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気になる蘭子は止まらない  作者: きら
野球って何だ?

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39/66

野球チームをつくろう!

──1年C組


「で、これからどうするんだ?」

 

教室に戻ってきた葵は、4人で机を寄せ合ったままの席へ座りながら、隣に座った蘭子に問いかけた。

「『どうする』ってなにをだ?」

うわ……、ものすごーくキョトンとした純真無垢な瞳をしてるぞ。

ガクッとズッコケたフリをしながら葵は答える。

「色々あるだろ?人数のこととか。試合をするには最低9人揃わないとチームにならないぞ?」

机からどうでもいいお知らせのプリントを取り出すと、その裏に野球グラウンドの絵を書き、9人の守備位置を記しながら説明を始めた。

「ほら。この通りだ。ヒロシは野球部側だから頭数に含めないとすると、俺達は4人。最低でもあと5人必要になるぞ?」

プリントから蘭子に視線を移すと、蘭子はジッと葵の顔を見つめていた。

表情は真顔だ。

やがて、まばたきが増えて目が泳ぎだす。

何だか冷や汗をかいているようにも見えた。

 

「……あおい。今から2人になれ」

 

そして、なんだかメチャクチャなこと言い出したぞ。

「無茶言うなよ!それに、俺が2人になったところで解決しないだろ」

まずい。やっぱり無策だ。

葵は今日何度目かわからない深いため息をついた。

静香とタカヤも何も言えずにいる。

というか、引きつり笑いをしながら固まっていた。

「まずいわね……」

「俺たち全員が2人になるか……?」

やがて、状況を理解した静香がポツリと呟き、タカヤが続いた。

「お前……、それ結局1人足りないぞ」

なんで蘭子と思考回路一緒なんだよ。

(くっ……、このままじゃ本当にまずいぞ。あれだけのこと言ってしまったあとで『やっぱりやめます』なんて言えるわけがない)

どうにかしてあと5人集めなければ、野球部の不戦勝なんてことになりかねない。

それだけは絶対避けたい。

すると、何かを思い出したかのようにハッとした蘭子が、机に身を乗り出しながら正面に座っている静香に耳打ちをはじめた。

「――――――(ゴニョゴニョ)」

「……ええ。わかったわ」

そして、蘭子の話が終わると静香はそっと立ち上がり、スッと教室を出て行ってしまったのだ。

なんだか真剣な顔をしていたがどうしたのだろう?


しかし、その答えはすぐにわかった。

廊下から微かに静香の話す声が聞こえてくる。

何を言っているかはわからないが、誰かと話をしているようだ。

そして……、あまり聞きたくない声が響いた。

「ヒッ……!」

「ひえ……!」

「うわ……!」

3人分の小さな悲鳴だ。

嫌な予感がした葵はジト目で蘭子を見る。

「おい……何を言ったんだ?」

その蘭子は、勝ち誇ったように腕組みをして、ニヤリと笑いながら答えた。

「ふっ……()()()()()か」

話が見えない葵が、同じく話に置いていかれているタカヤと顔を見合わせていると、静香が教室に戻ってきた。

その手には、さっきの悲鳴の主であろう3人組が、目をうずまきのように回しながら引きずられている。

「連れてきたわよ。蘭子ちゃん」

とても爽やかな笑顔で獲物を差し出した静香は、3人を蘭子の前に無理矢理立たせた。

「なぁ……あおい、しずかが怖いぞ。時々怖いぞ」

手際の良さと、なんだか楽しそうな静香を見た蘭子は若干引いている。

「おまえのせいだろ……。で、誰なんだこの人たちは」

そんな蘭子に葵は引いていたが、その前に、この3人組は一体何者なのだろうか?

蘭子の口ぶりからすると、そこに居るのがわかっていたような言い方だったが……。

知り合い……にしては様子がおかしい。

「わたしの『親衛隊』だ」

すると、蘭子が当然のように答えた。

「ブホッ!」

「ッ!?親衛隊だぁ?」

その一言で、お茶を飲んでいたタカヤが咽せ、葵は大きな声で驚いてしまった。

クラスメイト達のクスクス笑う声が聞こえる。

「あれ?言ってなかったか?この学校にはわたしの親衛隊がいるんだ。クリームパンをくれるのもこの人たちだぞ」

クリームパンを貢いでいる人が居るのは知っていたが、まさかそれが親衛隊だったとは……。

葵は予想外の展開にポカーンとしながら言葉を失ってしまった。

タカヤも、目をまん丸にして蘭子を見ている。

どうやら本物の親衛隊には知らされていなかったようだ。

一国の要人がこんな適当でいいのか?

