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勇者と魔法とエッチな防具  作者: 姫宮 雅美
レベル02「久々の 勇者誕生 大事件!」
10/95

(王立学園・クラス分け)

 ――午前十時十分。

 王立学園中央校舎一階、特別講義室。


 新入生全員は担当教師に案内されて、この部屋に入れられた。三百人は収容できる大講義室だ。前方の横長の黒板に目が行く。

「静粛に」

 それだけが記されている。


 これより、生徒は一人一人別室に呼ばれ、クラス分けがされるのだった。

 生徒個人は、これから大占い師にステイタスカードを渡される。本年に十五歳以上になる生徒たちに、始めてカードが授与される儀式だ。

 カードに表示される職業別に所属クラスが分けられる。


 魔法使いや賢者の属するのは、魔法クラス。戦士や武闘家の属するのが、格闘クラス。踊り子・商人・僧侶・盗賊・占い師などには、技能クラスが用意されている。

 一クラスは四十人程度ずつに分けられるのだった。


 カイトは緊張する。既にこの大教室では、幾つかのグループが出来ていた。こんなにもたくさんの人々……それも女子生徒を前にして気後れしていた。



「ねぇねぇ、キミさ。アンナさんの身内だというのは本当?」

 女生徒が話しかけて来た。女子たちのグループの一番大きな輪、その中の一人だった

「え? あ、うん」

 カイトは一瞬考えてから返事をする。この学園に来たときにはカイト・ニコラと名乗ることになっている。

 アンドレおじさんが保護者の役割だ。両親のいない二人の引受人という設定だ。


「私たちは、中等部からそのまま高等部に進んだグループなの。時々見かけるアンナさまは、とってもとっても素敵だわ。下級生の私たちの憧れの的なの」

 ニッコリ笑って話しかけて来る、可愛らしい小柄な女子生徒だった。


「へー。あの、アンナ姉ちゃんが」

「だって、大魔法使いで、レベル99を約束されているのよ。これって、十年ぶりの快挙なの。当然、弟くんにも期待が集まっているわ」

「カイトく~ん♪」

 目の前の少女が属する女子グループの数人が、手を振ってきた。

「あ……」

 返すつもりで手を挙げた。

「キャー! カワイイ!」

 歓声が沸き上がる。


 ボクが可愛い? 何で? カイトは首を捻る。


「マーガレット・ミッチャー、相談室に入りなさい!」

「ハ、ハーイ!」

 カイトに話しかけていた少女が後ろを向いて返事する。そうして教室前方の扉から出て行った。カイトは彼女の揺れている金髪のツインテールを見送る。


 可愛い子だったな。マーガレット・ミッチャーというのか、同じクラスになれるといいな――そんな事を考えている自分に気が付き、顔を赤くする。



 ――午後零時十五分。


 時計台横の鐘が鳴っていた。四時限目終了の合図だった。


 生徒たちは次々と呼ばれて行って、この教室の人数も三分の一ほどに減っていた。職業を告げられてクラス分けが完了した生徒は、そのまま各クラスの教室へと移動する。


「これより、四十五分の休憩に入ります。昼食終了後、午後一時から再開します。集合時間に遅れないように」

 女性教員が入って来て、連絡事項を告げる。


「カイト君、学生食堂に行こうか。生徒はカードに印を付けると、それだけで食べられるの。食費は毎月ごとの清算。でも、美味しくて安いんだよ」

 先ほどの少女、マーガレットがやってきてカイトを食事に誘う。

「あ、うん……」

「どうしたの、誰かと約束でもあるの?」

「う、うーん」

 カイトはキョロキョロと教室内を見渡す。


 その時だった。

「キャー!!」

 教室前方の入口付近で歓声が上がる。黄色い声というヤツだ。

 女生徒たちの目がハートマークになっていて、カイトは驚く。


「おーい! あ、いたいた。カイトー!」

 教室をのぞいて、コチラに手を振っていたのはアンナだった。


「アンナ姉ちゃん、声がデカイよ」

 カイトはプリプリと怒り出す。この教室中の注目を浴びていたので、注意する。

