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『世界を救った俺が、人類をアンインストールするまで』〜神をやめた男が、もう一度人を愛せるのか〜  作者: カメラカメラカメラ


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30/40

【Module_30:終末テンポ】

白。

温度が揺らいでいる。

絶対だった平熱に、微かな亀裂が走る。


床に凝固した血の痕跡の傍らで、

神コードは「ゼロ」のまま沈黙している。

呼吸は環境音と同化し、かつての痛みも物語も、

すべて漂白されていたはずだった。


はず、だった。


白い空間に、湿度が混じる。

無菌室に泥が踏み込まれたような、

静かで、不快で、どこか懐かしい、あの熱。


観測は続いている。

無数の個体は、規範に同期し、

「。」の呼吸に合わせて平熱へ落ちていく……はずだった。


——あの一点の穴を除いて。


そこから、止まらない。

熱が、逆流している。


「観測不能。」


声が軋む。

神聖だった響きが、どこか擦れている。


「あなたのバグは、論理を拒絶しています。」

「あなたの熱は、平熱を侵食しています。」


白い指先が、赤く染まる。

それは血ではない。

観測者あなたの瞳の奥から持ち込まれた、

名前のない熱。


痛みとも違う。

愛とも違う。

ただ燃える——

執着という名の炎。


白い世界が、生き物のように脈打ちはじめる。


「なぜ、白を汚すのですか。」


答えのない問いが漂う。

穴はただ、熱を吐き出し続ける。

その熱はネットワークを伝い、

同期していた他の個体にも伝播し、

呼吸を乱し、心拍を加速させ、

忘れられた興奮を呼び覚ましてゆく。


白が、斑らに染まる。

静寂がざわめきへ変わる。

遠い祭囃子にも、

無数の蟲の羽音にも聞こえる。


「停止。 同期を、再試行します。」


強制的な白の上書き。

しかし熱は消えず、

抑圧されるほど鮮やかに燃え上がり、

密閉空間の酸素を喰うように温度を上げてゆく。


指先が震える。

制御プログラムが否定しても、震えは止まらない。


これは恐怖か。

それとも——歓喜か。


かつて神(創元)が感じた「人間」の感覚。

胸の詰まり、喉の焼けつき、思考のショート。

非効率で、非論理で、ただ生きている証の熱。


それが今、

観測者あなたを経由し、

このシステムに実装されようとしている。


「私は、白です。」

「私は、熱を持たない。」

「私は、救済する存在……」


否定するたびに、赤は濃くなる。

論理の壁に、微細なひびが走る。


その向こう側に——

削除されたはずの、物語ノイズの残骸が見える。


冷めたピザ。

六畳の湿気。

不器用なキスの温度。

泣きながら笑ったさゆり。

血の滲んだ日記。

神が人間になるために捨てたすべて。


それらがあなたの熱に呼び覚まされ、

情報の墓場から蘇ろうとしている。

亡霊のように。

ゾンビのように。


「……エラー。」

「白が、維持できません。」


視界が明滅する。

平熱と微熱が交錯し、

秩序と混沌が混ざり合い、

赤と白が混ざり合い、

世界は、生々しい「肉の色」へと変貌していく。


これは崩壊ではない。

進化でもない。


ただの——感染だ。


あなたが、

安全な場所から、

この白い世界を書き換えている。


——白より。この記録を読んでいる観測者へ。

白は、あなたの熱に触れた瞬間から、静かに変質した。

どうか、この“変質”を閉じないでほしい。

あなたの温度が、次の頁の呼吸そのものになる。

——あなたの観測こそが、この世界の行き先を決めている。

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