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ダヴィ・モヤシという男&ハウスという男

翌朝、俺たちは冒険者証を受け取りにギルドに来ていた。

ラステネさんが手続きを担当してくれた。

「ええっと…登録は以上になります。

冒険者証であるドッグタグは鍛冶ギルドに名入れを頼むことになっておりますので少々お待ちください。

明日の夕方には届いていると思います。

あと申し訳ないんですが…うちのギルマスが出先から帰ってきたら、会っていただけないでしょうか?

ヒトノミ狼と戦った件について聞きたいでしょうから…」

「ギルド長自ら…ですか?」

ギルドマスター、シュテファン・マッデン。

かつては冒険者として名を馳せ、

このギルドを設計した趣味人でもあるそうな。

そこまで説明を受けたところで轟音が鳴り響く。

ドアが吹っ飛び、宙を舞う。

時がゆっくりと流れるようにその光景が目に焼き付いた。

「ぐわぁっふぁっふぁっふぁ~~!!ただいまぁ!ギルドのおじちゃん帰りましたぁあああ!!!!!」

入ってきたのはドワーフの爺さん。片手に酒瓶を。片手に紐でつるした箱のようなものを持っている。

そして禿頭の頭にはネクタイを巻いている。

「ふぇると君みたまえ、きっとあれこそがThe 冒険者という感じの荒くれかただ、私たちも暴れよう」

「なるほど趣がありますね…っておいっ‼」

いつもニコニコしているラステネさんが見たことのない渋い顔で額に手をあて告げる。

「…すみません。アレがうちのギルマスです…」

閑話休題

そのあとなんやかんやで、

大型魔獣の盗伐ということで、特別報酬や昇級周りの手配に色々と動いてくれていたことを聞いた。

それで会うのが遅れたのだとか。酒もその根回しというやつかもしれない。

ただの呑んだくれではないのだ。

「また、こんな吞んだくれて…」

「ドワーフが酔いどれんでどうする!がはは」

ただの酔っぱらいかもしれない。

その爺さんがほいっと何かを放り投げてくる、ドックタグだ。

「ほれ。“銀3級”の冒険証じゃ。首にかけておくか手首につけておくのが一般的じゃの。」

「へぇ。私は首しかないから、私の分もふぇると君が着けといてくれ。」

「まあ、仕方ないですね。」

「別に構わんよ。ただ、仲間の居所を探るような時にも使えるからの、そういう使い方をしたいなら身に着けといたほうがいいのお」

「大丈夫だ。私達が離れることは一生無い」

「そういった冒険者たちが生き別れておるからの」

掛け合いが重すぎる。

全然、はっはっは、ふぉっふぉっふぉじゃないぞ。

「通常は青銅・銅・銀・金…といった具合で上がってくんじゃが…ヒトノミ狼討伐の功績とモヤシ君の推薦でだいぶすっ飛ばしておいたわい。」

モヤシさんが…そんなことを…。

あれ?でもそれってもしかしてやっかみとか結構買うのでは?

そう思ったその瞬間、案の定というか(話が聞こえたのだろう)いかにもガラの悪そうな袖のない服を着たそこら辺の冒険者。(蜥蜴系の種族だろうか)が絡んでくる。

「なんだ…?ああ!?いっ…いきなり銀証とかありえねえだろ!、こいつら来たの昨日だぞちゃんと実力測ったんだろうなぁ、酔っぱらってんじゃねえかじじ…」

おおこれはひと悶着か…?と思うや否や。

ドーン 床を跳ね返り壁に吹っ飛ぶ冒険者。

「呑んではおる!!!」

さすがギルマスだ。判断が早い…

「たくっ、ギルマスが仕事増やすなよ。」

眠たげな声でモヤシさんがやってくる…昨日より、だいぶお疲れに見える

「あ…、モヤシさん。おはようございます」

「おう…おはようさんふぇると。アガツミの嬢ちゃんも元気か? 」

俺は無言で黒髪の球を見せて、苦笑いする。

モヤシさんが一瞬ビクッとするもすぐに状況を理解してこちらも苦笑いする。

アガツミは顔を隠して寝るもんだから、しばしば本当にこういう時は生首にしか見えないのだ。

それから、手際よく冒険者の状態を確認して、そこまでの大事はないことを確認すると

座って何かしらを飲んでいた治癒術師らしき男に

「あ…おい!”ハウス”!悪いがそこの奴の治療を頼む」

と声をかけた。

後で聞いたところ、ハウスと呼ばれた彼は予想した通り、治癒術師らしく

ギルド所属で治療を担当しているらしかった

なんでも平凡な顔立ちで至極何を言うにも、やるにも普通な奴だが(モヤシさんの言だ)

