捜査
翌朝、俺たちは捜査会議に加わっていた。
アガツミは目を瞑って話を聞いていた。
寝てないだろうな…
「ふにゃ…」
寝てるな…
ベテラン冒険者達の青筋が見えるようで落ち着かない。
ただ、寝てても勇者である。
ゆすって起こすと、
話されていた警備隊の警備網や冒険者たちの捜査網の体制についてなぜか理解していた。
なんだ、聞いてたのかと少しだけ空気が和らぐ。
態度が悪かったのは変わらないのだが、
首だけという特殊さからか、堂々たる話しぶりからか。
その美貌からか批判はされなかった。
ただ、そう総括しておいたくせに
アガツミは呑気にこう続けた。
「だから、私たちは観光しようか」
「はぁ?」
しかし、どうしてなかなかにアガツミの主張には筋が通っていた。
これだけ探しても見つからないということは日常に潜んでいるあるいは、
路地を活動の拠点としている可能性が高い。
路地は警備隊や冒険者たちの数で探していくというのが定石となれば、
自分たちは街の中を探るというわけである。
そしてその中でも、普段街に住んでいる者は日常に混じる違和感を探る。
街の外から来た俺達は日常に混じってしまった違和感を外の目線から探る。
そんな役割分担と相成った。
とはいえ、全く闇雲に街を回るのも難しい。
外の目線を持ちながらもよくこの街に訪れるというシドクさんと
最近の街の情報に詳しいユキちゃんに案内してもらうこととなった。
「とはいえ、観光といっても何を見るんだい?」
とシドクさん。
今日は女性の姿である。
「街中の日常に混ざる違和感を探るのは警備隊の彼らに任せるから…
私たちが見るのは、最近街に混じりつつある文化だな」
「わかった、私やユキが見慣れないものや、比較的新しくできた店についてみてまわることにしよう。」
最初に寄ったのは
最近できたという雑貨屋だった。
冒険者が求めるであろう薬草に、砥石、縄に、万能ナイフ様々な品揃えだ。
店主は太った男で、むすっとしている。
店はやや路地にはいったところで、
愛想がないとくれば売り上げも心配だが、やや路地にあるにも関わらずに
時たま訪れる人がいるようだ。
安いわりに質がいいと冒険者の中では少し噂になりつつあるらしい。
話を聞けば元々冒険者だったが、
「あんたは商売のほうが性に合っていると妻に言われちまってなぁ…」
とのことだった。
話を聞く代わりといってはなんだが、何か買うように言われた。
まぁ、それも礼儀かと思い、見渡して目についた蔦と火の粉の意匠が施されたナイフ
を手に取る。モヤシさんの言葉を思い出す。あからさまだ…
「これは…?」
「ああ…ミスリルのナイフだな。俺が店を出すといったら世話になってた鍛冶屋の爺さんが譲ってくれたんだ。売るのもの気が引けたんだが、誰かに使ってもらってほしいってことだったからなぁ…ちょいとっていうかだいぶ高いぞ」
「アガツミ、いいですか?」
「珍しいね、君が高いものをねだるなんて。いや反対じゃないさ、いい武器は君をきっと守ってくれる」
「ありがとうございます。では、これをください」
「あいよ。大事に使ってくれ。手入れ道具もつけておく」
その次に訪れたのは薬屋だ。
古くからある店だというが最近、娘が店を継いだらしい。
その割には品ぞろえは、定番のものが多い。
話を聞くと、高価で希少なものについてはまだ自分では取り扱いが難しいため、
少しずつ引退した親から学びつつ品ぞろえを増やしていくらしかった。
ユキちゃんとも交流があったらしく、宿に泊まっている人に
街を案内してるんですという嘘ではない説明をしつつ茶葉を購入していた。
代替わりして間もないということで、おまけでクッキーを配っているらしくありがたくつまませてもらった。
その次は、ついでにという感じで
屋台で流行りの飲み物を買う。
二、三十歳ぐらいだろうか