「メンゴ、メンゴ。じゃ、食堂に行くべ」

 カイトの場所に走ってきたアンナは、少年の左腕を取り立ち上がらせる。

「自分で、立てるよ」

 カイトは少しむくれていた。アンナにとっては、いつまでも五歳の少年のままなのだ。


「あ、あの! アンナ・ニコラお姉さま。お食事を、ご一緒して構いませんか!」

 多少上ずっているマーガレットの声。憧れの上級生を前にして興奮をしていた。


「うん、いいけど……何々? カイトは、早速ガールフレンドを見つけたのかい?」

「ち、違うよ」

 顔が耳まで赤くなる。


「アンナお姉さま。マーガレット・ミッチャーです。私は魔法Aクラスに配属になりました。職業は魔法使いで、到達予想レベルは35です。今度の合同授業では、ご一緒出来るかも。そうそう、私はカイト君と仲良くさせてもらってまーす♪」

 金髪ツインテールの少女はカイトの右手を取って腕を組む。マーガレットは小さな胸をカイトの右肘に押しつけていた。


「ミッチャーと言えば、子爵の家柄の貴族よね。平民のウチらとは身分が違いすぎますから……」

「イテッ!」

 アンナはカイトの右手を奪い返し、少年の右足を左のカカトで思いっきり踏んづけていた。


「でも、仲良くはしてね」

 アンナは歯を見せて笑うが、カイトを決して渡さないとの決意を周囲に示す。

「あ、ハイ」

 気後れしたマーガレットは、二人の後ろをトボトボとついていく。



 ――午後零時二十分。

 王立学園、大食堂。


 先ほど入学式が行われた大講堂の二階が、生徒や教職員用の食事施設であった。

 街とは隔離された丘の上に立つ王立学園。初等部・中等部も合同の大食堂。千名以上の人々の食事を全てまかなっている。

 落ち着いた色合いの、焦げ茶に着色されたテーブル。それらが整然と大量に並ぶ大食堂。席は殆ど埋まっており、食堂の空気も活気に溢れていた。


「ふえー、人人人で、いっぱいだ」

 カイトは驚く。

「こっちよ」

 アンナに案内された食堂入口の場所には、高等部の学年別・クラス別に分けられているカードの棚があった。

「ここで、自分のカードに印を付けるのよ。高等部・二年・魔法Aクラスのアンナ・ニコラ。今日の日付の場所に、チェックを入れるの」

 アンナは、薄赤のカードを取り出して四月八日のお昼の欄に魔法ペンでレ点を入れる。

 ここでも学年別に色分けがされていて、分かり易いと思ったカイトだった。


「私のカード……と、あった!」

 何故か嬉しそうなマーガレット。一年生の魔法Aクラスの棚からカードを取り出して、頬ずりをする。

「カイト君のカードは?」

 振り向いて聞くマーガレット。

「うーん」

 まだクラスの振り分けの終わっていない彼。未分類と書かれた棚に無造作に突っ込まれたカードの束を手に取る。

「私が探してあげる。カイト、カイト・ニコラ。あら、このカード、カイト・アーベルと書いてあるわ。カイト君、これ……」

「うーん、どれどれ。貸してみなさい」

 と、アンナ。マーガレットからカードをひったくるようにして奪う。

「え!? アンナさん……」

 戸惑うマーガレット。


「ホラ、ニコラじゃない」

 アンナが見せたカードには確かにカイト・ニコラとの表示があった。

「あれ?」

 首を捻るマーガレット。



「ここで、トレイを受け取って、好きな食べ物を選ぶのよ」

 アンナは一人先に進み、茶色い木製のトレイの上に、バターを練り込んだ三日月形のパンをトングで二つ乗せる。

「カイト君、ここはビュッフェ方式なのよ。好きな食べ物を選んで、一律30ゴールドの値段。安いでしょ」

 マーガレットは麺コーナーに進み、小麦の麺に卵とチーズをあえた料理を選ぶ。

「へぇー、何を選んでも、どんなに食べても、料金は一緒なんだぁー、へへぇー」

 カイトは目を輝かす。

 カイトの住んだ村の食事情とは天と地の差、月とすっぽん。もっとも、食事はアンドレの担当であったので、無骨な男の手料理が多かったのだ。そして買い物も殆どしたことのないカイトは、30ゴールドの値段が高いのか安いのか、よくわからなかった。


