アガツミという女性
「アガツミ、遺体を」
「…私がつくるのは本物とは限らない」
「…ええ。それでも待ってる人がいますから」
「…わかった。路地を抜けるまでには作れる」
「はい」
二人で行きは猛スピードできた道を歩く。
足は鉛のように重い。
「……どうやら、私は間違ったようだ…すまない」
「…」
二人で歩く。
「私は君とは違うんだね」
それが意味するものが何だったのかは聞かなかった。
当然でしょうと言葉をかけるのも違う。
「ええ…」とだけ返し歩いた。
「わからない」
「そうですか………その涙は何を思ってなんですか」
「一人だからさ、私は勇者である前に、人間だと思っていた。」
「…」
「でも違った。」
「知らなかった。ここまで私は勇者だったのか。」
そして、アガツミは続けた。
「一人ぼっちだ」
歩いて歩いて路地を抜ける。
すぐに俺たちを見つけたモヤシさんとユキちゃんの母親ががかけよってきた。
余程心配だったのだろう、危険にも関わらず無理を言ってついてきたに違いなかった。
モヤシさんと短く言葉を交わす。
「間に合いませんでした」
「…そうか」
モヤシさんは押し殺して、受け止めて、悲しむべきは自分でないと黙る。
亡骸に跪き、涙をこぼし崩れ落ちる誰よりも悲しむその人を
俺たちはただただ見ることしかできなかった。
炎が燃えている。
この街の冒険者は仲間が死んだら火にくべみんなで囲み、大いに食べ、酒を飲む、笑い、大いに泣く。そうやって仲間を大事にするのだ。
光景としては無茶苦茶だ、笑いながら泣いている。
誰もが泣いている。
ただ一人の少女が愛され、その一人の少女のためにみんなが泣いている。
死んだら二度と愛したものが返ってこないことをみんなは知っている。
アガツミは準備の段階から圧倒されていた。
屈強な男たちが黙って泣き、こらえ切れずすすり泣き。嗚咽がもれないように唇をかみしめながら作業をする。そんな姿に。
「ちっぽけだ…」
アガツミがそうつぶやく。
そして、一筋の涙が頬を伝う。
アガツミは初めて、人が死ぬことの重さを知った。命の尊さを儚さを知った。
少女が動かしたのだ。彼女が生きた時間の重みがそこには確かにあった。
勇者という規格外な存在をもちっぽけと感じさせるだけの重みが。
ああ、もう、俺が止める必要はない。
子どもをあやすように背中を撫でる
アガツミと目で会話をする。
いまの貴女なら大丈夫ですよと…
それに対し
もう間違えない、アガツミはそうこたえた気がした
アガツミが光に包まれ、元の姿を取り戻す。
そして、勇者としての体を取り戻した彼女は一歩一歩火に近づいていく
アガツミの姿に驚く声や戸惑いながらも止める声があがる。
ただアガツミは一直線に周りの制止も聞かず火に飛び込み、ほとんど炭化した彼女の遺体に抱き着き、何事かつぶやいたのち、燃え盛る体を気にもしないで天を仰いだ。緑色を帯びた青白い光が飛び散り、夜の闇がその光に包まれる。そして、世界を白く白く染め上げていく。
彼女が知ったのは命の尊さ。そんな言葉にしてしまえば陳腐なそれだけのこと。
でもそれだけ感じ、知ることができれば…。
後は、勇者の独壇場だ。理不尽に過ぎるその力をふるうだけ。
大切で尊い存在を。他の誰でもない「その存在」を生き返らせるぐらいのこと。
出来ないはずもない。
アガツミに手を握られて、
火の中から飛び出した少女は皆からの注目を浴びながら、頬を染めて、こう言った。
「ただいま…!」




