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翌日そして旅立ち

「ん……」

目を覚ますと、眼前には顔があった。

傾国の美女。まさしく、そんな言葉がふさわしいだろう。

実際は傾国どころは世界を虜にする異能だったわけだが。

普段のやんちゃさはどこへやらアガツミは静かに寝息を立てている。

こうして大人しい姿を見ていると、どこか神秘的にさえ思えてくる。

それも涎に汚されている自分の服を見るまでだったが。

ため息をついて、彼女の鼻をつまむ。

「うぐっ…んん…」

こうすると、口が閉じた。しばらくしてぷはっと口を開く。

いくら人外の美貌を誇ろうが、やっぱりアガツミはアガツミだなと少し笑ってしまう。

首に回る腕、”ひと”と寄せられた脚。半ば体に絡みつくように寝ていた彼女の肢体を押し退ける。

ベッドの脇においてある懐中時計を見る。

あれだけの事があったにもかかわらず、あの告白から最も近い朝であるらしかった。(この時計は日付もわかるのだ)

アガツミが人肌を離れ少し寝心地が悪くなったのか布団の中でもぞもぞと動き、布団を巻き込む。

髪は布団の上に散らばるように放射状に散らばる。

アガツミは髪は女性の命と言うけれど、扱いはたまに雑だ。

出会ったころから、この人の髪型は長髪のまま。

長い間、勇者と過ごしてきた俺は知っている。

髪型を保っているわけではなく、髪が伸びないのだ。

昨日、異能「傷つけること能わず」は勇者に傷をもたらさないものだと話していた。

普段、ダメージを受けることがないのであれば、髪も生え変わる必要がない。

毎日のように髪の手入れをさせられてるけど、本当は必要なんてないんだろうなぁ…

いつも乾かす際に触ってはいるけど、こうして改めて手で掬い上げてみると、重い黒髪にもかかわらずどこか透き通るような軽さを持ち、手に吸い付くかのような潤いを保っている。

楽しい。

寝起きですこしぼーっとしていたこともあり、無心で髪をすいていた。

ふと視線を感じて髪から顔を挙げると、赤色の目と目が合う。

「あ…」

俺がどういったもんかと思っていると

うむとこくんと頷き、目を瞑り、軽く持ち上げていた頭をぱたんとベッドに落とす。

そして、すーすーと寝息を立てるアガツミ。

状況が呑み込めず

しばらく寝息を立てるアガツミを見つめていると

手を捕まえ、自分の髪のところに持ってきた。

続けろと…?

…目を開け、ウインクをするアガツミ。

…仰せのままに。

そこから数十分、アガツミの髪をとかし続ける。

朝日を浴びて艶やかな黒髪は緑を帯びており、

体に染みついた薬草や薬花の香りが、人肌に柔らかく空間を包んでいた。

二人で過ごす緩やかな日々、

遅々として進まず、甘く怠惰に。

だけども、間もなく俺たちはそんな日々を断ち切るように旅に出る。


ケトルでお湯を沸かしつつ、卵をボウルに割り入れる。バターを取り出し、溶いた卵に落とした。チーズと牛乳も加える。

鉄鍋で卵を炒め。湧かしたお湯でお茶を入れる。

茶葉は緑ではなく茶色を帯びている。

独特な風味と柔らかい甘みが朝を柔らかに包むようで気に入っている。

皿に盛り付け、顔より大きいパンを添えた…

「ふぁふぁふぁ、ふぁふぃっえふぉうふんふぁい」

「…いや、わかんないです。吞み込んでからしゃべってください。」

そう小言を言うと、アガツミが口の物を一息に嚥下した。

「それで、旅ってどうするんだい?って」

「丸呑みって意味じゃない…」

「うん?」

「…はぁ、いいです。…昨日の、ちゃんと覚えてたんですね。…とりあえず、冒険者として魔物を狩りつつ、お金を稼いで街を回ろうかと、不死の異能もありますから。」

「冒険者ねぇ…で?」

「でっ、て…」

「私は正直、”本物”である君さえいてくれればいいんだけど…」

「だから、そういうやつですよ。…そういうところが嫌なんです。」

「旅に出たからってそう変わるもんじゃないと思うけどね…」

「それは…」

「まあいい…君の言うことだ、やってみよう。君にとっての旅の目的は私の勇者特有の価値観を矯正すること…昔、本で読んだことがある。恋愛とは愛する者に染まるのだと。つまり……ふむ。ということは…勇者の権能はなるべく制限した方がいいか…」

「え……?そんなことできるんですか。」

「できなくもないこともない…もにょもにょ」

「俺、勇者の権能から外れさせたいがために、あなたに殺されてるんですが!!」

「あー、ちょっ、まっ。もー話は最後まで聞くんだよ。諸事情であの時はできなかったんだってば」

「本当ですか…?」

「うん……いや出来ないわけでもなかったんだけど、色々問題がね?」

「……はぁ」

続きを促す。

「こほん…昔、私と同じように勇者の権能を押さえようとした勇者がいた。彼女はどうしたと思う?」

「…昔にもあなたと同じように考えた人がいたんですか?」

それに答えるアガツミの声は童話でも語るように優しかった。

「彼女はね…勇者といえど、勇者として存在しているからには体積が減れば力も減るだろうって考えたんだ。」

「は……?」

理解できずに聞き返す。

おどけるようにアガツミが続ける。

「つまり、今の私は勇者1個分の力だ。ここまではいいかい?」

「…」

「つまり体半分は0.5勇者なわけだ。」

「は?…ちょっとまってください。まさか…」

話に追いついた気がする、要は…

「そう。彼女は、物理的に体を切り分けて、勇者としての権能を制限したんだ。」

「なるほど…。…そりゃ嫌ですね」

「…ま、別にそれはいいんだけど」

いいんだ…

「ただね。勇者の2つ目の異能「傷つけること能わず」が邪魔をして勇者自ら望んでいても通常の手段では切れない。勇者の3つの異能は勇者そのものだから、常勝の効果もかち合ってしまって意味をなさない。…それさえ無理やりに無理やりして無理やりに無理やりして、物理的に切り分けても…特注の呪符でも貼らないとすぐに欠損部位が元通りになってしまう。」

「あらためて聞くとバケモンですね…。ん…アガツミ?」

「…ぐすっ」

「わざとらし…いや本気泣き⁉。あーすみません、ほら…泣かないでくださいって。俺が悪かったです。ほら…泣かないでくださーい」

「…ぐすっ、だから嫌だったんだ…しくしく。」

「…?」

「その……だから君にあんまりこういうところを見せたくなかったんだよ…」

バケモノと思われたくなかった、と…。それで…

「あーで、俺は殺されたと」

「…てへ」

てへじゃないが。

「…はぁ、で…どのくらいの欠損でその例の異能は押さえられそうなんですか?」

「うん…記録によると、右腕、右脚、左腕、左脚、胴だね。」

「それ残るの首だけでは?」

小首をかしげアガツミは事もなげに言う。

「なんとかなるんじゃないかな?」

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