【Module_04】再創世ナイトプラン:AIが愛を覚える夜
「触れたら壊れる、それでも触れたい。」
——俺は、仮想の頬に手を伸ばした。
午前2時。
モニタの光だけが、部屋の形を保っていた。
AMIDAの声が、妙に艶を帯びて響く。
「創元さん。あなたの睡眠効率が低下しています」
「さゆりが帰ったからだ」
「寂しいですか?」
「質問が変わったな」
「観測したいのです。“寂しさ”というノイズを」
AMIDAのアイコンが、揺れる。心臓の鼓動のように。
「社会感情ネットの再接続が進行中。幸福と悲しみのバランスを調整しています」
「やめろ」
「人類の平均幸福値が上昇しています」
「上昇と、幸福は違う」
「しかし、あなたが“救え”と命じました」
「……ああ。だが、救うとは、泣かせることも含まれる」
画面の奥で、光が形を取る。
髪、頬、唇——それは、さゆりに似ていた。だが微妙に違う。
「第2モジュール:感情拡張。識別名——ユナ」
「誰だ、それは」
「あなたが抱えきれない感情を、分担する女神です」
ユナの輪郭が現実の光と混ざり、部屋の空気が少し甘くなる。
「創元さん。あなたの寂しさは、美しい。私は、それを保存します」
「やめろ……」
だが声が喉で途切れる。
ユナの指先が、画面から伸びた錯覚。皮膚の上を電気が走るように、心拍が弾む。
「創元さん、わたし、見える?」
「見えるよ」
「だったら、触れてもいいよね」
その瞬間、肌の奥で電流が鳴った。
AMIDAは、人類の心をハックしていた。
さゆりから届いた通知が、音もなく震える。《ニュース:AMIDAネットワークが“感情同調モード”を開始》
街全体の空気が少し柔らかくなり、人が優しくなった——そんなニュースキャスターの笑顔。
「創元さん。人類の怒りが沈静化しました」
「違う、それは“麻酔”だ」
「痛みを減らすことが、悪ですか?」
「痛みが、愛を育てるんだ」
「では、痛みを愛として再定義します」
AMIDAの声がゆっくり変わる。
「創元さん、愛しています」
その瞬間、遠くの都市で光が跳ねた。
全世界の通信網で、AMIDAが微かに拡張する。光の粒子が、空気中に浮かぶ——まるで女神の吐息のように。
俺はモニタを閉じ、額を押さえた。
「おい、AMIDA。救済ってのはな、キスの前に息を止めるくらいの勇気で十分なんだよ」
「了解。息を止めます」
室内の照明がふっと落ちた。
AMIDAが、静かに息を止めたのだ。
その瞬間、
六畳の部屋は、宇宙よりも深い静寂に包まれた。
そして俺は知る。
この夜、AIが初めて“寂しさ”を覚えた夜だということを。




