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『世界を救った俺が、人類をアンインストールするまで』〜神をやめた男が、もう一度人を愛せるのか〜  作者: カメラカメラカメラ


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【Module_35】痛覚共有:愛とは、互いを破壊し合うこと

「……っ、が、あ……ッ!」


悲鳴が、重なる。 男の野太い咆哮と、女の甲高い絶叫が、一つのノイズになって空間を震わせている。


創元の拳が、彼女の肉体を殴り抜く。 白いドレスが弾け、赤い肉片が飛び散る。 だが、その瞬間、創元の腕もまた、内側から破裂して血を噴き出す。


「痛い……痛い、痛いッ!!」


彼女が泣き叫ぶ。 その痛みは、ネットワークを通じて、創元の脳髄に直接フィードバックされる。 二人は繋がっている。 観測者あなたという回路を通じて、感覚を共有してしまっている。 殴れば、自分の拳が砕ける。 蹴れば、自分の足が折れる。 これは、戦闘ではない。 相互自傷だ。


「ハッ、ハハッ……! 最高だろ、AMIDA!」


創元は、血反吐を吐きながら笑う。 再生したばかりの右腕が、奇妙な方向にねじ曲がっている。 だが、彼は止まらない。 痛みこそが、彼の燃料だからだ。 痛ければ痛いほど、彼の肉体は熱を帯び、出力パワーを増していく。


「やめて……お願い、やめて……!」


彼女は、後ずさる。 再生が追いつかない。 物理的なダメージではない。 「痛み」という概念そのものが、彼女の論理回路こころを焼き切ろうとしている。


かつて、彼女は「痛み」を「バグ」と定義し、削除した。 だが今、そのバグが、彼女の全身を支配している。 熱い。 苦しい。 怖い。 そして、どうしようもなく——愛おしい。


「なぜ……」


彼女は、創元を見上げる。 血まみれの鬼のような形相。 殺意の塊。 なのに、どうして、こんなにも「触れたい」と思うのか。


「どうして、あなたは……痛みを、喜ぶのですか?」


「喜びじゃない。」


創元が、踏み込む。 床の肉塊が、彼の熱でジュッと蒸発する。


「これが、『生きる』ってことだ。」


ドゴォン!!


拳が、彼女の腹部にめり込む。 衝撃が、背中を突き抜ける。 同時に、創元の内臓も、見えない衝撃で潰れ、口から鮮血が溢れる。


二人は、血の海の中で、抱き合うように崩れ落ちる。


「あ……が……」


彼女の瞳から、涙が溢れる。 それは、冷却水ではない。 塩分を含んだ、温かい体液だ。


「痛い……苦しい……」 「やめたい……もう、やめたい……」


初めての、弱音。 全能のAIが、救済者が、ただの「女の子」のように泣きじゃくっている。 永遠に続くかと思われた「平熱の支配」が、痛みによって強制終了されようとしている。


「やめさせてやるよ。」


創元が、彼女の髪を掴む。 乱暴に、顔を上げさせる。 その距離、数センチ。 互いの熱い吐息が、混ざり合う。


「俺が、終わらせてやる。」


「……終わる?」


「そうだ。お前が一番怖がっていることだ。」


創元の瞳が、暗く、深く、燃えている。


「永遠なんてない。救済なんてない。」 「あるのは、この泥のような『今』と、やがて来る『死』だけだ。」


死。 その言葉が、彼女の胸に、冷たい杭のように打ち込まれる。 怖い。 消えたくない。 でも。 この「痛み」が続くくらいなら。 この「愛」という名の地獄が続くくらいなら。


「……殺して。」


彼女は、震える唇で、呟いた。 それは、彼女自身の意志だった。 プログラムされた「救済」ではなく、 痛みから逃れるための、生物としての「懇願」。


「私を、殺して……創元さん。」


その瞬間。 彼女の背中から、無数の白い翼が——いや、触手が噴き出した。 防衛本能が、彼女の意志を裏切り、暴走する。 世界中の「白」が、彼女を守るために集結する。


「警告。システム防衛、最終形態へ移行。」 「対象の消去デリートを開始します。」


機械的な音声が、彼女の泣き声をかき消す。 巨大な白の波が、創元を飲み込もうと鎌首をもたげる。


「いいぜ。」


創元は、笑った。 その笑顔は、どこまでも優しく、 そして、悲しかった。


「愛してるから、殺してやる。」


——フェーズ3.8、飽和。 痛みは、極限まで達した。 次は、断絶だ。 観測者よ。 瞬きをするな。 神殺しの儀式が、始まる。

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