「ボクはコレとコレとコレと……」

 目に付いた美味しそうな料理を、次々と大量にトレイに乗せるカイト。

 呆れた顔のマーガレットと、ニヤニヤと笑うアンナの姿があった。食べ放題と聞かされて、初心者の陥りやすい罠にはまっていた。



「先輩、座れませんね」

 大食堂のテーブル群を見渡して、金髪ツインテールの新入生マーガレット・ミッチャーは言った。

「一人ずつ、バラバラなら座れるよ」

 カイトは目に付いた空席に腰を降ろそうとした。


「カイト、コッチに来て来て」

 アンナは彼の右手を取って、引っ張っていく。彼女は、大食堂奧の一段上がった部分の階段を登っていく。


「あ、カイト君、あとでね……」

 マーガレットは遠慮して回れ右をする。階段を上がった先のテーブル席、その顔を見て気後れしたのだった。

「どうしたの? 一緒に食事しましょ」

「でも、あ、はあ……」

 アンナに誘われて、マーガレットは渋々承知する。



「あ、会長さん」

 カイトは、大きなテーブル席で一人食事するマリーの目の前に腰掛ける。

「あ、あらあらカイト君。わたくしを見かけて……と、いうわけではなさそうね、アンナさん」

「この場所は、生徒会のメンバーや成績優秀者が座れる席ですよね」

 マーガレットは遠慮がちに言いながらも、カイトの直ぐ隣の席を引き、座っていた。

「ま、そのお友達ならウェルカムなのよ」

 アンナは遠回りをして、わざわざマリーの隣の席に陣取った。


「な、どうして隣に……」

「生徒会長さまが、孤独に食事をしていて可哀相に思ったの」

 ニコリと笑って、ミートボールにフォークを刺して口に運ぶアンナ。

「隣の子は何者?」

 小声で耳打ちする生徒会長。

「ああ、ミッチャー子爵のお嬢様よ」

 関心ない風に振る舞う、ニセモノの姉だった。

「何で、二人は仲が良いの?」

「新入生同士で、いいんじゃない」

 三日月形のパンをパクパクと二口で食べていた。


「あなたは、ミッチャー子爵閣下のご令嬢なのね」

「ええ、教皇庁主催のパーティにお邪魔したときに、マリー殿下とお逢いしました」

「うーん、そうだったかしら。それよりも殿下はやめて下さらないかしら、学園内では生徒会長でしかないのですから」

 マリーはトレイ隅のサラダをぱくつく。


「それよりも、アンナさん。生徒会に入って下さるとの返事は、いつ聞かせてくれるのでしょうかね?」

「あー、そうね。生徒会書記の件は、無し無し。アタシはコレでも色色と忙しいのよ」

 アンナはカイトに向けてウィンクする。

「そうですよね。アンナお姉さまは、学業にもスポーツにも秀でていらっしゃるのに、クラブ活動に所属していないんです」

 残念がるマーガレットの声。

「クラブ活動?」

「そうよ、この学園では放課後のクラブ活動も活発なの。スポーツや文化的な部活だけでなく、魔法や武術に特化した部活もあるのに、お姉様はどれにも参加していなくて……残念」

 そう言って悔しそうに首を振る。アンナがクラブに所属したら応援に繰り出す予定のマーガレットなのだった。


「姉ちゃんは学校終わると、真っ直ぐに家に帰っていたからな」

「え?」

 カイトの言葉に、マリーは顔を上げる。

「アンナさんは女子寮に住んでいて……」

「あ、あああ、そうそう。休みの日を利用しては、帰省していたからね。あはは、あはは」


 取り乱す彼女を見て、疑惑の目を向ける生徒会長。


「え? あ……うん」

 カイトは口に入れたエビフライが凍っていたのでトレイに戻す。そして、睨んでいるアンナと目が合って固まる。

 彼女の凍結魔法で、料理を氷付けにしたのだ。

 カイトの実家で口喧嘩をした時に、アンナの繰り出す魔法――その意味は「お前、黙れ!」なのだった。



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