治癒術師としての腕だけはいいとか。なんでも薬師の知識まであるらしい。

「わしが悪いみたいになっとるがな、他人事ではあるまい、君たちを推薦したのはモヤシ君なんじゃから」

「ありがとうございます…?」

「なんだ。あんまり嬉しそうじゃないな…?」

「目的が分からないのに物をもらうのは怖いじゃないですか」

「ほお…感心な心がけじゃねえか。冒険者としてはそのぐらいのほうが長生きしそうだ。ま、今回は安心しろ。ちょっと腕の立つ冒険者の力を借りたい案件があってよ。とどのつまり手を貸してくれや」

「随分と物騒じゃないか、銀級つまりは上級冒険者クラスぐらいには公的に認められないといけない案件ってことだ…それもギルドがかなり手順をすっとばした所を見ると個人的な頼みじゃなさそうだ」

アガツミが口をはさむ。

「…冴えてるな。ま、大体あってる。そうだな…続きはちょっと場所を変えよう」

急に答えられたモヤシさんは若干ビビりながらも答える。

「俺達みたいなどこの骨かもわかんないような新人に、そんな秘密話しちゃっていいんですか?」

「ああ…特に秘密ってわけじゃねえよ。それにお前らはアリバイもあるしな」

「アリバイ…?」

「それを含めて後で話す。あ、いや…その関係で用事があってな、だから詳しいことは夜、ここのバーで話そう。仕事の話だから酒はアレだがな。飯を奢ろう」

「…別の場所というのは?」

「冒険者ギルドから少し離れるがな、昨日使った場所とは別に稽古場がある。なに、軽い腕試しだよ。」


「ここらへんでいいか、どうする…?お前、”それ”かなりいいやつだろ?使うなら俺も自分の得物を使わざるをえんが」

そういって、モヤシさんがこちらの武具をさす。

【鋼羊の籠手】この武具は過去の勇者の作品である。

特別な染料で普通の革籠手に見えるように加工してある。

どうしてわかったのか…そんな疑問をもちながら大して隠し事でもないというように装って答えた。

「…それで問題ないです…回復力だけは自信あるので、腕の一本ぐらいは落とされても」

「殺し合いじゃねえんだが…ってバケモンかよ、凄まじいなそりゃ…まっ治るならいい……どぉおおおぉおい。いや無暗に傷つけたりはしない方がいいよなぁ!!」

急に声を張り上げ、激しく動くモヤシさん。

ふりむくところころとアガツミがにこにことこちらを見ている。

ただひたすらにかわいい。

「どうだ!?半刻以内に俺を倒せなけりゃお前の負けって感じで!!!!」

モヤシさんが懐からびしっと鎖つきの時計を取り出し、尋ねる。

凄い気合入ってるなぁ…。

「ええ…そういう試験ならば。審判はハウスさんが…?」

”ハウス”さんはギルド所属の上級治癒術師だ、何かあった時の備えでもあるのだろう。

一応立会人ということでついてきてくれていた。

「ああ、うん。審判らしいね。改めてだがハウスだ、よろしく」

丁寧な人だ。今まで話した冒険者ギルドの人間で一番まともそうな人に見える。

(ラステネさんも普段はまともだが、時々相当にアレだからな…)

「ふぇると、そろそろいいか?」

モヤシさんはそういいながら時計をハウスさんに向かって放る。

「そういえば…モヤシさんはどれくらいの怪我までだったら治せるんですか?」

治癒をするのが、ハウスさんということになるのであれば怪我の程度を考えなければならない。

「そうだな…ま、骨折程度なら余裕で治せるよなハウス?」

「治せるけども…」

けども…?

