表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

ユキという少女

ユキちゃんと別れ、モヤシさんに報告をする。

「で、どうだったんだ?」

「うーん、自分は正直わかりませんでした、でも…」

「私もわからなかったなぁ…」とシドクさん。

「てことは、嬢ちゃん、何かわかったのか?」

「誰に聞いているんだい?私だよ~」

「本当かっ」

「ああ、怪しいやつがいた」

さて、とアガツミはコホンと咳をついて話し出す。

「この事件の異常さは使われた異能だ。知っているだろ。通常異能は治癒魔法の例外を除いて他人の体内では発生しえない。」

「魔法や異能は距離を感じ取れる場所でしか発動しないっていう基礎理論だね」

とシドクさん。

「今回の事件ではそれにもかかわらず体内から鉄の花が咲いている。そして捜査資料を見る限り、少女以外の遺体は。雑に外側からの攻撃で殺されている。」

「その違いが鍵なんですね」

「ああ。つまり少女達には体の内側から攻撃が加えられるような前準備がされてたってことだ。」

「なるほど、そうか」とモヤシさん。

モヤシさんは心あたりがついたようだ。

シドクさんもしばらくして、「あぁ、そうか」と呟く。

もしかしてと考えが浮かび聞く

「つまりは…食べ物か飲み物ですか…?」

「そう。それが一番手っ取り早い。」

「まさか…さっきいただいた水に」

「あれは単なる水だね」

「もらったクッキーに」

「あれは美味しかった」

「…」

「飴だよ、ジュース売りがお詫びに渡してきた飴に血が含まれてた。ああ、ユキちゃんには食べないように言ってある。」

「すぐにそいつを捕まえねぇと!」

「マーキングしてある、地図を」

「はい。街の地図だよ。」とシドクさん

「あのっ、ユキが!」

「ユキちゃんのお母さんじゃないですか、どうされましたか?」

「路地裏に入った子を探しに行ったらしくて」

「場所はどこです…!!」

「まずいな…」

ユキちゃんが近所の子に伝言を頼んだその場所は

アガツミがマーキングをつけたその場所に近かった。


ユキ姉は基本、スンとしている。

宿待ちとしてお家の修行に熱心で大人びている。

時には冒険者たちの命を救うようなアドバイスまでしている。

本当にすごい。

でも私たちは知っているユキ姉は可愛くてとっても優しいってこと。

そして、勇気があるってことを。

私たちはトクの家の犬を追って、路地裏に入ってしまった。

路地裏は怖い場所だとは知ってたけど、シュヴァイン(トクの家の犬の名だ)

は大事な友達だ。怖い場所に放っては置けない。

でも。本当に怖い目に遭うなんて思ってもみなかった。

妙なやつに追われている途中でユキ姉と合流した。

「ユキ姉大丈夫かな」

タユが不安に駆られてつぶやく。

「まだ静かにして」とジェスチャーで私は伝える。

トクはシュヴァインが吠えないように必死にアイコンタクトをする。

しばらくして

「行ったみたい…行くよ…!」

急いで私たちはギルドに向かって駆け出す。

私たちを逃がすために囮になったユキ姉を助けなくちゃいけない。


あの子たちは逃げられただろうか。

っつ!…ああ、よかった。

まだ追ってきてる。ならきっと大丈夫だ。

足がいつもよりも重い気がする。

なにか軋んでいるような感じだ。

理由はわかっている。

怖い。怖くてたまらないのだ。

あれはきっと、子供たちを街の人を殺した男だ。

モヤシさんは亡くなった人たちの様子について決して教えてはくれなかったけど、

絶対に許せないと零した、その時の表情から私はとても凄惨な殺され方をされていたんだろうと想像がついた。

捕まれば私もきっと、そうなる。

立派に旅館の仕事を継ぐ夢も立ち消える。

まだ、路地からは出られない。

大通りの方向に進もうとするも、思うように道が続いてくれない。

そして走っているうちにさらに路地の奥に進んでさえいる気もする。

だが、幸いにもなんとか追手との距離は保たれている。

…いや、おかしい。

子どもで女の私が大人の男に追いつかれない筈がないのだ。

っ!

