
22/95

(波乱の剣術大会)

 ――午前八時五十五分。

 王立学園、総合第一グラウンド。


(アレ? ボク、こんな場所に来て良かったのかな?)


 今日も良い天気だった。大陸中央部に位置していて、乾燥気候の王都ティマイオスは、本日も晴天であった。

 大陸の端々にある四つの山脈がたたえる水を、長い運河を使って引き込み、王都二百万人の飲料水や生活用水として使っている。

 王都の周囲には、二百万の民に食料を供給するために、野菜を栽培したり、家畜を育成したりしている農業・酪農都市がドーナッツ状に点在している。

 その場所からの生徒たちも、多くが王立学園に通っている。



 さて、カイトの前に居並ぶ、鎧姿の戦士の後ろ姿の列、列、列、列。

 最後部に並んだ彼は、不安で居たたまれない。手に持った、先ほど買ってきた銅のつるぎを見る。

 新品であるのでピカピカの赤金色に光ってはいるが、所詮は安物なのだ。鎧の戦士たちが腰に刺す、先祖代々からの由緒ある刀剣には遠く及ばない。いや、比べるのも失礼だった。


(ああ……)

 カイトは天を仰ぐ。アンナの瞳のような青い空が広がる。時々、綿菓子のような白い雲がゆったりと流れていた。



「あ、カイトさ、剣持って無かったでしょ。購買で剣を買ってきなさい。あとは、焼きそばパンね」

 会場の周囲に特別に設置された観客席。特別に足場を組んで作られていた。古代にあったという闘技場を思わせる作り。この場所で、実際に殺し合いが行われないだけで、生徒や出場選手の父兄が座る。一様に興奮している表情を浮かべている。

 その観客席の最前列に座るアンナの言葉。

 アンナは今朝は寝坊していて、朝食を食べていないのだ。


 カイトは渡された500ゴールド札で、学園の購買部に行き銅のつるぎを買った。購買部の場所は、学園の中央校舎の一階、職員室の隣にある。

 焼きそばパンの分の10ゴールドは渡されなかったので、カイトは自分のお小遣いの中から出して買うことになる。

 痛い、痛すぎる出費だった。カイトの月々の小遣いは、50ゴールド。王立学園大食堂の二回分の食費にもならない。

 今どきは、初等部の生徒でさえ貰わないような金額。カイトはその事実を知らないので、今の金額に満足している。



「ホーイ! ガンバレ、カイトー!! あむ、あむ」

 観客席から声援を送るアンナは、右手を突き上げる。左手は焼きそばパンを掴み、早速頬張っていた。

「カイトくーん! 応援してるわよー!」

 耳に妙に響く黄色い声援の正体は、アンナの隣に座るマーガレット・ミッチャーだった。立ち上がり、両手をメガホンにして力一杯叫ぶ。

 二人のセコンドを持ってしても、カイトの胸のドキドキは収まらない。



 三十二名の選ばれし戦士たちが、これからトーナメント方式で剣術を競う。

 広い総合第一グラウンドを四つに区切り、それぞれの試合場で一対一で戦うのだ。


「これより、この大会のルール説明をいたします」

 生徒会長のマリー・アレンが観客席前方の特別席から立ち上がり、通信魔法の棒状アイテムを持って喋り始めた。

 グラウンドの各所に配置された大きな箱から、マリーの声が聞こえてくる。

 あちこちから同じ人物の声がして、カイトはキョロキョロと落ち着き無く見渡していた。

 観客席の中に、生徒会長のマリーを見つけて、何故か安心をするカイトだった。


「まずは重要な決まり事ですが、相手を怪我させてしまう行為は厳禁で、違反となります。即刻失格で負けになります。くれぐれも皆さんは注意して下さい。次に、自分の持つ武器を手放して、攻撃続行が不可能になると負けです。武器自体が折られても負けになります」

 体操服姿のマリーが淡々と喋る。が、真っ直ぐにカイトの方向を向いていた。

「なお、各試合場では、魔法クラスの三年生の生徒が審判となり、判定を行います。治癒魔法を使えるメンバーを配置しましたので、安心して競技に取り組んで下さい。説明は以上です」

 マリーは一礼をして、審判委員長としての最初の仕事を終えた。



 ――午前九時十五分。

 総合第一グラウンド、Aステージ。


「Aブロック一回戦第一試合、始め!」

 審判のマリー・アレンの合図で試合が始まる。サッと右手を挙げていた。

 体操服の持ち上げられている胸の部分が、プルルンと揺れる。

 

(カイト君はトーナメント表の一番目の順番。誰よりも早く試合が始まるから、わたくしが生徒会長権限で審判委員長を買って出ましたの。これが功を奏すればよろしいのですが……)