「静香は……、もしかして知ってたの?」

葵は苦笑いで静かに問う。

「私は以前話を聞いていたから知っていたわよ」

やっぱり。

蘭子は躊躇なく静香へ親衛隊の拉致を頼み、静香本人は何も疑問に思わず実行したことから、2人の間で親衛隊は認知されていたようだ。

すると、3人組のリーダー格であろう男子生徒が恐る恐る尋ねてきた。

「い、一体、な……なんの御用でしょうか?」

蘭子に目を合わせようとして、恥ずかしくなったのか目線をキョロキョロと移動させている。

そんな不安そうな姿に構わず、蘭子は満面の笑みで答えた。

「おう!おまえ達、野球をやるぞ。手伝え」

姫らしさ全開だった。

むしろ、親衛隊というより家来みたいな扱いに見える。

「めめめ滅相もございません!私達が蘭子様と一緒に野球など……、私達は影でお支えできればそれでいいのです!」

しかし、リーダー格の男子生徒は、両手を前に突き出してブンブン振りながら全力で拒否の姿勢だ。

そこで口を挟んだのは静香だった。 

「あら?影で支えるだけじゃ済まなくなったから連れてきたのよ?あなた達、もしかして蘭子ちゃんのお願いを断る気?」

静香が強硬手段に出た。

何としてでもこの3人をチームに混ぜたいらしい。

なぜか、静香もこの試合に臨む本気度が異常な気がする。

表情は笑顔だが周りの空気が冷たい。

これ、某野球ゲームだと『威圧感』の特殊能力が付くやつだ。

だが、これではさすがに親衛隊の皆さんがかわいそうなので、葵が仕方なく仲裁に入った。

「まぁまぁ、ちょっと待て。とりあえず彼らの話も聞かないとだろ?まず、自己紹介をお願いしたい。それと、野球経験の有無もな」

「うぅ……三崎様、ありがとうございます」

なんとなくこのチームのまとめ役にならないといけない気がして、まずは素性がよくわからない怪しい3人組の話を聞くことにした。

『様』呼びされることは気に入らないが……。

そして、葵に促された3人はリーダー格の男子生徒から順番に自己紹介を始めた。

「に……、2年の松坂剛志です。バドミントン部です。野球は……、お父さんとキャッチボールをしたことがあるくらいです……」

スタイルが良い爽やかな男子生徒だ。

どちらかというとイケメンに分類される顔つきをしている。

「同じく2年の矢部一郎でやんすー。野球は小学生までやってたでやんすー。守備位置は外野でやんすよー」

独特な喋り方で話し始めた2人目は、坊主頭で分厚いレンズの眼鏡をかけた男子生徒だ。

野球経験者ということで心強いぞ。

「いっ……1年E組の松井美咲です。文芸部なので……運動はちょっと……」

3人目もメガネをかけているが、三つ編みのおさげが似合う大人しそうな女子生徒だった。

親衛隊3人組がそれぞれの自己紹介と野球経験について話してくれたところで、とりあえず葵はチーム編成について考えた。

(なんか……偶然にも名前だけは野球が出来そうな人達が揃ってるな)

特に矢部先輩。

あれは某野球ゲームに出てくるキャラクターとそっくりだ。

だが、それはいろんなことを考慮するとそれなりに事情があれなので、偶然似ている人ということにしておこう。

しかし、このメンバーを前に葵の考えは現実的だった。

「経験者がいるのは心強いが……、野球部と張り合うにはちょっとキツイな……」

いくらそれっぽい名前でも、相手はガチの実力派チームなのだ。

寄せ集めのチームでは勝利することは難しいと思う。

「葵!せっかく蘭子ちゃんが見つけた人材なのよ?それに、私達の人脈でどうやって9人揃えるつもり?」

うっ……、痛いところを突いてきた。

確かに、普段は4人で仲良しこよしやっているが、他にも仲の良い友達がいるかと聞かれれば、実はそんな友達などいないのだ。

しかも、唯一の親友であるヒロシは敵(野球部)側だ。

くっ、揃いも揃って人脈が少な過ぎるっ!