急に、足元に金属が飛び出て、転びそうになる。

ああ、わかった。

これは遊びだ。いたぶられている。

今までの子どもたちもこうして、徐々に虐められて…

だけど、これは考えようによってはラッキーだ。

それだけ、私が長く生きられる。

きっと、あの子たちが呼んできてくれる。ギルドには報告をしにいったふぇるとさん達もいる。

さあ、演じろ。私。

弱くて、よく鳴く子どもだと思わせろ。

まぁ…怯えや怖さは、十分リアルにあるけどね。

さぁ、あとは走るだけ。

簡単でしょ。


俺達は顔を見合わせると同時に、

役割分担をした。

モヤシさんは急いで冒険者達を集めてから探しに行く。

必ずしもユキちゃんがジャック・ザ・リッパーの近くにいるとは限らない

路地全体を探すとなると人手が必要だ。

そして、俺達はそのものを止めに行く。

ユキちゃんがジャック・ザ・リッパーに遭遇する可能性もあるのだ。

正確な場所がわかるのはアガツミだけ

俺たちが追うのが順当だろう。

身体強化を発動させユキちゃんがいると思われる位置に向かう。

ギルドを出てしばらく経ったところで

尋常でない様子で息を切らして走る少年少女と出会う。

こちらをみると、「ユキ姉が言ってた首のお姉ちゃんに白髪の兄ちゃんだ」と声を上げる。

「大変なんだ、ユキ姉がっ…」

彼女たちはユキちゃんがジャック・ザ・リッパーに追われていると言う。

猶更、急がなくてはならない。

ギルドにいるモヤシさんにも状況を伝えるように言って、

俺たちは再び走り出した。

路地に入るところで

「ちょっと…」

とアガツミは四肢のある状態に変化する。

「四肢がないと戦いづらいというのもあるが、君が私を抱えて戦いづらいだろ」

とのことだった。

「まぁ、確かに」

「ただ、移動は頼むよ」

「え…?」


アガツミの頭にあるジャック・ザ・リッパーの位置情報を共有してもらう。

アガツミと額をくっつけるとどの方向にいるのかがわかるので、

額をくっつけたまま身体強化をフルに、アガツミを抱えたまま猛スピードで走る。

アガツミが四肢があるにも関わらず、抱えられているのは

あくまでも四肢は見せかけだけのもので。四肢には一般人以下のスペックしかないこと。

無理を通しているので身体強化や四肢を経由した異能が弱化などがあげられる。

というか、そうらしい。俺もさっき聞いた。

まぁなんにせよ、とどのつまり、俺が抱えたほうが早く現場に迎えるというわけだ。

ユキちゃんはまだ子ども、いくら勇気があっても体が追い付いていない。

ラステネさんの時とは違うのだ。

より一刻の猶予もない。

感じる血の匂い。

この不死の体になったからかそれがわかる。

ユキちゃんが血を流しながら逃げた後だとわかる。

曲がり角。

煤けたコートの男が、

血まみれのユキちゃんの服を今にも剝ぎ取ろうとしていた。

アガツミを抱えたまま、本気の脚力で蹴り飛ばす。

男は砂埃を立て、地面を何度か跳ねた後、轟音を立て壁にめり込む。

「ユキちゃ…」

そこには、肌が擦り切れ、それ以上に目立つ

鉄の花を咲かせた肢体があった。

さらに蕾が徐々に開き、苦悩の声をあげる。

まだ異能が発動している。

ユキちゃんをアガツミに任せ、

逃げようとする男との距離を

異能に無理を言わせ一瞬で詰めて、殴打する。

死んでもいい、殺してもいいと思いながら、ひたすらに殴る。

異能は鉄を操る異能なのだろう、体が硬い。

だが、今のこの体なら。

単純な力押しで倒せる。

どれくらいの時間かわからない。

鋼鉄のその体を殴り、殴り、殴る。

ほんの一瞬だったかもしれないその時間が長く感じられた。

男が気絶したのを確認して、ユキちゃんのもとへ向かう。

しかし、そこにユキちゃんはいなかった。

「アガツミっ…ユキちゃんは…?」

それに対する答えを聞いて、ああ、彼女は勇者だったと思い出した。

「苦しそうだったから一旦、消したよ」

「は…?」

「なに大丈夫さ、この際手段は選んでいられない。私が勇者の権能で蘇生しよう」


「消したって…」

「君も知ってるだろ?今の体じゃ『不死』『奇跡』『創成』『変移』は使えない。

ただ、『消失』は使えるんだ。」

「だからってなぜ消す必要があるんです!?」

「おい、なんだよ急に大声を出して。彼女はもうほぼ助からなかった。君の治療だったら助かったかもしれないが大きな苦痛を伴っただろう。それに…」

「ああ…違う。俺が聞いているのはなぜ彼女を殺せたんだってことです。」

俺のこのわだかまりは、裏切られたような気持ちは

ユキちゃんとアガツミの間のつながりをぐちゃぐちゃにされたような気持ちになったからだ。

「だって。生き返らせれば済む話じゃないか。」

分かり合えない。

この人が俺を殺した時と似ている。

ただ、少し状況が違った。

ユキちゃんは完全に消えていて、アガツミとの関わりも短い。

大事なものが踏みにじられたようで、気持ち悪く、言葉にするのが苦しい。

だけど言わないと始まらない。

言わないとこの人はわかってくれない。

「アガツミ…全部消してしまったら、どうやって生き返らせるんですか」

こともなげにこの人は言う。

「なんだい、そんな顔をして、出来るにきまってるじゃないか。」

そんなことはわかっていた。アガツミができると言ったらできるのだ。

ただ違う。

「なにもないところから生き返ったユキちゃんは本当にユキちゃんなんですか」

「そうだよ。消したといっても、彼女の居た記憶までを消したわけではないしね…まぁ安心してよ」

違うのだ

「あなたは…ユキちゃんの存在が、記憶が、魂がなくなったとしてもユキちゃんを生き返らせることができますよね!?」

「…できるけど?何をそんなに怒って…」

「そんな人がユキちゃんを生き返らせたとして、それが、その存在がユキちゃんだって保証はどこにあるって言うんですか!?」

俺の時とは違った。あなたは俺を本気で殺して、存在を取り戻した。

だが今アガツミは、ユキちゃんを安易に消失させ、安易に生き返らせようとしている。

「勇者とは、理に打ち勝つ者」しかし、しばしばその願いは歪に叶う。

望むものが何でも手に入ってしまうならば、望んだものはかつてのそれではなく。

まったく同じ性質をもった望んだものかもしれないのだ。

アガツミは、俺の言葉を受けてしっかりと戸惑っているように見えた。

そして、しばらくして口を開いた。

まだ動揺を隠せない声色で震えながら。

その声にはいつもの自信はなく、消え入るような声だった。

「ユキを殺したのは私だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