 マリーは、安物の剣を持って武者震いしているカイトを見る。いや、完全に相手に気圧されていた。膝がガクガクと震えているので、心配になる。

 これは、愛しのダーリンを見つめるというよりは、母親の目線で息子を見守る目だと思っていた。マリーにはカイトの怪我だけが心配だ。ほんの少しの切り傷でも、大賢者が使う最高の治癒魔法を使おうと考えていた。


 上級生の大戦士・戦士が居並ぶ中で、勇者として一年生のカイトが――ただ一人特例で出場を認められた。特例を許可したのは学園長であった。彼の思考は、未だによく理解出来ないマリーであった。

 何やら、楽しんでいるらしいのは分かる。学園長の趣味で、苦しむのはカイトなのだが。

 その辺の特殊な性癖は、アンナに近いとの感想を持つ。大魔法使いは、サディストでなければつとまらないのかしら――マリーはそんな事を思う。

 一方で、何とかしてカイトの力になりたいと願う、生徒会長であった。

 アンナの顔を見ると、弟のカイトがいたぶられるのを見るのも楽しんでいそうだったからだ。

 マリーは、試合会場に意識を戻す。審判としての大任が待っていた。



「いやぁー! たあー!」

 対戦相手が大声を出してきたので、カイトは首をすくめる。

 背丈は普通の高等部二年生の少年戦士ではあるが、彼は家宝の鎧を着込んでいて大きく見えていた。

 黒金のはがねの鎧が迫力を増す。カブトも小手も足当ても黒色で、異彩を放つ。

(手に持っている大ぶりの剣も、由緒有るんだろうな~。見るからに高そうだし)

 カイトは下段で構える相手の、剣の値段に興味が湧く。つかには大小各種の宝石が散りばめられている。


「オレの名前は、バジャルド・カレラス。格闘Bクラスの二年生だ。君は勇者だと聞いたぞ。正々堂々と、手合わせ願いたいな」

 そう言って剣の向きを変える。絢爛豪華な武器が、太陽光線に反射してキラキラと光っていた。


(ボクも名乗らなきゃ、ダメなのかな?)

 カイトはチラチラと、審判のマリーを見る。彼女の方は、カイトの一挙手一投足に注目しているのか、ジッと凝視を続けている。


(ああ……カイト君が心配。どうして彼は、防具も着けずに体操服のままなの? やっぱり、アンナ・ニコラはバカなの? アホなの? 簡単なプロテクターを買うお金さえも無いの? でも、これが勇者の余裕なのね。きっと凄いワザを見せてくれるわ)

 マリーは固唾を飲み、胸の前で右手を握る。剣術大会の出場条件としては、武器を持って出ることが必須だが、防具の用件に関しての厳しい規定はない。

 剣術を披露できる動きやすい服装。それのみが記されているのだった。



『カイトー。聞こえるー?』

 彼の耳にハッキリと伝わるアンナの声。

「ウン、聞こえる」

 カイトは小声でポツリと言った。


『耳の穴に入れた通信魔法のアイテムの調子はどう? そいつで指示するから、アタシの言う通りに動いてりゃいいの』

 観客席で焼きそばパンを平らげたアンナは、ゆっくりと歩き一人離れた位置に立つ。

 お節介なマギーが付いてくると言ったが――「カイトのセコンドをするから」――格闘場のAステージの見渡せる場所を陣取った。


「ウン、分かってるよ」

 カイトは右耳に入れられたアイテムを気にする。肌色に塗られている耳栓にしか見えないので、相手も、観客席の誰も気が付かない。


(何かしら、アレ)

 一人、審判のマリーだけが気が付いている。カイトを穴が開くまで眺めているからだ。


『少しでも剣を合わせたら、カイトの弱っちいのがバレるからね。相手からは十分に間合いを取ること! イイネ!』

 アンナの指示通り、黒金の戦士バジャルド・カレラスから下がるカイト。相手がすり足で距離を詰めてきたからだった。


「場外にならないように、気を付ける事!」

 マリーが指差して、注意をする。


 20メータル四方の正方形の格闘場。白い石灰の線がグラウンドに引いてある。選手が線を出た場合は、場外として試合が一時中断される。その後、対戦中の二人は中央の位置に戻され、試合が再開される。

 故意に場外に出る行為は反則だ。何度も繰り返すと警告を出され、二回警告を食らうと反則負けとなる。

 細かいルールも頭に叩き込んでいるマリーは、早めにカイトに注意していた。


「どうしよう。後ろが、もう無いよ」

 カイトは背後をチラリと見てから、アンナの顔を見る。完全にすがるような目だった。


『剣を頭の上に構えて、振り下ろしなさい!』

 カイトはアンナの言葉通り、購買部で買った500ゴールドの銅の剣を上段で構える。

 相手のバジャルドは、間合いを詰めるのをヤメ、警戒し剣を中段に構え直した。戦っているのは勇者なのだ。どんな秘術を繰り出してくるか、彼には見当も付かない。


(本当に高そうな剣ね。武器屋での買い取り価格は、1万ゴールドを下らないでしょう)

 マリーは二人の中間の位置に立ち、バジャルドの剣を見てそんなことを考える。


『振り下ろすときは、かけ声も忘れずにね。さあ! さあ! いけ! いけ!』

 アンナに急かされて、カイトも覚悟を決める。

 もう、どうにでもなぁれー!


