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始まりの街ファスト

旅の始まりと言えば、どんなものを想像するのが普通だろうか。

自分たちの旅の始まりと比べようと

馬車に揺られながら、幼い頃に読んだ冒険物語を思い出そ…

「ねぇー、聞いてるかいー?」

「…」

アガツミと俺は、ギルドの職員であるラステネさんに連れられ、第一の目的地である“始まりの街”ファストを訪れようとしていた。

あの後…、ヒトノミ狼を倒した場所から街まで歩くにはそれなりの距離があった。

俺達だけならいいのだが、彼女、ラステネさんもいたため歩いて(もとい走って)いくのは止めた。

すでに遅い気もするけれど、これ以上目立つような行為はなるべく避けていきたい。

街に着くのは夕方から夜にかけてだろうか…、今日はきっと久しぶりに屋根のある場所で休める。

この体になってから眠る必要はなくなったが、寝られないわけではない。

アガツミが簡易の結界を張り、アガツミの収納魔法で取り出した天幕と寝具で休む野営は、冒険者らしくはなかったろうな…

本来の緊張感や寝づらさは比べるまでもなく、快適だった。

アガツミの頭を抱え、微睡む。天幕を隔てて、夜空には星が広がっている。

その時間は新鮮で…きっと俺は浮かれていた。

そんな浮遊感は屋根の下で休めば拭えるだろうか。

贅沢な話である。

…早く辿り着きたいが、まあしょうがないなと歩き始めると、その俺の期待に応えるかのように間もなく、馬車がやってきた。

彼女がもともと乗っていた馬車、もとい俺達が少し前に出会って事情を聞いた馬車である。

そんなわけで今は馬車に揺られつつ、物思いにふけっているというわけで…。

「ふぇ・る・とく~ん」

勇者の家は、標高の割には気候が穏やかだった…

普通に標高を考えれば、雪が積もるのが当然至極。

…しかし、あの場所には4つの季節がちゃんとあり、しかもそれが穏やかなのだ。

春は温かく、生き物が活動をはじめ、草木花は芽吹く。

夏は暑く、恵みの雨は木々を青々と育たせる。

秋は少し肌寒く、夏の日差しと雨を受けて果実が実る。生き物たちは冬に備え、脂肪を蓄える。

冬はしんしんとした寒さであり、雪があたりを覆う。生き物たちは冬眠をし、アガツミと俺は基本的には、秋に蓄えた食物でやりくりし、多くの時間を家の中で過ごす。

そんなことをふと思い出したのは、腕の中の存在の熱を好ましく思ったからだった。

どうやら地上の秋はいささか勇者の家よりも早く来ているようで、風が少し冷たい。

「おーい………かまえよー」

最後の方は聞こえなかったが、あまり無視すると機嫌を悪くするので、適当に頭を撫でることにする。(雑にという意味ではなく、適度にという意味合いの方である)

この体になってから、アガツミは移動手段を失った。いや、正確に言えば”人前では”という注釈がつくが。

デュラハンでさえ、片手に首を抱え走るのだ。

首だけで生きている生き物が、何らかの手段で空を飛んでいたら、そりゃあ目立つ。

もしかしたら、首単体で生きている種族が色々といるのかもしれないが、少なくとも俺はデュラハンぐらいしか知らないし、仮に首単体で飛ぶ種族について聞かれたら、どう紹介したもんか。

「そろそろ…街に着きますよ。身支度をしておいてください。」

外の様子を見ていたラステネさんが、目的地が近づいてきたことを教えてくれる。

「あれが…」

眼前に迫りつつあるその街ファストは、国内初の冒険者ギルドができた街である。

駆け出しの冒険者が多く集まり、ベテランも多い。

冒険者として旅をすることを決めた二人が目的地としたのは、なるべくしてだった。

駆け出しの冒険者とベテランが多いのは単に両者の数が多いということを意味しない。

通常、両者は同じ仕事はできない。駆け出しの冒険者は弱い魔物を、ベテランは強い魔物を倒すというのが生業になってくる。

しかし、この街ではギルドが生まれた街であり、規律が整えられていたこと。また地域の特殊性から、駆け出しの冒険者をベテランが育てるという文化が育っていた。

この地域には基本的には、弱い魔物しか出てこない。

しかし、数十年前この街の近くに”魔素溜り”が出現した。

基本的に地域によって魔物の強さは変わる。

例えば、勇者の家があった地域なんかはよほど一般人が入ってこれるようなところではない。

そして弱いところは本当に弱い魔物しか出現することは無い。

しかし、”魔素溜り”が出現すると話は別である。

弱い魔物しか生まれなかった地域でも強い魔物が多く生まれる場合がある。

それに対応して、この街のギルドでは、新人冒険者は依頼などを通して、ベテランに師事し冒険者としての心得や冒険者としての常識、腕を磨くというのが文化として出来上がった。

ただ、悪いことばかりでもない。

魔素が溜りが近くにある街の地は肥え、産業も栄える傾向にある。

だからむしろ適度な魔素溜りは歓迎さえされる。

そして…もう一つ、この街が栄えている理由がある。

温泉である。

魔素溜りが大きくなったことが要素かはわからないが、

魔素溜りが大きくなったころから多くの湯脈が見つかった。

この地域に火山はなく、熱源は少し珍しい数十年前の地殻の動きによって生まれる熱だという。

魔力の満ちた体の芯までいきわたるような柔らかいお湯は薬用効果もあり、傷病を抱えた者たちが数多く訪れる。

また、ファストはこの国、他種族国家ラーファエル・フェニクスの中では比較的魔王国から遠くに位置することもあり、軍事的な衝突がなく治安も安定しているため保養地としても名高い。

