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生贄は最強の番が欲しいです

作者: 日比覚世
掲載日:2026/11/02

 何かに選ばれる瞬間というのはドキドキするのです。それがたとえ、やっばいものであったとしてもです。

 家の屋根に白羽の矢が立っているのを見た瞬間「おおー!」と叫びそうになりました。

 自分、生贄に選ばれてしまいましたー!

 まあ、そうなるよねとは思っていました。私は身寄りが居ない天涯孤独の身の上。一番あと腐れなく村から突き出せます。

 生贄にされるなんてなると、「よよよ……」と泣き崩れるのが本来でしょう。本来はそうなんですが、私は、内心ニンマリしてしまいました。

「お役目果たしてまいります」私は、神妙な顔で、村長に向かって頭を下げて見せました。

 事なかれ主義の村長は、生贄役が逃げようとしたり決死の反抗をしたりもせず、大人しく従ったことに、ホッとしてしまったのでしょう。「よかったよかった」、なんて私に向かって言ってきました。

 いやいや、何が「よかった」なのでしょう。普通、生贄に選ばれた相手に「よかったよかった」なんて言うのは、いくらなんでもないんじゃないかなあと、空気読めないと言われがちな私ですら思いました。

 普段何にもない村ですから、生贄を出すことになったというだけでお祭り騒ぎなんです。

 別に、村全体の信仰心がとても熱いから生贄文化を当然としてるとかではないのです。この浮かれた騒ぎは信仰心からではなく、イベント皆無の村の暮らしに非日常がやってきたぜイエーイといった感じのもりあがりなのです。

 収穫祭のお供え物の準備をしているような感じです。はい、その実りの秋の収穫物のかわりが、私、生贄です。

 今だけは、私が村の中心です。人生で一番注目されていました。

 生贄なんだ、ってことは分かっているんですが、当の生贄本人の私、みんなからちやほやされてなんとなくふわふわした気分になってきていました。

 だって、ちょっとヒロイン感でてきました的な高揚感に包まれちゃうのも仕方ないじゃないですか。

 だって、なんの娯楽も無い村だったんですよ。

 私だって、ちょっと、村暮らしの日常に退屈しちゃったりしてたのです。

 そこに、白羽の矢が突き刺さりましたなんてビッグイベント、うきうき……なんて不謹慎な、でも私が当事者なんだからぶっちゃけていいよね。

 はい、正直なところちょっとうきうきしてました。こんな村早く離れて、神様の姿を見てみたいななんて生意気な考えがぷかぷか浮かんできてしまったのでした。

 なんだか村人らしからぬ考え方をしていると思われるでしょう。仕方ないのです。私は、転生してここに生まれ落ちたのです。

 前世での死が訪れた時、テンプレ通りに神様に聞かれました。

 どんな力が欲しいかと。

 私は自分で力を使うのが苦手でした。あんまり優秀な人間ではありませんでしたから。

 それに時代としても、便利な道具やら、代わりに考えたり戦ったりしてくれるものを装備することがエンタメの中ですら流行っていたぐらいですから。

 私は、「最強の番が欲しいです!」と答えました。

 番号の番と書いてツガイと読みます。

 一般には番とは、動物の雄雌のペアを指す言葉です。ただし、一部の特殊な薄い本の世界では、深い絆や一体感を表す「番」という言葉に、さらに運命の相手というような意味を付与して、神によって結びつけられた本当に特別な相手という意味で使われています。ええ、特殊枠のラノベ界隈にしかない概念かもしれません。

 でも何しろ、テンプレに則って欲しいものを聞かれたんですから、全力で欲しいものを叫んだっていいじゃないですか。

「最強の番が欲しいです。えっと、番というのは、自分だけを愛してくれる存在のことですよ。ずばり、番! 番に見つけられて溺愛されたいです!」

 そんでもって番は最強で、えっと、最強なのは、力だけじゃなくて、つまりすっごいイケメンで、誰もがあこがれるようなきれいな人で、って、もちろん力だって強くって、なんでもできて、スパダリで、私だけを愛して甘やかしてくれて……と理想を熱く語りました。

 熱く語り過ぎたのでしょう。語ることに夢中になりすぎているうちに、いつの間にか、神様は消えていて、ほいっと転生してしまっていたのです。

 だから、ものすごく期待して目を覚ましたのです。

 それなのに、なぜか、寒村に私は生まれ落ちていました。

 まあ、そういうこともあるよね。と、私は諦めました。

 イメージの中では、王城とかで生まれると思っていたのです。

 きっと、こっぱずかしい転生の希望を熱く語りすぎて、神様にいじわるをされたんだと思いました。いいえ、あきれられた。あるいは、ばちあたりなーみたいに怒られた。

 まあ、理由はどうでもいいのです。私は、寒村でサバイバルという第二の人生となってしまったのです。

 見た目上、子どもが生き延びるなんて無理でしょって感じの寒村でした。

 しかーし、思いのほか村の暮らしは大変なものではありませんでした。

 たいして広くはないものの恵まれた畑がありました。贅沢はできなくとも、村全体が食べていくには困らない程度の収穫量が毎年取れる畑です。

 隣接する森の恵みもありました。森では、獣も取れれば、きのこなどの採集もできました。森の獣は、強さも適正で、時間をかけて猟をすれば安全に肉を持ち帰れる大人しい草食の獣ばかりでした。村に襲い掛かってるような獣はいませんでした。