「エ、エィヤァーアー」

 何とも気の抜けた勇者の声が、格闘場に響く。


 アンナはガクリと右肩を落とす。まさかカイトが、こんなにもポンコツだとは思わなかったのだ。

 だが、直ぐに気を取り直す。アンナは、右手の人差し指をクルリと回す。


 ヒュン!


 格闘場を吹き抜ける一陣の風。

「ヤン! エッチな風!」

 短いスカートを、校則違反すれすれまで畳んで短くしているマーガレット・ミッチャーは、お尻の部分を押さえる。


「ああ! 剣がぁー! 代々伝わる家宝の剣がぁー!! ととと、父ちゃん、ゴメンよー!!!」

 黒金の戦士バジャルド・カレラスが叫んでいた。彼が持つ剣の、刃の部分が切断されてグラウンドに無残に落ちて転がっていた。


「試合終了! 勝者、カイト・アーベル!」

 審判のマリーは、サッと右手を真っ直ぐ挙げてから、勝利者の方に手を差し伸べる。


「え? ボク勝ったの?」

 キョトンとしたカイト。試合場の周囲の観客席も静まりかえっている。

『そうよ、堂々としてなさい。剣を突き上げて、歓声でも上げればいいよ』

 耳に直接聞こえる、アンナからのアドバイス。


「おー! おー?」

 恥ずかしげに、剣を持つ右手を挙げる。だが、銅製の剣が思ったよりも重いためか、挙げた手がプルプルと震える。


「キャー! カイト君、素敵!」

 手を叩いて喜ぶマーガレット。飛び跳ねていてツインテールがピョンピョンと揺れる。短いスカートもヒラヒラ揺れる。パンツ見えそうだ。


「おおー」

 静かなる歓声の後に、拍手がわき起こっていた。

 勇者が剣を振るえば、一陣の風が吹いて相手の武器を切断するのだ――観客の皆は、そう捉えていた。



「ご苦労様でした。カイト君」

 マリーが彼に寄って行き、優しく語りかける。


「何故だ! 何故なんだ!」

 地面を叩き悔しがる対戦者。

「あのー、すみません……」

 ペコリと謝るカイト。本当にすまないと考えていたが、弁償しろと言い出さなくてホッとしていた。


(あんなに値段の高そうな、剣を弁償するお金は無いよ)

 カイトは、もう一度会釈して会場を後にする。


「敗退者は、速やかに退場を」

 マリーの容赦ない言葉に、涙を拭きながらトボトボと歩いて行く黒金の戦士バジャルドだった。



「あ! カイト君、ご苦労さま」

 カイトが観客席のアンナの元に向かうと、マーガレット・ミッチャーが紙コップに入った水と、タオルを差し出して来た。

「ありがとう、マギー。でも新一年生は、今日は授業が無くてお休みじゃなかったっけ?」

 水を飲み干して、タオルで汗を拭く。汗の大半は冷や汗だったが、冷たい水で喉をうるおしたためか、いささか落ち着いて来た。

「ううん大丈夫。カイト君の出場を聞かされて、駆けつけたの♪」

 笑顔を向けてくるマギー。カイトは顔を赤らめる。


「一回戦の勝利おめでとさん。んで、お疲れさん」

 アンナがカイトの後ろに回り、肩を揉んでくる。

「いいよ、姉ちゃん! くすぐったいよ!」

 照れくさくって、アンナの手を払うカイトだった。


「まあ実質、何もしてないから、疲れちゃいないんですけどね」

 アンナは、ニシシと歯を見せてカイトの直ぐ隣に座る。

「よろしかったら、マッサージでもしましょうか?」

 マギーの申し出。

「えー、大丈夫だよ」


 二人の女の子に挟まれて、デレデレするカイト。それを試合会場から見て気が気で無いのが、次の試合の審判があるマリーだった。


(カイト君に近寄るイケナイ虫は、退治しないといけませんの)

 マリーは、可愛らしい金髪ツインテールの少女を睨んでいた。


「では、Bブロック一回戦第一試合、始め!」

 仕方無く審判を始めたのだった。


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