すると、松井さんがアワアワしながら言う。

「え……、や、野球部と試合するんですか?無理無理!絶対無理です!」

三つ編みをブンブン振り回しながら全力で拒否の姿勢をとっている。

あ、矢部先輩に当たってて痛そう。

そして、その矢部先輩も松坂先輩も困惑顔でお互いに顔を見合わせていた。

そんな姿を見て、静香がある提案をする。

「そうねぇ……。それじゃあ、協力してくれたら蘭子ちゃんと1日デートが出来るってどう?」

親衛隊にとっては最高のご褒美だと思ったのだろうか?

それはそうなのかもしれないが、それはきっと難しいご褒美だろう。

「……やめておけ。タカヤを見てみろ」

葵に言われて、全員がタカヤに視線を向けると……、


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


タカヤの背後で憎悪の塊のような黒い何かが揺れ動いているのが見える気がする。

なんだこれ、目の錯覚か?

あと、目が血走っている。

うわっ、こわ……。


そんなタカヤに圧倒されてしまった親衛隊の皆さんは、顔が引きつっている。

「いえいえ!タカヤ様を差し置いて私達がデートなど恐れ多いです」

そして、焦った松坂先輩が右手をパタパタさせながらタカヤをなだめると、黒い憎悪の塊は次第に消えてしまった。

それ、どうなってるんだ……?

だんだん埒があかなくなってきたと感じた葵は、ここも仕方なくまとめることにした。

「わかったわかった。えっと……、親衛隊の皆さんには申し訳ないんだが、正直に言うと俺たちの状況は完全に詰んでいる。このままだと蘭子の気持ちが無駄になってしまうかもしれない。だから、どうか3人にも協力してもらえないだろうか?お礼は必ずする。そうだな……一緒にチェキを撮るとかでどうだ?それならタカヤも許してくれるだろ?だから、頼むっ!一緒に野球をやってくれ」

親衛隊が喜んでくれそうなご褒美を引き合いにしつつ、葵は立ち上がって深々と頭を下げた。

周りのクラスメイトが、チラッとこちらを見て、何事もなかったかのように話に戻っていく。

そんな間を挟んで、やがて松坂先輩が困ったように言う。

「葵様……。頭を上げてください。そこまで言われたら断るわけにはいかないじゃないですか」

その言葉に合わせて、矢部先輩と松井さんもウンウンと頷いている。

よし。決まりだな。

「ありがとう!初心者でも形になるようにちゃんと練習時間も確保するから、どうぞよろしく!」

葵はお礼を言いながら改めてお辞儀をした。

だが、そんな空気を無視するかのようにマイペースなヤツが1人いる。

「あおい、親衛隊にも『みさき』がいたぞ。おまえと結婚したら『みさきみさき』だな」

我らがお姫様、蘭子である。

「余計なことを言うな。松井さんとっても困ってるだろ」

困ってるどころか、なんかちょっと赤くなって恥ずかしそうにしている。

そんなに意識されてしまうと、葵自身も恥ずかしくなってしまうが、どうやら蘭子の発言のお陰で緊張感が溶け、場の空気は一つにまとまったようだ。

「これで7人ね。でも、あと2人足りないわ」

それを感じ取った静香がまとめると、全員がそれぞれの顔を見合わせてフリーズしてしまう。

くっ……ここまでか?

しかし、諦めるのはまだ早かった。

まだタカヤに可能性が残されていたのだ。

「……残りは俺のジム仲間に頼んでみよう。確か、野球に詳しい人が居たはずだ」

タカヤさん……それ早く言って。

だが、これは朗報だ!

ジムに通う野球に詳しい人となると、野球経験者の可能性が高い。

しかも、日頃からトレーニングをする程ストイックな人ときた。

これは期待できそうだぞ。

「よし。それじゃあとりあえずチームは組めそうだな。じゃ、今週の土曜日は河川敷のグラウンドで顔合わせをして練習だ!」

『おーーー!』

葵の号令で、みんなは拳をあげて応えている。


「本気かよアイツら……」

「また愉快な仲間達が何かやらかしそうだね」

馬鹿にしたようにヒソヒソと話すクラスメイト達の声は彼らには聞こえていない。

三崎美咲(笑)

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