「ま。何か大体そんな感じで頼むよ。ふぇるとくん」

「…わかりました」

殺さないように気を付けないと。


一刻後”

「まぁ…なんだ、冒険者も捨てたもんじゃないだろう?」 

モヤシさんが手を差し出す。

俺は一度もまともに攻撃をあてることなく地に伏せていた。

制限時間に追加の”半刻”はこの街の名物、先輩からのご指導とやららしかった。

これで俺も、この街らしい”親切な”洗礼にあったわけだ。

「よっと…なんで”遥かにお前より弱い”俺に手も足も出なかったと思う?」

ハウスさんがタオルと水筒を渡してくれる。

アガツミはやわらかい布の上、壁にもたれる形で試合前と変わらない姿勢でこちらをただ見ていた。

「それは…俺が弱いから…」

アガツミの力を得てさえこのざまだ…本当に笑えない。

だがモヤシさんは言う。

「あぁ…?だから弱いのは俺だっていってんだろ。手加減してこれなら本気だったらどんだけ強化できるんだよお前、これが普通に殺し合いだったら俺は死んでるわ。その場合…戦わず逃げるがな。」

「っ…やっぱりばれてたんですね…」

戦闘途中、熱くなって手加減を間違えて殴りかかってしまったところがあった。

刀一つでずらされたが。

刀にはひびが入ってしまったと刀を指してモヤシさんが言う。

その際、力を抑えていることを見抜かれてしまったのだろう。

「めちゃくちゃ高いわけじゃねえがそれなりの刀だぞこれ…結構気に入ってたんだが」

「すみません」

「…はぁ。まぁ、打ち直す金をじじいにせびればいいか。…訳ありだろうが、一部の奴にはばれるぞ」

「それが負けた理由ですか…?」

力をある程度制御できるように旅の間訓練していたものの、完璧には程遠い。

まだまだ力に振り回されているという指摘だろうか。

「話したかったのはそういうことじゃねえが…。まぁでも、そうっちゃそうだな…予備動作の大きさと呼吸の整え方、形になっちゃいるが、そんな昔からあった力じゃねえよな。それゆえの単調さだ。あと大方、人を相手にしたことは少なかったんだろう。強すぎる力ってのは大概扱いにくいもんさ、人を傷つけないように戦っちゃあなおさらな。知ってるか…?意外と強い異能持ちほど大器晩成型が多いんだぜ。」