 つまり、村民が飢えて困るということもなく、獣に襲い掛かられることもなく、ひどい災害とかに襲われることもなく、けっこう平和な村暮らしでした。

 自給自足で成り立っている平和な村での、悠々自適な生活です。スローライフってことですね。

 王城の中とかで、虚栄と陰謀と確執にまみれて、ライバル娘と蹴落とし合ってギスギスセカセカ生きることなんかより、よっぽどいいですよね。権力争いや陰謀のど真ん中にいるよりは、足るを知る暮らしって、ずっと人間として本来あるべき生の姿なんですよね。

 本質的な幸せってこういうことなんでしょうね。

 村の生活、なかなかの恵まれっぷりですよね。

 その恵みは、地の利とか偶然とかでもたらされているものではありませんでした。

 神様によるものでした。

 この村は、オンヤシャ様という神様に守られていたのです。そのかわり、その神様は生贄を求められるということでした。まあ、しょうがないよね。

 私は、村人転生が思いのほか悪くない生活になったということだけで、村の神様にとてもとても感謝していたので、まあ、生贄ぐらいにはなりますよって思いがあったのでした。

 お優しい神様、私はこの村に生まれて、本当に幸せでした。ですから、この身を神様に喜んで捧げるのです。

――嘘です。もしかしちゃって、その神様って超絶イケメンで、私の番だったりしないかしらって、しょうこりもなく夢を見たわけです。ちゃらんぽらんな人間なのです。

 前世でも色んな人から君って、いつでも、どんな逆境でも、幸せそうだよねえって言われるタイプでしたから。

「あの、村長様、生贄として神様の前にでるにあたって、がっちりおめかしさせていただけませんか」

 村長に私がこう頼み込んだのは当然のことでした。

 私は、白装束に身を包み、残念白無垢とはいきませんでした。まあ、一応お化粧もしてもらって、白木の御輿に乗せられて、洞窟の入り口みたいなところに連れていかれました。

 村長と、付き従ってきた村人たちは、「オンヤシャ様、生贄にございます。何卒お納めください」と洞窟の中に向かって大声で叫びますと、私を置いてすたこらさっさと逃げ帰って行きました。

 私は、襟元を正しまして、姿勢も正しまして、第一印象はなるったけ美しく見られたいですからね、気合を入れて、洞窟の奥を見つめていました。出てこい出てこいカッコイイ私の番!

 黄金の瞳とかかな。神職風装束で黒髪長髪もいいな。いや異世界らしく銀髪もあり。

 もし、めちゃめちゃ恐ろしい神だったりしたら……私だけに優しいとか最高かも。

 もちろん、うまくいかないときはしょうがないんです。

 この恋に破れた時には、生贄として潔く散るだけだ。と思っておりました。

 そのうちに、洞窟の奥からずーぺったん、ずーぺったんと不思議な足音? が近づいてきまして、

――出ました、巨大なサンショウウオ!

 ええ、サンショウウオに見えました。サンショウウオであるならばきっと、両生類、いえいえ、異世界ですからもしかしたら、これは竜種とかでしょうか。

 異世界産らしく、でかいです。強そうです。

 最強の番をという私の望みとしてはかなえられているって気もしました。

 私なんか、ほんの一口でぺろりって行けちゃいそうな大きさです。大きさは合格です。

 しかし、見目麗しいとはちょっといいがたいのです。

 しかし、ところ変わればってことでしょうか。

 この世界での美醜の基準においてはもしかしたら、もっとも美しいってことなのかもしれません。

 いやいや、もしかすると、これは仮の姿なのかもしれません。

 前世の物語でも、「美女と野獣」だの「カエルの王様」といった、恐ろしい見た目の存在が実は王子様だったなんて変身譚がありました。

 何しろ、ここは、私の一世一代の晴れ舞台。番だ! と信じることにして、愛を語ってみるしかないのです。

「おお、うるわしのオンヤシャ様、わたくしは、この度、オンヤシャ様にささげられました哀れな娘にございます。

 どうぞ、オンヤシャ様のご慈悲をたまわりたく……、

 えっと、難しい言葉は舌がもつれますねえ……。

 ええっと、好きです。通じますかね。

 じゃ世界共通語で、アイ・ラブ・ユー!、だめかな、

 それじゃ、ウォー・アイ・ニー‼」


     * * *


「何この子、めちゃくちゃ面白いんだけど」

 洞窟のような入り口を持ったダンジョンの最奥にあるモニタールームで、とある少年がモニターを見ながら、大爆笑していた。

「一体なんなの、これ? サンショウウオ型モンスターに全力で愛を語る少女?」

「ダンジョンマスター、なんだかヘンテコリンな生贄が届けられたのですが、いかがいたしましょう」

「そうだね、サンショウくん。彼女を丁重に最下層までお連れしなさい。途中で齧っちゃ駄目だからね」

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