店員がユキちゃんに渡す際にこぼしてしまうというトラブルがあったので
次の目的地は服屋と相成った。
ユキちゃんはお詫びに飴をたくさんもらっていた。
アガツミも目ざとくねだっていた。
ユキちゃんに案内料にと好きな服を買おうという話になり、
決めきれないユキちゃんに手を差し伸べたのは店員さんだった。
服屋のお姉さんとは思えないほど妖艶な店員に服をつくろってもらう。
一緒に服を抱えて更衣室に入ったかと思えば、
ユキちゃんの可愛らしい甲高い声が聞こえたかと思うと
シドクさんに耳をふさがれる。
勢いこんだからか柔らかいものが背中にあたっているし、妙に身を預けたいような香りがするし、手はひんやりとしていて、少しゾクゾクとするような感覚が背筋をはしる。
顔を上気させて更衣室から出てきた可愛く決めたユキちゃんと
妙にモゾモゾする俺という
とても人に見せられたものではない構図がいとも簡単に出来上がってびっくりした。
アガツミは一興かなみたいなしみじみとした空気を漂わせないでくれ。
「ふむ…一興かな」
いいやがった。
一応、体もきれいにしてしまおうということで風呂屋に向かう。
最近できた風呂屋ということで、お湯の種類がいくつもあり、蒸し風呂の形式さえも見られた。
ユキちゃんは敵上視察とばかりに意気込んで入っていったが、上がってきたときにはすっかりご機嫌でそんなことなど忘れていそうだった…風呂好きの側面のほうが強くでてしまったらしい。
くぴくぴとふるーつ牛乳とやらを飲んで一息、その美味しさにはっと◇の口をしていたのがあまりに可愛すぎた。
改めてロビーで、シドクさんがユキちゃんの髪を拭き、ユキちゃんがアガツミの頭を拭く光景に思わず口元が緩む。
ああ、俺はアガツミにこんな時間を過ごしてほしかったんだ。
捜査中にも関わらずついそんなことを思ってしまった。
帰り道どこかで見たような気がする人に出会った。
俺がそんな顔をしたからだろうか。
「やあ、どうも」
適当な感じに挨拶をされた。
黒髪に赤メッシュ、チョーカーを付けた女性だ。
リュックを背負っている。
どこかで見たはずなのだが思い出せない。
彼女は意外にも友好的な感じで話をつづけた。
「なんでも新しい被害者だそうですよ。今度は男性だとか怖いですね。
え。なにって。出たんですよ通り魔が。やですねぇ…ま、私たちは大丈夫ですが」
つらつらと喋るさまは絶妙に怪しい。
というか見た目が結構ダウナー系なのに結構しゃべる。
そんな目線を感じてか…
「や、私たちはやってませんとも」
と応じた。
「あいえ、犯罪をしていないということではなく。
ご存じの通り、私の連れは軽犯罪で…ええ。
お恥ずかしい限りです。」
…ああ、思い出した!ラステネさんに連れられ街に来たばかりの
あの時の…裸になられた方の連れの方か。
結構離れていたけどあの距離からこちらに気づいて覚えて…?
「お近づきの印にこれをどうぞ。」
そんな思考を遮るかのように少女は
リュックからボトルに入った水らしきものを取り出す。
「これは…?」
「捕まる前に、奇妙なことにこの水をたくさん押し付けていったんです。携帯食料もこれだけしか食べるなみたいに押し付けられました。必要だとか言って、なんでもお守りだそうです。これだけしか飲むなとか言われても明らかに一人では飲めない量なので…おすそ分けです。もらってください。」
なんでも宿にもたくさんあるとのことだった。
「はぁ…」
ここでようやくアガツミに気づいたらしい
「あれ、首だけの種族の方ですか?珍しいですね。」
「ええ、まぁ」
アガツミの視線を受けてか彼女は名乗った。
「…あ。私の名前ですか…パムロです。なによくある名前ですよ、ははは
それでは、そろそろ私はここで、めぐりあわせがありましたらその際はよしなに…」
そう言って少女は足早に立ち去った。