俺も風呂は好きだ。

ただ、自分たちがこの街を最初に目的地としたのは前者の理由、冒険者となるためだ。

この旅は、アガツミが“人”を学ぶ旅である。旅費には今のところ十分な余裕があるが、

旅をしながら人とかかわる機会を得るという意味でもあるコミュニティに属していた方が都合がいいと考えた。

ただ、その場所場所で職を探すというのも大変である。その点各地に拠点があり、依頼内容によっては短期間で高収入さらには難度の高い依頼をこなすためにはチームを組むこともあるという。まさしくこの旅にとって冒険者という職はもってこいというわけだ。

俺はぐっと拳を握りしめる。そして小さく呟いた。

「本当の意味での旅はこれからってわけだ…」


ギルド職員である、ラステネさんと一緒という事もあり、簡単に手荷物の検査を受け、

検問を抜けるとにぎやかな光景が広がっていた。

湯気がのぼり、美味しそうな匂いを辺りに広げる屋台。

布を敷いたうえに様々な品物が置かれた露店。威勢よく人を呼び止める人々。

行き交う人々の流れに交じり、ギルドへ向かう。

お昼どきを過ぎたばかりのこの時刻は、一日の中で最も人であふれかえるそうだ。

昼食を求めて人々がごった返す。

その波に目を委ねていると…、初めての長旅、この体でも精神的な疲労がたまっていたのだろうか、

それとも、久しぶりに人ごみにもまれたからか。はたまたその両方か。

頭に鈍い痛みが走る。思考には靄がかかり、身体が地につかない感じだ。

ふらふらと人の波に流され、徐々に脇の路地へと足が向かう。

わき腹を掴まれ、ハッとする。掴んでくれたのはラステネさんだ…。

「あ…」

「そっちはダメですよ。人に流されて路地の方にうっかり足でも踏み入れたら、探すの本当に大変なんですから」

「す、すみません。人の多さに少し、ぼーっとしちゃって、…路地ですか?」

「ぼーっと…?ああ、旅をずっとされてきた後、街に出ると妙な感じがするとは確かに聞きますね…。ええと…路地多いんです、この街。開発の際に色々あったそうで複雑で…地元民でも知らない路地には近づきません。それに、いつもは他の街と比べても治安はいい方なんですけど、最近は物騒で…。路地なんかにわざわざ行く人の安全までは保証できませんよ。」

なるほど。流石はギルド職員ちゃんとしている。

街並みに目を向ければ、道は石畳で舗装されており、街灯も等間隔に並んでいる。

華美ではないが、騒がしさに目をつぶって周囲を見渡せば整然とした街並みである。

端から見れば穏やかでも時と場所によっては、そういった一面もあるのか…。

…あの日もこんな石畳の街にいたな。

ただ、あの街は暗く、もっと人通りも少なかった。

雲が夜空を覆い、雨が体を濡らして…

それともこの街も時として、そういった顔を見せるのか。

首を振る。あの頃は幼かったこともあり、かなり記憶があいまいだが、

この場所とは違う。そうと決めつけ思考を切り上げる。

「どうかしたかい?」

上の空で歩いていた俺の様子に気づいたのか、布にくるまったアガツミが怪訝そうな顔で見てきた。

アガツミが首だけになってから早数か月だ。

最近では、抱き方でちょっとした機微まで感じるようになったらしく、時として厄介に思ったりする。

「…いえ、すみません。大丈夫です。」

「考え事をしてると抱かれ心地に影響するんだよ…まったくもう。」

「本当にふらふらしてると危ないですよ。最近は、通り魔事件も起こってるんです」

「あはは…すみません…、え、通り魔事件?」

「はい。路地裏で”幼い少女”が亡くなる事件がありまして、それもかなりおぞましい形だったそうです…許せません。」

思わず顔をしかめる。

「幼い少女」をターゲットにする奴が殺してはい終わりというやり方を選ぶとは思えない。

「遺体には無数の鉄の花が咲き乱れていたようです。体のいたるところから内側の肉を割いて。鑑識の話ではそれらの鉄の薔薇は”生きている間”に咲いたものだと思われるそうです。」

「惨い…」

「…変態はどこにでもいるもんだねえ」

「普段は事件といったら、せいぜい喧嘩とか、…よっぱらったおじさんが楽しくなって、服を脱いでしまって逮捕ー!みたいなのだったんですけど…」

そう、ラステネさんが話すと同時に広場のほうから、よく通る女性の声が聞こえてきた。

「ほおらっパーム君、お酒が足らんよ。それ、もっと持ってきたまえ!!なんだい?君たちそんな、欲に満ちた目線をして…そうだな、何を賭しても欲しいというのなら…はは、私も気分がいいからな感謝したまえ。そら、私の美貌に酔いしれよ!!!」

「おいっ!!!ナイスバディの姉ちゃんがいきなり服、脱ぎだしたぞ!!!!!!!」

「じゃ…ジャッカル…隠してください!!何してんですか!?恥じらいを持ってください!!!こぉら!!堂々と立ってんじゃないんですよぉっ!!!…もうやだぁ」

「ヒュー!!!姉ちゃんやるねえ!!!!」

思わず食い気味に聞いてしまう。

「……普段からこういうことが?」

「ふぇ・る・とさ~ん…?」

「ふぇると君、君ってやつは…」

「あ…ち、ちち違います!!!」

なお、広場のほうに足を向けさせてはもらえなかったと記載しておく。

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