アガツミという女性-続-
ユキちゃんの復活から1夜明けて、その宴は盛大に執り行われた
アガツミはユキちゃんだけに限らず、ジャック・ザ・リッパーの凶行によって殺された子ども達、被害者たちを漏れなく生き返らせた。
その宴だ。
一度、人が死ぬことの重さを知ったアガツミ、勇者である。
これぐらいのことはやってのけた。
そして、それでとどまらないのが勇者たるゆえんだ。
ただ、この活躍を感じとれているのは、ごくわずかな者。
俺、ユキちゃん、モヤシさん、ラステネさん、シドクさん
これだけだ。
短い期間ながらも繋がりを持った彼彼女らには、
どうにもアガツミの心の中で思うところがあったようである。
ただ、アガツミは「え…なんで権能聞いてないの…こわ…」
とか言ってたので、無自覚らしかった。
知らぬ存ぜぬとすることもできたかもしれなかったが、
ラステネさんに「お話していただけますよね?」と言われ、
ユキちゃんに「お姉ちゃん?教えてくれるよね?」という顔をされると
断れなかったようで、アガツミは自分が勇者であること。
人の価値観を学ぶため、人の世に出て旅をしようと思っていることを話した。
「勇者…まじか…」とモヤシさんは放心した後
「人を生き返らせる力も納得か…」と得心がいったようで、
世の中不思議なこともあるもんだと
一周回って安心したような面持ちでちびりちびりと酒を吞みだした。
考えてみれば、生き返った理由がわからないというのは、確かに不安だったのだろう。
ラステネさんはといえば
「凄いお二人だとは思っていましたが、まさか勇者様たちだったなんて…私の見る目も捨てたものではありませんね…」
と呟いていた。
飲み物は果実酒だ。
シドクさんはといえば、
「へぇ…伝説的な存在である勇者様と出会うなんて今回の旅は随分と面白い…ん?勇者様は…」
米酒を楽しそうに飲みながら興味深そうにつぶやいて、何かを問おうとしたところで
アガツミに止められる。
「今まで通り、アガツミでいいさ」
「そうかい。それじゃあ、アガツミさんは長いこと生きてきたんだろう?旅なんて今更なんじゃないかい」
「いや、そんなに経験はないんだ…むしろ商人である君のほうが詳しいだろうね。それに君が思うほど長生きでもない」
「へえ、そうなのかい、じゃあしばらく私と旅をしてみないかい?いつまでもこの街にいるわけじゃないんだろう?」
「ふむ。考えておこう」
ユキちゃんはといえば、アガツミが勇者であるという話よりも、
俺とアガツミがずっと生活を共にしていたという話に食いついてきた。
ユキちゃんは当然お酒ではない。果汁を飲んでいる。
「…やっぱり二人は付き合ってるの?」
「やっぱりそう見えちゃうかー」
アガツミはご機嫌に答える。
「実際、この旅が終わったら結婚することになってるんだよー」
「「「「あー」」」」
モヤシさん、ラステネさん、シドクさん、ユキちゃんの納得した声が重なる。
そうです。俺に断る権利などない感じのそれです。
そのあとは思い思いに山ほど様々な話をし、夜はふけていった。
アガツミもすっかり酔っぱらってシドクさんの質問に答える。
「私の歳かい?ここだけの話、23歳ぐらいだね~」
「…え?」
ん?アガツミの見た目年齢がそれより若いという話はいいとして
勇者にしては若すぎる。
「でも記憶があるのはそうだな~、もっと短くて10年分ぐらいさ」
「はい!??」
大きな声が出た。
なんとアガツミの記憶はたったの10年分ほどしかないらしい。
一緒に暮らして居たにもかかわらず、知らなかった。
いや、隠していたのか。
てっきり”歴代の勇者の記憶を全て継いでいる”と思っていた。
どうやら歴代の勇者の話をアガツミが知っていたのは
日記などの情報によるところらしかった。
「へえ…ふぇるとがなんでそんな勘違いをしていたのか知らねえが…あれか規格外の存在と住んでりゃ理解しきれてないことや妙な勘違いの1つや2つあるか…なんにせよ、記憶喪失とは心細かったろう」
「そんなことないさ。ふぇると君と出会うまでの数年は色々と気ままに研究ができたし、ふぇると君と会ってからはさらに何か欠けたものが埋まっていった。」
「あらあら、惚気られちゃいましたね。」
「でも。お姉ちゃん、過去の記憶に興味はないの?」
「うん?勇者としては、気にするべきかもしれないね。でも私としては満たされているから興味がないかな」
言い方が引っかかる。
「勇者としては気にするべきっていうのは…?」
アガツミは琥珀色の酒をあおってから、口を開く。
「ああ…だって勇者である私に記憶がないんだよ…だったら他の者に勇者の記憶があってもおかしくないだろう?」