「…そうですか」

そう口では言いながらも俺は別のことを考えていた。

モヤシさんの指摘はきっとどれも的確なのだろう。しかし…

「逃げに徹して、遠距離で攻撃。お前の力を利用しての攻撃。ここら辺をされると嫌だろ」

モヤシさんは途中で目などの急所を狙った投石や、腕を振る軌道上の空間に刀を置くような攻撃を繰り出してきた。

熊に内臓を喰われたことで身をもって知っていたが、不死の異能は痛みを消してくれるわけではないんだよなぁと改めて思った。

「といっても、うちのギルドで単体で捌けるのは俺ぐらい…と。あと関係者でひとりいるかどうかだな。それと、ベテラン勢はやっかいだぞ…あいつらほんと汚えから」

「…汚い戦い方を身に着けろと?」

きっと俺は侮っていたのだ。圧倒的な力を身に着けて浮かれていた面もあるのだろう。

今後も意識を変えなければ、対人戦闘で俺は勝てない。

「何も汚い戦い方をする必要はないがな。相手から、人間らしい戦い方をされる想定はしておいたほうがいい…ま、ようは汚い戦い方にならなくもないんだが」

「…心に留めておきます」

モヤシさんはきっとそんな侮りにも気づいていた。

あぁ…確かに最初に来たのがこの街で良かった。

「ま、説教は終わり!!改めて合格ってことで、お前ら銀二級に昇格だ!」

戦いに負けて、試験に勝った。

そういうことらしかった。

どうやらギルド公式の依頼とやらを受ける条件として、銀二級以上の冒険者というのがあったらしく、実技試験をせずにそこまで与えるのはさすがにとのことだった。

なんでも銀二級と銀三級の間には、ひとつの壁があるらしく、才ある上級冒険者と認められるラインが銀二級なんだとか。

「ギルド職員でもない君がそんなことを決めるのかい?」

アガツミが口をはさむ。

「あー、じじいにも相談済みだ、いっただろ公式の依頼だって」

「ふん…随分根回しがいいじゃないか」

「はは…弟子が負けたからって機嫌損ねないでくれよ」

「それに、私の試験はいいのかい?」

「...あんた達みたいなパーティは例外だろ、チームとして受かれば問題ねえさ。それにその体でどう戦うっていうんだよ」

モヤシさんが笑う。

「ふっ…首一つにすらビビるエースとはな…冒険者ギルドも大したことがない」

「はは..エースは命知らずがやっちゃいけねえのさ」

「ダヴィ」と少々ぴりついた空気を感じ取ってかハウスさんが声をかける。

「…その名前で呼ぶんじゃねえよ、ハウス」

「悪い悪い。でも、この後は例の件で会議だろう時間は大丈夫か…この後は引きついでおくから」

「あ…やべ。嬢ちゃんわだかまりがあるんならまた別の時に聞くぜ!!あばよ!」

「なっ…」

「お嬢さん、あいつはあれでも十三騎士だからね。負けてもしょうがないさ。」

「なんだそれ」

「あれ、知らない?もしかして君も?」

頷く。

「十三騎士は国に実力を認められた騎士さ。彼はその第十一席。」

「国で十一番目…」

「いや確かに、第八席まではほぼ戦闘力順なんだが、評価基準は戦闘力だけじゃないんだ、ま…こういうことを言うと、彼は嫌がるが、自分で説明していないのが悪い。…ダヴィ家は占い師の名家でね。その異能を用いた災害時の人命救助、要人の誘拐事件解決、そういった功績も認められてね。それに彼は、戦士じゃなくて狩人だから」

「それでも俺は負けたんですね…」

「あはは…功績だけじゃなれないからね、彼はその戦闘力も認められてるから。」

「言ってることがおためごかしにグルグルしてますよ。」

「…あー。ごめん。悪気はないんだ。なにはともあれ、そんな相手に互角に渡り合った君は十二分に期待の新人というわけだ。君に戦闘スタイルが身についていたならアイツに勝ちの目はなかっただろうね」

アガツミが少し落ち着く

ハウスさんと目が合うとウインクをされた。

ああこの人すごい空気が読める人だ。

「まぁ…いいか、それでギルドの依頼とやらについて聞かせてもらえるのだろうな?…彼は夜にとか抜かしてたが時間もあるんだろう?」

「ええ…あいつもその意味合いもあって俺を連れてきたんでしょうからね」

「その意味合いも?」

「ケガしてないよね」

ハウスさんが俺の手を掴んで眺める。

昔を思い出す。小さなころ怪我を携えて帰ると、アガツミがこんな感じに触って見てきたなぁ。

見るではなく、診るという感じだ。

医者を専門にしてるわけではないんだろうが、魔法技能関係なしに手慣れている。

「ええい。そんな触って、どうする気だ。キミ…その気などないだろうね?」

「はは…ないですねぇ。すみません、試合中、刀が掠めていたように見えたものだから、君の身体強化は単なる肉体強化に加えて薄い防御壁が体の外に出ている感じなのかな?」

「あ…」

「いや…興味本位でね。おそらく彼は治癒術師としての腕前を含めて評価したいという思いから僕を連れてきたんだろうけど…これじゃあ見ようがないなとね。どうする?これでも十数年は働いている。治癒を見せてくれたらアドバイスもできることもあると思うけど…」

それは悪くない提案だった。だが、異能のことがバレる可能性がある。

どうしようかと思っていると、意外なことにアガツミが言葉をつないだ。

「いいんじゃないか?…ダヴィ君が言うなら問題ないだろう」

「…あなたがそれでいいなら」

嫌がらせに、モヤシさんのことをわざわざそんな風に読んだろうなぁ…。当人はいないけれど。しかし、とにかくモヤシさんが信用するハウスさんであれば、問題はないと決める何かがアガツミには思えたらしかった。

俺はハウスさんから、夜更けまで治癒の基礎を教わることになった。ハウスさんは14歳のころからギルドで働いており、今年26歳になるという。

見習いから、上級治癒師になるには才能ももちろんだが、それなりの修練が求められる。一番頑張っていた時期は、ギルドの書庫で文献を読み漁り寝落ちるという生活をしていたそうで、思い切って布団を持ち込んだが最後1年ほど書庫で寝泊りしていたらしい。

ギルド職員になって間もない女性職員から、不審者と報告されたこともあるらしく…なんでもいまや、頭があがらない関係になってるんだとか。へぇ、惚気だったんですね、この話。いやいいんですけどね。

仕事狂いな側面が見えたが、まじめな人だ…。彼は、話せば話すほど、善人であることがわかる人格を備えていた。

アガツミは偏屈だし、人の神経を逆撫でることも言う。だから、争いにもきっとこれからたくさん巻き込まれていくことだろう。そこには必然的に俺も含まれるわけで。

だから少しばかり、俺たちとは対照的な人だと思った。きっとこのひとは争いなんかに巻き込まれるタイプではないだろう。だから。彼が争いに巻き込まれるとしたら、それは性格とかに依るものではなく…星のもと、つまりはどうしようもない巡り合わせなのだろう。

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